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APPORTS ARCHIVE(アポーツアーカイブ)  作者: イズクラジエイ
第一章 ~暴走魔女は止まらない~
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#04 露と月夜の追跡者

前回までのあらすじ

ティピカ腹減る→トチ狂って城を召喚→軍に場所バレるので移動

→バリー飯を調達に→戻ったらなんかデカイ穴空いとる→ティピカ行方不明


 辺りを見回してもティピカは見当たらない。すでに軍の人間に連れ去られたのだろうか。

 それにしてもこの穴は何なんだろう。

 

 軍の携行型トランスギアであの一瞬でここまでの出力が出るなんて聞いた事がない。

 何かの力で掘ったにしては穴が綺麗すぎるし、掘り出した土砂もない。まるで、元々あった穴を呼び寄せたかのような……この不自然に出来た真円の穴を見てバリーにはそう考えた。


 恐る恐るこの不気味に深い穴の中を覗き込もうとした時、何かが聞こえてきた。



  「……はわ……はわわわ……」



 まさかとは思ったが、穴の中に魔女は居た。

 丸く磨かれた翡翠ひすいのような瞳が2つ鈍く光って、目でこちらに何かを訴えている。

 そして、その小さな手で穴のふちを掴んでプルプルと震えている。



「ティピカ!」



 急いでティピカを引き上げ、服についた砂埃すなぼこりを払いながら事情を聞いてみる。



「一体何があったんだよ」

「はわ! はわわわ! はわ!」

「落ち着け。全然わからん。」



 落ち着かせた後、ティピカから話を聞いてバリーは愕然がくぜんとする。


 途中の謎言語を省いて翻訳すると、どうやらお腹が空きすぎて大きなドーナツを出そうとしたらしいが、ドーナツの穴だけ出たらしい。

 先程の巨城といい、彼女の謎理論で呼び寄せられる通常ではありえない規格外の物質。

 そもそも何もない穴を物質とみなして良いものだろうか。


 謎だらけだが、一つだけ分かったことがある。

 この子の使う魔法アポーツには欠陥けっかんがある。それは間違いなかった。



「はわぁ。逆にドーナツに食べられる所だったでしょうよー。」



 バリーは「一日で何処まで落ちる気だよコイツ」と心で思いながら自分の身の危険も案じて諭す。

 制御できない魔法を目の当りにして普通の思考なら誰でもこう言うだろう。



「よし、わかった。もうアポーツは使うな。いつか死ぬぞ。」

「えぇーなんでよー。ティピカ他に魔法使えないし。」

「ほら、食べ物ならこれやるから。」



 そう言ってバリーは先程取ってきた木の実をナイフで食べやすいように切って渡すのだった。




 どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 いつも通り実験室で研究をしていただけなのに……


 転送の人体実験は半分失敗。


 予定外座標に飛ばされたあげく、欠陥魔法しか使えない魔女を拾ってしまうなんて誰が予想できようか。


 軍の重要機密だと思われる魔女をかくまったら自分もきっと犯罪者扱いであろう。

 いっそ、捕まえたと言って軍につき出すかとも一瞬考えたが、それが出来ない性格である事もバリー自身よく分かっていた。


 バリーは軍の秘密を知りすぎていた。

 2年前、口封じをされる事を覚悟で退役願いを出した。


 あの時、生命をかけて飛び出したのだ。今更、後戻りは出来ない。


 少し考える余裕のできたバリーは他にもあった問題を思い出し頭を抱える。

 振動で崩れそうになっていた研究室は大丈夫なのだろうか。

 意図せずあの場に置いてくる事になったアマレロは無事だろうか。

 問題は山積みだった。


 それからティピカと他愛もない話をしながら時間がたち、段々と日は暮れていった。


 学者のライフワークだった研究はこの日から『暴れん坊少女の御守り』へとシフトしてゆく。



(どうすんだよこの穴……)







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








――日が沈み大きく丸い月が学者と魔女を照らしていた。



 バリーはおもむろに乾いたこの葉や木の枝を集め固めたかと思うと、手帳を取り出してページをめくり何かを探している。

 目的のページを開いた後バリエダは呟いた。



「これでいいか。『夢の粉火は現実に』( フンケトラオム)



 その瞬間、チロチロと火の粉が降り注いで目の前の木の葉は燃え上がった。



「はわ! すごーい! バリーも魔法使えるんだね!」

「いや、このトランスギアのお陰だがな。俺自身は才能がないし、ほぼ魔法は使えない」

「なんかわからんけど、それでも凄いでしょうよー」

「手帳型は携行性に優れるけど、手も塞がるしまだまだ改良の余地があるな」



 こうして、無理に移動するのを避け野宿の為の準備に入るバリーであった。




 実際、夜の下山は危ない。


 獰猛な獣の居ても発見が遅れるし、山の天候は変わりやすく対処しずらい。

 土地勘の無いものには無理に移動するのはリスクの方が大きかった。

 ここなら近くに大きな木もあり雨風も凌げる。



「準備OK ……こんなもんで良いだろう」



 夜露に濡れた木の葉の水玉が月明かりを反射し、うっすらと回りの景色が見える。

 そんな夜だった。


 焚き火で明かりと暖を確保して夜明けを待つことにしたが、しばらくして予想していた別の問題が起こった。木の上にから糸で吊るされた石がカチカチと乾いた音を奏でている。




「……来たな」



 その音で何者かが近づく気配を感じ取り、手帳を取り出し戦闘態勢に入る。

 まずはやたらハッキリした寝言で空腹を主張するティピカの居場所を確認した。



呑気のんきなもんだ。こっちは久しぶりの実戦で必死なんだが。」

「はわゎ。カロおねぇちゃん、もっとおかしだしてよー。にゃむ……」


(もう狙われているな。ま、この状況じゃやるしか無い)



 バリーは何かに対し腹をくくって手帳を見つめると開いたページの文字を読み上げた。



『魔を嫌う免罪符』( アンチマギシルト)!」



 その直後に蒼い光に包まれてゆくバリー達目掛けて少し離れた木の上から無数の炎弾が飛んでくる。

 炎は光の幕に近づくと着弾間近で阻まれ四散していった。



「くそっ! 抵抗レジストされたぞ」



 バリーは炎弾の飛んできた方角を確認し、事前に中指と薬指でで挟んであったページを開き魔法の呪文を読み上げる。



「2人、いや3人いるな……だが、これならっ! 『砂嵐の夜に抱かれて( サンドストーム)』!」



 突如現れた砂嵐は枯れ葉も焚き火の火の粉も巻き上げてバリーを中心に広がってゆく。

 木の上から複数の悲鳴が聞こえたあと、草むらに何かが落ちる音がしてまた静かになった。



「あっけなかったな……」



 とりあえずの危険は去った。

 そう思った傍から、少し離れた茂みの中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「久しぶりだなジェズアルド中佐。甘い、甘い。そんな甘い魔法では俺は倒せんぞ!」



 茂みの葉についた夜露を乱暴に払い飛ばしながらかき分け、軍服の大男が歩いてくる。



「!?……その声はビトー!」



 彼は軍属時代の同期で訓練では常にライバル視されていた。

 バリーは学者として研究に専念する前、豊富な経験と知識で戦闘するタイプだったが、ビトーはそれとは対極的で気合と根性で闘ういわゆる『脳筋タイプ』であった。



「お前がこの山に居ると聞いて妙だと思って追跡してみたら、やはり当たりだったようだな。お前が軍の混乱を企てた内通者だったのか」

「ちがう! 誤解だ! この魔女とは今日偶然ここで出会ったんだ」



 バリーは知っている。この男、ビトーは強い。

 身長も体格も175cmあるバリーよりも一回り大きく半端な魔法ではおそらくビクともしない。

 正面から闘うのは得策ではないと考えたバリーは必死で説得を試みる。



「言い逃れしようとは……お前らしくない。問答無用!」

「まて、話を聞け!」



 脳筋男は聞く耳をもたず、右手の重そうな鉄の篭手( ガントレット)を振り上げるとこちらへ一直線に突っ込んできた。


 その時だった。

 目の前に迫っていた筈のビトーの姿が消え、断末魔のような野太い声が地に響き遠ざかってゆく。



「な!? うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



 月明かりだけでは一瞬何が起こったのか分からなかったが、その方角を見てバリーは思い出した。

 その方角にあの底の見えない巨大な穴があった事を。



「……ドーナツに食べられたのか」


ティピカ「はわ! 今回のティピカは大活躍だったでしょうよー」


バリー「どうでもいいけど、そのはわ! って何だよ」


ティピカ「えぇ!? ハローみなさんこんにちわ! 略でしょうよー。常識でしょうよー」


バリー「意味あったのかよ……」


次回、APPORTS ARCHIVEアポーツアーカイブ

『アマレロと不思議な宝箱』

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