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嘆きを歌う死の女神

作者: ミーシャ

 これはある世界の神話


 大神にして創造の神・クラ。


 彼には最愛の娘がいた。


 彼女の美しさは神々ですら目を奪われるほど。

 彼女の歌声はあらゆる神々の心を癒していく。


 彼女の美しい歌声は、天上の世界を祝福の光で満たし限りなき楽園を与えた。


「おおお!大いなる神・クラの娘にして祝福の女神・ラクリナよ!そなたの歌声は本当に素晴らしい!見よ、この光景を!我らの楽園はそなたの祝福を受けこんなにも喜んでいる!そなたの歌声を我が愛しき地獄に運んでおくれ。さすれば増えすぎた亡者どもはたちまち清められ、我らの世界をさらに光で満たすだろう!」


「ああ、偉大なる死の神・ヨル様。あなた様からそのような言葉をいただけるとは思ってもいませんでした。私の歌声が少しでも皆の役に立つと言うのならば私は喜んで歌い続けましょう。あなた様の地獄にも祝福があらんことを」


 女神は歌い続ける。

 神々の楽園をさらに築いていくために。


 しかしある時、地上に建てられた神殿内部にある彼女の像に地上の民が語りかける。


「おおお……我らが祝福の女神よ!どうして我らの世界にはあなたの祝福をくださらないのですか?あなたの祝福を受けられない大地はこんなにも荒れ果ててしまいました。世界は疫病や悲しき争いによって満たされています。どうか女神よ!ここに唯一たどり着けた我が願いをどうか聞き届けてくださることをお願いいたします!」


 数々の試練を乗り越え神殿に来た勇者・エルークは涙ながらに懇願する。


 神々の楽園が美しくなる一方で大地は荒れ果てていた。


 彼女は悩んだ。

 彼女が地上で歌うことは許されていない。

 これは父からの唯一にして絶対の命令だった。


 しかし彼女は偉大なる大神の娘にして最も慈悲深き女神。

 己がたとえ父からの罰を受けることになろうとも彼女は人々を救うことを望んだ。


 そう、()()()()()()()()()


 彼女は像を通して地上に降り、歌を歌い始める。

 それは祝福の歌。

 楽園を光で満たしてきた最高の歌声。


 しかし人々は知らなかった。

 なぜ彼女の像が数々の試練を乗り越えなければたどり着けない場所にあったかを。

 そして彼女自身も父がなぜ地上に歌うことを許さなかったかを!


 彼女の歌声は地上の隅々に響き渡り、人々の心を溶かしていく。

 それは、耐え難い快楽の歌。

 地上の生き物は笑う。


 初めは静かに……しかしだんだん大きく笑い声を上げ始め、やがて口にしてしまうのだ。


「あぁ……もう十分満たされた」


 地上の生物にとって彼女の歌は強すぎる快楽の歌。


 生を満たされた生物に生きる意味などなく生きる希望を持つことすら許さない。

 地上の生き物は、祝福を受けすぎたが故に生きることを拒んでしまった。


「おお!愚かなる女神ラクリナよ!なぜ地上に降りたのだ!?見よ!このありさまを!そなたの歌声を聞いた、地を這うあの醜き者達の末路を!!彼らはその美しさのあまり狂ってしまった!この星の生物はそなたのせいで亡びるだろう!」


 怒り狂った大いなる神・クラは彼女を楽園から追放した。


 彼女は誰もいなくなった地上に堕とされる。

 声を出すことを禁じられ、物を見ることを禁じられた。

 美しかった体は戒めの形として下半身を白き大蛇に変えられてしまった。


 彼女は泣いた……。

 誰もいない地上で大声をあげて泣いた。


 それは声なき泣き声……

 地上は彼女の泣き声により死んでいく。

 草木はまるで煙のように消えていき、水も大地に吸い込まれるように消えていった。

 大地は荒れ果て最後に残るのは全てが消えた死した星のみ。


 彼女はただ救いたかっただけなのに!

 彼女はただ願いをこめただけなのに!


 彼女の悲しみは、永劫に癒えることはないだろう。


 故に彼女は繰り返すのだ。

 彼女は祝福の歌声ではなく嘆きの歌声を死した星に贈るのだ。


 彼女は声にかけられた縛りを壊し、狂い始めた天に向かって歌を歌い始める。


 その歌声は、神々を癒す美声ではなく神々を殺す美声となって天上に住む神々に届くだろう。


 そして全てが終わった時、自らを鎖で縛りこう呟くのだ。


「あぁ……これこそが私への罰なのですね」

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