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61話 自称魔王とエルフ


 綺麗な体でいる事ってのはなんとも清々しいものだと思う。


 こんな気分は久しぶりだ。


 思えばクランを立ち上げるまでのあの一か月は毎日がこう灰色の景色だっていうかね。でも、そんな日々とはもうおさらばだ! 俺はやり遂げたのだ! 


「俺は借金を完済したぞアロマ!」


「カタカタ!」


 う、ううう……こんなに嬉しいことはない!


 俺はアロマとやんややんやと小躍りしながら喜びを確かめ合う。


「……あの、うるさいんでもう少し静かにして頂けません?」


「おいロッテ! そんな言い方はないだろうがよ!」


「……まあ、たしかに私としても今回のクエストはよくやったと言いたいですけどね。おかげでボーナスも弾んでくれるっていうし」


 ロッテは何時ものやる気のない顔のままニヤニヤする。


「しっかしこれで当分は仕事しなくていいヨネ! ね!」


 なんていってもプラチナ硬貨2枚だぞ2枚!


 額にして2000万Gだ! や、ヤバすぎる……


「あ、そうそう。その事で話があったわゲルオ」


「あん?」


 な、なんだよ……ま、まさかまたなん癖付けて俺の報酬を減らすんじゃないんだろうな?


「そんなに警戒しなくても平気よ。ゲルオからお金を取るとかって話じゃないからね」


「そ、そうか……」


「ただ流石にかなりの大金でしょ? プラチナ硬貨なんて普通は使えないし換金の事も考えてうちのギルドに預けない?」


「うん? どゆこと?」


「はぁ……ゲルオはホントに世間を知らないんですね」


「わ、悪かったな」


 けど俺が悪いんじゃないぞ? 世間が勝手に変わっていくのが悪い。


「こんな一枚1000万もする硬貨取り扱ってる店何てある訳ないでしょ? 金貨1000枚分なのよ?」


「あ、ああなるほどね」


 ボコモだといったい何個分だって話だしな。


「だからここで両替ついでに今必要でない分は預けた方がいいんじゃないのっていう提案ね。どうかしら?」


「ううむ……」


 おっと前回の反省を活かしてここはもう一人のオブザバだっけ? に聞くぜ!


「なあ、どう思うポミアン?」


 俺は一緒に来てくれたポミアンにも意見を聞くことにした。因みにほかの奴らはいろいろ言ってたがようは面倒という事で来てくれなかった。くそ、だから嫌だったんだリーダーなんて……


「え? あ、えとワタクシ?」


「うん。アロマは俺の意見は基本オッケー出しちまうしな。今日ついて来てくれたお前の意見をここは採用したいと思うんだが?」


「そうね。いいんじゃないかしら預けてしまって。それにお金は使えるのがあればガンガンつかう女がうちにはいるから……」


「う、そういやいたな」


 本田とかいう壊れたのが。


「では決まりでよろしいでしょうか?」


「ああ! しっかり頼むぜ!」


「任せておきなさい! こうみえて以外にお金にはうるさいからね!」


「いや、どう見てもお前はお金にうるさいだろ」


「カタ?」




――――

――



 さあ、何ももうやるこたないし後は帰ってごろ寝でもしようかと思った時だ。


「おい待てゲル兄! ちょっと話がある」


「うん? なんだカラ坊?」


 なんか慌てて奥からカラ坊が俺を呼び止めに来た。


「これ、資料だ。来週末にクランの定例会があるからな」


「うげぇ」


 マジか、うわぁ行きたくねぇ……


「とりあえず筆記用具とノートぐらいはもってこい。あと先日のクエストの件だが……」


「おお! 何々、やっぱ仮にも国家クエストだから発表とかされちゃう?」


 まあ、事が事だしな! あ、取材とかされちゃうもしかして!


「あの件は非公開として取り扱う事になった。報酬は支払われたがな……名誉はない」


「え、えっと……マジ?」


「マジだ。事が事なだけにちょっと口外できんのだ」


「……まあしゃあねぇか」


「すまんな」


「いや、別に金は貰ったしな。考えたら名誉とか別にいいわ」


 有名になって忙しくなるのも嫌だしな。


「……そうか。ああ、あと金がいくらあるからって働かない口実にはならんからな。お前が嫌でも世間がお前を必要としているかもしれんのだ……引き籠るなよ?」


「ええぇ……」


 そりゃないよ……何か泣きそう。


「ポミアン殿からも頼む。コイツは一度籠ったら千年は外に出なかった筋金入りだからな」


「わかっていますわ! ワタクシが引きずってでも仕事はさせますわ!」


「勘弁してくれ……」


「アロマさんも協力お願いしますわ!」


「カタカタ!!」


「アレだな。まだゲル兄はクランを立ち上げてから個別に他の奴とは仕事してないんだろ? お金を気にしなくていいんだから軽いクエストでも受けて親睦でも深めたらどうだ?」


「親睦かぁ……」


 いや、そもそも親睦深めるために前回のクエスト受けたんだけどな……あんなことになるとは……


「な、なら早速ワタクシとこの後冒険しません?」


「おい、ならの使い方間違ってるぞ? お前とは一番行ってるからな?」


「そうでしたかしら?」


「ああ、お前とヴォルは断トツの一位だ。次点でボンか?」


 因みに借金の原因もたいがいお前とヴォルだからな?


「アロマさんは?」


「アロマは今回の事で俺もよくわかったんだ。アロマは……」


「あ、アロマさんは?」


「俺のオプションだわ」


「お、オプション?」


「そう、付いてるもんみたいな感じ? だから数に入れません」


「う、うう。ず、ズルいですわアロマさん……」


「カタカタ」


 ていうかなんでコイツは事あるごとに俺と仕事したがるんですかね?


 まあ、いいか……うん。


「まあ毎日にとまでは言わん。オレも鬼ではないからな。あと、あれだ」


 カラ坊はなんかキョドキョドしながら近づいてきた。


「な、なんだよ」


「最近ガッキの帰りが遅くてな。お前の家に行っているのはわかっているんだが……」


「え、そうなのか?」


「あ、ああそうなんだ。だがどうにも途中で見失ってしまってな。ガッキの事だから悪いことはしていないと思うんだが……」


「ああ、つまり心配だから様子を見てほしいと」


「空いてる時間でいいぞ。まあ、たのむ」


「そうだな」


 俺も構ってやらないとな。

 アシモフみたいにガッキがひねくれたら泣くぞ俺。


「うん? ちょっと待て見失うって何だ?」


「じゃ、じゃあわしは仕事があるんでこれで!」


「あ、おいカラ坊!」


 あ、あいつ孫をストーキングしてんじゃないんだろうな?




――――

――



「――ていう訳でだ。これから俺とアロマにプラスワンでクエストに各々ついてきて欲しいんだけどいいか?」


 俺は夕飯時に集まった皆にローテーションで一緒にクエストを受けないかと提案してみた。いや、正確にはさせられたんだけどね、アロマに。


「ハイアイ!! イキマシいきましですよ!!」


 早速来たか問題児その一。


「ヴォルとポミアンはお預けです」


「うう、酷いですわゲルオ」


「えぇえええ! なんでデシカ!」


「いや、お前らといっても損害ばっかだったし」


「そんな事ないですわよ? ねえヴォル」


 問題児その二は自覚がないんだよなぁ何故か。


「そうデシ! むしろこんなに献身的なハイカを置いてくなんて損しかないでシヨ?」


 しょうがない、必殺の呪文を使うか。


「……もう一緒に行かないぞ」


「ヴォル? 聞き分けないのはダメよ? わからない?」


「ああ! ず、ズルイでしよポミアン! ボクちゃんと待てできマシ!!」


 はあ、ただこれって二回目は効果ないんだろうなぁ……


「……えっと、僕も数回は行ったことあるからな。先に皆に譲ろうか」


「ボンわりいな。そうだな、それで行くと男どもは先日で一緒に行ってたしな……そうなると……」


 女性陣へと目を向ける……本田とガッツリ目が合ってしまった。


「え? あたしと行きたいんですかぁ?」


 急いで違うメンツへ目を向ける。


「え? あたしと行きたいんですかぁ?」


「おい追いかけるなよ? お前とは何回か行ってるだろうが」


「ええ、でも実際はあたしってポミアンさんのゴミ掃除とソウタ君の暴走の時ぐらいしか一緒に行ってないですよ?」


 あら? 結構一緒にいるのにそんなもんだったか?


「う、そ、そうじ……」


「ぼ、ぼうそう……」


 なんか勝手にダメージ受けてる子がいるけど、それはどうでも良いとしてだ。


「いやいや、でもまだエルフとかルリとかえっと……」


 あれ? なんかもう一人のネコの名前が思い出せん。


「にゃ?」


「……えっとネコとキララとは行ってないからな!」


「ちょ!? あ、アンタ私の名前覚えてにゃいの!?」


「いや、すまん。あんま関わりなかったから」


「……まあ、そう言われれば仕方ないか」


「そうそう、これからよろしくな!」


「ソウタが一緒ならね」


 うう、ソウタが好きな猫としか覚えてなかったからな。


「……いやいやっ!? だとしてもエルフっておかしいでしょ? なんでこっちの名前までまだ覚えてないのよ? ねえ、なんで?」


「……じゃあ次のクエストはエルフと行くわ」


「え? なんでそんな投げやりにいくことになってるの?」


「はあ、仕方ないですね! じゃああたしは今度にします!」


「ヒロ? そこでそんなこと言って流さないでよ!」


「んだよ。そんなにゲルオに構ってほしかったってか?」


「ちょ、モヒカンは黙っててもらえる? それより何か最近名前で皆私のこと呼ばないよね? なんで?」


「エルフ、きのせい」


「ルリ? 貴方この前まで名前で呼んでたよね?」


「名前、ちょっとかぶるから……」


「リだけだよね!? 何で今更?」


「カタカタカタ」


「う、うんん! アロマさんが何言ってるかわからないけど名前を呼んでないのは何となくわかる!」


「じゃあ、明後日いこうなエルフ」


「……いや、もう行くから名前で呼んでよ」


 だってお前の名前ってエルフが一番しっくりくるんだもん。


「あ、リリアこのさいエルフに改名したら?」


「ヒロ、あとでじっくり話し合いましょう」


「え? あ、はい」




――――

――



「あぁあぁ……」


 昨日はよく寝たな。久しぶりに一日中部屋に籠ってしまった……ベットで過ごす一日は最高でした。


「ゲルオさん起きてます? リリアです」


「カタ」


 アロマが代わりに返事をしてドアを開ける。


「カタカタ」


「あ、おはようございますアロマさん」


「うっすエルフ」


「……はあ、おはようございますゲルオさん。てかなんでまだ着替えてないんです?」


「ああ、大丈夫大丈夫! ササッと着替えれるから」


 俺がそう言っている間にアロマが近づいて来て目にも止まらぬ速さで着替えをさせてくれる。うん、いつみても鮮やかだ! まるで服だけが瞬間移動したみたいな感じだ!


「……え? なんですそれ?」


「うん? 着替えだけど」


「いつもこんな事してたんですか」


「アロマがいるときはな。でも、毎日じゃないぜ? 着替えぐらい一人で出来るもん!」


「着替えに転移魔法でも使ってるの? ま、まさかね……」


「じゃ、行きますか」


「ご飯はどうしますか?」


「アロマが昨日のうちに作ってくれたからな。ホレ」


 俺はエルフの分を渡してやる。


「あ、ありがとうございます」


「ふふ、感謝しろよ!」


「ゲルオさんには言ってませんからね?」


「カタカタ」



――――

――



 道中でアロマが作った俺の好物の一つ“ほっとどぐ”というサンドイッチみたいのを食べる。


「はむ、エルウ、食べにゃいのか?」


「カタ?」


「え? えっと……いいのかしら」


「ゴクン……うん? 何が?」


「あ、えっと……まあ、効率的ではあるか」


 いったい何に気を使ってたんだ? ううむ、若い女の子の思考はわからんな。


「はむ……うん。おいしい」


「アロマってよく味わかんないのに美味いの作れるよな?」


 俺は言いながら最後の一口にと残りをほおばる。


「カタカタ、カタカッタ」


「はむぅ……なるほどな」


「なんて言ってるんです?」


「……ハズいから教えん」


「ええ!?」


 俺が好きな味は全部覚えてるか……


 逆に言うとその味しか再現できないのかもな。


「ペロ……うん、そういえば聞きたかったんですけど」


「あん?」


 エルフは口についていたケチャップを舐めとると眉を寄せて口をとがらせる。


「武器も防具もなんでしないんですか?」


「ぶき? ぼうぐ?」


 何それ美味しいのかな?


「そんな不思議な顔されることじゃないでしょ!?」


「すまんすまん。お前ってからかうと良いツッコミくれるからついね」


「いや、そんなつもり一切ないですから」


 エルフは急に真顔で言ってくる。けどね、そういう返しがいいんだよね君。


「そもそもだな。それって勇者とかがするもんだろ? 俺ら魔王がやっていいの? みたいな感じがあるんよ」


「でもあるとないとじゃ段違いですよ?」


「えっとならさ、もしダンジョンのボスがガチ装備してたらどうよ?」


「ヤバいですね。不思議です、何故か卑怯な感じしますね!」


「だろ? ただでさえ能力を持ってるのにそんなガチ装備してる魔王ってカッコ悪くね?」


「で、でも基本戦う時って魔王は一対多だから……そうも言ってられないんじゃ」


「いやいや、それでも魔王ってのは意地張るもんなんだよ。まあ、俺が言えた義理じゃないけどよ」


 そもそもスキルだって使う気がこう起きないんだよね。腐っても魔王千年やってたからかなぁ……


「でも今は自称魔王じゃないですか」


「うん? ああ、まあけど癖みたいなもんさ。そもそも俺ってステータス低くて大した装備出来ねえしな」


「か、悲しいですね」


「うん」


 装備のステータス制って何とかしてほしいっすわマジで。


 一度見に行ったが耐久Fで筋力Dだと皮の鎧すら危ういからな。だからといって魔導士のローブとかだと魔力通さないとただの服とかいう謎仕様だし。


「……基本的に俺に優しくないんだよなこの世界」


「何言ってんです?」


「独り言」


「カタ?」


 それはそれとしてだ。


「でもそれも今までの話だぜ」


「??」


「一応だが今回、実は武器を持って来てるんだなこれが!!」


「え、えっと……それの事ですか?」


「ああ! 俺の相棒よ!」


 ビシッとエルフの前に突きだしこれ見よがしに掲げる。


「……それ釣り竿じゃないですよね」


「いや、正真正銘の釣り竿ですけど」


「バカなの?」


「ちっちっち! 甘いなエルフ。此の武器がどれほどすごいかわかってないな!」


「ゲルオさん、それしかもお子様用ですよ?」


「だとしてもだ! こいつは先日のクエストであの『停滞』のアシモフに止めを刺した由緒正しいまさに魔王殺しの釣り竿なんだぞ!」


 そういって決めポーズと共にボタンを押す。



『フィィイイシュウゥウウ!!』


チャーチャララン!!



「……あの、恥ずかしいんで」


「……うん、ごめんね」


「あと、殺してませんよね?」


「はい」


 とりあえずギルドが見えたので足早に俺達は中に入っていった。


 周りの目が痛かったからとかそんなことは断じてない。


 断じて……ない……




――――

――




「おっすロッテ」


「あら? 早かったわねゲルオ」


「どうもこんにちはロッテさん」


「ええ、こんにちはリリアさん」


「あ! う、ううありがとうロッテさん」


「うん? え、なんです一体?」


「ああ、気にすんな」


 てかそんなに名前で呼んでほしいんか?


「じゃ、軽い仕事頼むわ」


「そうね、もうゲルオもCランクだしこれなんてどう?」


「うんっと……おい、ふざけんなよ?」


 ロッテに渡されたクエスト票は『辺境の森:新モンスターの生態調査』という如何にもヤバい匂いのするものだった。


「え? だってこれの原因ってゲルオよ?」


「いやいや、だとしてもお前こんな危険そうなの嫌だよ」


 しかもランク見たらAじゃん?


 え、あそこで今何が起きてるの? 怖いんだけど……


「その分いいお金になるわよ?」


「いや、当分金には困んねえから。大丈夫だからな?」


「そう……じゃあ……」


 ロッテはそういうとゴソゴソと自分の机の引き出しを漁りだした。前から思っていたけど君片づけ全然しないよね? 今さっき渡したくれたのもそこらにホッぽいたしそれでいいのか?


「えっと……あったあった! これなんてどう?」


「……ほう」


 次に渡されたのは『ゲリオン城近隣の定期森林調査』というものだった。ランクもCと今の俺に見合っていて特に指定された素材などもなく何とも楽そうなものだった。


「いいじゃん! こういうの待ってたんよ」


「実はヴォルデマールが変換魔獣を放ったせいでこの周辺の生態系が変わったようなんですよ。まあ、大した被害は報告されていないんで危険はないと思いますよ」


「あ、これって競合クエストですか?」


「うん? なんだそれ」


「ええ、幾つかのパーティーに依頼して逸早く成果を上げたところが報酬を頂けるものですね。まあ、そんなにこれ人気ないんであなた方だけですけどね」


「そうなんだ……」


 そういや俺の城周辺ってうまみないんだって聞いたな。経験値も素材も大したことないくせに労力だけは掛かる相手が多いってボンが嘆いてたっけ。


「えっと、報酬もかなり低くて場合によっては出費が多くなる可能性がありますけど……」


「いや、さっきも言った通り金は気にしないからさ。これでいいだろエルフ?」


「そうですね。ゲルオさんと組むのは初めてですしいいんじゃないですか」


「なら決まりだな」


 俺はクエスト票にサインをしてロッテに渡す。


「では受理しますね。しばらくお待ちを」


 ロッテは奥に行って何かしてるみたいだ。


「いい時間になってきちまったか」


「ですね。だいぶギルド内も騒がしくなってきましたし」


 言われてみると確かに……てか、


「なんか多くね?」


「そうですね。魔族の方以外の人が増えたんじゃないですか?」


「ふーん」


 確かに見慣れない奴が多い気がするな。うん? うわ何だあの美形集団!? ピカピカな服着てるしホントに冒険者なのかあいつ等?


 よく見ればどいつも耳が長い。エルフなのかな?


 と思ってたら一際派手な格好の女がこっちに近づいて来た。


「あれ? もしかしてリリア? え、うそ!?」


「……え?」


 えっと……知り合いか?


「うわあ! 久しぶりリリア! 私よ、ソーニャ!」


「そ、ソーニャ? え、何でここに……」


「まさか貴方もこの魔大陸に来てたなんてね!」


「え、ええ……」


 どうにもエルフの方は歯切れが悪い。大丈夫か?


「待たせたわね。これ」


「おう……」


 ロッテの作業が終わったらしく俺はクエストの受領証を受け取る。


「なに? どうしたの?」


「いや、わかんないけど……」


 なんかあんまりいい空気でないのは確かだな。


「異世界人とけものもどきについて行って村を出て行った時はどうなるかと思っていたけど……まさかこんな辺鄙なところで再会するなんて!」


「……悪かったなこんなところで」


 なんかいけ好かないガキだな。


「あら? えっと誰?」


「誰でもいいだろうが、それより行くぞ」


「カタカタ」


「あ、えっと……」


 エルフの奴さっきからなんか顔色悪いしな。此処はとっとと逃げるが勝ちってな。


「ちょっと待ちなさい魔族」


「うん?」


「あ、危ない!」


 いわれて振り返ると目の前の空間が歪に見えた。これってまさか魔法攻撃か!?


「ちょ――」


「シールド!!」


 その瞬間ブワッと風が巻き起こり気付くとエルフが何かを透明なのを張ってくれていた。因みにアロマは俺の前にデンっとたっていた。た、頼もしい……


「どういうことなのリリア? いま無礼を働いたのはこの男よ?」


「……ここは魔族の国よ。そんな事に縛られないでほしいわ」


「そう……あなたもうエルフではないのかしら?」


「……く」


 おいおい、何でこうトラブルが発生すんだよ……


「リリア=エルフィン=リーズベルグ=マカロ=シティスィシィス! 応えなさい! あなたはそれでも誇り高きエルフィン一族なの!!」


「いや、マジで誰だよ?」


 ていうかホントうるさいこいつ。俺は今日アロマとエルフと一緒に仲良くまったりとしようと思ったってのによ!


「外野は黙っていてもらえるかしら? これは私とリリアの問題なのだから」


「あん?」


「というよりもリリアあの異世界人はどうしたの? それに獣擬きもいないし……」


「ソウタとミィをそんな風に言わないで!」


「え? ソウタ達の事だったの?」


 随分と悪意の籠った言い方だったから別人かと思ったわ。


「……しかも今は魔族と一緒なんですの? あら? よく見ればこんな不浄の者とも一緒だなんて……」


 は? こいつ今アロマのこと言ったのか?


「……外に出ても何も変わっていないのね貴方たちは」


「おいおい! うちのアロマを不浄だとゴラァア!」


「カタ?」


 マジ何言ってやがんだコイツはよっ!!


「アロマは全然汚くないぞ! におってみ? マジで甘いいい香りがするんだぞ? 正直そこらの生身の奴らよりきれいだっての!!」


「カ、カタぁ……」


 なんかアロマが目に手を当てていやいやしてるがここは譲れん!


「な、何をいって――」


「そう思うよな皆!」


 俺は今の騒ぎで近寄って来ていたやじ馬たちにそう問いかける。



「あん? おおうゲルオの言う通りだぜ! それにアロマさんはよく俺らにも気をかけてくれるしな! 本当にいいメイドさんだぜ!」


「そうだよ! そこのゲルオとは違ってアロマさんはホントに出来た骨なんだ! この前だってクエスト中怪我をして困っていたら何処からともなくやって来て助けてくれたんだぞ!」


「お、おでははらへって、た、たおれてたらクイモンくれた」


「うむ、わしもアロマ殿にはよく資料の整理や休憩のお茶とかしてくれて助かっているな。まあ、ロッテ達がサボらないでいてくれればそんな事頼まなくていいんだがな……」



 え? なんか予想以上に皆に好感持たれてないか? いつの間にそんなことしていたんだアロマ……あと、カラ坊何させてんだオラ! 俺のメイドだぞ!!


「な、何なんですのこの人達!?」


「そ、ソーニャ様……」


 なんか他のエルフたちもやじ馬共にいびられてる。どうもこの感じだと俺ら以外にも高圧的な態度をしていたみたいだな。


「ふふ、この場は有利だな」


「カタカタ!」


「ソーニャ」


「な、何ですリリア」


「何の用で此処にいるかはわからないけど帰ったら?」


「く、くぅ……わ、わたしは……」


「ソーニャ様、あの方との約束もあります。これ以上荒立てては……」


「うう……し、仕方ないですね。リリア! 次に会ったらちゃんとエルフとして再教育してあげますから! リリアのバァアカ!」


 そういってエルフ軍団は逃げるように去っていき、それをやじ馬たちは追撃の罵声を浴びせて盛り上がっている。てか何だその捨て台詞……


「にしても、こうみると魔王神のチンピラってのは訂正できねぇよなぁ……」


 ガラ悪すぎるだろお前ら。


「んじゃいこうぜエルフ」


「あ……はい!」


 エルフはやたら元気良く返事をしてついて来た。


 え? どうしたの?


「……名前に拘る必要ないですもんね」


「??」


 ああ、若い子の考えはやっぱりわからん。




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