9話 元魔王、取り敢えずギルドへ
八百屋で買った多分高級だと思う事にしたボコモという芋を蒸かす為、俺とアロマは厨房を貸してくれないか頼んだんだが、
「ああ、すまねぇえな。今日は勇者様の団体が居るんで貸せる余裕がねぇえんだよ」
と言う事で、まだ午後になったばかりだというのに厨房を借りることが出来なかった。
「クソっ! 勇者共め覚えていろ!」
「カタカタ」
仕方なしに俺達はギルドに行ってみることにした。
――『闇の囁き亭』
の前でだが、俺とアロマは丁度いい感じの紙切れと葉っぱがあったのでそれを使って芋を焼くことにした。
「ふぅ、こんなんでいいかな。アロマ、火種ってあるか?」
「カタカタ」
そういうとアロマは小っちゃな筒状の物を渡してくれた。
「おお!? これって100円ライターじゃねえか!?」
まさかこんな物まで普及されるようになっているなんてな、異世界人の影響なのかねぇ
「よしっ! じゃあ点火!!」
バコっ!!
「点火! じゃない!! なにやっているんですかあなた達は!!」
「ぐへぇ」
突然衝撃を受けたと思ったらそこにはいつもの受付嬢が腕を組んで立っていた。
「退院して今日はもう来ないかと思っていたら……っ!!」
「いや、この一個6Gもしたボコモを焼こうかと思ってな」
「焼こうと思ってじゃない!」
「なんだよ、ちゃんとあんたの分だって用意してるんだぜ」
そういってボコモを見せてやる。
「あ、ありがとうございます。でなくてですね! ギルドの前ですよ此処は!!」
「いや、集めた場所が此処だったからさ。仕方ないじゃん?」
「はあ、私が適当な場所に退かしますんでそこでやってください」
ああ、焼くのは賛成なのね。
「おお、ありがとな」
「あと、私には2個下さい」
「……」
なんて奴だコイツは……でも逆らえない、だって目が笑ってないんだもん!
――――
――
パチパチ
「カタカタ」
「おお、ありがとな」
「カタ?」
「あ、ありがとうございます」
アロマが絶妙なタイミングで取り出した芋はホクホクで中までしっかり火が通っており、受付嬢が持ってきた塩と、芋本来の甘みが何とも口の中で広がって、
「ほ、ほいひぃいです」
「はふ、はふ」
パク
「ん~ん、このボコモ凄い美味しいですね!」
「はふ、モグ、ひょうなのか? んん、たしかサブロウとかいう人が育てた物らしいぞ?」
「さ、サブロウっていったらあのカリスマ農家の51歳現在独身で最近サーフィンに嵌ってて八百屋の売れ残りと仲が急接近してるっていう、あのサブロウさんのことですか!?」
「いや、多分な?」
ていうかいらない情報が多い、カリスマってとこだけで十分だろ!
「そうなるとこのボコモってかなりお得ですよ! 普通サブロウさんシリーズのお野菜は定価10Gですからね」
「そ、そうだったのか」
そうとは知らず騙されたとおもって悪かったな八百屋。
「いやあ、何か悪いですね。あ、それも貰いますね」
パク
「ああ、ああぁ」
こいつマジ遠慮ねえな、三個も食いやがった! 残る芋は二つか……
「おーい、ロッテ! 何処にいるんだー!」
「あ、やば」
ん、どうやらこの受付嬢を誰かが呼んでるのかな?
「今行きまーす!! じゃあ、ありがとね。お詫びに良いクエストを見つけておくから」
「おお、マジか!」
「それじゃあ、後でね!」
そういって受付嬢、多分ロッテかな? は足早に去っていった。
「カタカタ」
「おお、あんがとな」
アロマが残りの芋を回収してポッケに入れた。
「ふむ、生活用品も買わないとな」
「カタカタ」
そんなことを考えながら焚き火の後始末をしていた時だ。
「ああああ!! ここに置いといたあたしのスクロールが無くなってる!!」
ふむ、どうやら盗難があったようだな。
「誰か! ここにあったスクロールの事知っている方はいませんか!?」
可哀そうに、恰好からして異世界の女学生だろうか?
「ううう、なけなしのお金で手に入れたのに……トイレに行っている間になくなるなんて」
まあ、これも社会勉強と思うんだな。此処は魔族領でもあるんだ、平和な異世界とは治安が違うんだよ!
「ママ―」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、幼い子が迷子になっていたんで、みんなで探していたんですよ」
「よかったわねえ」
「うん!」
「カタカタ」
「……」
幼子は仕方ない、別問題だ。
「う、うううう。私これからどうすれば……」
ああ、その気持ちはわかるぜ。
「アロマ、芋を一個」
「カタ」
「おい、嬢ちゃん」
「な、なんですか?」
「この芋でも食べて元気だしな!」
「あ、ありがどうございまず」
「俺も理不尽な理由で最近まで無一文だったんだ。だからあんたの気持ち、よくわかるぜ」
「モグ、うう、ふぉんほに、ありがふぉごふぁいはふ、おいしいよぉお」
なんか段々可哀そうに思えてきたな、
「なあ、良かったら相談に乗るぜ?」
「カタカタ!」
おお、アロマも乗る気みたいだな!
「ううう、あ、あたしぃい――」
――――
――
聞く処によるとこの『本田 ヒロ』という三つ編みの少女は、つい最近異世界召喚に巻き込まれてしまったらしい。
しかも能力が低いという理由で城から追い出されて、命からがらこの魔族領に辿り着いたそうだ。
「そうか、お前もリストラの被害者だったのか……」
「いや、それは違うと思うんですけど……」
しかしこのままではいけないと思い、最後のお金で魔法のスクロールを買って冒険者ギルドに登録しようと思ったところ、お腹が緊張で痛くなって慌ててトイレに駆け込んだらしい。
「で、戻ったら失くなっていた訳か……」
「は、はい」
酷い奴もいたもんだ! 奪われてきたものから更に奪う者がいるなんてな!!
「これぐらいの紙切れみたいなものだったんで、もしかしたら風に飛ばされたのかなぁ」
「……へぇ」
そういって本田が手で表したサイズは何か遂さっき見た気がする、が気のせいだろう。
「カタカタ」
「どうしました?」
「い、いや、何でもない」
そう、いつだって真実は残酷なんだ。誰も幸せになんかなりはしない!
ならば、そんなものは振り切って未来の話をせねば!!
「なあ本田、良かったら一緒に受付までついてやるよ」
「い、いいんですか?」
「ああ、んで俺もまだ冒険者になったばかりだからな。良ければパーティーを組まないか?」
「ああ、有難うございます!!」
本田は周りの目も気にせず深々とお辞儀をした。
「カタカタ!!」
まあ、別に罪悪感とかある訳じゃないんだが、取り敢えずコイツの買ったスクロール分の金までは手伝ってやるか。