67話 自称魔王と古書『ドキドキ! ドリームワールド』 -5-
大魔王に任命された序列5の魔王『就寝』のターリア
生きとし生ける者に安らぎを与える魔王であり、眠りを司る彼女は『眠り姫』ターリアなんて呼ばれていた時もあった。その力は神の属国をまるごと一つ深い眠りに落とし、一日とかからず攻め落とすほど強力なものだった。そう、彼女の前で生き物は常に眠りという無防備にさらけ出されてしまう。勇者に敗れるまでは対人戦で負けることはなかったと記憶している。
俺にとっては初めて会った魔王であり、その強さに憧れた時もあった。
アロマの姿から本来の姿に戻った彼女は、頭から生えた大きな羊の角に、魔王だというのに優しい目。ダボダボのパジャマみたいな服を着ているが、その体型はダイナマイツで露出が低いくせになんかエロい。羽を出す為に背中の方が大きく開いているのもドキドキするポイントだろうか。
「騙してたのは本当にごめんね。でもゲルオ君がアロマさんだと信じ込んじゃってたからさ、今更言い出しづらかったのよ。ま、夢なんだし怒んないでね?」
そういってペロッと舌を出して手を合わせ謝るターリア。
ああ、こんな人だったな……
「い、いや。怒ってはないさ……」
「そう? でも何だか私のこと思い出すのも嫌そうじゃなかった?」
「……あ、えっと」
「うん」
「…………」
「え? なんやのこの空気?」
「……やっぱり変身したままの方が良かったかな」
「いや、そんなことは……」
ないとはいえない。
ターリアは俺の上司であり、そしてこの魔王城に連れてきてくれた人でもある。ていうか、外でブラブラしていて天使に襲われたところを拾われたというのが正しいか。
だから、まあ、恩人ではあるのだ。
そう、恩人なんだが……正直、合わせる顔がない。
だって俺は……
「まぁ切り替えていきましょう! ゲルオ君!」
「せやで。何があったか知らんけど、この人に今の状況をちゃんと教えてもらうのが先や」
「……そうだな。うん」
ああ、何やってんだ俺は。
それにこれは夢なんだ。昔の事をいつまでも引きずって現実に帰れないなんてのはごめんだ。ごめんなんだが……ああ、何だこのわだかまりみたいなの。マジでちょっとキツイ。
「で、実際なんで正体を明かしたんや? アンタもこの世界が現実でないのは知っとるんやろ?」
「ううん……私は彼女ほど此処に執着していないからね。それにアロマさんの振りしているのが流石に辛くなったのもあるわ」
「それは……アロマに悪いからか?」
「いえ、飽きただけだけど」
あ、そうですか。
「で、でもやな? アンタもその……現実じゃ……」
「死んでるんでしょ?」
「っ!?」
ちょ、ちょちょ! おま、いきなり核心つくなよ!
俺の方の心の準備がついてないんだよ! ちょっとは察してくれよ……
「それぐらいわかります。なんていってもこの世界を作ったのは私のオリジナルだもの」
「そうなんかやっぱり」
「ええ! なんていっても私は大悪魔にして眠り姫ターリアよ! そこらの悪魔とは格が違うんだから!」
「んん? 悪魔? 魔族のことなんか?」
「……ターリアは正真正銘の悪魔だ。俺達魔族とはちょっと違う」
「はえぇ何が違うんや? てか、今の世界って悪魔なんかおらんよ?」
「ちょっとまってね」
そういうとターリアは右手を見えない何かに突っ込んでグシャグシャと音を立て始めた。
「なにしとるん?」
「ちょっと介入中よ……ふむふむ、なるほどね~」
いや、マジで何やってんだよそれ?
よく聞くとなんか悲鳴みたいなものも聞こえる。
不穏すぎるな……
「ゲルオはん、どうゆうことや?」
「うんっと……あれだ。魔族の上位版が悪魔みたいな感じだ。進化先みたいなイメージだな」
ていうか、俺だってそこまで詳しくはわからん。自分がどんな生き物かだって分からんのに、他の種族の事まで説明なんかできるかっての。あんま興味もないしな。
「なるほど……つまりウチたち魔族も悪魔になれるんか!」
「それはちょっと違うわね」
何かを終わらせたらしいターリアは納得したみたいな表情をして話し出す。
「如何やら今の世界には悪魔も神もいつけないみたいね。どんな奇跡を起こしたか知らないけど、どうりで外じゃうまく力が使えないはずだわ。だから多分だけど、今の世界で悪魔に魔族が到達することはないんじゃないかな」
「そっか……ウチも悪魔になったらこうボン! キュ! ボン! みたいになるんと思ったんやけどなぁ」
そういってセクシーポーズを決めるキララ。いや、笑えばいいのか笑っちゃダメなのか微妙なラインのボケは辞めてくんない?
「つーか、悪魔になってもならないからな?」
たしかに、ターリアはそんな体形だけどさ。
「あながちキララちゃんの言う事は間違ってないわよ? 私たち悪魔は物質に寄らない存在だからね。これといった姿は元々ないから」
「そうだったのか!」
だ、騙された。助けられたときは正直その姿に惹かれたってのに!
「な、なんでゲルオ君が驚いてるのよ」
だって俺は魔族だったし、そんな悪魔の事情なんか知らんし。
「ともかく今の世界には悪魔はいないって事でええんか?」
「そうね。一人それっぽいのがいるけれど……ちょっと混じってるのかな?」
ああ、もしかしてアイツの事かな?
「で、そんな事よりね。本題はここからなの」
「本題?」
「キララちゃんの言った通りに、正体を明かした理由はそこを突っ込まれたからだけじゃないわ。このままだとマズイ事態が起きてるからよ」
「マズイ?」
「それってキララのオカンを倒せなくて詰んでる事か?」
「……それもあるけどね。もっとマズいことが起きているの」
「なんだよそれ」
「……ゲルオ君も言ってたでしょ。いくら何でも出てくる人が少ないって。まるで今のこの世界はハリボテみたいじゃない? 中身のない、記憶の中の景色だけの世界」
「せやな。過去の出来事を元に作ってあるにしてもやっぱおかしいで」
「本来のこの世界はちゃんと過去と現実が混ざったみたいな夢の世界でね。本人も今の自分が過去か現実かわからないぐらいに精巧な作りになっていたのよ」
「そうなんか?」
「でないと、此処から出てこれない人たちが多発する事なんかなかったわ」
ああ、そういえばそうだったな。この本は元々それが原因で発禁になったものだったはずだ。だが、その出てこない理由がカギを探せないんじゃなくて、此処から出ていきたくないと思って本人が籠っていたのなら、別の理由になって来る。
「正直いうとね、この本を作ってしまった事は反省してるの。まあ、悪魔としての本分は果たしていたのでしょうけどね」
「後悔してるのか?」
「いや、別に」
「ちゃうんかい!」
「だって、おかげでかなりの人間や魔族や、時には悪魔も取り込んで力にできたからね。おかげで大魔王様に会うまでは負けなしだったのよ?」
あ、大魔王様には負けてたんすね。
じゃなくて、
「じゃあ何を反省してんだよ!」
「うんっと、若気の至り的な?」
「ああ、黒歴史みたいなもんやな」
「そうそう! ゲルオ君が大人になった時ぐらいには自主回収していたくらいだからね! だってタイトルからヤバいでしょ? 『ドキドキ! ドリームワールド』って昔の私のこのノリ、見つける度に嫌な汗かいたわ」
「そのタイトルからしてこの極悪性能な世界だからな。酷すぎる」
二度と元の世界に戻れない遊戯とか勘弁してほしいです。
「まぁその話は置いといてやな。それだけのものだったって事やろ?」
「ええ。でも、今のこの世界はどう?」
「……なんやもぬけの殻みたいな感じやね」
「そうよ。再現できるのが此処までで、もうやっとなの」
「じゃ、じゃあもしかしてこの世界って……」
「崩壊しかけてるのよ」
「マジかよ……」
「ま、千年以上も経ってる代物だからね。むしろそれでもここまでちゃんと機能しているんだから流石は私よね! 千年の時を越えて蘇る眠り姫ターリア様! なんちゃってね」
「蘇ってはないからな?」
あと、今のアンタのノリも十分恥かしいからね?
「ほ、崩壊したらどうなるんや?」
「そりゃ一緒に崩れるわ。当たり前でしょ?」
平然と言うなよそういうことを。
「は、早く逃げなあかんやん!?」
「ええ、だから私も観念して正体をバラしたのよ? あ、そう考えるとこの流れを促した彼女って意外に優しいのかもね」
「た、ターリアはん……」
く、忘れていたな。この人はなんだかんだ言って悪魔だ。存在からして相手の良い方向へ考えることがたしかできないんだったな。案外、何も言いださなければこのまま……本とともに崩れていたかもしれない。
「で、いつ完全に崩れちまうんだ?」
「本の頑張り次第ね。今まで節約して形を何とか保ってきていたけど、持ってこの世界で一週間かな?」
「結構あるじゃねえか」
ちょっとホッとしたぜ。
「いや、持ってやろ? 早くてどうなん?」
「眠りによるリセットは大した事ないんだけど、死んだ場合のリセットは再構成がキツイからね。その場合は3日が限度なんじゃない?」
「マジかよ……」
「死に戻りは3回でアウトってことやなぁ」
「ゲルオ君が死に過ぎなんだよねぇ」
「ゲルオはん、頼むで?」
「あ、ああ」
あんまり無茶出来ねえなこりゃ……
「いやいやっ! ていうかもう死ぬとかそもそも勘弁だから!」
なに俺が死ぬ方向が当然みたいな感じで話してんだよっ!?
「そもそも彼女がこんな暴挙に出なければ、まだまだずぅっとこの世界を続けられたんだけどなぁ」
「うん? ターリア」
「あ、えっと……今のはアレね、平和にって事よ? 私だけだったらちゃんと帰そうと思っていたんだからね」
「せやな。さっきもターリアはんこの世界には執着してないって言ってたもんなぁ」
「うん! そうそう!」
「……」
ターリアは恩人だ。でも、魔族でなく悪魔で、本当の魔王だった。それこそ、俺が憧れた手本のような魔王だった。それは王としての優しさなんてものはなく、魔王としての在り方の話だ。だから、違和感を感じる。
ターリアは確かに身内には優しかった。
今の俺とキララは本当に彼女の身内なんだろうか?
「あ! でも、これでオカンは問題なく倒せるんとちゃうか? 昔とはいえ魔王なんやろ、ゲルオはんと違って強い」
「俺を引き合いに出すなよ? 本人が一番わかってるんだからな?」
「まあ、ゲルオ君が魔王になったことは未だに信じられないけどね。私自身はこの当時の私として此処にいるから違和感はぬぐえないけど、オリジナルにさっき教えてもらったからね」
「オリジナル? さっきからそういやいっとたけど誰やそれ?」
「それってもしかして……」
「さっきも言ったでしょ? この事態の発端はゲルオ君だって」
「あ、ああ。いってたな」
「流石にね、持っただけで発動するほどおバカな本じゃないのよコレ。つまり、例外的に発動したい事が起きたって事よ」
「……俺に反応したのか?」
「ええ、まだ少し残ってるのよ。本としてだけど彼女がこの世界にね。正確にはオリジナルの欠片みたいなものだけどね」
「……」
その彼女が俺をこの世界に呼び寄せたって事なのか?
「でも気にしないでいいわよ? ゲルオ君と本物に何があったか知らないけどさ、私は君に何か特別な感情がある訳じゃないから、ね」
「そうか」
そうなんだろうか。だが、本人がそう言ってるなら俺から言えることはない。
でも、この世界にいるのか……本物が……
「んん? つまりなんや、ウチのせいやないやん!」
「おい、難易度はお前のせいだろうが」
「いやぁ……ゲルオ君が寝すぎたのも問題だと思うけどね」
それは反省してます。
「さて、正体を明かしたわけだし! サクッと終わらせちゃいますかね」
「お、なんやなんや? 何をするんや?」
「ターリアは相手を眠り状態にすることが出来る魔王でな。どんな強敵だろうとアイツの前では無防備なんだよ」
一見大したことないように見えるがその性質は回避不可能な状態異常攻撃みたいなものだ。しかも生き物である以上抗えない強烈な睡魔なんてのは、耐えることが出来ないものの一つではないだろうか? 俺なら無理だ。一瞬で気持ちよく寝かせて貰うだろうな。
「むっふっふ! 私はこれで多くの天使と人間どもを無力化してきたからね! アロマさんの姿じゃ使えなかったけど、これでこの世界も攻略可能よ!」
「あの、ターリアはん」
「うん? なんです」
「寝かせたら一応やけどその……カギ奪うだけでええか?」
「……ええ。倒している暇があるなら扉を探すべきですものね」
「っ! せ、せやね! おおきにな!」
「まあ、お姉さんにドンっと任せて下さいよ!」
そういって大きな胸をドンっと叩いて揺らすターリア。
でも何だろうか、何かを忘れているような……
――――
――
「アタイに状態異常が効くと思ってたのかい?」
「ですよね!」
状態異常対策がしっかりなされてました。
「ええーっ!? スキルってそんなものもあるのっ!?」
当時はなかったもんねそんなの。
「盗賊が寝させられるなんてマヌケな話があると思ったのかい? しかも下っ端ならともかくアタイは頭だよ?」
「せやね。盗賊の頭が、しかも大盗賊なんて言っとる奴が眠りの状態異常にかかるなんてアホな話ある訳ないかぁ」
「ど、どど、どうしましょうゲルオ君! あとはガチで殴り合うぐらいしか私は出来ないんですけど!?」
「おい、俺の中の強いアンタのイメージがどんどん壊れてくんですけど」
返せよ、俺の中のターリアを……
「それよりもミカレっていったか」
「なんだ?」
「お前が知ってるかわからんが、この世界はもう崩壊しかけてるんだとよ」
「……それで?」
「お前の望みはこの世界で生きる事だろ? これ以上俺を殺してみな、お前も道連れだぜ?」
どうよこの自分を人質にする作戦!
なんかターリアが失敗しそうだったから急遽考えたんだが、結構いけんじゃね?
「カギを素直に寄越しな! でなきゃ俺がキララを殺すという方法だってあるんだぜ」
「へぇ中々いい考え方するじゃないかアンタ」
「なんやセリフだけ聞くと完璧にワルモンのセリフやな」
「卑怯過ぎないゲルオ君?」
「賢いと言ってほしいな」
「ひゃはっはっは! アンタ意外と盗賊向きな奴かもな? 現役だったらスカウトしてだろうよ。でも、相手が悪かったねぇ」
「うん?」
「別に殺すだけが能のアタイじゃないよ? 身動きをとらせない様に生かさず殺さずなんてのは得意中の得意でね? そうなりたいのかいアンタ?」
「あ、マジですいません。調子に乗りました」
高速で土下座を放つ。
万が一だが、次に起きた時にそんな状態からスタートになったらと思うと恐怖で頭がイカれるね。
「ださいなぁゲルオはん」
「いや、あんな殺気だけで人を殺しそうなの初めて受けたからつい……」
震えが止まらないです。
「ま、今はまだ勘弁してやるかね」
お、結果的には土下座が効いたようだ。うん、お互い良くない取引だったね今のは。
「それよりキララ」
「な、なんやミカレ」
「そのスキルは飾りなのかい?」
「……う」
「ふん……唯一の武器でも戦えないならもうアンタには……」
「っ!? それはダメだろうが!!」
俺はミカレに伸縮を使ってイッキに詰め寄る!
「なっ!? 死にに来たのかバカが!」
「止めに来たんだよバカが!!」
「っ!?」
反射的に攻撃が繰り出されたのだろう、気が付けば腹にナイフか何かの柄だけが見えていた。
ああ、今回も駄目だったよ。
でもな……
「一発ぐらい貰っとけ!」
「?? な、なにを――」
圧死は初めてだなぁなんて思いながら、俺は咄嗟に投げたいつもの圧縮岩を元に戻した。
――――
――
「見事な死にざまでしたゲルオ様」
「おい、その格好はもうやめろよ」
「えへへ、スタートはこの姿だからついね」
そう言って元の姿に戻るターリア。
「……すまんなゲルオはん」
「うん? 気にすんな、俺から死にに行ったみたいなもんだからな」
あれはさせちゃダメだったしな。どっちにとっても。
「ゲルオはん……」
「マジでそんな顔すんなって! それにさっきのでいい方法を思いついた」
「いい方法?」
「ああ」
まあ、うまくいくかは場所次第だがな。
「ふふ」
「な、なんだよ」
「ゲルオ君、そんな感じになったんですね」
「そんな感じってなんだよ」
「本当に私の知らないゲルオ君なんだなって思っただけよ」
「そうかよ」
くそ……絡みづらいぜ。
「ゲルオはん、それよりいい方法ってなんやの?」
「……戦うなんて俺とお前にゃ無理だ。だったら戦わなきゃいいって話だろ?」
「?? 戦わないのゲルオ君」
「戦わないってかさ、殺し合いなんて俺の得意分野じゃないからな。それは相手のだろ? だったらそれに合わせてやる必要なんかねえだろ。お前の得意分野は何だよキララ」
「ウチは……ウチは逃げてばっかや。それしかできんから」
「じゃあ、それでいいじゃん。そもそも俺もお前も勝利条件を勘違いし始めてたからな」
「勝利条件?」
「ああ、カギだけじゃないだろ?」
そう、カギは二の次でいい。
「先に探すのは扉だ」
「ふーん」
お読みいただきありがとうございます!<(_ _)>
次回もお楽しみにしていただければ幸いです!(*´▽`*)




