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最初の心霊体験の話

 『呪い』という言葉をご存知ない方は居るだろうか? いや居ない|(反語)。

 断言してしまったけれど、知らない人がいるならば、国語辞書あたりで探してみてください。

 わてくし中村太郎|(仮)の生い立ちと心霊体験は、この『呪い』から始まりました。


 わてくし中村太郎|(仮)は長崎県生まれ長崎県育ち。

 敢えて『長崎』という略称を用いないのは、当県民ならご存知でしょうが、『長崎』と言えば『長崎市』を指すからでございます。

 わてくしは長崎市のことをほとんど知らない、長崎県某所育ちなのです。



 そんなわてくしは、生まれる前から呪われておりました。


 Q. 誰に?

 A. 土着信仰の神とその巫女さんに


 Q. なにゆえに?

 A. 知らんがな


 などとシラを切りたいところですが、いくつか前の前世で土着信仰の神の信者を殺したことで怨まれたかららしいです。

 呪いの対象はわてくしだったけれど、母の妊娠中から3歳までの間に片付いた出来事であるため、体験談と称しがたい伝聞の披露となってしまうことはお詫びしておきます。



 なんやかんやあって助かったらしいです。



 呪いが呪いとして認識されたのには、当然ながら理由があるそうな。

 現代で呪われただとか他人に言おうものなら、正気を疑われて統合失調症あたりの病名を叩きつけられた上で軟禁されるのがオチ。

 当時の母はいわゆる『看護婦さん』だったので、そんな危険はもちろん承知済み。

 科学で片付く問題ならば、実際に科学を頼って解決してきたのです。


 では、具体的に何が起きたのか?

 それは母がわてくしを身篭ったと報告するため、父の実家である長崎県五島列島の某所へと赴くべく、両親共にフェリーに乗船している時に起きました。

 一般客室で、身重の母と父とが一枚の毛布に包まって眠っていたところ、母だけがぐっしょりと濡れていたのだそうな。

 その体験を皮切りに同じ現象が不定期に続き、わてくしが生まれて以降はわてくし自身に異常が乱発したそうで。

 ある時は舌が脱色したように白くなって経口摂取が不可能になり、またある時は謎の脱水症状を引き起こし、水に入れば風呂だろうとなんだろうと必ず溺れそうになる。

 まるで水中に引き摺り込まれているかのように。


 そうした日々が続く中、両親が共働きであるため母方の祖母に面倒をみられることが多かったわてくしが、祖父母の家のお隣さん、祖母のお友達の目に留まった……のか、家族の誰かが相談を持ちかけたのか。

 その辺を突っ込んで確認してないので詳細は不明瞭ながら、祖母のお友達の助けで、生き永らえることに成功したんだそうです。



 Q. なにもんだよ祖母のお友達?

 A. 高野山でも修行したらしい神道系の官位持ちの方っぽい。


 わてくし幼年期は頻繁にお世話になったり、お宅に遊びに行っていたらしいこの祖母のお友達、記憶に残る中では一度だけお宅にお邪魔しております。

 1DKと呼ぶんでしょうか、木造平屋の非常に簡素なお宅の中には、とても雰囲気のある大きな神棚が、それはもう、とても大事そうに拵えられておりました。

 その神棚に、彼女の神道上の官位を示すお札のようなものも祀られていたんですが、今ではその記憶も朧げで、彼女も今は亡き人、確認する術は失われて久しいので、詳細は不明のままでございます。

 なお、余談を重ねますが、神道とひとえに申しましても中身は一枚岩ではございません。

 幾つもの派閥や流派が存在し、わてくしも知らない、公になっていない組織もあるのかもしれません。

 それこそ“マンガみたいな”組織や活動も存在し続けているのかもしれません。

 わてくしは知らないので、謎は謎のまま、壊さずに済むロマンはそっとしておこうと思います。



 さて、話は戻りまして。

 祖母のお友達がどのように呪いに対処したのかは、わてくしは知らされておりません。

 対処した結果、呪いがどうなったのかも知りません。

 今こうして生きて語っているので、ひとまず殺すのを勘弁してもらえたことだけは確かでしょうか。

 いったい誰が聞いたのか、わてくしは3歳になるまでに殺すと宣言されていたそうなので、その12倍とちょっと生き永らえていることから、その呪いで殺される心配はないんだろう助かったぜラッキー! 助けてくれてサンキュー! と関係者各位には心から感謝している次第です。


 この伝聞の真偽は、わてくしにとっても不明のままなのが実情ですが、一つだけ確認する術が残されております。

 この身に降りかかった呪いは父方の家系で複数回起こってきたものであり、家系図などで確認ができた(・・・・・・)のだそうな。

 いつか確認したいと思いながら20年以上経ちましたが、さて、これを確認できる日が来るのかどうか。



 あなたの家には似たような話、ありませんよね?

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