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節分の日

作者: 礼生

その日、俺は恵方巻きが大量に入った袋を提げて帰ってきた。いつも食べるものに困ってる俺たちにとってはありがたい話なのだが、それにしても多すぎる。目視できるものを数えても7、8本は入っていた。

手渡してきた本人は赤い目をしながら「これ、もらってくれ...」と袋を俺に押し付けた。「おーありがとう」などは言わない。「仕方ねえな...」と言うにとどまった。ここで礼を言ったら更に恵方巻きが増量されそうな勢いだったのである。ちなみに俺以外にも同じ恵方巻きを貰ってるやつは数人いた。

「ただいま」

まだまだ寒い日は続く。俺は薄暗い廊下の壁を伝って電気をつけた。

部屋に入ると御尋がぶっきらぼうな顔を浮かべながらテレビを眺めていた。振り返らずに「おかえり」と小さく呟く。

さて、この大量の恵方巻きをどう消化したものか。

御尋は少食だから一本食べるだけで精一杯だろう。俺も頑張って三本ぐらいしか食べられる気がしない。

「なあ、もし恵方巻きが沢山あったとしたら何本食べたい」

「一本」

予想通りの答えが返ってきた。その質問で不審に思ったのか御尋がちらっとこちらを振り返る。机に乗せられた大量の恵方巻きを見た途端、顔をしかめ、「うへえ」と謎の言葉を発した。

「いっちゃん。それ全部食べるの...」

「今日の晩飯だ。文句あるか?」

「私、一本までしか食べないよ。それ以上は無理だから」

「じゃあ余った分はどうすんだ」

「いっちゃん全部食べて」

「吐くわ」

こうなったら俺の知り合いに当たって一本ずつおすそ分けするしかない。なんで貰い物を更にシェアせにゃならんのか、自分でもさっぱり分からない。多分馬鹿なんだろう。

「何でそんないっぱい貰ってきたの」

抑揚のない声で静かに説教された。

飯時である。

今年は北北西の方角に向かって食べると縁起がいいとかなんとか。どこの誰か知らない商売人が考えた風習に釣られ、現在でも多くの人が従っている。

食べるときは無言。願いを込めて食べるのだそうな。

静かな怒りは徐々に忘れ去られ、俺と御尋は黙って食べ始めた。

ようやく食べ終えた時、御尋はまだ半分も食べきれてなかった。既に苦しそうである。

「食べてやろうか」

こちらを振り返り、しかめっ面をする。どうやら自分で食べきりたいらしい。

必死に食べてるところ悪いが、俺は二本目に移らせてもらう。

ここからが地獄の始まりだった。



結論から言うと俺は四本、御尋はやっとの思いで一本を食べきり、残り六本が残っていた。食べきれるわけがない。

寝る前に冷蔵庫の中を覗いた御尋が「これ、いつ食べるの」と聞いてきたが俺は無視した。明日持っていってもどうせみんな食べてるだろうし、同じように余らせてるやつらばかりだろう。少しづつ減らしていくしかない。

「そういや豆まきしなかったね。今日節分だよ」

「ああ、そうだな」

「鬼は外。福は内。やりたかったな」

「俺が鬼だ」

そんな風に御尋を襲ったりするのも、今日は胃に詰め込まれた恵方巻きが良い感じに邪魔をして、俺は苦し紛れに電気を消した。

「どうしたの、鬼さん。顔が真っ青よ」

からかってるのか、寝ぼけてるのかは分からない。でもそう言ってから御尋はスヤスヤ眠りだした。

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