50話 自称魔王と神スキル
「こっからが本題なんだがいいか?」
「は、はい! どうぞどうぞ!」
取り敢えずは機嫌を損なわないような流れで行こう。コイツは見かけによらずヤバい奴だと認識したからな。
ほぼノーモーションで仮にも勇者を消すとか、こんなのどうやっても対処できねえし。
「そうか! まあ、さっきのちょっとしたえっと……よ、よ……」
「……余興です」
「そうそう! よきょうみたいなもんだからさ、もっと気を楽にして聞いてくれな!」
「は、はは」
人が死んでんだよなぁ……その余興で……
「……お、おい」
「あん? ああ、お前は……ああ! あの愚図共を消す口実を作ってくれた奴だな! なんだ? どしたん?」
ソウタ?
「い、今の奴らは……死んだのか?」
「うん? 言ってる意味が分かんないんだけど?」
やめろソウタ!
「殺したのかって聞いてるんだ!」
「ソウタ!」
「?? 殺したらマズいのか? なんで?」
あ、瞳孔がめっちゃ開いてる! マズいぞ!
「おい、ソウタ落ち着け! す、すいません! コイツそのぉあんなんでも一応は同郷の奴が死んだってので、ほら? 動揺しちゃって」
「ゲルオ……だってさ、人が……人が死んだんだぞ!?」
「それはわかってるっての! でも今は謝っとけ!」
さっきの見たろ? こいつは簡単に人でも殺せる奴なんだよ!
「……ねえ? あいつらはお前にとっても敵だろ? なんで殺しちゃ駄目なんだ?」
「あ……いや、例え敵でも……同じ人間で……」
「それをいったらお前がこれまで殺してきたのは同じ生き物だよ? ねえ、答えになってないんだけど?」
「いや、そう言う事じゃなくて……人間は別で……」
「?? なんで人間だけ別なの? 人間だって生き物でしょ? ねえ、なんで? なーんーでー人間は別なんですかぁア?」
「にひゃ……確かにボクもずっと思てましたね。けど、殺してみればわかるデシよ! 死ねば生き物デシ! 死ぬことが出来ないならアンデットでしね!」
「ちょっと黙っとけヴォル」
話がややこしくなるだろうがよ!
しかも、その理論だと死体か動く死体しか残らないじゃん。
「アい……」
「ねえ、聞いてるんですけどー? なんで? 何でなんでなんで何でナンデぇえ?」
「あ……う……」
マズいな、このままじゃソウタが消されかねない。
こうなったら……っ!!
ザッ!
「ギプス! こいつはまだガキなんだ! 目の前で人が死ぬのなんか経験が無くて、それでついつい言っちまっただけなんだ! だからここは、ここは俺に免じて!」
「ゲ、ゲルォ……リーダー……」
「許してくれ!」
膝をつき、誠意を込めてスキル『土下座』をギプスに使う!
「……」
「……どうか……」
マジで許して! ほんとこの子まだ若いだけなんです! さっきの見るからにバカそうなガキどもとは違うんです! てか、なんか可愛い女の子に土下座って……うん……いいね。
「……ひゃひゃ! 良いぜ!! 許してやるよ!」
その言葉についガバッと顔を上げてしまう。
「ま、マジか! あ、やべ……」
「マジマジ! ひゃひゃ! 感謝しろよ小僧、ゲルオの見事な土下座に免じてこれ以上は問いたださないでやるよ」
おおう! 許された!
流石はスキルLv7の土下座っ! これってもしかして神スキルなんじゃね?
神スキルだよな! 絶対に神スキルだって、神――
「……いや、俺が今のは悪かった。すみませんでした!!」
――うんうん! ちゃんと自分でも謝ってえらいぞソウタ!
……最悪いまの展開で全員イッキに消される可能性あったからな。
「ありがとな、その……リーダー」
「あん? リーダー?」
「あ、ああダメか」
……ま、いいか。どう呼ぼうとソウタの自由だし。
ちょいハズいけど……
「いや、いいけどさ。そんな気にすんなよ、お前ら異世界人はあれだろ? あんま身近に死とか確かないんだろ? しかたないっての、な!」
「……うん」
え、なにこの子。やけに素直じゃん?
「ひゃひゃ…………でもよガキ。さっき消した奴らもそうだけど此処はお前ら異世界人のいた世界とは違うんだぜ? 文化もルールも価値観だってちっげーんだ! だからさ……」
「だから?」
「なんで異世界人が生かされてるかもうちょい考えな? 大体、ステータスなんかなかった時代は人族なんて食料にすら劣る生き物だったんだから……ネ!」
パチっ
おおう、なんて背筋の凍るウィンクだよ。顔は可愛いのになぁ……
あ、あと世界のなんたらとかマジ聞きたくないです。こっちは日々生きてくだけで精いっぱいだってのにそんな議論に構ってられるかっての! 金にもならないしな!
「……い、生かされてる?」
「ま、でもちょうどいい前振りにはなったかもな! こっからの本題は異世界関係のことやら魔王神の事だかんなぁ」
「ん? どういうことだ?」
「ゲルオ、正直に答えて欲しいんけどな? お前は魔王神のわ、わ……えっと……」
「……和平です」
「そうそう! 人族との和平のことどう思う?」
「どう思うって……」
正直いうと勝手にしてくれって感じなんだけど。
「私はよう……どーにも納得っての? いってないんだぁ」
「そう……」
え? 何この相談?
マジに深刻な話題とかになっちゃうの? 勘弁してくれよ……
「魔王神の奴はよ、なんでかヒヨってんだよな。人族たちとぶつかるのをだよ? べっつに今更あいつらを皆殺すのにそんな難しいことなんかないんだぜ? ゲルオ、あんたならわかるだろ?」
「え、えっと俺が?」
なんだろ?
「おっとけ、けん……」
「……謙そ――」
「ケンソンとかしなくなくていいぞ! お前が実はすっげえ魔王だっての前からわかってんだかんな! だからこそ今回のクエストでデルモンにそれとなく情報を送ってたんだぜ!」
「そ、そうだったのですかな!? やはやは、いきなり果ての街にあるギルドへ行けと命令されたのはそう言う事だったのですな、はい……」
いや、デルモンがなんか納得してるんだけどさ、
「俺、全然すごくないぞ?」
「ひゃひゃ! だから謙遜すんなって! 魔王神の奴も今はお前の立ち上げたクランに注目してんだぞ? ギルドの記録だって見させてもらったけんどよ、やってることメチャクチャじゃんか、なっ!」
「……はい、ギプス様のおっしゃる通りです」
「いやいや! ギルドの記録見たならなおさらだろ!?」
俺の貧弱なステータスだって見たって事じゃん!
「…………ゲルオ、わかってねえのか? 自分が今どういう立ち位置なのか?」
「え、どういうって……あれだろ? 出来立てホヤホヤのクランリーダーで実績がない感じでしかも借金背負ってて魔王をリストラされた元引きこもりで……」
あ、いってたらなんか涙が出そうなんだけど。
「……ぐす、俺なんかがなんでリーダーなんかやってんだよぉ」
「な、泣くなよリーダー……」
うう、アロマがいないと気分が落ちると沈み続けちまうな。
「いいか?」
「あ、ああ悪い」
「あのな、そもそも魔王の力って強力すぎるだろ? ステータスもスキルも無視して相手にぶちかましちまうことが出来る。つまり、私ら魔王はあれだ、よく異世界人どもがいうチートってやつだ」
「うん、まあ確かにな」
MP消費じゃねえし、疲労感ぐらいしかない。それも結構ばらつきがあるしな、物によっちゃ俺の伸縮も全く疲労を感じないのもある。
「ゲルオ、そんなステータスもスキルも無視する奴らが4人も所属しているクランって……どう思うん?」
「ああっと、ズルいなとは思うかもな」
「しかも、その魔王すべてが自分に恨みを持ってる可能性がある奴らなら?」
「……気が気じゃないかもな」
え、てことはもしかして……
「更によ、そのリーダーが自称魔王を名乗ってる訳よ。自分の支配するとこで」
「……」
「ヤバくね? まじで」
「うん、マジでヤバいな」
「だよなっ! ひゃははっ! 私はこれを魔王神の口からきいたとき笑いをこらえるのに大変だったんだかんな! あの時の苛立ったあいつの顔ときたら……ひゃひゃ!」
……笑い事じゃないじゃん!
「ど、どどど! どうしよアロマ! て、あ、アロマいなかった!」
「落ち着けゲルオ! と、とと、取り敢えず僕がアロマさんを呼んでくるよ!」
「あ、ああボン頼む!」
流石は相棒! 頼りになるぜ!
「い、いやいや! ボ、ボンさんも落ち着いてください! アロマさん呼びにどこまで行くと思ってんですか!」
「リーダーも落ち着け! さっきまであんなに冷静に場を見ていただろうが!」
「いやぁゲルオは内心ずっとテンパってたと思うがぁなぁ」
その通りだゲンタ。
「アい? 何を慌ててるんでしか?」
「ヴォル、お前はいまのでわかんなかったのか?」
つまり魔王神に目を付けられてるんだぞ? 全然違う意味でお眼鏡にかなってたんだぞ? お、俺はただ楽して金が稼ぎたかっただけなのに……どうして……
「?? でも今回のクエストで魔王神に土下座させるんでシヨね?」
あ……
「そうだよ! そうだった!」
なーんだ! ここでうまくこなしゃいいだけじゃん!
「落ち着いたか?」
「ああ!」
まあ、土下座はさせないけどな。だが何かあった時の交渉材料にはなるだろうよ。
「しっかし、まさか国家クエストの成功を材料に魔王神の奴に土下座させる気とか……」
「あ、いやそれは――」
ヴォルの奴が勝手に……
「にひっひっひ! ざまぁねえぜデシネ!!」
「最高だなそれ! なあ、私も参加していいか!」
「――ちがくて……」
「は?」
「いや全然違くないです」
「ゲルオ……」
「リーダー……」
仕方ないじゃん! お前らあんな可愛い声からめっちゃ低い声でたんだぞ?
ビビるだろ普通?
「ギプス様!? 何を言っておられるのですか!?」
「あん? いいじゃんかよ、こっから話すことも考えりゃ私もアシモフんとこに一緒したほうがいいだろうしな!」
「あ、そういや本題がどうとか言ってたけど……」
「ああ! まあ何が言いたいかというとだな、DMZには異世界の穴みたいのからわんさか変なのが這い出てきてんだけどどうも原因は異世界人の召喚のせいっぽいんだよ」
ああ、それはデルモンから聞いたな。
「んで、できたら今回のクエストでの成功を材料にDMZにいる魔王アシモフと私はその”穴”についていろいろ交渉しときたいんだ。まあ、今回の救援もそこんとこが目当てでさ。……ホントはついでにお前らにこの街の勇者共をその穴に落とすか、殺してもらおうと思ってたんだけど……もうそっちは良い感じの理由が出来て済んだしな!」
余興で終わらしてたもんな……
「てか、その理由って……」
「えっとアレだよ、アレ!」
いや、わかんねえよ。
「……勇者たちは何者かによって襲われ、そのケガにより治療を試みるも死亡。我々の魔王であるギプス様はその犯人を見つけ出し今日、こうやって服だけ残して退治されました……といったとこです」
そうお隣のちょび髭がスラスラとカバーストーリーを話してくれたけど、
「……うわぁ」
聞かなきゃよかったわ……
「ひゃひゃ! ま、そんなとこだ。だいたいよー魔王は勇者を倒すもんじゃんな? なーんで私ら魔族側の者が手と手を取り合わなきゃなんないんだっての! 魔王神はよ、なにを守りたいんだろうな? 意味わかんねえっての、な?」
「あ、ああ」
いや、な? て言われても困るんですけど。
「ってことでだ! ホントは任せきりにするつもりだったけど私もついてくことにしたからさ、明日からは宜しくな!」
「ああ、こっちこそよろしく頼みます」
俺はそう言ってぎゅっと握手をする。
「……っ!! ひゃひゃ! ちょっとだけど楽しい旅になりそうだな! ひゃっひゃっひゃ!!」
しっかし、こんなに可愛い女の子なのになぁ……
笑い方もうちょっと何とかしろよ。




