#06 後の祭りのその後で
戦争で敗退する事となったラビカ王国。
降伏の際に取り決められた条件が2つあった。
隣接する東半分の地下資源採掘の権利を譲渡する事。
国の発展の為に魔導士は全面的にロブスタに協力する事。
その利便性に配慮して研究施設【魔導アーカイブ】は丁度ラビカ王国との国境に位置していた。
山の道なりに進み、そのままラビカ王国へと入国したアマレロは古くから付き合いのあった知人の住処を尋ねる。
「メデリン! 居ないのー!? メデリーン!」
目的地に到着して【不思議な宝箱】から解放されるバリーとティピカだった。
「やぁっと出られたか。なんかこの箱の中、空気薄くないか?」
知人の住処はなにやら呪術に使いそうなホラー感溢れる仰々(ぎょうぎょう)しい人形やら水晶のような魔術じみた道具がそこら中に転がっていた。
しばらく箱の中で動けず、凝り固まった首を回しながらバリーも部屋の中を徘徊する。
「コッチにも部屋があるな。どこかにメデリンって奴がいるのか?」
ドアノブを回し部屋に入った瞬間。『ダンッ!』と大きな音がしてバリーは気が遠くなった。
「魔物が私の名を知ってるなんて。私も随分有名になったわね」
バリーが開けた部屋の中には長髪でスレンダーな美女がボウガンを構えて立っていた。
「バリー、何の音? って。どうして倒れてるのバリー!?」
頭から血を流して地に伏せるバリー。
その頭部にはボウガンの矢が眉間に真っ直ぐ突き刺さっていた。
「メデリン! ああ、なんて事! バリーはあたいの恩人なのよ!」
「アマレロ! 久しぶりね。あなた孤独だからって化物と仲良くしてるの?」
なぜだか、アマレロの古い知人メデリンはバリーを化物扱いする。意味がわからないが、矢が刺さり致命傷となっているバリーを見て慌てるアマレロ。
「ああっ! バリー! バリー!」
「落ち着いて、悪かったわよアマレロ。騒いでも後の祭りよ。それに魔法生物がこの程度で……」
そこへ目を覚まして、乱入してくるティピカ。
「はわ! バリーまた死んでるー!」
「死んでねぇー!」
ティピカの声に反応して目を見開き、ほぼ反射的にツッコミをいれるバリー。
なぜだか、バリーは頭にボウガンの矢が刺さったまま意識があった。
激しく出血しているが、それも、もう既に止まりそうになっていた。
「ほらね。こちとら物心ついた時から魔道具職人やってんのよ。魔物と人間を見間違えたりしないわ」
腰に手をやり、そう豪語するメデリンだったが、バリーもアマレロも状況が全くわからなかった。
ティピカに至ってはもはや、分かろうとすらしていない。
「どういう事? バリー。それ平気なの?」
唸りながら頭が痛そうに抱えて立ち上がるバリー。
そこへ美しくも悪そうな顔をしたメデリンが不敵な笑みを浮かべバリーを睨むと、再びボウガンを構える。
「どうって事ないわよこのくらい。ほら!」
『バス、バスッ』と鈍い音をたてて、メデリンはさらにボウガンをバリーに3発ほど撃ち込んでいく。
今度はバリーの胴体に矢が刺さり、穴が増えてゆくのだった。
――ビターン!
狭い部屋に響く前のめりに倒れゆく学者の着地音。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」
「はわぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」
さらに部屋の外まで轟く少女達の悲鳴。
立ち上がったのも束の間。
無慈悲な不意打ちに、またもや地に伏せて意識が遠のくバリーだった。
(……なんだよこれ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――俺はどうなってしまったんだろう?
意識が戻ってきたバリーの回りはなにやら騒がしい。
「相変わらずせっかちねぇ。メデリン」
「あなたこそ神出鬼没すぎなのよアマレロ」
「はわ! ところでねーちゃん達、誰でしょうよー?」
「「それはこっちのセリフよ!」」
まだ、ぼやけた視界に映るのは自分を囲むように立つ美少女達の姿。
3人は集まって激しく罵倒しあっていた。
バリーは基本的に神など信じていなかったが、錯乱しても仕方がない目の前の事態。
まるで、脳天に鉄槌でも打ち込まれたような感覚に、かつて無い程の混乱を極めていた。
運命を司るノルンの女神はとても個性的で仲が悪いと聞く。
ここは天国だろうか。
血痕こそ残っているが、矢が刺さっていた筈の胸に異常は無く傷口も塞がっている。
それとも夢だったのだろうか。
バリーは考えたが、ドリームランドに突入した記憶も人間をやめた記憶も無かった。
「痛っ。……?」
――ただ、頭に手をやると確かに分かる。
バリーの眉間に刺さりっぱなしのボウガンの矢と痛みだけが、この異常な現実を思い知らさせる。
そんな時。
誰かがドアを勢いよく開けて入ってきたかと思うと、野太い男の声が聞こえてきた。
「おーい! 今日はいい肉が手に入ったぞー」
その男を見るやいなや、指を指して男に走りより騒ぎ出すティピカ。
「はわ! あー! ハゲオー!」
「誰がハゲオーじゃい。エンオウだ! 半分しかあっとらんわ! いい加減名前くらい覚えろティピカ」
不思議そうな顔をして問いかけるメデリン。
「なに? エンオウの知り合いなの?」
エンオウは慣れた様子でティピカをあしらうと、メデリンと手際よく食事の用意をして、その日は豪華な晩餐となった。
バリーがここにに訪れた事情を聞いて豪快に笑い、どんどん食べろと勧めてくるエンオウ。
「はっはっはっ。誤解で【特級犯罪者】か。ソレじゃあわしら【反ロブスタ組織】と大して変わらんのぅ。一蓮托生って奴だ! まぁ仲良くやろうぜ」
「バリー、あんたすぐバテるんだからちゃんと食べときなよ」
「化物のくせに、いっちょ前に人間と同じ物食べるのね」
「はわ! それ、ティピカも食べる!」
「はいはい。」
むさ苦しい研究生活から一変、美女に囲まれた楽しい食卓のひととき。
大きなため息をつくバリーだった。
(どうしてこうなった……)
さっぱり訳がわからないまま、勢いよく流れてゆく時間。
ただ、今確かめられのは無理やり出来た『一蓮托生の仲間たち』の存在――
話を聞かず、強烈で意味不明な古代魔法を使う『頭のおかしい魔女』
恩人を有無を言わさず箱詰めにして国外まで運ぶ『頭のおかしい盗賊』
初対面で笑いながら殺しにかかって来るせっかちで『頭のおかしい魔道具職人』
そして『謎のスキンヘッドの親父』
いつの間にか人間をやめた学者の向かう先は怒涛のハーレムルートか。
それとも……