#07 金の匂いと地下迷宮
関係ないカラ松の絵描いてました。
更新待ってた人居たらすいません。
なりゆきで晩御飯をご馳走になったバリー達。
とりあえず額の矢を抜いてこれまでの経緯をメデリンとエンオウに話した。
「つまり、この子があの噂のポラリス魔女ってわけ?」
メデリンは訝しんではいたものの、バリーの急激に修復していく傷と旧友のアマレロが懐いている姿を見てそれ以降は物騒な武器を下ろしておとなしく話を聞いていた。
「状況的に、ほぼ間違いないだろう……」
バリーが軍に在籍していた時でさえ、直接ポラリスの魔女を見たことはなかった。
同じ軍の研究開発部門の人間にも公にはしていない極秘事項。
【特級犯罪者】として手配された時点で、その疑惑は確信へと変わった。
そんな極秘情報の塊のような魔女を連れていた段階で軍に目をつけられるのは火を見るより明らかだった。
「まぁ、アマレロの知り合いみたいだし、保護者が人外というんじゃあ興味はあるわね」
メデリンはバリーを信用していなかったが、アマレロには絶大な信頼を置いていた。
「それにしても懐かしいわねメデリン。昔はあんたと毎日のように組んで仕事してたのに。あれからもう何年も経つのね」
どうやらアマレロの口ぶりから察するに、メデリンは盗賊家業仲間のようだった。
元軍人のバリーを出し抜くほどの隠密行動に敵に対して全く躊躇しない先制攻撃といい、自称の魔道具職人という肩書とは思えない程、メデリンは戦い慣れていた。
「トランスギアとか言う機械が出回ってからは商売あがったりよ。人口が結構減ったし、魔道具は売れないし、既存の機械の価値はだだ下がりだしさ」
「バリー。あんたの発明で困ってる人もいるみたいよ。」
こちらに皮肉のコメントをふってくる意地の悪いアマレロに苦笑いをするバリー。
「え!? うそでしょ? あんたがあのクソギアの開発者なの?」
当然そういう反応になるだろうなとは思ったが、嘘ではない。
確かに自分が魔法粒子を別のエネルギー形態へ変換する法則を見つけたのは間違いない。
素性を隠しても遠からずバレる。
そう思ったのと、ギア兵器による犠牲者の罪悪感もあり、全てを曝け出した。
「……あんたのせいで! あんたのせいで一体どれだけの人が酷い目にあったと思ってるのよ!」
「やめて、メデリン! バリーがやったわけじゃないでしょう?」
止めに入るアマレロの言うとおりなのだが、魔法の法則を発見し武器として実用化しなければ、戦争は起こらなかったかもしれない。
過去にはアルフレッド・ノーベルが建設用に考案した爆薬が兵器として大量の人の生命を奪ったように歴史は繰り返した。
ノーベル博士は自分の発明を悔やんだ。
バリーも同様に自分の最大の発見を悔やんだが、その先にある未知の魔法の可能性に賭け、研究を繰り返していた結果が今の状況なのだ。
――運命とは皮肉なものである。
努力した結果、不幸を呼ぶなんて事はわりと頻繁に起こる。
それでも、賢人は呼び出した不幸にお帰り頂く為にさらに努力を繰り返すのである。
「メデリン。聞いてくれ。俺は自分の過ちを償うためにも、アマレロを、この魔女ティピカを守りたい。国家の都合で人生を狂わされたこいつらの『安心して生きられる場所』を作りたいんだ」
「なによ! いきなり押しかけてきた化物の言うことを信じろって方が無理でしょ」
メデリンはすぐに納得してはくれなかった。
「戦争で死んだ人達にはすまないと思っている」
「は? 何いってんのあなた?」
キレ気味に突っかかってくるメデリン。
諦めずに詫びの言葉を探すバリーだったが、何か様子がおかしい。
「だから、これから故人の為に何が出来るかを……」
「そぉんな事はどーでもいいのよ! こっちはあんたの発明のせいでお金が無いの! 貧乏なの! あんた責任取って何とかしなさいよ」
「……はぁぁーーー!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どこか微妙に話が食い違ってると思ったが、よくよく聞くと別にメデリンは親類が戦争で被害にあったとか、世界平和を望んでいるとか、そういう訳では無いらしい。
「何か償いたいと言うなら、お金を頂戴。あたし、今凄い貧乏なの」
メデリンに胸ぐらを捕まれ脅迫されるバリー。
国外に亡命して【反ロブスタ組織】の拠点に逃げ込んだ結果。
殺されかかった上に今現在、カツアゲにあっている。
お金も家財もない丸裸同然で国外逃亡したバリーには当然お金など無い。
そもそも、軍を辞めてから収入の無くなった学者の財産などたかが知れていた。
バリーには打つ手なしだと思ったが、頭のおかしい魔女から意外な言葉が出る。
「はわ? お金なら家に一杯あるでしょうよー」
「えぇ!?」
「うそ!?」
「マジか!?」
確かにあの城【古代魔城レーベンシュタイン】ならどこかにお金は沢山ありそうではある。
しかも、それが『自分の家』だと主張するティピカは一体何者なのか。
「ティピカちゃんだっけ? その家って何かな? どこに住んでるの?」
わかりやすい程、急激に態度の変わるメデリン。
「えっとぉ。れーべんなんとかって言う大きなお城が家なの」
「まさかレーベンシュタイン!? あの地下迷宮があるという要塞巨城の事?」
【古代魔城レーベンシュタイン】と言えば、戦争時ロブスタ軍も攻略を諦めた『要塞』として知られる魔城だった。中には前人未到の地下迷宮があるとされ、古代より眠る大量の宝があると言われる。
「うそでしょ? あんた、あの魔城に住んでたの?」
「はわ? そだよ」
これには盗賊のアマレロも一気に興味が湧く。何しろアマレロの生涯のライフワークである趣味が宝箱収集なのだから。アマレロの【不思議な宝箱】には過去に集めた大小の宝箱が大量に収められている。
『宝の入っているかもしれない箱』その魅力に取りつかれたアマレロは自身の持つ【アーカイブ能力】にその影響を受けていることは間違いない。
「その城、地下ってある?」
「うーん。あるけど、暗いからティピカ行ったことないでしょうよ」
「……間違い無さそうね」
アマレロの質問に答えるティピカの返事を聞いてテンションの上がってくる女が2人。
「バリー。なぜ地下迷宮奥深くの宝箱に凄い宝が入ってるか知ってる?」
唐突にアマレロがそう聞いてくる。
「いや? なぜだ? そもそも必ず入ってるのか?」
「古く魔力を帯びた宝箱にはアポーツという魔法が宿っているのよ。そして、それはダンジョンに潜る人々の願いで中身に希少なお宝を呼び寄せるの」
「こんなに苦労したんだからきっと中身は凄いはず」そんな願望を裏切らない魔法の宝箱は人類の希望と豪語するアマレロ。その後も廃墟の見つかりにくい場所に隠してある宝箱のケースとか鍵が掛かっていて鍵が見つからない、鍵穴がないケースとか、それはもう喜々として語りだして止まらないのでバリーは適当に聞き流した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからアマレロとメデリンはティピカから知っている事を根掘り葉掘り聞いた後、【古代魔城レーベンシュタイン】へ向かう準備をした。さっきから異常にテンションの高く楽しそうなアマレロ。
「よし、じゃあそういうわけで。お宝探しにしゅっぱ~つ!」
「いや待て、俺らそこから逃げてきたばっかりだぞ。」
もう出かけるのかと、少し寂しそうに見送るエンオウだったが、財政難のレジスタンスにとって悪い話では無かったので止めるような素振りもなく少しの食料を渡された。
「いやぁ楽しみだなぁ。地下迷宮。どぉんな『宝箱』があるんだろーなぁー。」
「ねー。あ、宝箱はあげるから、中身は頂戴ねアマレロ。」
「はわ。おやつどこに置いたっけなぁ?」
「……だめだこいつら。聞いてねぇ。」