68話 自称魔王と古書『ドキドキ! ドリームワールド』 -6-
先に探すのが扉と心なしドヤ顔で言ったゲルオはん。
ちょい腹が立つ。
「……カギを手にしなければ意味がないんじゃないゲルオ君?」
せやせや! ついに頭がボケたんとちゃうか?
「ターリアの言う事はそうなんだがな。でも、カギを手に入れる前に何処に扉があるのか把握しとくのは悪いことじゃないだろ?」
「でも、把握したとこで何が変わるんや?」
「例えばだ、カギをミカレから奪ったとしてもそこから始まるのはソイツとの終わりの見えない鬼ごっこの始まりだろ? ゴールがわからない持久走なんかやってられん」
「あ、確かにそうやな。なんやウチらオカンを倒してから扉を探そうとしてたんやね」
なんやちゃんと考えとったんやね。ゲルオはんの言う事は納得やな。それに扉の位置を把握していればカギを盗んでそこまで逃げればいいだけや。問題はどうやってそれを無傷で行くかなんやけど……
「でも結局はゲルオ君かキララちゃんがやられちゃったら意味がないんじゃない? カギだって位置はずっと変わっていないのよ」
「……ターリア。別に無傷である必要はねえよ。それに俺がキララと一緒に此処から抜け出す必要は元々ねえんだよ」
「?? どういうこと?」
……あ! なるほどそういうことか!
「ゲルオはん、やっぱアンタ中々に頭の切れるお人やね」
「ふっふっふ、ただ戦闘して勝つだけなんかは苦手だがな。こういった後ろ向きな作戦は得意中の得意なんだよ。昔からな」
せやけど、その作戦は普段の世界なら勘弁してほしいとこやけどな。
――――
――
「こりもせずまた来たか」
「いや、来るしかないし」
「ま、前回のアンタの行動は中々に良かったよ。評価を後から上げるような奴ってアタイは嫌いじゃないぜ」
「スタート地点が酷すぎるのがゲルオ君ですからね」
「そんなこと言うと泣いちゃうよ? 俺ないちゃうよ?」
「まぁゲルオはんの事はどうでも良いとしてや。結局この先とはやられたわミカレ」
「……なんのことだい?」
「しらばっくれんでもええで? アンタが最初からこの先に行かせたくなかったん理由もよぉわかったからな」
あれからウチのスキルで扉の探索を行ったところ二つの反応があった。ひとつはターリアはんの扉だけのなんもない空間。これはターリアはん曰くオリジナルのいる場所に繋がっているらしく、扉としての体を為していないとの事。下手に入り込めば帰れない可能性もあり、この世界のルールの適応外である為に非常に危険なんやって。最初のアロマはんの姿ん時はいつ入ろうと言い出すかヒヤヒヤして見ていたらしいな。
んで、問題のもう一つの反応はオカンがずっと行かせないと言っていたこの奥やった。洞窟の他の場所も見てみたけど最終的に一本道になっとるのが此処だけなんも理由の一つやった。
「最初の頃も思えば奥に扉の反応があったんを覚えとる。あんときはどうせこの奥は一本道やから後はカギだけかなんて思っとったけど、どっちにしろアンタがいたんじゃ無理やったやろうな」
「ふん、それじゃあこの世界のルールとはおかしくなってないかい?」
そう、其処が今回のみそでもあったんや。そもそもや……この世界は既に通常運転をしていなかった。
「いや、最初からこの世界はおかしかったんよ。この登場人物の少なさもやし、カギがある時点からアンタに奪われていたのもや」
ウチは最初ん頃はカギを探し出せていた。扉を後回しにしたのはカギが無ければ二度手間になるからや。それがゲルオはんが寝てしまうせいで次からはカギの探索よりゲルオはんが優先になり、その流れのままカギ、扉の順になっただけや。
でも、ここでもし扉を優先していたら気づいてたかもしれん。扉の位置が最初から変わらずにいた事に。そもそも、いっちゃん最初はなんで隠されてなかったんや?
もしかして……いや、そないなことあるはずない。
「ともかくや。カギと扉が近いんはウチらとしてはこれ以上に無いくらいええことって事やね」
ウチはその言葉と共に構えも何もせずにミカレに近づいていく。
「っ!? キララ……」
盗みの基本は相手の懐にどう入るかや。モノを取り出す位置に入れないで対象を取るなんてことは、持ち主だってしない事だろ? そう、幼いウチに教えてくれたんは誰やったかな……
だから、警戒されるのは愚の骨頂。でも、対峙してしまえばそれも無理な話や。なら、いつが一番にスキが出来る? 相手の攻撃を受けた時か? そんなわけがない、逆や。攻撃するとき、それも構えのある相手をじゃない。無防備な相手をやる時が一番だ。
「ふふ、アタイの教えを覚えてたんだな」
「……」
「でも、盗賊の頭に盗みが通じると思っているのかい?」
「……せやな。普通は無理やろなぁ」
そう、普通なら無理や。この無警戒からの盗みは所詮、盗みの素人への話や。でも、そこに普通の人じゃない奴が考えた事が入ったら……
この近づきに警戒してしまうからこそ、おろそかになってしまう。
「やっぱゲルオはんは面白い人やで」
「?? いったい何のはなっ!?」
「よぉ」
一瞬にして距離を縮めて近づいたゲルオはん。すかさずオカンをガシっと抱きしめて動けないようにする。前回なら反射的に攻撃していたんやろけどな。今回はウチに注意がいったせいでそれも出来ずにまんまと捕まりおったみたいやな。
「くっ! またアンタかい! くそ、離しやがれ!!」
「今だキララ!!」
「はいなゲルオはん!!」
「キララがおとりだとは……離せこの……とっと殺して」
手に持ったナイフをゲルオはんの背中に突き刺そうとするが、
「させると思いましたか? 私が」
「い、何時の間に? このっ!! くそっ!?」
それを阻止するためオカンの両腕を捕まえるターリアはん。
ここまでくれば後は楽勝ってもんや!!
無防備になったオカンから難なく銀色のカギを手に入れる。一応ホンモンかどうかもチェックしておく。偽もんを掴ませられてる場合もあるからな。
「……うん、ホンモンみたいやな。カギはいただきや、ミカレ。わるいな」
「うう、ぐぐぐぅぅぅ!! ひ、卑怯だぞ!」
「はん、盗賊が卑怯で何が悪いんや? むしろこういってほしいで、頭がいいってな!」
てか、スリってよりこれじゃあ強盗やけどな。
「どこかの誰かさんが言いそうなセリフねゲルオ君」
「ソイツはきっとイケメンのナイスガイだな」
……ま、今回は突っ込まんといてやるわ。
後はこのまま奥までダッシュして逃げれば――
「……ひひ、確かに盗んだまではいいがな。だがアタイがこれで終わりだと思うんじゃないよぉおおお!!」
オカンはそういって頭を振り乱すとついていた仮面が取れる。その顔は確かに記憶の中にある……ああ、お母さんの顔だった。
「ちっ! この期に及んでいったい何をっ!?」
「ふん!!」
「……えっ!?」
「って!? な、ななっ! 何やってるんですかミカレ!!」
何を血迷ったんか、ブチュ! っと音が出る様な濃厚なキスをお母さんはゲルオはんにしてはった。
いや、マジで何してんねん、何してんねん!
「ゲルオはん!! ウチのオカンに何やってくれてんねん!! おま、マジでいてこますぞわりゃああ!!」
「っぷは! ちょ、え、おい! 俺のせいじゃないだろうが!! てか、え、マジでこれキスとかじゃないからな!」
く、そんなニヨニヨした顔で言われても信じへんで!!
「てか、え? ミカレって俺の事そんなかんじにっ……い……」
「うん? どうしたんゲルオはん?」
「お、お前、いま俺に……なにをのませ……」
「アタイほどの別嬪のキスだからねぇ……駄賃はあんたの命ってとこさ」
「っ!? ど、毒を仕込んだの!?」
「即効性でないのが悔やまれるけどね。だけどこれでまた一からさ。もうあきら――」
「ぐぐっ! き、キララ! 予定通りだ、早くいけぇええ!!」
「っ!? げ、ゲルオはん?」
「……この先に扉はあります。作戦通りお願いしますキララちゃん!」
「死にそうな仲間を置いてくのかいキララ?」
「う、ウチは……ウチはまた……」
ゲルオはんの作戦は確かにそうやった。うまくいかなくても、ゲルオはんとターリアはんが体張って止めている間にウチがこの世界から抜け出す事。そうすれば、その後にゲルオはんが死んでも次からはお母さんのいない世界になって、安全に抜け出せるんじゃないかって話やった。
だから、ここで今のゲルオはんを置いて逃げ出すんはわかる。
頭ではわかっているんや。
でも、いいんかそれで? ウチは見捨てて逃げてしまってええんか?
「い、いや、考えてないでマジでお願いだから行ってくれ。ごほっ……俺の頑張り無駄にしないでくれ……」
「っ!?」
その言葉に、ずっと忘れていた誰かを思い出す。
ウチがまだお母さんみたいにアタイなんて言っていた時の最後の記憶。
ぐずるアタイの頭を撫でて、笑顔で“だから”行っておいでと……
「……お父さん……」
あ……ああ、そうだ。
そうだった。
「……ずっとそうやったんや」
「何がだ?」
「この時からずっとそうやったんや。ウチ、オカン達を見捨てて逃げたんやって思ってた。でもな、今思い出したわ」
「……」
「ウチは……アタイはお父さんに行っておいでって言われたんだ。だから、アタイはここから逃げなきゃいけない。でも、それは身内を見捨てるんじゃない。身内に託されたから逃げるんだ、生きるために」
だって、お父さんはあの時アタイに生きてほしかったから。
そしてそれはきっと……
「……そうかい」
「もう、後ろ向きで逃げるのは辞めや! 堪忍なオカン」
「ふん、さっきも言った気がするけどアンタみたいな喋りの子なんか知らないよ。だから、気にする必要なんかないさキララ」
「……あの、マジでゲルオ君死んじゃいそうだから早くして!」
「おおっと! そんじゃ先に失礼するで!」
見るとゲルオはんはぐったりとしていて既にお母さんに寄りかかっているだけになっていた。こりゃ早くせんとアカンな!
「……ひひ、いい顔になったじゃないかキララ」
「素直じゃないですね、ミカレ」
「ふん……」
全速力で奥の扉に向かう。ウチの敏捷の高さなら一瞬や!
奥までサッと辿り着く。
そして、暗くてずっと見えなかったその扉の全貌が明らかになる。
「はは、なんやこれ。なんやこれは……」
その扉は見覚えがあった。あるに決まっている。だっていつも使っていたんだ、忘れるわけがない。
「何が大事な宝があるだよ……こんなん知ってアタイは……あたいはぁ……」
扉のカギを開けドアノブを握る。
瞬間、ずっと忘れてしまっていたことがビックリするほど溢れてくる。
開けるときはちょっと背伸びしていたこと。顔は怖いけど陽気なおじさん達とお部屋の中でおままごとしたこと。お父さんにご飯だってドア越しに呼ばれたこと。……お母さんまだ帰って来ないかなってドアの前で待っていたこと。
ひどい人たちだったけど、アタイの家族はこの扉の向こうにいたって事。
それが示す様に、ドアにはかわいらしい文字のある名札が掛けられてあった。
「……じゃあね、お母さん」
ドアを開けると真っ白な光に包まれた……
――――――
――――
――
「さて、行ったみたいですね」
「これでアタイの役目は終わりだねぇ」
なんかターリアとミカレが話し合っている。
段々と痛みが増してきて恐ろしい
「ゲルオ君が可哀そうだから寝かせてあげなきゃね」
「痛みが強いけどいけるのか?」
「ええ、だって私は眠りでなく正確には“やすらぎ”を与える魔王ですよ」
そう聞こえるとともに痛みがスッと抜けていく。同時に抗いがたい眠気が襲ってくる。
「……ひひ、最初からアンタが本気だったらアタイは敵わなかっただろうね」
「キララちゃんもこれでもう過去の夢に囚われることはないでしょう。明日からはぐっすりですね」
「……悲しいからな。こっちとしてはよ」
「……」
「じゃ、コイツには世話になったからな。キララを嫁にする権利ぐらいはやるかな」
「何言ってんですか死んでるくせに」
「おまえもな……ま、今のアタイには関係ないかね」
瞼が重い。ダメだ寝るなこりゃ……
「ええ、キララちゃんには悪いですけどお邪魔でしたからね」
「ふん。やっぱアンタ、いけ好かない女だねぇ……」
あと残る不安材料は……
「だってゲルオ君には居て貰わないと困るんで」
魔王ターリアの事だよな。
お読みいただきありがとうございます!<(_ _)>
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