55話 自称魔王と国家クエスト(三日目) 前編
序列10の魔王「停滞」のアシモフが居を構える城『スタング城』
巨大な壁が幾重にも連なっており、その壁の上にドーム型の建物がぽつぽつと点在しているという何とも変わった形をした城だった。近くに来るとその巨大さに呆れてしまうほどで、その中でも奥の方に一際巨大なドームっぽいのが首を伸ばして何とか見える。ただ、なんというか全体的に無機質な感じがするな。色もこう深緑色っていうのかな? そんな感じで地味っちゃ地味だな。うん、ゲリオン城のほうがまだかわいい感じだな! こっちはホント要塞って感じ。
アシモフに先導されて近くにあった壁の通用門から中に案内される。中に入ってもまだまだドーム型の建物までは距離がある様でこれからそこまで行くと思うだけで辟易する。
「しっかし相変わらずでっけえ城だな……ううん?」
「にっひゃ! 前来てた時は入れなかったんでシヨね!」
「さあ、お兄さん! もうここまで来たんで全部出しちゃってください!」
「……」
アシモフはよっぽどうれしいのか口をニンマリさせてそういう。
目が隠れていてそれ以外の情報は読み取れないが……
「わりいけどマジでもう眠いんだわ……」
少しでもいいから休ませてくれよ……
「ううんっと……良かったらアシモフとちょっとした契約します?」
「契約?」
「ええ、少し恥ずかしいんですけど直ぐに済みますし。たいした――」
「アシモフッ!!」
わっ! びっくりしたな? 今の大声はギプスか?
「……なんです?」
「何をしようとしてやがる……それがどういうこった分かってんだろうな?」
「……もう、そんな怒んないで下さいよ。アシモフの優しさなんですよ?」
え? なんでマジ切れしてんだ?
な、なんか不穏な空気になってきたな。
ここはサッサと物資を全部元に戻すことにしてこのクエストも終わらせちゃいますかね!
んで、急いで帰って寝るか! 此処じゃアシモフには悪いが眠れる気がしないっちゃしないしね……
「……じゃ、じゃあ取り敢えず戻すだけもど――」
「待てゲルオ」
「あん?」
どしたのギプス?
「その前にちょっといいか?」
「ギブス?」
「なあ、なーんかおかしくねえんかな?」
ギプスはそういうと辺りを見まわして何かを探るようにしている。
「何がです? それより早く物資を開放しましょうお兄さん! それでこのクエストももう終わりですしね!!」
「え、えっと……」
俺の雇い主って今どっちなんだ?
「ゲルオ、頼むからちょっと聞いてくれ」
「うん?」
なんか見た事ない真剣な表情でギプスは言ってきた。
「それよりだ、今ここに来て不思議に思ったんだけんな……」
「……」
「なあ、なんでここの城……どこも壊れてないんだ?」
あれ? そういえばそうだったっけ?
言われて見れば確かに壁は戦闘の跡らしいものは見受けられず、駐屯地で見たようなくりぬいた穴みたいな破損もなかった。というか、なんかやけに綺麗な感じがするんだよな……
「アシモフの配下が頑張ってくれたんでしょう。逃がしてくれたみんなのおかげです」
「へえそっか……」
「ええ」
……えっとなんだこの空気?
「なあアシモフ? 今回は通常の5倍は物資やら運んできたんだが……」
「はい?」
「ここでサラッと渡しちゃうのんはなぁ……わかんだろ?」
「……穴の利権ですか」
「ひゃひゃ! わかってんじゃんよ!」
「……ギブス……やけに協力的と思ったらお前……」
「なに、アンタんとこの穴から出る素材やらなんやらを今の……うん、私は優しいからな! 5倍ってとこでどうよ!」
「バカですか? 無理に決まってるでしょうそんなの」
「なら、ゲルオが出したもんは全部消し飛ばすだけだな」
「……せめて倍が限度です」
「そっかぁ……倍かぁ……」
うう、見た目は子供同士なのに何この胃が痛くなりそうな光景は……
「ま、じゃあその話は別に良いわ!」
「?? ど、どういうことです?」
「その話を無しにしてやんかんよ……代わりに……」
「……」
「お前、何企んでやがるか言いやがれ。こっちはそれなりの付き合いなんだ、今回のこれが異常事態って事ぐらいわかんだぜ?」
「っ!?」
ギプスはそういうと俺達の前に何故か立って臨戦態勢になった。
「ど、どうしたんだギプス!?」
「ゲルオ、こいつには気を付けろっていったろ。さっきの契約だってマジにヤバかったんだぜ?」
「あ、ああ」
そういや最初に言われたな。てか、契約ってなんだったの?
「万が一ならと思ってここまで来てやった。でも、やっぱ違かったんだなアシモフ」
「……何の事です? それよりお兄さん、はやく物資を渡してくださいよ」
「あ、アシモフ?」
あれ、これってヤバい奴の雰囲気だよね?
声に抑揚が無さ過ぎるんですけど……
「ダメだゲルオ。それをやっちまったらもうお前が此処にいる価値が無くなっちまう」
「へ?」
「どうしたんですホントに?」
「……私はな、これでもホントに救援が必要だったとマジで思ってたんだぜ? だってのにお前よ……一番大きい穴がある此処の被害が少ねえってどういうこった?」
「そんなことないですよ? 中まで入って――」
「じゃあなんで城の前に誰も居ないんだ? ここで戦闘があったなら城の外に誰かがいてもおかしかねえよな?」
「あっ!?」
た、たしかにスルーしてたけど血の跡すら見当たらなかったな……
「そもそもさっきの駐屯地もそうだ。中には血だまりがあったけど外にはなかった」
「……」
「ゲルオ、私らが来て襲われたときマッチョ共はどうしてた?」
「外で戦ってた……」
「だな、なのになーんで室内にしか戦闘の跡がなかったんだ? どう考えたっておかしいだろ?」
言われてみればおかしいな。第一このクエストはアシモフの城に物資を届けるのが目的だったはずだ。なのに来てみれば既に城は陥落してるっていうし……ん、陥落?
「アシモフ、そういや城は陥落したんじゃなかったのか?」
「……そんなこと言ってませんよ? アシモフはあの時ちゃんと動かなくなってグチャグチャになってるだけだって言ったじゃないですか?」
いや、ちょっと待てちがう……そこが変なんじゃない。
なんで城の中の様子まで知ってんだ? さっき逃がしてくれたって言ってたよな?
「もう何なんです? 何も疚しいことなんかないですよ? だから早く物資を開放して反撃に移りましょうよ! その為にギアゴア達が残って時間稼ぎをしたんですよ!」
「……う」
「ギブスのいうとおり穴による素材やらを倍……いや、この際三倍でいいですから。だからお兄さん」
「……」
「はやくその持ってきた物資をここで全部戻してください」
「ダメだゲルオ」
「うう……えと……」
「お兄さん」
「うう……」
ど、どうすれば……
ついついヴォルに助けを求めてしまう。
「アイ? あ、やっちゃいまシカ?」
「……あ、なんでもないです」
「そうでシカ……」
だめだ、コイツにこういった事は頼れん。
「と、とりあえずアレだ? 今すぐじゃなくてさ、助けが必要な人らを治療してからとか……ダメ?」
「…………ふーん」
「………………」
「ゲルオ様……どっちつかずデシネぇ……」
うっせ! なんかアシモフはどうにも怪しい感じだが、だからって此処にいる人らが助けを求めてんのは変わんないだろっての! なあ?
「穴の何だ? 利益だのは二倍って事で取り敢えず約束してさ?」
だ、ダメかなそれで?
「……ま、いっか!」
「……そうですね。ここで全部だしても大変ですし」
「そ、そうか……」
ほらね? こういう時はどっちにもいい顔しとくもんなんだよ!
「それよりもアシモフ、城に博士はいるよな?」
博士?
「あ、えっとたしか……」
アシモフは突然何かを思い出したように持って来ていたカバンをゴソゴソしだす。
「アンテナは……よし、大丈夫ですね!」
「んん? 何やってんだ?」
「ケータイとかいう相手と通信できるアイテムだそうです。アシモフが技術力だけは頼りにしている人とこれで通信できるんですよ」
はえぇ、そんな便利なもんがあるとはな……
「……ま、あいつがいるならまだ大丈夫か」
「……あ、博士ですか?」
『……あ、アシモフなの?』
「いま第一区画にいるんですけど博士はどこに――」
『……おっそいのよ!! いったいどんだけ待たせてんのよ!』
「仕方ないじゃないですか! これでも予想よりかなり早いんですよ?」
『言い訳は良いから早く来なさい! わたしは第一区画の西門A-1に倒れてるから』
「西門ですか……反対側ですね」
『何で西側からきてないのよ? バカなの?』
「仕方ないじゃないですか、最終ラインから最短で来たんですよ?」
『そう……それと外の人はいるんでしょうね?』
「いますよ? それが?」
『……あ、あとわたしの下半身がどっかに吹っ飛んでるから来る途中で見っけたら回収しといてね』
「わかりました」
『おねがいよ?』
「わかってま――」
『ツーツーツー……』
「まったく、言いたい事ばっか言いますねあの人は」
「で、何処に行くんだ?」
「今アシモフたちは第一区画という壁の中にいます。その中で此処は東門方面なんですけど、さっきギブスがいった博士って人が西門にいるんで、そこをまず目指します」
「わかった。ああ、あと襲撃はもう大丈夫なのか?」
正直この中に居ても安全と思えないんだけど……
「異次元の穴には特性があるんです。ちょうどいいんで教えましょうか?」
「あ、えっと難しい内容だったりしない?」
正直興味がないというか何いうか……知ってしまって関わり合いにこれ以上なりたくないって言うか……わかんないこの感じ?
「あひゃひゃ! ゲルオは興味ないとだとよ! ま、私もよう知らんけどな!」
「……はあ、簡単な説明にしますか?」
「ああ! サラッと頼む!」
そんでもってわかりやすく頼むな!
「……うんっと、黒い地面ありましたよね?」
「あ、ああ。あのシミみたいなやつな」
黒いっちゃ黒いがなんか気味が悪いんだよなアレ。
「あれ、全部が穴になって奴らが這い出てきます」
「っ!?」
「まあ、その分直ぐに閉じますけどね。博士はこの事を”エンカウント”って呼んでいました」
「えんかうんと?」
「因みにこの城の中心にはもう閉じなくなった巨大な穴があります」
「閉じなくなった……」
ヤバくね?
「そして奴らはアシモフの能力で最終ラインからしか出れません。それかアシモフを殺すことですかね」
「おいおい、巨大な穴って閉じないんだろ?」
「流石にそのままにしておくほど馬鹿じゃないですよ。幸いにもその穴を塞ぐことは成功しましたからね」
「あん? そういやこん城の穴からいつもなんだ、あの妙ちくりんな機械とかの素材を手にしてんじゃなかったか? 塞いだままだとあんま手に入んないんじゃないんか?」
「塞いだままだとどうなるか……なんとなくわかるでしょ?」
ああ、定期的に排出してるって事なのかな?
「でも、それじゃいくらでもやって来るって事だろ? その話じゃ塞いでるとこ以外から出てきてるみたいだし、それじゃ……」
「大丈夫ですよ。今のところは多くても百体ほどですから、向こうも簡単には来れないって事かもしれませんね」
「今回は穴の排出時にやらかしたのが原因なんか?」
「……まあ、そうですね」
「ふーん」
ううん、でもそうなると益々アシモフが怪しいんだけど?
城を中心にやらかしたならここらの被害とかないのはおかしくないか?
「――っと言ってる間に着きましたね」
そうアシモフが何故か巨大な壁の前で止まってしまった。
「うん? 壁しかないんだが?」
「ここにこうやって……」
アシモフはなんかカードみたいのを差し込む、すると――
ピピピ、ガァアアアア!
「おわあっ!」
変な異音をさせると壁が大きな音をさせて開き始めた。
「今ので認証を完了させたんで次からは出入り自由ですよ!」
「お、おおう」
一度ドアのように開いた壁はなんか自動的に開いたり閉じたりしてる……
うちのゲリオン城の隠し扉よりはまあ、ちょっと凄いんじゃない?
いや、だいぶ……うん、比べ物にならんぐらい……
「あ、けど気を付けて下さい」
「うん?」
「結構な質量何で挟まれると最悪死にますから」
「……えっと、こっちの意志で開け閉めできないんですかね?」
致命的な設計ミスだと思うんですけど?
ていうか壁の部分に赤黒いシミみたいのが……気のせいだよね?
「ああ、中側からなら任意なんですけどね。ほら、外からくるのが必ずしも味方って訳じゃここではないんで」
「あ、そっか……」
さっき黒い地面は穴が現れるだの言ってたもんな。
「下半身なかったデシネ」
「あ、そういや言ってたな」
まあ、見つけたいとは思わんけどな!
「さ、こっちです」
そうして、アシモフ共に中に入ろうとした時だった。
「んんっ!? タコが来ます!!」
「へ? え?」
アシモフがそういった瞬間、今まで何もなかったとこから急に大きなタコ足が扉から伸びてきていた!
「ちっ! 中で待ち構えてやがったのかよ!!」
「こいつがタコ?」
確かに見えてるのはタコ足だ。ただ、イカと同じように吸盤のとことかに大きな目玉が何個もついていた。だけどなんかそれしかない。一本の足しかなかった。
「ええ、こちらはこの足だけなんですよ。でも厄介なのがこいつらは襲いかかる直前まで何も見えないんですよね」
おいおい、どうすんだよコイツ。ていうかこれが中に入ってるマズくね?
「穴の中から這い出てきたのかもしれませんね」
「ど、どうすんだ?」
そうこう話している間にいつの間にか姿が消えていた。
「よぉうし! ここは私がやってやん――」
ギプスが気合を入れた時だった。
ドウゥウンン!!
ブシュゥウぅぅ……
「えっと……」
「……潰れましたね」
「ああ……」
勢いをつけて襲いかかろうとしたんだろう。それが仇となったのか、目の前の自動ドアが閉まるタイミングで綺麗に挟まり、なんか大量の血を出しながら明らかに絶命していた……
てか、内側でも挟まってんじゃねえかよ!!
「ドアさんぱねえ……」
でも、頼もしいのでうちもこれからこいつを採用しようと思いました。




