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54話 自称魔王と国家クエスト(二日目) 後編


 ボンたちと別れた後、襲撃を受けながらも何とか俺達はアシモフの城に向かっていたのだが……


「そろそろ中継地点の駐屯地が見えるとこでしたね……」


「アシモフきゅん! 前方に駐屯地を発見!」


「私がさきにみてくんな!!」


 何かギプスたちが話してるが……それどころじゃない……


「はぁはぁ……もう……つかれた……」


「ゲルオ様! そろそろボクに乗るデシよ~」


「く、俺だってな、俺だって……っ!」


 お前らと違って体力もないんだ! ヴォルに乗っていいなら乗りたいよ!


 でもよ、でもお前よりによって……


「なんで抱っこって選択肢しかないんだよ! 流石に無理だっての!!」


「ええ~だっておんぶとかゲルオ様の顔見えないじゃないデシか!」


「く、百歩譲ってお姫様抱っこはダメか?」


「ダメでし。それはしてもらいたいんであってしたくはないデシ!!」


「おのれぇ……」


「まあまあ、ちょうど城までの中継地点の駐屯地に辿り着いたんで。そこで少しだけ休みましょうお兄さん!」


「あ、アシモフ……」


 お、お前はええこやねぇ……


「時間は少し遅れてしまいますがよろしいのですか?」


「ギアゴア、それでお兄さんが奴らに殺されたら意味がないですから。それにそろそろギプスの回数が気になります……」


「回数?」


「あれ? 聞いていないんですか」


「ギプスたんの三態能力は強力です! ですがその分一日の回数制限がありまして、ご自身に使う分には無制限として相手には制限が掛かっているのです!」


「そ、そうだったのか……」


 てか、ギプスは“たん”なんだな……要らん情報がまた一つ手に入った。


「この駐屯地にもアシモフの部下がいっぱいいるはずなんですが……」


「おーい! やっべえぞアシモフ!」


「ですよね……」


 先に行って様子を見に行ったギプスが戻ってきたようだ。


「たてもんはけっこう無事だな! でも中の奴らは……」


「動けないだけで動いてはいますか?」


 ん? どういう意味だ?


「ああ、でもありゃ分けるのに時間がかかりそうだな」


「お相手さんも学習しているんですかね……」


「えっと……どういう事?」


「お兄さん、とりあえず見てくれればわかると思います」


「そ、そう……」


「しっかし、あの異世界のガキは連れてこなくて正解だったな! ひゃひゃ!」


 ああ、なんか凄い嫌な予感がするな。


 駐屯地は簡易な作りの建物が三つあり、そのどれもが天井がくりぬかれたような穴が開いてしまっていた。不思議なのが室内は瓦礫が一切ないのと、大量の血の跡はあるものの死体が見当たらない事だった。


「ちょっとグロイ光景を想像してたがよか――」


ずるっ


「な、なんだ?」


 今なんか横の方で音が……


「アアアああしもふふふきゅん! ごごびじででししぃたぁか!!」


「ひっ!」


 な、な……なんだこり……


「皆さん、消滅は免れたんですね! 良かったです!」


「うむ! よく残ったな同志達よ!!」


「にゃはぁ……なんかレギオンシティを思い出しマシね……」


 その声の様なものを発しているのは肉の塊のようなものだった。部屋の隅に壁のように引っ付いていてえっとその……あ、ごめんこれ以上説明したくないです。


「引っ付いてない口だけで喋って貰っていいですか?」


「じゃ、じゃあオレが喋るっス!」


「はい、えっと君はルゥ君かな?」


 わかるのかよその状態で……


「うっす! アシモフきゅん!」


「いいいなぁああう」


「俺おれもぉしゃしゃべりたたかったななぁ」


 怖い、ホントに怖いよこの光景……


「ゲルオ大丈夫か?」


「だいじょばない……ていうか説明してくれ!」


 あまりの事態に気がおかしくなりそうだよ!


「あ、ああ! アシモフの能力でな。アイツって色んな機能を停滞させることができんだ」


「ああ、そういや剣の機能をどうたら言ってたな」


 あれは多分だけど剣そのものではなくて、剣がダメージを与える機能を停止してるって奴だったな。


「そうだな! でだ、それが例えばスキルを発動するという機能を停滞させると……」


「スキルが使えないな」


 発動自体が停滞……停まって次の行動が滞るって事なんかな?


「うん、じゃあ今度は火が起こるってのを停滞させると?」


「火が起こらない……」


 ん? いやいや、そんなわけ……


「じゃあ、死ぬことを停滞させっと……どうなんよ?」


「死が……起こらないのか?」


 死が起こらないって変な言い回しな気もするけど……イメージは出来るな。


「つまりアンデットでもないのに死ぬことのない兵士をアシモフは所有してんのさ! だからこそっ! この場所を奴は任されてる!」


 なるほどな……それでアシモフが死なない限り大丈夫って事か。


「ズルい能力だな」


「ひゃひゃ! お前が言うなよゲルオ」


 お前もな?


「アンデットのほぉが安上がりでいいと思うデシけどねぇ」


「それは異論を言いたいですねヴォルデマール」


「ええ? 何でデシ」


「アンデットは基本バカじゃないですか。本能に従ってばかりでヴォルデマールほどの実力者でない限り信用できませんからね……」


 ああ、まあ一理あるな。ゴーストは意思疎通が不可能で支離滅裂だし、ゾンビとかホントにいう事聞かないからな!


「な、何デシかゲルオ様?」


「いや、何でもない。てかスケルトン族なんてどうだ? 従順でコスパもいいぞ?」


「うーん、確かにお兄さんの言う通りですけど……あのガラクタ、アンデットには滅法強いんですよね……」


 あ、ああそうか……天使だもんなあいつ等って……


「でもボクは全然平気でシヨ?」


「陽の光どころか光魔法すら受け流す化け物はちょっと例外なんですけど……」


「アい?」


 うん、まあ腐っても元序列3の魔王だもんな。


 いや、中身も外身も腐ってるけどさ……


「ああ、あとお兄さん」


「うん?」


「物資の中から回復薬とテープ、ワイヤーを元に戻してくれます?」


「ああ、いいけど何に……」


 するとマッチョが一歩前に出てきた。


「今から自分がワイヤーでくっついた肉をバラバラにしてテープで組み立てます! その後、回復薬にてHPだけでも回復して筋力だけで動いて貰うようにしますのです!」


「……そうですか」


 図画工作かな?


「けっこう耐性ないとキツイんでお兄さんは隣の建物で休んでていいですよ」


「えっと……隣の建物には……」


 いないよね? その肉の壁さんは……


「ああ! 大丈夫ですよ、此の肉壁に駐屯所の全員が塗り固められてるんで他にはいないと思います!」


「そ、そそ、それは良かったわ!」


 全然よくないけど……


「しっかし……この手口はあのガラクタどもじゃねえな」


「ええ、どうやらタコが一緒にやってきたみたいです」


「どちらか片方ならまだ全滅は防げたんスけどね。ま、イカじゃなかっただけマシだったっスよ!」


 えっと、サラッと口だけ抜き出て喋んないでくれる? すっごい怖いから。


「というか天使以外にも敵はいるのかよ?」


「ああ、なんかイカっぽいのとタコっぽいのだな。こいつらは兎に角こういう悪趣味な事すんのが大好きなんよ!」


「異世界からの悪意を持った侵略者は日々増えてきています……お兄さんのいう天使や今言ったイカ、タコなんていい方ですよ……」


「アシモフきゅん……」


 ええっと……


「じゃ、じゃあ俺はちょっと向こうで休ましてもらうな!」


「ええ、二時間もすれば作業は終わると思います。ヴォルデマール」


「何デシ」


「アンデット何ですから疲れないですよね? 警戒してもらっていいですか?」


「ええぇ~」


「やってくれヴォル」


「アいっ!!」


「……はぁ、あんなに聞き分けの良いヴォルデマールを見るのは初めてですね。こっちに救援に来てくれていた時は必ずなにか嫌がらせをしていたのに……」


「……」


 いや、余計な事は言わないでおこう。まさか俺がヴォルを引き取ったせいで此処の対処が間に合わなくなったとかないだろうしな。


「まあ、前はなんだかんだ言ってヴォルデマールがいて助かってたっスからね~」


 ……ないよね?


――しばらくして


ドドォオオンン!!


「おわっ!? な、なんだ?」


 凄い音と揺れに仮眠(という名の睡眠)をとっていた俺は強制的に起こされてしまった。


「にゃはあああ! やっバいデシ! やっばいでシヨォおお!!」


「ゲルオ! 襲撃だ!!」


「うう、マジかよ……」


 全然疲れが取れてない……どころか逆に疲れたような感じなんだけど。


「ゲルオ様動けマシか?」


「うう、む……むりぃ……」


 こんなんじゃ休むんじゃなかったよ……


「いま何人動けるようになりました?」


「えっとこれで8人目ッスね、アシモフきゅん!」


「く、まだそれだけですか。どうしましょう……うう」


「アシモフきゅん! 自分はここに残るであります!」


「ギアゴア!?」


「俺も残るっスよ! せっかく治してもらって悪いっすけどね」


「ルゥ君……でも、今ここに襲ってきてる奴らは……」


「新手の消す奴ですね……でも、何とかします!」


「それより早く城に行って主要部隊を治してきてほしいっす!」


「私は行く手の邪魔なんを消すかんよ! 足止めはこいつらに任せて行くぞ!」


 くそ、まずいぞマジで!? ホントに走る気力がないんだけど……


「ゲルオ様! アいっ!」


 ヴォルはこれでもかと満面の笑みで自分の胸に来いとサインを送って来るが……


「で、でも抱っこはなぁ」


「ゲルオ! さっさとしろ、死にてえのかよ!?」


「俺がここで力を使って敵を縮めるってのは?」


「どっちにしろここは放棄だ! それにこれ以上ここでの物資の解放は無理なんだぞ? いくらマッチョ達が死なねえとはいえどう考えてもジリ貧だ!」


「あ……そう、だな」


「アシモフの城に着きさえすれば此処よりはマシです。お兄さんの持ってきた上級アイテムで主力部隊の復活さえすればこっちの勝ちなんです」


「それに途中で私が回数制限に引っかかっちまったらいよいよヴォルデマールとゲルオしか頼れねえ。そんなんなったらマジで積みだぞ?」


 ギプス……意外と考えてんだな。


「……とにかく行きますよお兄さん! 今はルゥ君がほかの皆を戻しながらギアゴアが戦ってますが……そう持たないと思います」


「ゲルオ様……はやく!」


「わ、わーったよ! 抱っこされるよ!」


 うう、自分より小さい外身女の子に抱っこされる魔王ってどうよ?

 情けなさすぎないか?


ポフッ


「にゃふぅ~いいでしね~にゃふふぅう!!」


 ガシっと抱っこされて何か身動きが……


「くそ、ヴォルの癖に……っ!」


 こいつは男、中身は男、俺とおんなじ男だ……


「んぅんっ……ゲルオ様、あんまモゾモゾしないでくださいデシよ?」


「す、すまん!」


 ああぁぁああ! 何でヴォルの癖に柔らかいんだよぉおお! アンデットの癖に良い匂いさせてんじゃねえぞこの野郎が!!


「なんか既にアシモフの護衛とかの話でなくなってきましたね」


「んなこたねえだろ? お前とゲルオは最優先だ! あら? それじゃあ私が一番頑張ってないか? ま、いいか」


「お兄さん、後ろを向いているなら追ってくるのはお願いします!」


「わ、わかった!」


 追いついてきたのを縮める……追いついてきたのを縮めんだな……


「ではご武運をアシモフきゅん!! 後の方達!!」


「ご武運をっす! アシモフきゅん!! その他!」


 おいおい、随分と雑な扱いだなぁ


「アシモフ! 私の後ろにちゃんとついてくるんよ!」


「仕方ないですね。頼みますよギブス!!」


「じゃあしっかり捕まってくださいデシね、ゲルオ様!」


「お、おう!」


「イックでしぃいいよぉおお!」


 ヴォルの掛け声とともにぐんっと周りの景色が高速で流れ出す!


「おおうっ!!」


「あ、ちゃんと足も絡めて下さいデシネ?」


「わかってるよ!」


 は、はえええ! 何このスピード感っ!?


 なのに前を走っているギプスやアシモフは追いつかれていないみたいで……


「……俺に遠慮してたのかなぁ」


 …………


 ちょっと何だか悲しくなって来た時だった。



『マママママママママァアアア』



「な、何だ今の音? いや、鳴き声なのか!?」


「イカが来たみたいです! 前の奴はギプスが液状化に成功したんですけど! 後ろに一体行きました!!」


 背中越しにアシモフからそう声が聞こえる!


「い、イカ? どんな奴――」


『マママママママママ』


「――ひっ!?」


 そいつはまんま巨大なイカだった。気味が悪いのはその体の色が緑色に発光しており、巨大な赤い目がゲソの部分にも何個もついていることだろうか。空中をまるで泳ぐように移動しており側面からこちらに近づこうとして来ていた。


「ゲルオさまぁあ! ヤバいデシかねぇえ!」


「や、やばいよ! マジでヤバいのがいるよヴォル!?」


 と、取り敢えずお、おお、落ち着いてしゅ、縮小だ!


『マママァァ……』


 よし! ただのイカのサイズにまでできたな!


「ついでに!」


 俺はポッケから常備している圧縮した岩を縮小したイカ目掛けて投げて……


「トドメ!」


ドオォオウン!!


 岩を元に戻してやったぜ!


「なっはっは! 今の見たかヴォル!!」


「あ、アい! 見えてないデシけど流石はゲルオ様デシ!!」


 だろ? これならいけんじゃね?


「なっはっはっは……は……」


「んん? どしマシた?」


 えっとね、なんかね……


「気のせいかなぁこっちにイカの群れが来てる」


「おおーい! 前方はクリアだぁあ! そっちはどうだ!!」


「ギプス! とにかく走れ! めっちゃ来てる、めっちゃ来てるよ!!」


 しかもなんかどれも赤く光ってやがる!?


「あれって絶対怒ってるよなぁ」


 そう思った瞬間――


ヒュンッ!


「いだぁあ!」


 な、何だ今のっ!? なにか飛んで来たのか?


「ていうか大丈夫かヴォル!」


「に、にひひ……」


「ヴォル?」


「へ、変換!」


 そういうとともにヴォルは自分の足を切り離してもう一度新しく生え変わらしていた。


「走りながら器用だなお前……でなくていったい何が?」


「信じられないほどの速さでほっそい触手が此処まで伸びてきたデシネ……」


 見ればヴォルの切り落とした足は、何か内側からウネウネと蛇の様なものが出てきて食い散らしながら暴れていた……


「うぇえ……きも……」


「ボクの足に同時に何か植え付けてマシよ。あれ、かなりヤバい奴でシネ……」


「だ、大丈夫だよな?」


「にひひ、大丈夫デシヨ」


「うう、なんでこんな目に……」


 あ、あんな内側から食い破られるみたいに死にたくねえぇええ!!


 絶対に、絶対に生き残ってやる!


――――

――



 その後も夜闇の中、黒いシミが広がっている荒野の様な地帯をイカや天使の脅威にさらされながら進んでいった。


 そして、


「見えてきましたよ! アシモフの城です!!」


「うしろはどうだゲルオぉお!」


「うう、全部やった……ぜんぶやてやったよぉお!」


「にひ、にひ……あ、足を何回生えさせたか……腕も……や、ヤバかったデシネ……」


「おい大丈夫かゲルオ? 着いたんだぞ城に!」


「あ、し、しろに……ついた……」


 ああ、やっと城に着いた。


「途中で日付が変わったのは良かったですね。おかげでギブスの回数制限がリセットされましたし」


「へへ、なかなかハードな行軍だったぜ!」


「……ですね」


 うう、もう日付まで変わっていたのかぁ……


「い、いきてる……いきてるよぉ~」


「なっさけない声だすなよなゲルオ!」


「しかないだろ! どんな目に遭ってきたと思ってるんだ!」


「……ギアゴア」


「あ、アシモフ……」


 うう、なんて声かけてやれば……


 そんな感じでまごまごしてるとバッとアシモフは顔を上げた。


「お兄さん、それよりも次です! ギアゴア達の為にもはやく!」


「え? えっと……」


「さあ! 物資を戻して反撃ですよお兄さん!!」


「……」


 ま、マジかぁ……


「明け方までは襲撃も収まっているはずですから、それまでが勝負ですねお兄さん!」


「あ、えと……」


「ねっ! 頑張りますよお兄さん!」


「は、はいぃ」


 うう、泣いていいヨネ? ね?


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