61話 ―番外― エルフから見た自称魔王
61話のその後のお話になります
ギルドでいざこざが少しあったけど、その後は特に問題もなく私たちはゲリオン城周辺の森林へ辿り着くことが出来た。
「なあエルフ、先に飯にしないか?」
「カタカタ」
「昼食ですか? うん、いいんじゃないですか」
森に入ってから途中で食べる訳にもいかないしね。意外といい判断しますね。
「よっしゃ! じゃあちょっと用意するな」
ゲルオさんはそういってポッケから袋を出すと玩具のようなサイズのいすや机を出し、次々と元に戻していった。相変わらず出鱈目な能力だと思う。普通は荷物というのは冒険者にとってかなり頭を悩ませることなんだけど……
「ほいっと! あ、今日は運動前にアロマのミルクティーも飲んどきたいな! これも出しちまうか!」
「カタカタ!」
「え、ええ……」
なんか簡易キッチンみたいの迄取り出してきたんですけど? この点においては本当に便利という言葉を越えている気がする。何というか、やっぱり魔王なんだとあらためて思い知らされてしまう。いや、こんな事でしか思い知らせれないのがゲルオさんらしいと言えばらしいけどね。
「カタ」
「うむ! ふぅ……うまい!」
「カタ?」
「あ、ありがとうございます。あれ? いい香り……」
「カタ」
どうやら私にはハーブティーを用意してくれたようだ。正直ゲルオさんの飲んでるミルクティーって激アマで私の舌にあんまり合わなかったから助かる。
「カタカタ」
「今日は何だ! おおう! “はんばっか”じゃないか!」
「カタ」
「ありがとうございます」
アロマさんが用意してくれていた昼食は結構な大きさのハンバーガーだった。ゲルオさんのいう“はんばっか”っていうのはこの地方の人の訛りだったけな? それとも異世界から伝えられる前から魔大陸にはあったりして……まさかね。
「……んん、お、おいしい!?」
ブタと牛のあらびきかな? それにトマトとシャキシャキのレタスが合わさって肉のくどさをスッキリさせている。ソースはなんだろ? 巷にあるケチャップベースでなくてあまじょっぱいソースだ。それが意外なほどにお肉に合っている。
「カタカタ!」
「アロマさんってスケルトンでこんなに何でもうまく料理を作れるって……本当に凄いなぁ……」
私も料理のスキルとった方がいいのかな? なんか今の食事当番ってアロマさんとボンさん、生意気にもモヒカンの三人なのよね。料理している女子がアロマさんだけってマズい気がする。
「……アロマも昔は下手だったんだけどな」
「へ?」
ゲルオさんはなんか何時ものおちゃらけた雰囲気でなく、えらく優しい顔でそう呟いた。
そんな顔するんですね? 意外です。
「カタカタ!」
「おっとっと、すまんアロマ」
「カタ」
「昔ってもまだお前が……ま、いいか」
そういえばあまり考えた事なかったけどこの二人ってどんな関係なんだろうか? いや、主とそのメイドってのは分かるのだけど、こう私の乙女センサーがそれだけでない感じを察知しているというかなんというか。
「……アロマさんって何時からの付き合い何です?」
「うん? ああ、言ってなかったか」
「カタ」
「ううんっと……たしか俺がまだ魔王になる前からだったか?」
「え!? そんな前からの付き合いなんですか?」
あれ? でもそれって魔王になる前からメイド付きだったって事なの? 実はゲルオさんってお坊ちゃんか何か? そう考えればこの世間知らずぶりも……いや、そのわりには小者すぎるからないか。ケチ臭いし。
「おい、何だよその目は?」
「え!? ああ、いや何でもないですよ。ただ魔王の前からメイド付きの人だったのかなって思いまして」
「うん? ああ、ちがうちがう。最初に会った時はアロマもメイドじゃなかったんだよ。だいたい、普通スケルトンがメイドなんかやらないだろ?」
「あ、自覚はしていたんですね」
「カタ」
ううん、つまりゲルオさんとアロマさんはお互いが主従関係になる前から知り合いだったって事なのかな? でも、そう考えると……
「千年以上の付き合いなんですね」
「……一応な。てか、どうしたそんな事聞いてきて」
「いや、やっぱりこうやってお互いの事聞くのが一番仲良くなる方法だと思うんですよね」
「へえ、なるほどそうだったのか……知らんかった」
「知らんかったって……」
ああ、そういえばこの人とかポミアンさんとか自分の過去の事全然しゃべってなかったわね。てっきり何か言えない過去でもあるのかとちょっと勘ぐってしまったけど……
「ううん……てことはガンガン昔の事喋った方がいいってことか? こりゃ帰ったらボンとポミアンに教えてやらないとな!」
「いや、それはどうなんだろう」
うん、違うなコレ。たんにそういうコミュニケーションの仕方を知らなかっただけね。
あと、やっぱりその二人何ですね。たしかにゲルオさん以外といるところあんまり見ないものね。
「カタカ?」
「おう。んじゃ、そろそろ行こうぜ」
「あ、はい」
私はハーブティーの残りを一気に飲むとそれをゲルオさんに渡す。
「途中で水辺があったら洗うとしますかね」
「カタカタ!」
「先頭は私が行きますね」
これでも森の賢者なんていわれる一族なのよね。スキルの加護もばっちり働いているし……鷹の目と千里眼で同じようなこの森林でも迷う事はないだろう。
「おう! 俺はこの手の事はど素人だからな! 頼むぜ」
「仮にも魔王で今は冒険者ですよね?」
「Cランクだがな」
ああ、これは私がしっかりしないと駄目ね。
「だが戦闘は任せな! 俺のこの釣り竿も大活躍するからよ! まあ見てな!」
うわぁ何か殴りたくなる顔ですね。
――――
――
「く、雑魚過ぎて俺の出番がないな……」
「そんな最後尾で何言ってんですか」
出だしの任せろって何だったんだろうか。
「カタ」
あれから数時間。森の中は思った以上に平和で静かなものだった。たまに現れるモンスターも私とアロマさんが居れば何ら問題はなかった。ゲルオさんはなんかブンブン釣り竿振っていたけどあの人ホントに何がしたかったんだろう?
今回は素材集めの必要性も無い為にあまり気にせずに攻撃をできるのも良かった。森の調査自体もゲルオさんの渡されていた紙に、
「行って帰って何もなければ別にいいわ byロッテ」
と一文書かれていただけだったしね。
いや、それもう調査でも何でもないと思うのは私だけだろうか? ゲルオさんがこれ読んで何も思わないのも問題だけどね。
「あっとエルフ! そこの赤い木の下に石碑あるよな?」
「ちょっと待ってくださいね」
言われてみると確かに人工物にしか見えない平たい石が立てに突き刺さっていた。
「ああ、ありましたゲルオさん!」
「えっと……うん、それが折り返しの目印だな! それより先は『マダ山脈』のエリアになっちまう」
「わかりました。じゃあ元来た道を戻って帰りましょうか」
「おう! 山脈エリアの化け物どもなんかと戦いたくないしな」
因みに『マダ山脈』とはこの辺境の街の先にある大陸最大の山々だ。魔王神から自然保護の観点から一応無暗に立ち入らないように言われている。ただ、山脈のモンスターはSランク級の強さのモンスターが跋扈していて並の冒険者では死にに行くようなものといわれている。
「じゃあ行きましょうか!」
「おう!」
「カタ」
一応帰りも神経を研ぎ澄ましていく。こういう時の油断が一番危ないとよく教えられたものだ。
そういえばゲルオさんもちゃんとついてきているわよね?
あの人ステータス低いし体力とか大丈夫なのかな……
ザッザッザ
うん? あれなんか足音が一人だけな気が……まさか!?
「ゲルオさん!」
私は急いで後ろを振り返る!
「おおう!? え、な、なに?」
「……」
「カタ?」
……そこにはアロマさんにおんぶされている情けない自称魔王の姿があった。
「おい? 何だよその目……や、やめろよ……」
「……」
「しょ、しょうがないじゃん! こんな森の中歩くのなんて馴れてないし!」
「……はぁ」
まあ、無理して変な事されるよりはいいかな。
昔のソウタとか無理してよく迷惑かけていたしね。それに比べれば変に意地を張らないでもらうのは正直助かるか……かっこは悪いけどね。
「ゆ、譲らんからな! アロマの背は俺のものだからな!」
「いや、いってないから! ていうかそんなこと言うと余計情けないってわかりません?」
「ふん! 情けないぐらいで楽ができるなら幾らでも情けないことするね俺は」
「カタ」
ドスン!
「ピギャっ!? いってて、な、何するんだよアロマ!」
「カタカタ」
「今のは私もアロマさんに賛成ですね」
「うう、お願いですからおんぶしてくれ……足が痛いんです」
「はぁ……」
「カタカタ」
土下座してまでスケルトンとはいえ女の子におんぶを頼むって……
「本当に何やってんですかアンタ」
「カタ」
「うう、あ、あんがとアロマぁ」
でも、なんでか悪い感じはしないのよね。ううん……今までこういうタイプの人って出会わなかったというか何というか……
「憎めない人ですよね、何故か」
「あん? あ、いってて……し、尻が……」
――――
――
結局ゲルオさんはアロマさんに最後までおんぶさていました。アロマさん、なんとなくうれしそうなのが私にも伝わってきたけど……それってどうなの?
「それにしても何も起きなかったですね?」
実はソーニャが邪魔しに来るとか思っていたけどそんな事なかったわね。
「良いことだ! うん!」
「カタカタ?」
さあ、後はギルドに報告して終わりね!
「街に着いたか……なんか疲れたな……」
「えっ!? 何もしてないよね?」
結局この人ただ森の中を歩いていただけだったんですけど?
しかも途中からずっとおんぶされてるし……
「……」
「……えっと」
「カタ?」
「あ、あのぉアロマさん? もう下していいですよ?」
「カタ」
「え、エルフ? お前からも言ってくれ! 周りの目が! は、恥ずかしすぎる!!」
「私、そんな名前じゃないですし」
「う、うう……りり……うん? えっとなんだっけ?」
「いやいや、あとアだけでしょ!?」
ていうかやっぱり名前覚えてないじゃないですかっ!
お読みいただきありがとうございます!<(_ _)>
ちょっと趣向を変えてエルフ視点にしてみました。
うん、ゲルオ視点でないとひたすらカッコ悪いだけですね彼は……
あ、いつもの事か(´・ω・`)
では、次回も楽しみにして頂ければ幸いです!(*´▽`*)




