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65話 自称魔王と古書『ドキドキ! ドリームワールド』 -3-


 心臓が破裂しそうだ。さっきから頭に響くほどの音を発している。


 そのせいだろうか、思考が鈍る。


 ああ、後ろを向くのが怖い。


「――はん? ゲ――はん!?」


 無機質な声が聞こえる。


「――オ様どう――んです?」


 怖い怖い怖い怖い!


 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!!


「う、うわぁああああああ!!」


 此処からとにかく逃げなければ! 後ろを向いてはダメだ!


「伸縮! 伸縮! 伸縮!!」


 先にある死体と自分の距離を縮めて後ろにいる誰かから全力で逃げる!


「はやく、はやくはやく!! あいつ等から逃げなくちゃ!!」


 そうあいつ等から……


 あいつ等……??


「……はぁはぁ……あいつ等って誰だ?」


 いったい俺は今何を?


 しかも此処は……


「どこだ此処?」


「こんなとこまで来てやがったか……」


「ん?」


 知らない女の声が先から聞こえる。


「こっから先には行かせらんねぇんだ……わりぃけどよ……死んでくれ」


 その声が聞こえたと同時に、視界が高速でグルグルと回る。


「よっわ」


 ガンと頭が何かにぶつかり漸く視界が止まる。

 その視線の先にどこかで見たような服を着た男が倒れていた。


 首のない状態で。


「……キララ……」


 最後にそんな声が聞こえた気がした――



――――

――



「ぁあああああ!!」


「のわっ!? な、なな、なんや!?」


「やっと起きましたね」


「あああ!! あ、ああ……はぁはぁ……」


 く、首!? お、俺のくび!?


「どうしたん? そないに自分の首を触って」


「ついてるよね? 首ちゃんとついてるよね?」


「ついてなきゃ死んでますよ? 何言ってるんです」


「いや、そりゃわかってんだけど……」


 けど、確かにさっき俺は首を刎ねられた気が……


 やばい、いまだに心臓のドキドキが止まらん。


「ゲルオはん」


「なんだ?」


「どこまで覚えとる?」


「あ……えっとお前に行くなって言われた先に行って……そこは血生臭い洞窟で……」


 そこからの記憶が曖昧だ。気が付けば洞窟の中で道もわからなく……


「つまりウチの記憶に足を踏み入れたとこまでは覚えてるんやな」


「あ、ああ」


「あの後な? ゲルオはんえらい怯えて能力つこうてまで奥にいきよったんよ」


「……そこは何となく覚えてる」


「んで、ちょっと経ったらリセットや」


「うう、わりいな」


「ビックリしましたね。ゲルオ様のあの能力にも驚きましたが、本当にまた同じ一日が始まるなんて」


「あれ? アロマもそうなの?」


 てか何ですでに皆さんいるんですかね?


 ふとドアを見るとそこには何もなかった。俺が起きる前に如何やら吹き飛ばしたみたいだ……


 ま、まあいいか、現実ではないんだしな。


「ううん……たぶん前回でこの世界に現れたせいとちゃうかな? その前までは登場する前にリセットされとったし」


「なるほど」


 前回の事で人だった時のアロマは漸く誕生したみたいな感じか?


「でや、ゲルオはん」


「うん?」


「たぶんやけど洞窟んなかで殺されたんとちゃう?」


「……ああ」


 うう、思い出したら気分が……


「うぇ」


 胃、胃が……


「ちょ!? 大丈夫かゲルオはん」


「ま、まあアレだ。夢で良かったわ」


 現実なら死んでたよ。いや、現実ならこんな事にはならんけどさ。


「しっかし死んでもやり直せるとは意外に親切なんだな」


「親切ならそもそもこんな事態にならん気がするんやけど」


「それよりもあのゲルオ様の取り乱しようは異常でした。一体何が?」


「いやな? なんか急に後ろ向くのがドンドン怖くなってきてな……気が付いたら全力でわけもわからないものから逃げてた」


 こう、心の中がなんかグチャグチャになった感じで……


「んでその後に誰かに殺されたんだよ」


「男か?」


「いや、女だな……それに」


「それに?」


「キララ、お前の名前を口ずさんでた気がする」


「っ!?」


「まあ、お前の記憶の話だからな。そう言う奴がいても別段おかしくないっちゃないが」


 出会ってすぐに殺しに来るってヤバくね?


「キララ様? 大丈夫ですか」


「あ、だ、大丈夫や……」


「それにしても理不尽だったぜ」


 なんつうの? こうよくわからん殺しされた感じだな。


「それにしてもキララ様の恐ろしい記憶はゲルオ様とは格が違うようですね」


「確かにな。俺なんかコレだよ?」


 可愛いもんだよな。


「コレだなんて言い方しないでいただけません?」


「てかゲルオはんさっき死ぬ目に遭ったのにもう復活しとるんか……」


「鈍いメンタルなんでしょうきっと」


「悪いことじゃないだろ? そもそも現実じゃないんだしな!」


 あとそこは強いメンタルって言ってよ。


「死んだ感覚は現実なんやけど……」


「てか、キララお前もうちょっとしんどくない人生送れよ」


 俺みたいに。


「な、なんやそれ!! ウチかて普通の人生送れるんなら送っとたわボケぇえ!!」


「今のはゲルオ様が悪いです。ちゃんとごめんなさいしてくださいね」


「え!? 俺だけが悪いの?」


 流れ的に君もじゃないの?


「ほら」


「う、ご、ごめんなさい」


「言葉だけか?」


 あ、えっとその指示は土下座しろという事ですか?


「うん」


 ……味方はいないのか。


「……申し訳ございませんでした!」


 いや、おかしくね?


「それより一からこの周りの部屋をまた探さないといけないんですか?」


 おい、さらっと流すなよ。


 土下座ってさ、やる時より終わった後に立ち上がる時が一番恥かしいよね?


 分かるかなこの感じ。


「せやなぁ……」


「そういやキララは何処スタートなんだ?」


 あの洞窟の中を抜けてきてるんだよな?


 凄くね?


「ああ、ウチは此処に来るだけなら意外と近いねん」


「へぇ……そうなんだ」


「せや」


「……」


 え? おわり?


 どういう状況でとかは言わないんですかねぇ……


「……ま、いっか。ともかくしらみつぶしに探さないとな」


「そうですね。ではキララ様お願いします」


「ああ! 頼むぜキララ!!」


「……あれ? もしかしてウチしか働いてへん?」


 だってお前のスキル便利じゃん。



――――

――



「……ちょい疲れたわ」


「そうか……」


「丁度いいですしそこの部屋で休みますか」


 結局あれからカギは探せていない。どうにもキララの気分が乗ってない感じもある。


 もしかしてまだ怒ってるのかなぁ……


「アロマお茶、ミルクティーな」


「え? なんで私がゲルオ様にそんなことしないといけないんですか?」


「あ、そ、そうだよね」


 しまった……ついいつもの癖で……


「……」


「……」


「……え? 何ですこの沈黙?」


 アロマ、ちょっと空気読んでね? 分からないかな、アレから微妙な感じになってるの?


 俺のせいかもしんないけどさ。


 ああ、けど普段こういう時もカタカタ言ってるなコイツ。案外何時も空気読めてないこと言ってんのかもな……


「ゲルオはん……ウチに言う事ないんか?」


「あ、ああっと……言いたいのか?」


「……言いたかないなぁ」


 ま、思い出したくないことを他人に言いたい奴なんてそうそういないもんだよね?


 自分語り大好きな奴もいるっちゃいるけどよ。


「でもこの先は多分もうないですよ」


「うん? どういう事だアロマ?」


「……せやね」


「キララ?」


「ゲルオ様は忘れているようですが、この廊下はキララ様の記憶への分岐点を除いてぐるりとつながっているんです」


「せや、だからもう少し行ってなかったらウチの場所を探さなアカン……前々回までは最初の一回以外はこっち側やったんやけどなぁ……」


「それは本当なのか? てかアロマはともかくなんでキララが知ってんだ?」


「ウチはマッピングスキルも持ってるからな。せやからここまでくればもう先も見えてくるっつうもんやね」


「そうか……」


「そうなるとキララ様には申し訳ないですが、やっぱりあの先を探索するしかないようですね」


「マジか……」


 うわ、めっちゃ嫌なんですけど?


「ゲルオ様の方がなんで嫌な顔してるんですか? もう……」


「いや、ええんよアロマはん。ふふ、しっかしそういうとこ見るとやっぱあのアロマはんなんやって思うな」


「あら、今の私もこんな感じなんですか?」


「せやね。なんだかんだ言ってゲルオはんのケツ叩いてるで」


「千年経っても変わらないんですねこの人」


「はは! そないな嬉しそうな顔していうても嫌味にならへんで」


「表情を間違えたんです……」


 器用な間違いするね君。


 あと、メッチャなんかハズイ。


「まあ、変わらないことも悪いことじゃないだろ? しかも千年続くこの変わらなさ!!」


 おい、誰か俺に賞をくれ。


「変わらない努力をしていたならですけどね」


「一言多いなぁ」


 してないけどさ……


「はは、ホンマ仲ええなぁ」


「う、ううん! えっと、まあですからキララ様」


「うん?」


「ゲルオ様は千年も変わらない方なんで大丈夫ですよ」


「あ……」


「うん? 褒めてんのか?」


「そう思ったらそう受け取って貰ってもいいです」


 くそ、こっちのアロマは今一つ可愛げがないぜ。


「はは、確かに何をびくついておったんかな……ちょい気が楽になったわ」


「そうですか」


「あんがとな」


「いえいえ」


「せやから……あそこで何があったか話すわ」


「……そっか」


「こんなこと言いたかないんやけどな。ウチの両親はえらい極悪人やったんや」


「極悪人?」


「せや、今でこそ忘れ去られた名やけどな。ま、悪人の家族のよくある話なんかもなぁ――」



 ――ウチの家族は盗賊団みたいなもんでな? まあ、野盗に比べればマシだなんてオトンはいってたけど、他所から見れば変わらん悪党やった。ただ他と違うのは盗賊団の頭がウチのオカンでな。まあ、女頭領ってとこも変わってるんやけど、何よりも違うのはオカンが魔族だったってことや。


 え? 喋り方だと思った? アホかゲルオはんそんな訳ないやろ! ったく、この喋りは家族とは別や。此の話とはあんま関係ないで。


 あ、アロマはん!? そんな思いっきりゲルオはん叩いたらアカンで! てかもう話し進まんやん!! 


 ええか? んでな、ウチがいたとこは人間の大陸でな。やっぱ魔族ってだけでかなり危険視されておったんよ。うん? 実は義賊みたいな集団だったのかって?


 ちゃうちゃう! 子供ながらにエゲツないなぁ思ったほどの悪人どもやで。


 オカンは真の平等主義とかいっておったけど、その判断基準が全部金になるかやからな。子供でも道具にすらならん思ったら容赦なく殺してたで。むしろ死ねただけ楽だったろっていうような人やったからな。


 そんな人達だからやろうな、国を総出でウチのいた盗賊団は討伐されることになったんよ。


 今でもはっきりとあの日の事は覚えてるで。大量の兵士たちが流れ込んでくるのがわかったとこで、オトンが逃げろいうたんや。ウチも幼いながらも自分が見つかればタダで済まんと分かっとったからな。オトンとオカンには悪かったけどわき目も振らずに逃げたんや。盗賊団の頭の娘でしかも半魔の身。捕まってただ殺されるなんてことで済まされるわけないからな。


 薄暗い血の臭いが充満したあの洞窟で息を殺して進んだんや。時には死体に身を潜めて、全身を色んな奴の血で汚しながら、どこまでも自分を隠して、感情を殺して無機質に……


 後ろが怖くて怖くて、逃げて逃げて必死に逃げてな。


 ウチその時に学んだんよ。いくら強い力があってもそれは殺し続けることが出来んと意味ないんやなってな。生きるのに必要なんは逃げる力、これに尽きるんちゃうかなって。


 あの時のウチは神憑ってたで! 思えばあんときから敏捷も異常に高くてな、何故か知らんけど子供ながらにあの日を無事に逃げおおせたってわけよ――



「――ま、こんな事があったせいでな、実は今でもたまにこの夢は見るんよね」


「……そうか」


 うう、思った以上に壮絶じゃねえか……なんて言ってやればいいものか。


「ご両親はその後?」


 あ、あのアロマさん? なんでそういう事聞くかなぁ


「……ウチが最後にあった時の両親は顔だけやった」


「っ!? そう……ですか」


「ま、当然やな! それだけの事やっとった人らやで、だから……」


「キララ?」


「だからこんなんどうとも思ってないわ」


 そういうキララの表情は自分でもよくわかっていない顔をしていた。


「ま、なんでこれから探しに行くとこはかなりヤバいとこやで? 堪忍な?」


「いや、つい最近DMZとかいう地獄のような場所で死体のようなモノは見れ馴れちまったからな。ある程度グロ耐性はついたと思いたいが……」


 肉、当分食えなかったんだよね。


 これはまたベジタリアンな日々が続きそうですねぇ……


「あと、不思議とあの場所にいると動悸が激しくなるんや。ウチの子供の時の精神状態がモロに反映されてんのかもしれん」


「なるほど」


 さっきやけにキララが怖く思えたり、心臓の音が早くなったりしたのはそのせいって事か……


「ホントはそういう事先に言っとけばよかったんやろうけどな……」


「いや、それはまあ……な?」


 しんどいだろやっぱ。


「それよりゲルオ様を殺した相手が気になりますね」


「ああ、スパッと俺の首落とした奴な!」


 痛みすら感じんかったからな。


「多分なんやけどそれウチのオカンかもしれん」


「確かに討伐に来た兵士って感じではなかったな」


 此処から先はみたいなこと言ってたし。


「オカンが徘徊してるんなら事態はちょいヤバいで? ウチの六感が奥には行くなってビンビンに働いてたかんな」


「俺が殺された場所は最奥だったって事か?」


「可能性はあると思うんよ」


「ああ、先にはお宝があるってか?」


「……んで、最悪それがカギだったのかもしれへんな。ゆうても今回が同じような場所にあるとは思えんし、そこは考えんでもええかも知れへんけどね」


「確かカギは毎回別の場所に隠されるんでしたよね?」


「ああ、だから運が良ければ目覚めた場所にあったりするのかなって話なんだが……」


 どうにもキララの話だと難易度がリセットされるたびに上がってるようなんだよな。


 すげぇ嫌な予感がする。


「それでは早速行きますか」


「お、おいアロマ!」


 何故か率先して洞窟方面へ歩き出すアロマ。


「なんですか?」


「あのな、お前が見るに堪えうるレベルじゃないと思うんだよね? だから無理して――」


「何言ってんですか? 私はこう見えても天使や下僕の人間とも戦っていたんですよ?」


「あれ? そうだった……か?」


 ……いや、この当時の俺はアロマが何をしていたか詳しく知らなかったはずだ。


 だからてっきりお嬢様みたいに戦いなんて関わりない生活を送ってたと思っていたんだが?


「あ……ええっと……ともかく! 死体なんか作る側の時もあったんですから大丈夫です」


「……そうか」


 おかしい。なんで俺の知らない部分が補完されているんだ?


「一応残りの部屋見てからにしいひん? 実はここにあったなんてアホらしいしな」


「そ、そうですね!」


「ああ」


 そうだ、ここは過去って訳じゃない。


 それをもうちょっと考えておかないとマズいかもしれないな……


「あ、あのゲルオはん?」


「ん、なんだ」


「ウチ……盗賊の娘やって隠してて……えっと……」


「うん? それがどうしたんだ」


 何が言いたいのかわからん。


「え? あ、ええっと……何かおもわへんの? 悪党の娘やで?」


「なんも」


「な、なんもって……」


「それによ……俺なんて自称魔王だし」


 ついでにこちとらお前が生まれる前から魔王やってたからね?


 盗賊なんかとは格が違うんだよ!!


「あ……」


「お前もしかして……俺が自称魔王って事忘れてたんじゃないだろうな? 失礼な奴だぜ!」


 ふん! どうせ魔王らしくないですよ!!


「いやいや!? そこで怒るんか? もっと違うところで突っ込むとこあるやろ?」


「ふ、ふふふ」


「あ、アロマはん」


「だから大丈夫って言いましたでしょ」





お読みいただきありがとうございます!<(_ _)>

次回も楽しみにして頂ければ幸いです!(*^▽^*)

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