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APPORTS ARCHIVE(アポーツアーカイブ)  作者: イズクラジエイ
第一章 ~暴走魔女は止まらない~
1/12

#00 プロローグ

2017/09/29 新連載始めました。

  ある男の実験と研究の功績により魔法の仕組みが科学的に解明された。


 一度は栄華を極めた銃、車、IT社会。


 科学の発達で便利になったものの、この時代は深刻な燃料と資源不足により物は作れない手に入らない。この後はもう残り少ない資源を奪い合う殺伐とした世界に突入しようとしていた。


 文明社会は衰退するかに見えたが、この発明のおかげで人類はもちなおす事になる。


 量子力学を基軸として、ここロブスタ帝国では魔法が機械によって再現できるようになり一筋の希望となった。


 魔法が再現出来る機械は軍から兵器としての有効性が示され、ロブスタ軍の主導によるその機械を量産化が可能になった。


 その結果――


 あとは多くの政治関係者の懸念も虚しく、増長した軍上層部の思惑により地下資源を奪うため、魔力を溜める石が採掘されるという隣国の魔法国家ラビカ王国との戦争が勃発する。


 戦争でロブスタ帝国軍は敵国の強力な魔導士達を相手にする事になったが、闘う為に訓練された魔導士はさほど多くなかった。

 魔法を誰にでも再現できる新兵器と、それによって底上げされた戦力により物量で押しきり、ロブスタ軍が勝利するのだった。


 国の予算を大量に投入して作られた魔法を再現する機械。それらは火力、電力などのエネルギー問題を一挙に解決し、2年足らずで技術力は大幅に上昇。

 生産コストも下がり急速に一般国民にも普及したのだった。


 この魔法を再現する機械をロブスタ帝国創始者の名をもじり【トランスギア】と呼ばれるようになった。



 軍属の学者であったトランスギア開発者の男は前々からあった上層部への不満が限界に達しロブスタ軍を退役していた。

 軍を抜ければ給料が無くなるのは無論のこと、研究費の資金繰りに苦労することになる。

 綺麗事だけではやりたい事はやれないのは分かっていたが、彼には『生殺与奪せいさつよだつが目的の研究などあってはならない』という譲れない誇りがあった。


 鋭い目に常に少し乱れた黒髪、物がすぐ取り出せるように内ポケットの多い黒コートを愛用する学者。他人に興味が薄く『機械と魔法と文具』をこよなく愛する、そんな人間。

 この物語の主人公であり、後に神の気まぐれに翻弄されることになる。


 彼の名はバリエダ・ジェズアルド。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 ――戦後2年が経った。

 

 鉱石や大量の地下資源も手に入り軍事国家として急激な経済成長を果たしたロブスタ国だったが、その強欲は留まることはなかった。


 さらなる【トランスギア】の発展の為に作られた軍の施設【魔導アーカイブ】全ての魔法を保存、保護、後世まで守る事を理念に掲げ、立ち上げられた組織の名前でもある。


 今日も実験に勤しむ研究員の声が施設内に響く。



「デミタス総統。準備が出来ました。この部屋なら隕石でも降ってこなければ壊れません」



 その声の先にはいかにも冷徹そうな長髪の男がモニタ越しに映った少女を見下ろしている。



「……そうか。やれ」






 各地に点在する軍の研究施設【魔導アーカイブ】

 ここで今、古代魔法【アポーツ】解明に向けて研究を進めていた。


 【アポーツ】とは、術者の元へ望むものを転移する魔法であるが、まだ今現在【トランスギア】による魔法の再現が出来るまでに至ってはいない。仕組みが複雑すぎて解明できていないのだ。


 運や感情、情報のような形のないものも呼び寄せられるのか?

 この世に実在しない物質も出せるのか? 

 一体どのレベルまで要求した物が呼び寄せられるのか。

 謎多き魔法だったが、その再現成功時の利益は計り知れなかった。


 そんな浪漫の為に過去の実験では分析したデータを元に罪人にその魔法【アポーツ】の素養を植え付けてみたり、術者に強制的に魔法を使わせたり、便利な機械発明の裏には非人道的な研究を繰り返す軍の闇があった。



「何としても完璧なアーカイブを作るのだ。俺は先代のような魔導に臆した器の小さい男ではない!」



 デミタス総統の指示により研究員がモニタに映るの少女に向かって通信機ごしに命令する。



「オイ! 聞こえるか? お仕事の時間だ。使え。例の魔法を」



 桃色の外側へはねた短髪に深緑の瞳をした少女が何もない小部屋に閉じ込められていた。


 何処からともなく聞こえてくる声にビクつく少女。

 深く被った飾り気のない緑のフードを後方へ跳ね飛ばし答える。


「はわ! はわぁ! もう嫌だよぉこんなの! お家に帰りたいよぉ」


「……使わないというなら今日もご飯ぬきだぞ」


「はわ!? はわぁ! それも嫌ぁー!」


 隔離された部屋の中の少女は10歳前後くらいに見えるが言動はもう少し幼い。

 ジタバタと必死に抵抗する監禁された少女だったが、ここではいつもの光景だった。



「総統。はわついてきましたね」


「……もう少しだ」



 小さく頷いた研究員がさらに通信機越しに語りかける。



「早くアポーツで魔法結晶を出せ。餓死はしたくなかろう?」



 少し経って半べそ半怒りになりながら床に座り込んでいた少女が立ち上がる。


 少女の深緑の瞳が不思議な光を放ち輝いていた。


 モニタを見ていた数名の研究員は尋常じゃなく緊張していた。計器にかけた手が震えている者も居る。



「うぅ。……わかったよぉ。やればいいんでしょうよ。やれば」


「動くぞ。全てのデータを記録しろ」


「……はい」



 涙を手の甲でこすり取る少女の動きの後、忙しそうに計器をいじっていたその場全員の手が一瞬止まり空気が変わった。


 研究員の一人が異変に気づく。



「おかしい。実験室との通信機能がオフになっていますね」


「!? すぐに調べろ」


「あっ、戻りました。一時的なものだったようです」



 そして、研究員が少女に語りかけようとした瞬間、モニタリングしている部屋には居ないはずの老人のような声が実験室内に響いた。



「ガガっ……あー。あー。聞こえるかの? わしは正義の味方じゃ。今から君を外に出してやろう」


「はわっ!? ホント!?」


「おお、本当だとも。その為に今回は出来るだけ大きな魔法結晶を出してはくれまいか。うーんと大きいやつな」



 突然の部外者による通信機への介入に研究員一同動揺する。



「どういうことだ! 馬鹿な!? 機器の制御が全て乗っ取られているぞ!」



 指揮官であるデミタス総統も予想外の事態に腰深く座っていた椅子から立ち上がる。



(この声は……まさかっ!?)



 続けて通信機から実験室内の少女に語りかける老人の声。老人は少女に言うとおりにしてくれたら晩御飯にデザートとお菓子も付けようと約束する。


 命令ではなく、お願いをするかのような自称正義の味方の物言いに少女は安堵して答えた。



「お菓子!? わかった! 約束だよ!」



 何やら詠唱を始める少女の動きをモニタ越しに凝視するデミタス。いつの間にかドアもロックされていて部屋から出る事すらかなわず、慌てる研究員達。

 何度もこの少女に対し実験をしている筈の研究員達がこれほどまでに慌て怯えることには理由があった。


 少女は恐るべき力を持つ魔女であり、彼女の使う強力な古代魔法は高確率で失敗するのだ。

 過去の実験では部屋の破壊程度はざらで研究員を巻き込んで数人の死者も出している。


 そして、外ではその研究員達の不安の先にある『想像を上回る事態』が起こっていた。



「総統! 制御取り戻しました!」



 施設の機能は回復したものの、この時、表示されるデータを取っていた研究員が青ざめた表情で訴える。



「総統! 上空から何かが凄まじい速度でここへ迫ってきます!……しかも巨大だ」



 別の研究員からも極度の焦りの様相の声で報告が入る。



「……くっ、だめだ! 自動迎撃失敗しました! 無理です! 処理できませんっ!」


「総員退避! 退避ーー!」



 軍事国家であるロブスタの実質的な最高権力者ヘルシング・デミタスは言った。



「ふん。奴は全部わかっててやっている……間に合いやせんよ」



 そう言い残すと逃げようともせず、動じることもなくデミタスは椅子にまた深く座るのであった。










 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










――この後、隕石の衝突によって魔導アーカイブとの連絡は途絶えた。



 分かっていたのは、軍本部への緊急事態エマージェンシー信号が届いた事と、送られた一件の通信記録があった事のみ。












 通信で最後に残されたメッセージは「魔女が一人脱走した」であった。


挿絵(By みてみん)


あとがき

挿絵はヒロインの【ティピカ】のイメージイラストです。

絵も頑張って練習中。

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