52話 自称魔王と国家クエスト(一日目)
「ゲル…様…きて……」
んん、アロマか……
俺は昨日遅くまで縮小作業してて疲れてんだ。デルモンの野郎あんな量をさせるなんてよ……日付が変わってようやく寝たんだよな。だから、寝かせてくれよ……
「ゲルオ様……おき……っ!!」
……アロマ……マジでもうちっと寝かせて……??
いや、アロマはもうだいぶ前に“喋れなくなった”んじゃなかったか?
「……うだ? まったく……」
「……で……から……」
ああ、そうだ。
アロマはそもそも俺と違って……
「ゲルオ様!! 朝でシヨ!!」
「……うっせえな、起きてるよ」
「アい? ではでは準備して行きマシですよ!」
「ゲルオ、もう予定の時間を大分過ぎてるぞ」
「……ああ」
「ゲルオ? どうした、実は体調が悪いのか?」
「いや、大丈夫だ」
「む、そうか。昨日は無理させてしまったとデルモン氏が言っていたからな」
はあ、嫌な事は思い出すなよ俺……
「それよか時間過ぎてんだろボン」
「あ、ああ! もうギプスも外で待っているんだぞ」
「おいおい!? それを早く言えよ!」
あんな気軽にポンと命消しちゃう系女子を怒らせるとか、どうなるかわかんねえからな。
「だぁあい丈夫でシよゲルオ様! 何かあってもボクが付いてマシからね! にひ」
「……よし、なんか急に目が覚めてきたな」
主に危機的な感じで。
「じゃあ着替えるだろうし外で待ってるよ。ほら! 部屋を出るぞヴォル!」
「大丈夫デシ! ズボンもパンツも……ボ、ボクがお、お手伝い、はぁはぁ……しましからぁあああ!!」
「出てけってのこの変態っ!!」
「にひゃんっ!!」
ドンっ!!
「おおっ!? ヴォルが吹っ飛んできた!?」
「にひゃ……」
たく何に興奮してんだよアイツは!! はあ、朝から能力を使わせんなよな。
けど、確か似たような事を昔――
『き、着替えくらいできるってのっ!』
『でも、これがメイドの仕事らしいですから』
「……そんな事もあったなぁ」
アロマの昔の事を思い出すなんてな……
「そういや、こんな一緒に居ないのも久しぶりだもんな」
……て、まだたった二日やん!?
俺ってちょっと情けなさ過ぎないか?
「ああヤメヤメ! それよりはよ着替えていくか!」
何言われるか怖いしな!
――――
――
玄関を出てみると既に皆が集まっていた。
「おっ! おっそいぞゲルオ!」
「す、すいません!」
「ふむ! 直ぐに謝ったのでゆるす!」
「ははー!」
「……何やってんだか」
ソウタ、こういうのが必要なんだよこの手の奴はな。
「ゲルオ様大丈夫ですかな? 昨日はかなり無理を言ってしまったので……」
「あん? ああ、まあ若干の睡眠不足感はあるな」
あれだ、スッキリな感じはしないな。アロマがいりゃそこら辺もいい感じにケアしてくれんだが……ま、仕方ないか。
「そういやデルモンから聞いたぜ! 倉庫のなか全部をしゅ、しゅ……」
「縮小だろ」
「そうそう! それやって持ち運べるようにしたんだろ?」
「まあな、正直重さまで指定されたから疲労で死ぬかと思ったぞ」
「ひゃひゃ! でもそんおかげで予定の5倍以上も持ってけるんだろ? すげぇえな!!」
「やはやは! そうなんですなギプス様! これはかなりアシモフ様に吹っ掛けられますぞ!!」
「だな、あいつはいつも少ない少ないとグチグチとい、いん……」
「陰険か?」
「ああ、陰険に言ってくるかんな。てか、ゲルオよくわかんな私の言いたい事が」
「ん? ああ、まあな」
普段カタカタだけで伝える子がいるんでね。
「そういや、馬車すらないんだけど……」
これって護衛任務だよな?
「なにいってんだよゲルオ、運ぶもんがポッケやカバンに入るんだからいらんだろ?」
「えっ!?」
「やはやは! 経費削減ですな! 馬車はそもそも荷を入れるだけの予定でしたので移動を速めるもんでもないですしな、はい」
「なあ、ちょっといいか」
「はい、何ですかなソウタ君」
「思ったんだけど転移陣を使えば荷の護衛とかいらないんじゃないか?」
こらソウタ君! 仕事がなくなるようなツッコミはしないでよね!
「ああっと、そういえば説明不足でしたな」
「あのなガキ、そんなことは誰だってわかってるっての。それが出来ないからこうするしかないんだぜ? な、ゲルオ」
「そ、そうだな」
いや、わからんけど頷いとくか。
「まあ簡単に説明しますとですな、DMZは魔王アシモフの能力範囲内でして転移機能は“停止”状態とされているんですな、はい」
「んん? なんでだ、最前線みたいなとこなんだろ」
「ふむ、だからだろうな。得体のしれないものがその転移を使ってこちらに雪崩れ込んできたら……そういうことだろ?」
「ええ! 流石はトラヴァーユ家のボン様、その通りですな!」
「自分たちが便利ってこたぁ相手も同じって訳だぁな」
「た、確かにそうですね」
うーん、だったら穴を塞げばいいとおもんだけど……
「ま、それでもあの変な奴からとれる素材は便利らしいからな。ここの街が発展したんのもそいつ等んおかげってのもあるんよ」
「ギ、ギプス様っ!?」
「あ、これいっちゃいけんかったやつか?」
「ゲルオ様、このことはどうか……」
「ん? ああ、めんどい事は嫌だから関わらないぜ!」
「あ、ありがとうございます! はい!」
でも、できればそこの魔王ちゃんにはもうちょっとお口チャックしてもらった方がいいと思うんだよね。
「ひゃひゃ、チョビがいないと気が楽んなっていけんな」
「ちょび?」
「ああ、あの私の隣で控えてた奴だよ」
「ああ、あの!」
なんかどっかで見覚えのあるやつだよな。
「あれ? でもたしかゲルオは……」
「え、なんだ?」
「まっいいか。私には関係ない話だしな!」
「そうか……」
いや、そこで止められると気になっちゃうんだけど!?
「んじゃ! しゅっぱーつ!!」
んじゃ、行きますかね。
「へーんーじーっ!!」
『お、おお!!』
あのぉなんで貴女が指揮とってんですかねぇ?
――――
――
水の都を西門からでてしばらくすると広大なジャングルがみえてきた。道はそこを避けるように続いているようだ。
「よし! こっちだな!」
「なぁ道はこっからないんだけど……」
おいおい、なんで道なき道の方へ行こうとしてんですアンタ?
「ああ、こっからDMZへの道ってのはないんだよ。ほら、一応だけんど危険地帯って事になってんかんな」
「道なんかありますと多種多様な者が利用するようになってしまうんですな、はい」
「へぇ敢えて作らないでいるって事か」
いや、じゃあこの正規の道っぽいのはなんなん?
「ええ、ですから本来は馬車の為にぐるっと遠回りしていくんですがな。今回はゲルオ様のおかげでまっすぐに突っ切れるんですな、はい」
「あら、じゃあもしかして馬車で移動しないで済む方が……」
「だんぜん速いってわけよ! ひゃひゃ!」
なるほど……
いやいやちょっとまて!
「その分危険なルートって事ないよな?」
「……」
「……」
いや、何か言えよ。
「さ、それよりとっとと行こうぜ!」
「ですな!」
「……はあ、大丈夫なのかよコレ?」
「いやリーダー、ここらはそこそこ弱い魔獣しかいないから大丈夫なんじゃないか? だよなゲンタ」
「……いや、ありゃ水の都の街道沿いの話だからよ」
「に、西門って普段はぐるっとジャングルを避けて回って魔王神都へ行くルートですから」
「なるほどね」
つまり普段は正規の道をぐるっと回って行ってたのかな?
そういっている間にもギプスはズンズンとジャングルへと入っていく。
「おーい! はやっくこい! 置いてかれると迷って死ぬぞ」
「はいはい! すぐ行きます! だから置いてかないで!」
あれ? なんかこれって既に護衛任務でも何でもないような気がすんだけど?
「あ、ゲルオ様」
「ん?」
「一応ギプス様も護衛の対象となりますので、はい」
「……いや、あれにいるのかよ?」
「まあ、一応ですな。はい」
――――
――
「いや、やっぱ必要ないだろあれ」
デルモンにギプスも護衛対象といわれたものの……
「けえっしとべーー!! ひゃひゃ!」
ギャガアアァぁぁ……
出てくる敵へいの一番に突っ込んで行き素材も残さず消していくんだが?
せめて素材は残してほしいなぁ……
「なあ、俺達って必要なかったんじゃないかリーダー?」
「さっきから彼女一人で魔獣を消しているしな……」
しかも邪魔しようもんなら一緒に消し飛ばしちゃいそうなテンションですしね彼女。
「ぼ、僕達ただただ付いて行ってるだけですね」
「ヒマだなぁ」
「やはやは」
「……楽っちゃ楽でいいんだけどな」
「にひひ! なんだか遠足に来てる気分でシネ! ゲルオ様!」
「いや、それはない」
こんな魔獣ひしめく遠足があってたまるかよ。
ギプスが相手してるからいいが正味の話このジャングルん中かなりヤバいぞ?
少しでも音がするとそこへ向かって小型のドラゴンみたいのが群れでやって来るからな。あれだ、ラピッドベアクマだったか? 頻度的にはあれを相手にしてる気分だぜ。
「しっかし魔獣とやり合うとかひっさしぶりだな!」
まあギプスが楽しそうで何よりだがな。
「けどそろそろ消してばかりじゃおもろくないかんな! たまには……こっちだな」
ギプスがそういうと同時に、次に迫ってきた魔獣は上から徐々に溶けだしていった。
「え、えぐすぎる……」
「うーん! どろっどろにすんのもまぁわるかないな!」
「い、いったい何をしたんだ?」
「ひゃひゃ! きになんか? これは私の能力『三態』の一つ液状化!」
「液状化?」
「ていうか、簡単に教えるものなんだな? 今が仲間だからっていいのか?」
「いや、ソウタそれは違うぞ」
「ん? どういうことだリーダー」
「ばれても構わないってのはそれだけ自分の能力に自信があるって事さ。ていうか、そういう考え方ってお前その見た目で意外と年取ってんの――」
ポン
「え?」
な、なんだ? 誰かが俺の肩に手を置いたんだが……
うん、今は俺が一番後ろのはずなのに一体?
「ゲールーオー……」
「ひっ!」
その声はギプスさん!? い、今まで前に居たのに?
「レディの歳を詮索ナンテ悪い子じゃないか?」
「は、はい! もうそなことしませんし言いません!」
「ん、ならいいよ! あ、あとわりぃけど服こっち持って来てくれん?」
「え、ふく?」
「ブっ!?」
「げ、ゲンタどうした!?」
「っておいギプス! なんで裸なんだ!?」
え、マジかボン! これは今すぐたしかめな――
「ゲルオ! 何後ろを向こうとしているんだよ!!」
ガンっ!!
「あだぁあ!!」
な、なにする……ぼん……
「まったく!」
「もうゲルオ様、そんなに裸が見たいならボクに言えばいいのに……」
お、お前らは見て……いいのかよ――
――――
――
「っは!」
「お、目覚めたんなゲルオ」
「あ、ああ」
「ん? どしたん」
「……いや、なんでもない」
そう何でもないさ。
ただちょっと理不尽なんじゃないかなって思ってな?
なんで紅一点の状態なのにラッキースケベすら許されないんですかね……
「く、くそぉ」
「ゲルオ」
「ゲンタ……どうだったんだ?」
「……いいもんだったぜ!」
「……くしょぉ……」
「……」
「ちくしょぉおおおお!!」
「おい、バカやってないで行くぞゲルオ!」
「ゲンタさんも何やってんですか?」
「あ、はい」 「お、おう」
「しっかしなんで裸になっていたんだ?」
まさか俺達へのサービスって訳でもないしな。
「そりゃ気化すりゃ服は脱げちまうよ。あたりまえだろ?」
「うん? てことはお前の三態ってのは……」
「気体、液体、固体、の三態ってことか?」
「お、異世界のガキ正解だ!」
「へぇソウタって意外と頭良いんだな」
んなこと勉強っての? しないとわからないんだろ?
「いや、俺のいた国じゃこれぐらい誰でも知ってるんじゃないか?」
マジか!? 勉強好きな世界とか……若干狂ってね?
「ほう、こっちじゃ貴族でも知らないものが案外多いのにな。それともソウタは実はいいとこの坊ちゃんだったりしたのか?」
おいおい、お前が言うなよボン。
「いやいや、俺は普通の家で生まれた普通の、子供だよ……」
「ん? どうしたソウタ?」
「……あ、いやなんでもないさ」
「そっか」
「うん」
まあ“何でもない”なんて言葉は俺の『相手に言われても信用できないランキング』のなかでもトップ3の言葉だけどな。因みに2位が“大丈夫だ”で1位が“いつか”だ。
といっても此処で問いただすのもおかしいしな。取り敢えずソウタが「大丈夫だ」とか言ってきたらレッドゾーンだと思っとくか。
「それよかよぉその三態ってのはつまりどういう事なんだよ?」
「えっとぉものをファーとしたりどろぅとしたりコチンって感じね」
「あ、あのぉ今の説明だとちょっと意味が……」
「そうだな、例えば水って熱すると無くなるだろ?」
「あ、ああ」
「でもあれは無くなってるんでなくて蒸発って言って」
「ああ、料理すっからそりゃわかるな」
「それで逆に冷たくすると氷になるだろ。でもそれは固まったともとれる」
「うん、たしかにな」
「つまりソウタ、蒸発した時は気体で氷になった時は固体って事か?」
「まあ、そんな感じでいいと思うよ。俺もそんな詳しいわけじゃないからざっくばらんな説明になってしまったけどな」
「ニヒヒ、ボクも知ってマシよ! この能力で変換するときに発見したデシからね! 因みになにで試したかって言うと――」
「ヴォル!」
「アい?」
「それは生き物じゃないよな?」
「……」
ああ、生き物ですねこれ。
「し、死体だからそんなにひどい話じゃないでシヨ!」
「その言い分だとどっちにしろほぼほぼグロイ内容確定じゃねえかよ!」
ていうかもう想像しちまったよ! 人がもう●●みたいになって##になっていく感じの……うぇ……
「うう、アいぃ……」
ん、でも待てよ……
「ギプス、お前の能力で人間を消した時って順番おかしくね?」
今の説明だと固体→液体→気体の順だろ? 固体から飛んで気化したってことじゃん?
「うーん? そうはいっても私の能力はあらゆるもんを『三態』のどれかにする能力だかんな。実際の三態についてのルールが適用してん訳じゃないんよ」
おいおい、それってマジにヤバい能力じゃねえか? 氷が一瞬で気化するし何もないように見えたとこから氷が降ってきたり……いや、なによりそれが毒物とかだったら……
「……シャレになんねえな」
「ひひ、ゲルオあんたやっぱ切れ者だね」
「んなこたないさ。ただ余計なもんと関わり合いたくないし考えたくもないだけだ」
「そ」
「ギプスはなんで自身に使っても大丈夫なんだ?」
「うーん、それは種族の問題じゃね? 私ら魔王ってそこらは結構別々じゃん?」
「まあそうだけど」
「私は元々どの形態でも生存可能な種族だったからなぁ……だからこの能力になったと思うんだよね」
「まあ、自分に使って死ぬとかちょっと間抜けだもんな」
「に、にひひぃ……で、でしよねぇ」
ああ、コイツはどっちだったんだろうな。能力を自身に使って死んでからアンデットになったのか、アンデットになったから能力が付いたのか。
「ま、まあボクはそんな間抜けじゃないデシけどね!」
……めっちゃ目が泳いでるけどな。
ヴォルだしどうでもいいっちゃいいが。
「……ちょっと暗くなって来たな」
「ジャングルの夜は早いかんな! ただでさえ日が短い時期だから早めにあれだ、テントとか張るぞ!」
「なんかすっかり彼女がリーダーだな、いいのか?」
「あん? いいんじゃね。俺はほら、お前らのリーダーってだけだしな」
やりたい奴がおかしな方向に行かん限りはいいだろ。マズい時は止め……
止めれるかなぁアイツ?
「まぁリーダーがそういうなら……」
「ゲルオさまぁあ~元に戻してもらってもいいですかなぁあ~」
「おう、今行くわ」
まあ、何だかんだと出だしは順調な一日だった。




