#05 アマレロと不思議な宝箱
前回のあらすじ
ティピカ穴の中で見つかり救出→魔法失敗で出したドーナツの穴だった
→バリー野宿の為準備→軍の兵士強襲→蹴散らす
→軍籍時代のライバル登場→ライバル即ドーナツの穴に落ちる
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更新をもって礼を尽くします。
何とか追手を退けたバリーだったが、他の軍の捜索隊にも居場所が知れた上に魔女逃亡の手引を企てた反乱者だと誤解されていた。
小隊のセオリーでは突撃前に本隊に通信を入れる。
バリーの計画では隊の長を捕縛して嘘の情報を流させるつもりだったが、その男は深い穴の底だ。
他の2人の兵士ものびて意識がないし、時間稼ぎは不可能になった。
連絡が途絶えたら間違いなくここへ別の隊が様子を見に来てしまうであろう。
どこまでの情報が軍に伝わっているのかこの時点では分からなかったが、最悪の事態を考え、急ぎこの場を移動することを余儀なくされた。
仕方なく無防備に寝ているティピカを背負って下山することにする。
少ししてある程度整備された道に差し掛かった時に女の声が聞こえてきた。
「あー! 居たー! あんた、なんでこんな所にいんのよ」
その声は臨時の助手で女盗賊のアマレロだった。
以前作った電子ペーパー端末(薄い紙のような機械)をベースにした地図型トランスギアを手にしている。
どうやら俺を探してここまで来ていたらしい。
「アマレロ。どうしてここが分かった。」
「なんかココ光ってるし。これじゃね? って」
地図に光ってる場所があると。
もしや、と思って沢山ある内ポケットを探ってみると、ソレがあった。
前に居場所が地図に表示される発信機のキーホルダーをアマレロにあげたのだが、それがポケットの中に。
その山羊を模したキーホルダー摘んでアマレロに見せる。
「これ。お前にあげたやつじゃ……」
「あーソレ。ダサいからいらない。」
発信機は知らぬ内にバリーのポケットに突っ込まれていた。
「そんな事よりバリー。あんた、今朝から賞金かけられてるよ。一体何やったのよ!」
「なんだと!? さすがに早すぎる……」
アマレロは破れたビラを見せながら指をさす。
「ほら、ここ。特級犯罪者だって」
特級とはランク付けで言う一級のさらに上。最も凶悪な犯罪者という事だ。
たった一日で【国家栄誉特級】の学者から、国の【特級犯罪者】へとジョブチェンジしたのであった。
アマレロは今度はバリーの背中を指差して騒ぎ出す。
「ああーーーー! もしかして幼女誘拐?」
「ちがうわ!」
「じゃなんなのよ、その子」
「この子は関係ない! ……いや、関係あるけど、まずは聞いてくれ」
バリーは転送された先で少女が崖から落ちてきた事――
少女が凄い魔女で軍の最重要機密だった事――
魔女の脱走を手引した軍に敵対する反乱分子として誤解されている事――
それらをアマレロに分かるように何度も説明した。
「わかったか。俺は誘拐もしてないし、犯罪も犯してない。巻き込まれただけだ」
「ふーん。そんな厄介者、捨てていけばいいじゃない」
至極真っ当な返しに一瞬たじろいだバリーだったが、これまで生きてきた自分の行動理念や誇りを思い出しこう言った。
「だめだ。この子は見捨てられない。お前と同じだアマレロ。」
「……」
強い眼差しで見つめるバリーに対し沈黙するアマレロだったが、しばらくしてアマレロは何かを決意したように頷いて言った。
「……もう、わかったわよ。あんたのそういう変に頑固なトコが好きなんだけどね」
「よし、じゃあまず……」
『国外に行くんでしょ? 分かってるわよあんたの考えなんか。だったらアタイにアテがあるから。任せてちょうだい!』
アマレロはそう意気込むと、指を鳴らして何やら叫び出す。
「ちぇすとぉー! こい!『不思議な宝箱』!」
アマレロの掛け声に呼び出されたのは人が一人スッポリ入れるほどの大きな宝箱だった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――2年前。
アマレロは孤児で金目の物を盗んでは売り払う盗賊家業によって生計を立てていた。
ある時、軍の備品を盗もうとして捕まり強制収容所に捕らえられる。
そして、研究施設【魔導アーカイブ】の人体実験で改造された【人造魔女】であった。
「くそっ、はなせ! やめろぉ! デミタス! お前、絶対いつかあたいが箱に詰めて海に沈めてやるー!」
「ふふふはははは。ほざけ! 盗人風情が! 貴様は【アーカイブ】になるか。死んで無に還るか2つに一つだ」
【アーカイブ】とは魔導の力を注入された人工的に造られた魔女、魔人の事を指す。
魔導の素養を注入された人間は適正ごとの【アーカイブ能力】を発現させ、さながら人型トランスギア兵器として扱われるのだ。
その成功率は1%以下といわれ、適合せず失敗すればその殆どが死亡、運が良くとも精神は崩壊し廃人と化す悪魔の実験であった。
「……お……あぅ。うー……」
「……こいつも駄目か。威勢だけだったな。処分しておけ」
「はっ。」
モルモットとなった女盗賊は失敗作として殺処分される所を、当時中佐だったバリーが偶然通りかかって保護したのだった。
アマレロは公式には軍重要機密資材の窃盗、および傷害の容疑で死刑が執行された事になっている。
それから廃人と化したアマレロは何やら呟き続けたが、バリーは『生きているなら希望はある』と考え、毎日介護したその結果。
――実験は失敗していなかった。
注入されたアポーツの素養は後にアマレロの適正により【アーカイブ能力】を発現させ、同時に正気を取り戻す。
それは限定的アポーツとも言える、呼ぶと現れる次元の壁を越える箱。
一度中に入れた物はアマレロの意思で自由に出し入れが出来る。
サイズも質量も無視して持ち運べる未知の箱は無論、バリーにとって研究の対象となった。
そう、希望は残っていた――
神話に出てくる厄災を宿しも、最後に希望が残っていたとされる【パンドラの箱】になぞらえ、バリーはその【アーカイブ能力】を『不思議な宝箱』と名付けたのだった。
「さ、早く入ってバリー。ついでにその子も。あんた有名人で顔割れてるんだから」
「え? ちょ、まてよ。というかその箱、人が入っても大丈夫なのか?」
「ほら、急いで! 着いたら出してあげるから」
無理やり箱に押し込まれるバリーと依然爆睡中のティピカ。
「おい、押すなって! ってマジかよ。うわぁぁ。」
「小さくするよー。はい、しゅっぱーつ!」
「えぇ!? 何処行くんだよー」
今度は盗賊で【人造魔女】のアマレロに箱に詰められて運ばれる始末。
突然、学者から【特級犯罪者】へとジョブチェンジしたトラブル続きのバリーさんだった。
とんでもない事態に巻き込まれてしまった彼はこれからどうなってしまうのだろうか。




