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51話 自称魔王とすっかり忘れてたこと


「そんじゃ、明日は私もついてくからよ! 今日のとこはもういいぞ、さーてお出かけの準備しなきゃな!」


 そういうとギプスは突然目の前からマントと水着みたいのを残して消えてしまった。


「えっと……」


「心配しなくても大丈夫ですよ。あれはギプス様の能力『三態』による気化を自身に使っただけですから」


「自分は大丈夫なのかよ……」


 ますますチートな能力だな。


「ゲルオ様、よろしいですかな?」


「ん? どしたの」


「わしとしてはこの後デルモン商会の倉庫で昨日のうちに取り寄せたモノの検品やらなんやらを終わらせないといけないんですね、はい。ですから、まあできたら一緒にゲルオ様にもついて来てもらおうかなと思っておりまして、はい」


「え、俺も一緒に行くの?」


「ゲルオ様の能力を是非とも使わせていただきたいとおりましてですな、はい」


「ええー俺が態々なんでそんなことしなきゃなんないんだよ」


 お前らは確かに便利だろうけどさ、けっこう疲れるんだぜアレやるの。


「そ、そこをなんとか! もしお力を貸していただければ当初よりも多くの武器や食料、諦めていた他の雑多なものまで持ち運べるやもしれないのです、はい!」


 うーん? どうすっかなぁ……


 ここで二つ返事でオッケーしちまうとこういう手合いはどんどん要求がエスカレートしてくし……

 もうちょい悩んだ振りでもしとくかな?


「うーん……」


「も、もも、勿論そのぶん報酬は上乗せいたしますので、はい!」


「上乗せ……ね……」


「はい! 上乗せですぞ!」


「……ばい?」


「ば、ばば、倍は無理ですぞ!? そもそもプラチナ硬貨は魔王神様のとこが負担している分ですので……」


「そっか……じゃあ――」


「で、ですからわしのとこで10……万……」


「に」


「では、にじゅ――」


「ひゃく」


「ぐぐぅ……100万で何とか……」


「オッケー乗った!」


「……ゲルオお前って奴は」


 く、なんだよボンその「あーこいつ学習しないなぁ」みたいな目は!


「はあ、本当に君は学習しないな」


「おい、思っててもいうなよ」


 それに、タダで安請け合いするよりかは健全な関係ってもんだろ?


「ゲルオさま、ゲルオ様」


クイクイ


 ん? ヴォルの奴がなんか俺の服を引っ張ってきたんだが?


「今日はあそぶんじゃなかったデシか?」


「うっ!?」


 そ、そうだった! 初日のデルモンのカミングアウトですっかり忘れてたが、そもそもは観光もできて報酬もうまいから受けたクエストだったな。


 俺としたことがすっかり頭の中を仕事の事ばかり……いや、保身の事ばっかだな。


「うーん、今はまだお昼前だかんな。デルモン、その作業って夕方からでもいいか?」


「そうですな……検品やらはゲルオ様がいる必要もないですしな。夕方に顔を出して明日までに縮小作業を終わらせて頂ければこちらとしてはよろしいですので、はい」


「うし、それじゃあ夕方にお前んとこの倉庫だっけ? そこに行くわ」


「ではそれで! やはやは、まあ100万G払っても経費やら諸々浮きますしな! いやぁ良い取引でしたな、はい!」


「ああ!」


――因みに後でわかったがこのやり取りで一番儲けが出たのがデルモンであったのは言うまでもない。大量物資の輸送費ってとんでもない金額なんですね、はい。


「んじゃ、今日は夕方まであそぶか皆!!」


 明日への景気づけってのも含めてな!


「にゃっハアア!! 良いデシネ!!」


「おう! 昨日は散々だったしな! おりゃ賛成だぜ!」


「け、結局きのうはご飯食べた後ずっと逃亡してましたもんね僕達」


「ひ、昼はオレが決めてもいいか! めっちゃくちゃ美味い定食屋があるんだよ!」


「僕としてはちょっと服屋を見てきていいかな? この水の都のファッションは注目されていて――」


 うんうん! みんな良い気晴らしになりそうだな!


 うん……


「?? どしマシたゲルオ様?」


「……いや」


 アロマ、やっぱ連れてくりゃよかったなぁ……


「??」


「はん、なんでもねえよ。それより、此処って何があるんだボン?」


「――でこの……て此処の名所かい? それなら先ずは今いる此処、水の城だね。水の都と呼ばれる所以にもなっているからね」


「こんな形では来たくなかったな」


「あとはやっぱり海水浴かな」


「……今は冬なんですが?」


 こんな寒い中は勘弁だな。


「確かアレだろ、この時期はぁ魚人族でも辛いらしいからなぁ……」


「お、詳しいのかゲンタ」


「ま、半魚人の友達がいるからなぁ。ずっと海中にいるならまだしも、そうでねぇなら自殺行為だとさ」


「へぇーこっちじゃ大抵そういうのは寒さに強いってイメージなんだけどな」


「か、彼らは泳ぎが得意なだけで寒さは関係ないかと……」


「ソウタの世界って変な固定観念みたいのあるよな?」


「うう、そう言われればそうかもな。こっちにはそういった種族は想像の中だけだったからかもなぁ」


「ちょっと話が逸れちまったけど、他にはないのか?」


「うーん……後は釣りが一応あるけど」


「それはやめといたほうがいいんじゃないか」


「ええ? なんでだよ、いいじゃないか釣り」


 だって、言葉なくじっとしてるだけで終わったりしないか?

 いや、俺がやった事ないから不安っていうのもあんだけどさ。


「あ、あれですよね。確かここって釣りをするにも命がけって聞きますけど……」


「えっ!? そうなの?」


 全然そんな事しらんでいったんだけど。


「オレも聞いた事あんぜ! 此処は丘のモンスターはそこそこ弱えが反面、海のモンスターはかなり強いってな」


 そこそこ弱いって初めて聞いたな?

 そこそこ強いなら聞いたことあんだけどな。


「僕としては良い腕試しだと思ったんだけどな」


「いやいや、釣りってそういうものでないでしょ!?」


 なーんで釣った相手と戦わなきゃいけないんですかね?

 どう考えても釣りの意味をはき違えてると思うんですけど……


「でもでも、釣ったモンスターは魚系でシヨね! スグに食えていいんじゃないデシか!!」


「あ、良いなそれ! 俺一度でいいから新鮮で活きのいい魚っての、食べてみたかったんだよ!」


 ソウタ君、多分それ活きがあり過ぎると思うんですけど……


「ど、どうします? 一応僕たちはボンさんとゲンタさんが料理も出来るからモンスターの処理さえ安全に行えるなら……まあ無理には反対しませんけど」


「オレやブンタだけならあんま気が進まなかったがなぁ……今はボンやヴォル、ソウタもいるしな……どうすんだゲルオ?」


「お、俺に振るのかよ!?」


 出来たらこういう時は俺に振らないでほしいんだけどな。


「当たり前だろリーダー」


「ぬぬぬぬぬぅ」


「ああ、あと釣ったモンスターは強ければ強いほど美味いらしいぞ? 中には一匹10万以上はする高級魚系モンスターまでいる――」


「おっしゃあ!! いくぞ野郎ども、一人釣果は最低5匹だかんな!!」


「……ホントに君は学習能力がないというか、わかり易いといか」


 うっせ。


「じゃ、ソウタの言う定食屋で早めに飯食ってから行きますかね」


「おお! 好感度高いぞリーダー!!」


 いや、君の好感度上げてもなぁ……



――――

――



――嘆きの波止場


 水の都で今一番ホットな釣り場として有名な波止場らしい。船は丁度この時間は出払っているので戦闘をするのも被害が無くていいそうだ。


「の割には人が全然いないな……」


「まあ、そんな日もあるんじゃないか?」


「そうなのかなぁ」


 釣りとかよくわかんないからな。


 因みにデルモンの倉庫も近くにあり何とも都合の良い事だ。釣り一式はデルモン商会から渡された。


「……釣り一式って武器扱いだったんだな」


「魚系には効果が高いらしいからな」


「だとしてもこのやけにデカいやつとか何に対して使うんだよ」


 そうソウタが言っているのは全長5メートルもある釣り竿だ。糸なんかもぶっとくて俺の腕以上ある。


「ああ、それはマクロっていうおっきな魚をエサにして『サメ』を釣る用のだな。巨人族が好んで使うのだから僕達には必要ないものだね」


 なんで持ってきたんだよ。


「マジかよ? こいつで一発でっけえの釣ろうと思ったんだけどなぁ」


「あ、これ筋力がA以上の人でないと装備不可みたいですよゲンタさん」


「……」


(ボン、あの見た目で筋力Cの奴がいるらしい)


(ウソだろ? じゃああの丸太みたいな腕って何なんだよ?)


「きこえてんぞ! ボンっ! ゲルオっ!!」


「サーセン」 「す、すまん」


「ん? リーダーまずいぞ」


「何がだよ」


「ココにある釣り竿、あのでかいのは例外として他のでも筋力がC以上ないと駄目なんだが……」


「……はい?」


 ちょ、ちょっと待てよ!


「見せてくれ!」


「ああ」


 そういって渡してもらった釣り竿を見るが……


『一般魔族用:筋力C以上』


「い……一般……」


「……ボン、魔族ってもしかして基本」


「まあ、非力な魔族もいるからな。珍しい話じゃないけど……」


「あいつ、仮にも魔王だったんだよな」


「あ、ゲルオさん! こっちに筋力D以下のありましたよ!!」


「おお! マジか!」


 あやうく俺だけ仲間外れになるとこだったぜ!


「はい! これです!」


「おう! あんが……と……」


『お子様魔族用:筋力D以下


 *大人がいるところで使ってください』


「……」


 うわぁすっごい可愛らしい装飾つきだ! こっちは意味もなく光るぞ!


 しかも、ボタンを押せば!


『フィィイイシュウゥウウ!!』


チャーチャララン!!


 ふ、ふふふ! 陽気な声が軽快な音と共に出、釣り竿が光り輝く演出付きだ!!


「……はぁ」


「ゲ、ゲルオ……」



「……うん。そういや、こんなかで釣りしたことある奴いるのか」


『………………』


 なしっと……ま、そんな難しいことでもないだろ。


 所詮は魚、たいした脳ミソもない輩が魔族様に敵うわきゃないもんな!


「と、取り敢えず始めようじゃないか! 釣り上げたら場合によってはそれを目掛けてモンスターが釣られてくるから皆十分に注意してくれ!」


「へへ、釣ってからが本番って事だな」


「う、腕の見せ所ですね!」


「夕飯は魚ってとこかな! 煮つけにしてもらうかシンプルに焼いてもらうか。いや刺し身……は流石に危険かなぁ……」


「にひゃぁ……よくわかんないデシけど糸を垂らせばいいデシか?」


「んじゃ、各自いい感じに離れて釣るぞ!」


『おおーー!!』


 なんか未だかつてない団結力が出てないか?


「……あ。ごめん俺って非力だから、出来たらボンかヴォルは近くに居てくれ」


「お、おう」


「アーい!!」


 ま、何だかんだいってバンバン釣り上げちゃうかもな!



――――

――



――5時間後


「……」


「……」


「……つれた?」


「……いや」


「……むにゃぁ……にひゃぁ……」


「……ヴォル寝てね?」


「……仕方ないんじゃないか?」


「……うん」


『フィィイイシュウゥウウ!!』


チャーチャララン!!


「……」


「……ゲルオ」


『フィィイイシュウゥウウ!!』


チャーチャララン!!


「それ、やめてくれないか?」


「あ、うん……」


「……」


 知ってた。

 俺、なんとなくこの結果は知ってたわ。


『………………』


「んにゃぁ……ぐぅ……」



 ……はぁ水平線の夕日って綺麗だなぁ



「ゲルオさまぁあー」


 ん? デルモン?


「此処にいらっしゃったんですな! 探しましたぞ!! さ、約束の夕方ですぞ!」


「……ああ。みんな」


 俺が声掛けると一斉にみんな立ち上がった。


「かえろう」


『…………』


「あ、えと、どうしたんですかな? そんなに落ち込んで」


「……デルモン、今はそっとしておいてくれ」


「はぁ? というか何故に今日釣りなんかしているんですかなこの人達は? 明日はかなり大事なクエスト何ですが……」


 この悔しさを胸に明日の護衛は頑張ろうと思いました。


「あ! ゲ、ゲルオ様! そっちは倉庫じゃないですぞ!? ゲルオ様!!」



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