#08 1パーセントの悪夢
イメージ膨らんできたし挿絵の方も頑張ろうかな。
結局半ば無理やり魔城まで案内させられる保護者兼、引率のバリーさん。
それに付いてくるティピカ(魔女)、アマレロ(盗賊)、メデリン(職人)。
女3人は中が良いのか悪いのか分からないが、常にやかましく、わちゃわちゃしている。
ティピカはエンオウに作ってもらったプンパニッケル(ライ麦を原料にした黒いパン)で作った四角いサンドイッチの包みをを大事そうに抱えている。
遠足か何かと勘違いしているんじゃなかろうか。
俺意外は誰も気にしてないようだが、城の地下迷宮に潜るにあたっても問題が山積みである。
魔物が住み着いてたりしないのか。
そもそも、勝手に城の物を持ち出していいのか疑問である。
そこは確認しておいた方がいいだろう。
「ティピカ。その城ってかなり古いんだろ? 地下に魔物とか飼ってたりしないのか」
「んー知らない。でも、よくラトナが入って行ってたから大丈夫でしょうよー」
ラトナって誰だよと思ったが、丁度いいのでもう一つの疑問も聞いておく。
「だいたい、俺たちが行って城の物持っていったらまずいだろ。親とかが怒るんじゃ?」
「……はう。いないよそんなの。一緒に住んでたのはカロお姉ちゃんとラトナだけ」
明らかにティピカのテンションが下がっている。マズイことを聞いてしまったようだ。
魔導アーカイブに監禁されている時点でその辺の身辺事情が複雑なのは察していたはずなのに、軽率な聞き方をしてしまったことをバリーは後悔した。
「そいで、ずっと前にカロお姉ちゃんは悪魔と戦いに行って行方不明になって、ラトナは戦争になった時死んじゃったって聞いた」
「……それは悪いことを聞いたな。すまない」
ティピカの話ではその後、ラトナの知人であるエンオウ(スキンヘッドのおっさん)に引き取られて面倒を見てもらっていたが、行方不明の姉を探して飛び出した所を軍の兵に目をつけられ、捕まったようだ。
そうこう話しているうちに城の前まで着いた。
「じゃあ、何か見つけたら持っていってもいいんだな?」
「うぬ。いいでしょうよー」
山に突如出現した城に所有権も何もあったものじゃないが、一応『家』だと主張している現家主に確認しておく。
彼女が魔法で呼び出したのは間違いないのだから。
「じゃ手分けして金目の物探しましょ? 私とティピカは城の内部をアマレロと化物は地下を探索してきて」
「おい、ちょっと待て。こんなに広いのに別行動はマズイだろ」
「大丈夫よ城の内部にあなた以外化物の気配はないし。地下は分からないけど」
メデリンがそう断言する。
彼女の事をまだ良くは知らないが、アマレロが全く心配していない所を見るにその魔物を探知出来るスキルは信用していいのだろう。
というか、俺が脳天串刺しでも死なない化物である事を誰も意に介さない事のほうが逆に心配である。
「はい、じゃ散!」
「お、おい……」
非常にせっかちなメデリンは自分の言いたいことだけ言ってティピカと城の奥へスタスタと歩いていった。
「さ、私達も探しましょ地下迷宮の宝箱」
あっさりと地下へ続く階段を見つけたアマレロは喜々として突き進んでいく。
どいつもコイツも人の話を聞かない自己中心的な奴ばかり。
先が思いやられるバリーであった。
入っていった地下は地上の光が届かない場所は真の真っ暗闇であった。
「思ったより暗いわね。電気とかないのかしら」
「こんな古い城の地下だぞ照明なんてあるわけないだろ」
「……あ、あった」
「あんのかよ!」
アマレロが壁際にあるスイッチを押すと、パチッと音がして地下全体が昼白色の光で明るく照らされた。
スイッチの近くには大きく張り紙で『節電』と書かれている。
どこから電気きてるんだよ。と、バリーは突っ込みたくなったが、元が何もない山に魔法で現れた伝説の城だもはや少々の事では驚くまい。
そして暫く探索した時。
「バリーあったわよ。あの部屋の中にお宝があるわ」
「分かるのかアマレロ。そんな能力まであったのか」
「カンよ」
「勘かよ!」
結論から言うと部屋の中に宝箱はあった。
盗賊の第6感は素晴らしく、狭い部屋の中央にある宝箱を見て罠が無いか調べた後、その箱を開いた。
アマレロは箱の中にあった黒い物体を取り出してみる。
「何よコレ。本?」
「魔導書のようだな」
どうやら中身は古い魔導書のようだった。元々の色もわからないくらい塵と埃をかぶっており、それらを払っても中からはただ黒いだけの本。
本のタイトルは何か描いてあったような形跡こそあれ、読み取れはしなかった。
「バリーこの本開かないわよ。ガラクタじゃない」
「どうみても骨董品だからな。くっついているんじゃないのか。どれ……本当だな」
本のページは石のように頑丈な力でくっついており開かない。
「バリー。こんな時こそあんたの能力の出番じゃない?」
「ん?……ああ。わかってるよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数年前。
「どうしたジェズアルド中佐。何? 軍籍をやめる?」
バリーは例の戦争の件で軍の体勢に辟易し軍属の学者を辞めたがっていた。当時、中佐だったバリエダ・ジェズアルドは自分のやりたい事がやれない現状を打破すべく決死の覚悟でそれを上に伝えた。
「馬鹿な事を言うな。君ほどの研究者が安々と辞められる訳なかろう? 君は機密情報の塊だ」
決死の覚悟とは――
つまり、機密保持の為に消される可能性。
「ですが、デミタス総統。私の考えはもう決まっています。」
当然のように直轄である上司には考え直すよう渋られるが、譲らないバリー。
「正直、君程の人間を手放すのも抹殺するのも惜しい。……ならば、こうしよう。」
軍のトップであり兵器開発の長でもあるデミタスは、当時開発したばかりの人をトランスギア化する新技術の人体実験をジェズアルド中佐に迫った。
辞めるならばせめて、最後に体をはって開発に協力しろとデミタスは言う。
人体実験の結果データを取ることが出来たならば、それらを全て渡した後、軍を出ていくことを許可してくれると。
「ですが、総統……あれはまだ」
「分かってて言っている。やるのかね? やらんのかね?」
デミタスは非情な男だ。
人のトランスギア化、それは魔法の才能ともとれる素養を無理やり注入する実験なのだ。
本来は遺伝であったり、何十年も努力の結果手に入れられる力を数時間の手術だけで、人間兵器を作ってしまおうという恐ろしい技術。
その成功率は机上の空論ですら1%未満。
成功してもどの程度の魔導の力が手に入るかは分かっていない。
失敗時は脳機能の障害とそれによる死亡が予想されている。
神の決めた理を破壊するかのような人の尊厳をも完全に無視する闇の魔導技術である。
バリーはこの
『成功率1%の悪夢のような実験』
の最初の犠牲者となった。
当時、表向き協力者として捕獲した魔女の持つ魔法、アポーツの素養を注入させられる事となる。
そして、バリーは魔導アーカイブにて人体実験を見事成功させたが、手にした力はアポーツの片鱗のみであった。
その力とは『魔導の力であらゆる情報を呼び寄せる』形なきアポーツ現象。
道端の小石でさえ、正確な重さ、サイズ、硬度、その成分から生成元へ辿るルートまで追える軍事利用目的として考えても凄まじく有益な能力であった。
バリーは後にこの力を【百識】と名付けている。
彼、バリエダ・ジェズアルド中佐は自らの發現した力を分析、実験における結果の範囲予測。
人の思考とそれらが魔法、魔導に及ぼす影響等、膨大な量のレポートとしてまとめて報告し、実験の翌年に退役。
バリーは文字通り生命を賭けて自由を勝ち取る。
彼の残した最重要機密情報ファイル。
その名を――
APPORTS ARCHIVE (アポーツアーカイブ) と言った。