63話 自称魔王と古書『ドキドキ! ドリームワールド』 -1-
目が覚めると自分の部屋だけど自分の部屋でないことに気付いた。
正確には今の自分の部屋でないという事だ。
ああ、これは古い記憶だ。
奥にしまい込んでしまって取り出そうにも諦めてしまった。
そんな古い記憶。
最低限にと用意されたトイレと風呂付の部屋。帰って来てただ寝るばかりの小さな部屋だったが、その当時の俺にとってはありがたかったのを覚えている。
三食部屋付きなんてのが魔族の身分で暮らせるなんて、とてもじゃないが信じられなかった。
そんな時代の話だ。
だが一つ腑に落ちない所がある。
今現在の俺はその部屋にいる訳なんだが……
「おかしいな……」
夢にしてはハッキリし過ぎている気がする。なんていうか何時もの目が覚めた時の気怠い感じがあるのだ。夢の中ですら俺は俺という事なんだろうか? それとも……現実なのか?
「だいたい、寝ているモノもおかしい」
確かあの当時使っていた寝具は毛布が一枚程度だったはずだ。だというのに俺の使っていたモノは紛れもなく今の自分が使っている布団だった。
「……まあ、その内目も覚めるか?」
こういう訳のわからない事態に遭遇した時は、取り敢えず慌てずにいつもの自分でいる事が大事だと思うんだよね。別に怖くて動けないとかじゃない。けどさ、こういう夢って高確率で出歩いた瞬間に悪夢に変わる気がしない?
ドンドオン!
「うおっ!?」
な、なんだ? ドアを叩く音か?
ドンドオン!
ノックにしては激しすぎる……嫌な予感しかしないな。
「いるのはわかってんでゲルオはん!!」
「あら? この声は……」
キララか? 正直もしかしたら布団と一緒にタイムスリップしたのではと思っていたんだが……この現在と昔が混ざった感じは夢で決まりですね。
ドンドオン!
「お願いやゲルオはん! はやくあけてえな!!」
「ふむ……開けたら怖い目に遭いそうだな」
夢と分かった事だし寝ますかね。
「しかし何故にキララ?」
ドンドオン!
「あ、ああ! ちょ、ちょっとゲルオはん! ゲルオはんっ!!」
「んじゃ、おやすみ……」
耳に馴れてくるとこのドアを叩く音もリズミカルでいいものだな。なんて思いながら布団にくるまって寝ることにした。
……ん? けどなんか既視感が……
――――
――
目が覚めると自分の部屋だけど自分の部屋でないことに気付いた。
ん? いやちょっと待て。
この感じさっきもあったな……
「……いやいや、思い返してみれば前もその前も夢の中で寝て此処で起きていないか?」
むむむ……これはアレだな。
無限ループって奴か?
「いや、夢だとしたら夢現ってとこか?」
……ちょっと口に出したら恥ずかしいから今のなしで。
まあ、だとするとそろそろ……
ドンドオン!
「いるのはわかってんでゲルオはん!!」
やっぱりさっきと同じだ。
いや、さっきよりもワンアクション早くなっている。
「キララか?」
「あ、ああ! やっと返事してくれたんやね……おそいわ……」
「ということは……コレは現実なのか?」
「あーえっと、それはともかく説明するからドア開けてくれん?」
「うん? いや、まだ駄目だ」
「なっ!? なんでや!」
「お前が本物のキララかどうかわからない以上危険すぎんだろ?」
ホラーの定番じゃん!
「ゲルオはん……ウチもうこの場所に辿り着くのに何回繰り返したと……」
「?? よくわからんが本人だと証明してほしいな」
「はぁあぁぁ……ま、ええやろ。これでやっと変化が出てきたんやし……」
ドア越しに盛大なため息が聞こえてきたが怖いものは怖いんだよ。夢だけど夢じゃなかったってやっぱ怖いじゃん?
「じゃあ、ウチだと証明できる事聞いてくれへん?」
「ああ……そうだな……」
「……」
「……」
「……あ」
「うん? なんや」
「俺、お前の事そこまで知らんわ」
「ふざけんなや!!」
ドゴンと一際大きい音をさせてドアが軋む。
うん、もう別の意味でもドアを開けるのが怖くなって来たね。
「じゃ、じゃあアレだ。最近俺達でなんかあった事とかでいいからさ。な?」
「……はぁ……ホンマに堪忍してぇなゲルオはん」
「うう、わ、悪かったよ」
「じゃあもうドア開ける前にこうなったいきさつ話すわ。それで信じて貰えるやろ」
「お、おお」
――
――――
始まりはウチとゲルオはんで出掛けることにしたとこからやね。うん? なんでお前とだって? まあ、忘れたのもしゃーないか……ウチたち二人じゃろくなクエスト受けられへんやろ? 戦闘アロマさんに任せっきりってのも悪いやんって話になったんで、二人でギルドに冷やかしに行くってなったんや。
んで、ギルドに行ってみたら魔道具屋の掃除をすればゲルオはんの取り上げられたお小遣いを半分返してくれるっつう話になったんやけど――
――――
――
「ここが魔道具屋ってとこかな」
「みたいやね」
えらい寂れてんなぁ……大丈夫なんかこの店。
「えっと……」
「どないしたんゲルオはん?」
「あ、いやなんか初めてのお店って入りづらくないか?」
「へ?」
何言ってんねやこの人は。まあ、言いたい事は少しわかるけどなぁ
店のつくりはよく見る感じなんやけど看板が薄くなっとって字が読めんくなっとる。外から見えるようなっとるガラスは曇っていて全く先が見えんくなっとる。年月のせいかそれともただ掃除をしとらんせいなんか……
中でも特徴的なんは屋根から地面まで夥しく伸びとる蔦やな。これ、下手したら半分ぐらい蔦で埋もれとんのとちゃうか?
こんなんやと客も寄り付かんやろうな……
「キララ頼む」
「はぁあ? なんでウチが!?」
そもそもこの人の小遣い関係で来たんとちゃうんか? ウチがやったる義理なんかないんやけどな……
「返ってきた小遣いでなんか驕るからさ!」
「わかったで! 言質はもろうたからな!」
「う、うう……」
一応メモしとくか……ゲルオはんから何でも一回驕りと……
「何してんだ?」
「はい。これにハンコしといてな? 頼むで」
「……マジかよ」
ウチはこういう事キッチリしとく偉い人間なんよ。
「そんじゃ……邪魔するで~」
意外と固かったドアノブを回して中に入る。
「…………客か」
奥から声がして見てみるとそこには……醜い顔をしたオーガがいた。
「お、オーガっ!? ま、マズいでゲルオはん! にげなっ!!」
「お、おい!? ど、どうしたキララ?」
「ふん……」
オーガや! アレが人間なはずない!
でっぷりした腹にずんぐりした体。そしてあの見ただけで人を殺しそうな目と突き出た牙。間違いなく人食いのオーガや!!
「たく、何してんだよキララ……て」
「それより化けもんやゲルオはん! はやくにげ――」
「あれ? おっちゃんじゃねえか!」
「おん? ああ! あん時の兄ちゃんじゃないか!」
「――てって、どゆこと?」
――――
――
あの後なんや仲よう話とる二人の話を聞いたところ、この如何にも悪そうでなんか臭そうな感じのオーガは前にゲルオはんが公園で野宿した時に仲良くなった一応れっきとした人間らしい。
というか公園で野宿ってなんやねん!
「それにしてもあれから元気そうで良かったぜ」
「それは俺も思ってたぜ兄ちゃん」
「しかしまさかお店をやってるなんてな……凄いじゃんおっさん」
「いや、俺はただの雇われさ。此処の店長はいま人探しに行っちまってな。その間ここを任されたんだが……」
「ゲルオはん、話とるとこ悪いんやけどウチらの目的忘れたらあかんで?」
「お、そうだったな」
まったくアンタらはその見た目同士で近所のおばはんかっての。
「ん? 客じゃなかったのか?」
「ああ、俺らはギルドに言われてな」
「じゃあ兄ちゃんは冒険者になったのか!」
「ま、フリーターみたいなもんさ」
的を得た意見やね。確かにウチらって何でも屋とまではいかないけど安定した職に就いてるわけでもないしな。
「じゃあ魔道具に詳しいのか?」
「うん? それは――」
ま、こっからは二人に話でもさせとくか。ウチはその間にここらの品でも物色、もとい掃除の為の確認でもしときますかねぇ
そとの外観に比べるとなんや結構綺麗に陳列されとるな。まあ、置いたまま放置されとるだけな感じもあるんやけど……
「これなんか埃が被っとるやないか」
どれもこれも手入れがされとるように見えへん。掃除けっこう大変そうやな……
ん? おお! これなんか良さそうやな……
「ええっ!! ま、マジかよおっちゃん!!」
「ああ、そうなると困ったな……」
なんやまた盛り上がっとるみたいやけどそんな仲いい関係なんか?
「ゲルオはーん! 話もええけど仕事しぃいやぁあ!」
「あ、いやまてキララ。ちょっと話ときたい事……が……」
「うん? どないしたん?」
なんやゲルオはん、ウチを見ると言葉を詰まらせて固まってしまった、。なんよそんなジロジロ見て……
「キララ……お、落ち着いて聞いてくれ」
「はん?」
「お前の手に持っているものを静かに置いてくれ」
「はあ、ウチの持っているモノ?」
そんな事で何を……いって……
「て! な、なな、何やコレはぁあ!!」
う、ウチの手がものごっそ光ってる!!
「兄ちゃんまずいぞ!! あれは夢現の写本っていう魔道具だ!!」
「聞いただけでやなそうなんだけど!?」
「またの名を古書『ドキドキ! ドリームワールド』だ」
そんな顔したおっさんがいう事じゃないでその言葉。
てか、
「だ、大丈夫なんかこれ!?」
「店長に聞いたがそれは手に持った瞬間に発動する厄介なモノでな……取り込まれたら最後、中にある『銀のカギ』を取ってこないと出てこれない昔の遊戯用の本だったらしい」
「夢の中を体験できるって奴かソレ?」
「知ってるのか兄ちゃん?」
「あ、ああ。俺が子供だった時に大流行したんだが戻ってこれない奴が多過ぎて絶版になったんだよ」
「アホか!! なんでそんなもん作ったんや! ていうか、アンタもアンタでなんでそんなもん陳列しとるんや!!」
「仕方ねえだろ! 危なすぎて俺じゃ手に負えなかったんだよ! だからギルドに掃除ついでにコレの処分を頼もうと思って、店だってしばらく休みにしてたんだぞ」
「く……なんやそれ! ロッテはん一言もそないなこといってなかったで!」
「……いつもの連絡不足だキララ。おっちゃんとその話をさっきしてたんだよ。あいつマジふざけんなよ」
「てか、嬢ちゃんもなんで一発でそれ引きやがるんだよ……」
「う、うう」
だ、だってだって! 一番高価そうやったからつい! ウチの目利きが確かめろって聞いて来て……
「兎に角たしか次の発動条件に触れてなきゃ大丈夫だったはずだ。此処に説明書があるからな……うんっと……」
「どうなんだ?」
く、ゲルオはん自分は安全圏にいるからってえらい冷静やないの……
前も思たけどこの人以外に頭は切れるんよな。頼りにしとるでホンマ。
「持った後に名前を呼ばれた人が取り込まれるみたいだな……」
「な、名前!?」
「あれ? 俺とキララはアウトじゃね?」
「ゲルオはん……それ……」
「のわ!? お、俺まで光りはじめてるんですけど!!」
「まあ、落ち着け。ここにちゃんと解除方法も書いてあるからよ」
「なんや、それを早く言ってえな~」
「はあ、何だよ脅かせやがって。で、解除方法は?」
それにしてもゲルオはん自分もだと気付いた瞬間のあの慌てよう……ちょいわろえたな。
ま、これで何とかなるみたいやし焦って損したわ……
「……解除方法は……別冊『ドキドキ! ドリームワールド攻略本』にて記載」
「……」
「……」
「税込み1780G……」
「なんやそれ!! えっ? マジであほなんとちゃう!!」
「ふざけんじゃねえぞコラぁ!! しかも値段高すぎだろうがよ!!」
そこはどうでもええやろ!?
「く、こうなったらアレだ兄ちゃん」
「うん? 何かまだ方法が?」
「銀のカギを探せ! あ、あと中で絶対に寝るなよ? いいか、振りじゃねえからな?」
「……善処はする」
「いやいや!? 異常事態で寝る奴なんかおらんやろ?」
て、言ってる間に光が……
「いいか? 夢現の世界は基本何故か昔の記憶と今が混じった世界だ。しかもスリルを求めるために一番怖かった時の記憶をベースにされる。先ずはお互いを探す事から始めた方がいいぞ」
「な、なんや急に説明しだして?」
「そう説明書に書いてある」
「こ、このくそ――」
――――
――
「とまあ、そんなこんながあったんよ。どや? 思い出しよったか?」
「あ、ああ」
てか、一つ言わせ欲しいんだが……
「お前のせいじゃん!!」
「そ、それは悪かったと思っとるよ? でも、こっち来てからはゲルオはんひどすぎるで?」
「あん?」
「アンタ何回ここで寝たと思っとるん?」
「え、ええっと……」
やべ、思い出せないほどしていた気がする……
「ここな、寝るとヤバいねん。そらお互い合流しろゆうた意味もわかるわ」
「い、いったい何が起きるんだ?」
「……リセットや。最初に戻るんよ」
「は?」
「言ったままの意味や! 起きたとこからハイ、スタート! もうウチがアンタに合うまで何回突然もどされたか……うう」
「だ、だけどそれでも同じ場所に戻るだけなんだから別に――」
「あんな? 外に出てもへんゲルオはんにはわからんと思うけど此処、丁寧に説明書が部屋から出るとおちてんねん」
「おお、まあ元々ゲームだしな」
意外とユーザーフレンドリーなんじゃね?
「そこにな、かいてあんのや」
「なにが?」
「寝ると違う場所にカギは隠されます。使うドアも移動しますってな!!」
「……あ、あの」
「しかも探せたもんもなくなる仕様やし……アンタ無視して頑張ったウチの苦労がわかるか?」
「む、無限ループってこわくね?」
「アンタのせいやで!!」
はい、ごめんなさい。
「あと、もういい加減ドア開けるか外出るかせいっての!!」
やっぱり悪夢だったな……




