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53話 自称魔王と国家クエスト(二日目) 前編


 鬱蒼とするジャングルを進んでいくと段々と植物が枯れていることに気付いた。さっきまでわんさかと出てきていた魔獣は鳴りを潜め、枯れた木々が風でガサガサと気味の悪い音を響かせている。


「……だいぶ雰囲気が変わったな」


「だな、なんか生きもんの気配みたいなもんが感じられねえしな」


「ついたぞ」


「は?」


 着いた?


「いや、着いたって……」


 森以外何もないが?


「そっちじゃなくてほら、こっから先見ろ」


 言われて見た先はぽっかりと森が開けていた。ただ異様なのは其処から黒いシミが広がったような地面になっており、そしてその先には……


「あ、あれは……なんで……」


「ひゃひゃ……ゲルオはアレの事知ってんのな。流石は最古の魔王」


「どういうことだゲルオ?」


「……知ってるも何もありゃ」


 そう、忘れもしない。千年たったって忘れる事なんかできないもの……


「……魔王城……なのか?」


「せいかーい! ひゃは! アレこそは千年前に大魔王様が住んでたっつう城さ!」


 え? いやいや何で此処に? あれはだって……


「おかしいぞ……確か大魔王が住んでいたとされる城は初代勇者が脱出する際に崩壊したんじゃなかったか? まあ、僕はそう聞かされてきただけだけど……」


 そういうとボンは俺にどういうことか探るような目で見てきた。


「……そうだな。あれは間違いなく魔王城だ。ただしまだ人間どもと手を組んでいた時のだ」


「あ! アアアっ! ボクも思い出しマシよ! あれは確かにまだ勇者も英雄も居なかったときに大魔王様がぼくたちを匿ってくれた城ですよ!」


「ヴォル?」


「あ……でシヨ! にひひ」


「ひゃひゃ、まあ歴史の授業は後でしようぜ? それに残念だけどあの城は――」


「そこからはアシモフが話しますよギブス」


「ちっ! もう来たんか……」


「初めまして皆さん。アシモフというものです、遠路はるばるアシモフの為に有難うございますお兄さん方」


 そういうとアシモフと名乗った男の子はニコッと微笑んだ。


「では、早速持ってきたものを見せて頂けますか?」


――――

――


「おーい、こっちに運んでくれー」


「ああ、今は何時だぁあ!」


「もう10分とねぇえぞぉお!」


「急げ急げ! 各位は兵装が整い次第に第1級警戒配置につけ!!」



「……凄い慌しさだな」


「ゲルオが物を戻す度にどこからともなく現れたからな……」


 アシモフと名乗る少年に言われるままに荷物を元に戻したところ、さっきまで何処にも見当たらなかった兵士風の屈強な男たちがあれよあれよと物資を持ち出し、それらを組み立てて今にも戦争でも始めるかのような感じの空気になっていた。因みに、何故か兵士たちはそのどれもが筋肉もりもりでタンクトップ姿だった。


 正直あの中には入れないな。


「ふふ、驚かれましたか?」


 うん、主に兵士たちの格好にだけど。


「あ、あっとアシモフだっけか」


「ええ、改めて初めまして! 序列10の魔王『停滞』のアシモフっていいます、よろしくですねお兄さん」


 そういうとアシモフはさっと手を差し出してきた。


「おう、よろしくな! アシモフ」


「はい!」


 うん、なんだか良い子なんじゃないか?


 なんか最近会ってた魔王ってどいつもこいつも碌な奴がいなかったからな。


 見た感じアシモフは大人しい感じの実に聞き分けの良い男の子って感じだ。服は半袖半ズボンだけどなんか小っちゃいネクタイとかつけてる。ただ、なんつうかおかっぱ頭の前髪で目が隠れてしまってるせいか若干表情がわかりづらいけど……


「ふふ、まさかこーんなに沢山の物資を運んでくれるなんて! アシモフはいっぱいいっぱい感謝してますよお兄さん!!」


「お、おう!」


 うん、そんなの気にせんでもいいかな! こうカワイイ甥っ子ができたみたいな?


「……ゲルオ気を付けろよ」


「ん? 何がだよギプス」


「そうですよギ“ブス”。アシモフはこのお兄さんと今お話ししているんですからちょっとどっか行っててくれません?」


 あれ? なんか今ギプスのイントネーションが変じゃなかったか?


「けっ! そうかよ、一応忠告したかんな」


「は、はあ……」


 えっ!? まさか何かギプスと俺フラグ立ってたの?


 マジで!? ねえマジで!?


「それよりもお兄さん聞きましたよ! 今回の件を引き受けてしかもこれほどの支援物資を可能にしたのはお兄さんの能力だって!」


「ま、まあな!」


「すっごいです! アシモフ俄然お兄さんに興味湧いちゃいますね!」


「そう? 湧いちゃう?」


 困ったなぁ……湧いちゃうかぁ興味……


「……ゲルオ様から離れろ」


「ヴォル?」


「うん? なんですこの女?」


「思い出しマシでシよ序列10の魔王……よく魔王神に使われたときに此処に似た場所にコさせられていたデシたね」


「……ああっ! 君はあれだね、ヴォルデマールか。そういえばお兄さんに引き取られていたんでした。…………邪魔がいたかよ」


 ん? なんか不穏なこと言わなかったか今?


「とにかくゲルオ様! ソイツから離れたほうがいいデシよ!」


「いや、そういわれても……」


 一応この子は今回のクエストの依頼主みたいなもんだろ?

 むげには出来ねえんじゃないか?


「悪いけどヴォルデマール、まだ依頼は達成していないんだよ」


「どういうことデシ?」


「えっ!? だってもう目の前に城が……」


 ここがゴールなんじゃないのか?


「ああ、あれはつい最近ここに現れた城であってアシモフの城はもう少し先なんですよ。実はここ、いわば本拠地で取りこぼしたのを確実に処理する水際対応的なとこなんです」


「ま、マジかよ」


 そういや、まだ半分も戻さないうちにもういいって言われたから変だなとは思っていたんだけど……そういうことかよ。


「でも、この先に行くとなると進む度に奴らと戦う羽目になりますからね。……邪魔と思ったけどそう考えればヴォルデマールがいるのは都合が良かったですよ」


「そ、そうか」


 あれ? なーんかこの子もちょっとおかしくない?


「ともかくここでは何ですから早速アシモフの城へ行きましょうか!」


「ん? あの城はいいのか?」


「えっと君は……」


「ああ、ソウタっていう。宜しくな」


「ああ、異世界人かよ……ま、いいか。それより城へ行かない理由ですけどね、なんでか中に入れないんですよ」


「中に入れない?」


「なんか見えない壁みたいのがあって……使えれば良かったんですけど」


「ま、そーいうこった! けどゲルオの証言であれがやっぱり魔王城だってのがわかってよかったなアシモフ」


「……借りです」


「ひゃひゃ! そうかい」


「そ、それより早く出発しましょうぞ! もうここも数分で戦場になるそうなんですな、はい!」


「は? ここって水際対応の場所じゃないのかよ!?」


 いわば最終防衛ラインじゃないのか?


「ええ、そうですけど……」


「ゲルオ、城にいるはずのアシモフが何でここにいると思うん?」


「えっ…………あ、ああ! ま、マジかよ……」


「ん? どういうことだリーダー?」


 本拠地に構えとくはずの魔王が此処にいるってことはだ……


「既にアシモフの城は陥落してるってことじゃねえかよ」


「っな!?」


「ま、マズくないですかそれ?」


「ああん? つまりってえとぉ……任務失敗って事かぁ?」


 え、何それ。来る前に既に敗北してるとか意味わかんないんですけど……


「あ、ああっと、違いますよ! まだ大丈夫です! アシモフのお城の人は動かなくなっててグチャグチャなだけで死んでないですから!」


 いや、それは死んでるっていうんじゃないのか?


「まあまあ、アシモフの言ってることは間違っちゃいないかんな! 取り敢えず城目指そうぜ! 此処にいても邪魔なだけだしな!」


 そんなこんなで話し合っていた時だった――



「敵襲だぁああああああ!!」


「第一班!! 突撃! 第二班は一班もろとも範囲攻撃へ移れ!!」


『おおおぉぉぉおおおおお!!』



 大きな声がする方へ向けば既に兵士たちが戦いを始めていた。その戦っている相手を見て、俺は思わず目を見張ってしまった。


「おいおい……なんで……」


「予想よりあっちもはやかったようですね」


「ひっさし振りでシネ、奴らをコロコロするのは! にひひ!」


「な、なんだぁありゃ……」


「あれが異世界の魔物……なのか? 生気が感じられない……ゴーレムの様な気もするが……」


「き、キラキラしてますね。なんか」


 それは一目見ても何かはわからないだろう。ボンの言う通りゴーレム種にも見えない事もないし、今の時代の魔族なら知らないのも無理はない。


「ロ、ロボット!? いや、でも羽は生えてるし鳥というか……まるで……」


 ソウタのいうロボットってのは大魔王様も言ってたな。でもあの頃……千年前の俺達はアレの事をこう呼んでいた。


「……天使のクソ野郎……っ!!」


「あれ? 奴らの事知ってるんですかお兄さん?」


「ああ、知ってるも何もむかーしむかしに戦ってた相手だからな」


 まあ、俺じゃなかったけどね。

 主に大魔王様とか他の魔王たちが頑張ってました。


「あ、あれが天使? ウソだろ……え、マジで!?」


 また何かソウタのイメージと違ったようだがあれは紛れもなく天使だ。


 金属の体に白い羽、そしてなによりも特徴的なのはその顔だ!


 どいつもこいつも同じ妙に濃ゆい顔に割れたアゴ! そして禿げてるんだか髪があるんだかわからんあの髪形! 其処に加えての常にドヤ顔からの……


『カミニユルシヲ……かカカカミニゆるシヲこコエ不細工なモノタチヨ』


「くそ! アゴわれてるくせに! うっせんだよ!」


 てめえに不細工呼ばわりされたかないわい!


「ア、アゴが割れてるのは関係ないと思うんですけど」


「は、始まってしまいましたぞ!」


 どうやら天使共は4、5体ほどまとまって襲ってきているようだった。


「にしても何で今さら天使が……」


 あいつ等って大魔王様たちが余すことなく葬った気がしたんだけどなぁ……


「とにかく今はアシモフについてきてください! あいつらは重兵装をしているモノから優先的に襲い掛かる習性があるんで暫くはこちらに来ないと思います!!」


「って、あそこの奴らは大丈夫なのかよ!?」


 さっきからデカい音がする度に何人も吹っ飛んでいるんだが!?


「大丈夫です! 此処の人達はアシモフが“生きてる限りは死ぬことだけは絶対にない”ですから!」


「それに相手さんも結構ガタがきてんみたいだな! ほれ、みろよゲルオ」


『ギカカみにギガァアア―ココエエルルルぅう』


バチッバチバチッ!


 よく見ればそのどれもが異音を発しながら動いていて、黒い血やバチバチと電気を放電しているモノばかりな様だった。そこへ――


「おらぁあ! ぶっ壊れろガラクタっ!!」


ガシャンっ!!


「お、おおお……」


 屈強な兵士が大きなスコップみたいのをどてっぱらに喰らわし、見事に倒してしまった。


 いいぞマッチョのおっさん!


「……けど、なんでスコップなんだよ」


 俺そんなの縮小して持ってきた覚えないんだけど?


「ささ、アシモフきゅん! ここは我々が抑えますのでどうか!」


「うん!」


「さ、あなた方も急いで! 我々は死にはしませんがあなた方はそうではないので!!」


 状況に唖然としているとさっきスコップで天使をぶっ壊したマッチョが急ぐように促してきた。


 ていうかアシモフ“きゅん”ってなんだよ……


「ギアゴア隊長! 奴ら大分弱っているであります! 我々だけで対処できそうですので隊長はアシモフきゅんについて行ってあげてください!!」


「おう! 任せたぞ同志たちよ!! では、自分が先導していきますのでついてきて下さい!! さ、アシモフきゅん! 肩へ!!」


「うん! お願いねギアゴア!」


「ここからはガラクタどもを蹴散らしながら城へ向かいます! それとこれを」


 そういってギアゴアと呼ばれたマッチョはみんなに何故かスコップを渡してきた。


「なぜスコップを?」


「説明する前に奴らが来ちゃったんであれですけど、此処は僕の能力で機能を停止しているモノがあるんですよ。その中であいつらが良く使う剣なんかの武器はダメージを与える効果を停止しているので……」


「アシモフきゅんの能力で一般的な武器は意味がないのだ! だが、重兵装や兵器まで停止してしまうと奴らに数で押されてしまう! そこで我々はせめて近接戦闘だけでも優位に立てるように普段からスコップやバールのようなモノで戦っているのだ!!」


 そのごつい声できゅんはやめてくれ。


 俺に効く……


「つまり、ここでは剣は使用不可って事か……いたいな」


「ボンにソウタはキツイかもな……」


「へ、とりあえず魔王の能力は有効だかんよ! 私にゲルオ、ヴォルデマールは主戦力でいけんぜ!」


「にっひっひ! ボクに任せるデシよ!!」


「ギブスがいてくれてまあ、その辺はよかったです」


「え、あの、ちょっと俺はその……武闘派じゃないんで……」


 勘弁してくれない?


「精霊どももあんま効かねえな……なんでできてやがるあいつ等?」


 ああ、そりゃそうだろうな。アレって確か神性物質だったか?で出来てるって大魔王様が言ってたのを何となく覚えている。あと、一応神とかいうのの隷属らしいしな。


「お兄さんお兄さん! 提案があるんですけど!」


「ん? なんだ」


「お兄さんやヴォルデマール以外は戦力的にキツイかもしれません。この先は更に停止のルールが厳しくしてあるので……ほかの方は最悪……」


「……そっか」


 それは……嫌だな……


「多分この感じだと此処はあと一時間もすれば終わりそうですし、今はまだ比較的安全です。でも、この先はわかりません」


 つまり、俺とヴォルデマール、ギプス以外は置いてくか帰って貰えって事か……


「はぁ、ギプス」


「あん? なんよ」


「お前がいるならデルモンは居なくてもいいんじゃないか?」


「ゲ、ゲルオ様!?」


「あーん……ま、確かに物はゲルオが居ればいいし、あの話は私がすりゃいいしな!」


「おい、ゲルオ何を考えてるんだ?」


「ああ、あれだ。ここらが決断しとかなきゃいけんラインってことだろ」


 ああもう……やっぱこうなったのは俺の責任だよなぁ……


 正直俺も一緒に帰りたいんだけどね?


「リーダー?」


 順番的には俺とヴォルだしな……うん、仕方ないよな!


「お前らはここでいったん帰れ」


「はぁ!?」 「な、なにを?」


「ゲルオっ!?」 「リーダーっ!?」


「にっひっひ、まあそうでシヨね」


「何を言ってんだよゲルオ!」


「いやだってな、この先はスキルなんかも停止されるんじゃないのか?」


「はい、そうですお兄さん」


 やっぱな……


「そうなるとお前ら自分の身も守れないだろ? それじゃなぁ……」


 いのちはだいじに! これが一番だろ?


「そういう事じゃなくてだな!」


 おおっ! ボンそんな近づくなよ!?


「とにかく、リーダー命令だ! 従うように!」


「く、お前は前もそうやって……」


「ん? 前も?」


「リーダー」


「あん?」


「せめて此処に残るのはダメか? ここではまだスキルも使えるし戦えるだろ?」


「おう! 俺らだってこのまま帰るんじゃ消化が悪いって感じでよ」


「だ、ダメですか? ゲルオさん」


「うーん……アシモフ?」


「この場所にいるんなら大丈夫だと思いますよ。でも、くれぐれも先に行かないでくださいね。思わぬところにアシモフの停止能力が効いている場所があったりするんで」


「自分としては有り難いですね! 私が居なくなってしまうと他の同志達だけでは不安もありますので!」


「ってこった。ああ、でも……」


「でも?」


「誰か帰って今回の事をアロマに、アロマ達に伝えに行ってほしいんだが……駄目か?」


「……じゃあ、俺が行くよリーダー」


「ソウタ……任せたぜ!」


「ついでにデルモンも連れて帰るよ」


「あ、ありがとうございますですな。ソウタ君!」


 そうだ、せっかく帰ってもらうなら……


「あ、あとこれ」


「えっ!? これって……」


「念のためな?」


(いいのかゲルオ?)


(せっかく前金でもらったんだ、これぐらい構わんだろ……ネコババすんなよ)


(しねえよっ!)


「おし! 決まりだな!! んじゃ、さっさと行くぞゲルオ!」


「お、おう」


 ただそんな深刻に考えんでも大丈夫だろ!


 なんやかんや魔王ばっかだしな!


 そう思ってるとボンがなんか真剣な表情で俺を見ていた。


「どうした?」


「ゲルオ……かならず――」


「まてっ! 待てマテ!」


「――な、なんだよゲルオ!?」


 あっぶねぇ……死ぬフラグが立つとこだった。


「そういうのいいから。そんじゃ、行ってくるわ」


「気軽に言うなぁ……お前と言う奴は……」


「にひひ! ボクがいるから安心してくださいデシ!! ゲルオ様だけはちゃんと御守しマシからね!!」


「あのぉ……アシモフは君たちの護衛対象でもあると思うんですけど……」


「はあ、それじゃここで待ってるよ」


「おう!」


「では行きますよ。おらおらぁああ! どけガラクタどもぉおお!!」


「ギ、ギアゴア!? アシモフが肩に乗ってるんですけどぉおおおおお!」


 ……護衛対象から離れるのか。


「ささ、ゲルオ様もボクに乗ってくださいマシね!! ん? ボクに、ボクにゲルオ様が乗る!?」


「乗らねえから」


 だいたいお前のどこに乗るんだよ?


「遊んでないでいくぞゲルオ!!」


 こうしてボンたちを残し、俺とヴォルはアシモフを乗せたマッチョをギプスと一緒に追いかけるのであった。


「因みにどれくらいで着くんだ?」


「夜だよ」


「えっ!?」


「夜まで走れば多分つくぜ!」


 あ、やっぱ全然大丈夫じゃないかも……


「す、すまんヴォル! やっぱどこでもいいから乗せてくれ!!」


「アい? ……アいっ!!」



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