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56話 自称魔王と国家クエスト(三日目) 後編


 なんかおバカなタコ足だったな……


「さあ、行きましょうか」


 中に入ってみるとそこは真っ白な壁と緑色のつるつるした廊下が広がっていた。広がっているんだが……


「……うえ……ひどいな」


「そこかしこに血やら肉片やらが飛び散ってんな」


 廊下にはまるでオブジェのように一定の間隔で生き物の残骸が散乱していた。何より気味が悪いのがそれら肉片がピクピクと動いていることだろうか。


「生きて……いるんだな」


「はい! 彼らがアシモフを残して死ぬことはまずありえませんから!」


「う、うん」


 良かったね……いや、よかねえよなぁ?


 すると意気揚々と前に進むアシモフに反して、後ろからついて来ていたギプスが小声で話しかけてきた。


「ゲルオの感覚はおかしくねえよ」


「そう……だよなぁ」


「死ぬことが無いってのは幸せって事じゃねえ。あんな肉片やらになっても生かされ続けるのがアシモフの兵隊共だ。此処の奴らはな、私は悪いがとっくに……」


「とっくに?」


「……」


 いや、いってくれよ! 怖いじゃん! 気になるじゃん!


「ここら辺に博士が転がっていると思うんですけ――」


「アシモフ!! こっちよこっち!! 早く来なさい!」


「あ、此処にいたんですね」


 どうやら目的の人を発見したみたいだが……


「アシモフ、大丈夫なの?」


「はい? なにがですか?」


「……いいわ。それより、そちらの方ははじめましてね。こんな形で悪いけれどここの管理やらを任されてる博士よ。よろしく」


「ああ、よろしく」


 そう上半身だけで話してきたのは眼鏡をかけた黒髪ポニテールの女の人だった。眼鏡の奥の瞳は鋭く、どこか機嫌の悪そうな印象を受ける。白いシャツと白衣を着ていたのだろうが、血ですっかり赤く染まってしまっていた。そういや、ここで女の人に会うのは初めてだな。


「あ、あんま見ないでよ。中身が見えてて恥ずかしいんだから……」


「あ、はい」


 そんな中身は見たくなかったけどね。


 ……とうぶん肉は食えないなぁ


「よっ! ひっさしぶり博士!」


「ギプス来てたのね。良かったわ……」


 うん? よかった?


「ってそれよりもアンタ」


「うん? 俺」


「ええ、ちょっと質問があるんだけどいい?」


 おお? 何々いきなりどうしたの?


「ま、まあいいっすけど」


「……なぜヴォルデマールに抱っこされてんの?」


「あ……」


 わ、忘れてた……すっかり居心地が良かったというかなんというか……


「アアー! 駄目でシヨそういうこといっちゃ!」


「え? でも気になるじゃない?」


 うう、は、恥ずかしすぎる……初対面の女性に指摘される内容じゃないよね?


「ゲルオ様はここに来るのにすっごい頑張ったんでシヨ! やって来るイカや天使をジャンジャン縮めては潰し! 縮めては潰し! それはもう普段なら情けなく逃げるところをいつもなら絶対みないような頑張りをしてくれたんでシ!!」


 一言、二言余計だろ。


「だからこのまま抱っこしてていいんでシ! 気にしないでほしいデシ!」


「ヴォ、ヴォル……」


 お前、何だかんだ言って俺の事気を使ってくれてんだな。

 方向性はいつも望んでない向きだけど。


「それに……」


「それに?」


「ゲルオ様の体温とかぁ、匂いとかぁ、声とか、あ、汗とか涙とかモウぅうモロモロ色んなのがぎゅっとできるこの抱っことかいう幸せ形態を辞めるつもりは――」


「ふんっ!!」


「――んひゃっ!!」


 もう色々手遅れかもしれんが、それでもこれ以上抱っこされるつもりはいっきになくなったな。


「うう、能力まで使わなくても……」


「近づくなよ? いいな、これ以上近づくんじゃねえぞ?」


「うう……アい……」


「……コントは終わった?」


「いやいや、芸人じゃねえからな?」


「あら、魔王に囲まれてひとりだけ芸人ってのも面白いんじゃない?」


「く、元だが魔王だよ!」


「ふふ、知ってるわよ元序列7の魔王。ま、その話は今度でいっか」


「う、うん」


 ちょっと寂しいね。なんかね……


「博士、とりあえず足になりそうなの持って来て繋げますか?」


「いえ、それよりヴォルデマールがいるのなら変換をしてもらうわ。いい?」


 そう何故か俺にむけて博士は言ってきた。


 まあ、確かにいい判断だな。


「ヴォル、頼むわ」


「アイ! まっかせて下さいデシよ! えっと……そこらの肉で……あ、これ足にできそうデシ……男だから女に変換で…………」


 何故かウキウキ気分でそこらの残骸から足を作り出しているヴォル……


「おうヴォルデマール! もう片っぽはこれでいいか!」


「あっ! いいでしね~それにするデシよ!」


「あとで元の持ち主に返すんですからあんま無理な変換はしないでくださいね?」


「大丈夫よアシモフ。その為にスペアは地下にけっこう作ってるでしょ? このわたしさえいれば何とでもなるんだから!!」


 …………皆凄いね。俺の感覚がおかしいのかな? 違うよね。


「あのぉ……ちょっと寝てていいですかね?」


「ええっと……じゃあそこの部屋で休んでていいですよ。ベットも一応あるんで使ってください。あ、医療用に使うものだけ全部出してもらってていいですか?」


「お、おおう」


「三時間後には起こすんで……ごめんなさい」


「いや、まあいいさ……」


 後の事はみんなに任せてアシモフに指示された部屋の中に入る。


「はぁあ……つっかれたぁ」


 見つけた簡易なベットにバタンとうつ伏せになると急速に睡魔が襲ってきた……


「……このベット……かたいなぁ……」



――――

――



 俺が寝ている間に博士を治すのは勿論、ついでに一緒になっていた数名の兵隊もつなぎ合わせることに成功したようだ。その後、起こされた俺とヴォルで博士の下半身はないか一応探してみたものの、それらしい部位を見つけることは出来なかった。


「はあ、仕方ないわね。でもこの新しい足もなかなかいいんじゃない? お腹も以前より引っ込んだしね」


 そういって博士はチラッと腹を見せてポンッと音を鳴らす。


 いや、もうちょい恥じらいとかないのかよ?


「さてと! 下半身も出来上がって繋げたとこだし、改めて初めまして!」


 そう言って博士は手をサッとこちらに向ける。


「あ、ああ」


 俺はすっかり体が元に戻ったらしい博士と握手を交わす。


「アシモフ」


「はい何です?」


「もういいわよね?」


「っ!?」


「へ?」


「な、何だ?」


「あら? 気づいていなかったの?」


 その一言ともに強引に博士の方に引っ張られた――


「博士っ!! いまだ!!」


 見ればギプスがアシモフや兵隊たちを奥に突き飛ばして瞬時に消えていた。


「ヴォルデマールっ!!」


「アーいっ! ”ろうか”だから壁!!」


 ヴォルを博士が呼んだその瞬間、いきなり目の前に壁が立ちふさがった!


 結果、アシモフと数人の兵士たちは壁の向こう側に取り残される形になってしまった。


「……えっと一体何が?」


「アシモフは敵よ」


「はあ?」


 え? いやあの、えっと……ええっ!?


「やっぱりかよ……あいつが引き起こしたんだな?」


 気が付くと博士の後ろにギプスがいた。


 どうやら気化した後にこっちにやってきたようだった。服はもう着てた。


「ええ、そもそもこの城が襲われたのは内側からだもの」


「……ああ、そういうことか」


「どういう事でシ?」


「あら? 意外と物分かりがいいのアンタ?」


「ま、まあね!」


「そもそも、アンタたちって何しに此処に来たの? 正直、外の者がここに来てるとは思ってなかったから倒れている間は絶望感ハンパなかったんだけど……」


「へ? いや、ここの物資が足りないってので……」


「私らはそれでこの城までの護衛任務で来たってとこだな。ついでに穴の利益を増やしたいってのもあったけんな!」


「物資? 足りてるわよ」


「……マジ?」


「ええ、マジよ。それにガラクタどもから幾らでもいい素材は手に入るもの。欲しいのは食べ物なんかの彼らにとっては嗜好品とかぐらいよ?」


 そ、それじゃ何のために俺はここまで来たんだよ……


「おかしいとは思ったんよ。物資がないってわりにはあの兵隊共はスコップだので普通に戦えてたしな。ま、数で押されるだの言ってはいたけど……死ぬことが無い此処の兵隊はどうやったって有利じゃん」


 ああぁ……たしかにそっからおかしかったのか。


「兵隊共にまともな奴なんて一人もいないわよ? あいつらはとっくの昔に壊れてるからね」


「こわれてる?」


「……死ねないって地獄よ。しかも此処では普通の死に方なんか先ずしないんだから、まあ心が壊れちゃうのも仕方のないってとこね。だいたい、アシモフきゅんなんてマトモな精神してると思う?」


 いや、そりゃどうなんだろか? 俺、普通にミズモに”たん”つけたりするしな……


 アシモフに”きゅん”を付けて呼びたいのもわからんでもない。


「ってお前は平気なのかよ!?」


「わたしは凡百の人間とは違うもの。こう見えて向こうの世界じゃマッドサイエンティストなんて言われていたぐらいなんだからね」


 いや、それはもう狂ってるって事なんじゃ……てか、この人異世界人なのか?


「だいたい、城以外の兵隊共って戦う必要なんてあったの? アシモフがいる限り魔物なんてどうやってもDMZから出れないし、此処の巨大穴以外から出た奴らは数時間もすれば勝手に次元に戻されるのよ?」


「えっ!? なんだよそれ?」


 それじゃあ、そもそもあの化け物どもから逃げればいいってだけなんじゃ――


ドンっ!


「な、なんだ?」


 か、壁がなんかボコってなってるんだけど?


「はかせ? 何させてるんですか? これ、開けて下さいよ」


ドンっ!


ドンっ!


「きいてます?」


 こ、こわい。怒った感じのない喋り方なのが余計に怖い。


「とにかくアシモフを一旦此処に隔離させと――」


ガァアアアン!!


「ああ、壊しちゃった。アシモフのせいじゃないですよ? わかりますよね」


「ええ! そうでありますアシモフきゅん!!」


「全くでありますな! アシモフきゅん!」


「な、ななっ!?」


 一際でかい音と共に壁は粉々に砕けちり、そこから平然とアシモフが此方にやって来た。


「君たちはこれで城内の方達を治していってください。アシモフは用のなくなったこの人達を処分するんで、わかりましたか?」


「……了解であります!!」


ザッザ! ザッザ!


 アシモフがそういうと兵隊たちは奥へと消えて行ってしまった……


「あら? いつの間にそんな怪力になったのかしらね?」


「……こんなとこに居て弱いはずないじゃないですか? バカにしてます?」


「アシモフ、お前……」


「何ですお兄さん?」


「物資の救援ってウソなのか?」


「……ウソじゃないですよ。あるに越した事ないですしね。それに、これだけ余裕があればアシモフの兵隊さんは支援なしに当分戦えますからね!」


 え、いったい何と戦うつもりなんだよ? 異世界の魔物だよね? そうだよね?


「あん? じゃあやっぱ苦戦してるってのはうそだったんか?」


「だからウソは言ってませんって。アシモフの兵隊さんは苦戦してましたしね。あ、アシモフは全然そんな事ないですけどね!」


「そりゃそうよ。そもそも戦う必要ないですもの? 此処の兵隊共ってホントにバカよね。ま、わたしは此処で研究だけできてればよかっただけだけど」


「博士は役に立つのに……治したのは失敗でしたね」


「えっと、つまりは最初から救援も、物資もいらなかったって事なのか?」


「んん? まあ要るか要らないかで言われれば……要りませんね!」


 そう前髪で目は隠れているものの、その声とか頬のえくぼから心底楽しいのが伝わってくる。


 正直、何が楽しいのかさっぱりわかりませんねぇ


「じゃあ何でクエストだしたんだよ?」


「ううん、遊ぶことにしたんですよ……ごっこ遊び」


 そう言うとアシモフは顎に手を当てながら、体の周りに何か小さな玉を幾つも停止し始めた。


 そう、浮いてる感じじゃない。

 こう、何というか気が付けば玉がピタッと宙に止まってるみたいな感じだ。


「外の奴らはズルい。アシモフだって遊びたい。だから、アシモフは退屈しのぎにずぅぅっと前に襲撃ごっこを始めたんです」


「襲撃ごっこ?」


 まさか、あの敵の襲撃だのなんだのってわざとさせてたのか?


「そうです。アシモフは出来るだけ出しゃばらず、兵隊さん達だけで異世界の魔物から陣地を守る! そういう遊び、ゲームですよ」


「あんなに焦ってたりしてたじゃないか? あれは何だったんだ?」


「ああ、ちょっと配分を間違いちゃいました。えへへ、駐屯地はもう少しこらえる予定だったんですけどね。アシモフにも失敗ぐらいありますよ、お兄さん」


「だったら、クエスト何か出さないで自分達だけで――」


「でも、いつも同じ配役の遊びナンテ面白くないでしょ?」


「あ、アシモフ……」


「ちょっと楽しかったです! 冒険者ってこんな感じなのかなぁって……」


「兵隊達は知ってるのか?」


「いいえ。それじゃあリアリティがないじゃないですか! 本気で遊ぶからアシモフが面白いって思えるんですよ? 見ましたよね? あの必死にアシモフのために戦おうとする彼らを! あんなに生き生きとしてました! アシモフはそれが見たくて仕方ないんです! ああ、アシモフは愛されてるんだって確認できるじゃないですか……」


「アシモフ、あんた結構おかしくなっちゃってたのね」


「博士には言われたくないですね。でも、あの無様に逃げ回る姿は中々に愉快だったですよ?」


「見てたのなら助けなさいよね?」


「だから今さっき治したじゃないですか」


 うう、会話を聞いてるだけで頭が痛くなるな……


「あ、一応言っときますけど。アシモフを殺しちゃったら異世界の魔物どもはこの世界に溢れちゃいますからね? そこのところ気を付けて……」


 アシモフはニンマリしながらもかぶりを振る。

 すると隠れていた目がちらりと見えた。


 その瞳は真っ黒で、吸い込まれそうなほどに真っ黒で……


 でも、楽しそうには見えなかった。



「なぁにであそぶ! おにぃいさん!」



「マズい! ギプス、あの浮遊してる玉を気化させて!」


「あん? わからんけどわかった!」


 博士が何かに気付いたようでアシモフの浮かせていた玉を消す様に頼むが……


「一回に指定は一つの種類、種族ですよね。ギブス」


「ヤッベ、なんか違うもんも混じってやが――」


「かいじょ」


「く、ヴォルデマールの後ろに隠れて!」


「アい?」


 俺は博士の言った通りに側にいたヴォルの後ろに隠れると、


「いっだだ! いたた……」


 ひゅんひゅんと風を切る音と共に何かが後ろに通り過ぎて行った。


「ヴォルっ!? だ、大丈夫か?」


「にひ、にひひ……なんか玉が飛んできたデシ」


「頑丈な体ですねヴォルデマール。普通は今ので吹っ飛ぶもんですよ? しかももう体が修復してるし……」


「にひ、アンデットの魔王を舐めないでほしいデシね?」


「一体何が……」


 後ろを見てみると、なんか廊下が小さな穴だらけになっていて、よく見るとさっきまで浮いていた玉がめり込んでいるようだった。もし今のがまともに当たってしまってたと考えると……


「うわぁえげつねえ」


「あーあ、気化したけんど服が穴だらけになっちまったぜ」


 うう、ギプスの姿に大変興味があるがそれどころじゃないよね?


「じゃあ、改めましてお兄さん。序列10の魔王『停滞』のアシモフと遊びましょう? ルールは簡単! アシモフに殺されたらお兄さんたちの敗け! アシモフを殺しちゃったらお兄さんたちの敗け! でも、安心してください! 死ぬ間際にはアシモフの大事なモノとして永遠に死なない体にしてあげますから、ね!!」


 こっちの勝利条件がないんですがそれは良いんですかねぇ……




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