47話 自称魔王と水の都
転移の光に呑まれ慌てて目をつぶっていると、瞬間今までいた匂いが変わった。
「……無事、転移できたんかな?」
うん、体に欠損はないな!
「闇の囁き亭からようこそ!」
「のわっ!」
だ、誰だいったい!?
「あなたがクラン『パッチワーク』のリーダー魔王ゲルオ様ですね! 水の都支部、ギルド『水のせせらぎ』亭へようこそいらっしゃいました!」
「あ、ああ……ってお前!?」
「はい?」
「ロッテじゃねえか!? お前も来たのか?」
ていうかやけにハツラツとしていてなんか変な感じだな?
「あ、いえいえ! わたしはリッテと申します。ゲルオ様のいうロッテはわたしの妹ですね」
「あ、はぁそうなの……」
姉妹だったのか、にしては……
「似てんなめっちゃ」
「ああ、瓜二つだな」
「だろボン?」
違いがあるとしたら服が黒でなく青なのと、ロッテがいつもジト目でやる気が感じられないのに対してこっちは目がぱっちりして元気がいいとこかな?
「ふふふ、わたし達は五つ子でして。なので結構そっくりなんですよ!」
「へぇ、てことはソウタ達の光の栄光亭にもそっくりさんが居たのか?」
「いや、こっちにはいなかったぞ」
「そもそも魔族があんまりいねぇからな。だから……いやなんでもねぇ」
「うん?」
ゲンタの奴どしたの?
「人族のギルドには流石に姉妹は誰も行ってませんね。もしかしたら今後ほかの姉妹にも会うことがあるかもしれませんのでその時はよろしくお願いしますね!」
「あ、ああ」
ロッテみたいのじゃなきゃいいがな……
「リッテさんは一番上なんですか?」
「いえ、わたしは次女になりますね!」
「ロッテは末っ子だろ」
「正解ですゲルオ様! よくわかりましたね!」
「まあな」
むしろあれで長女とかだったらマズいと思うんだよね。
「これこれリッテ、転移には依頼主のデルモン様もいらっしゃるのだからおしゃべりはそれぐらいにな」
突然リッテの後ろから長身で黒髪のナイスミドルが現れた。
ちょび髭がなんとなくイラッとくる感じだ。
「あ、すみませんギルドマスター!」
「元気なのは良いですがね。申し訳ありませんでしたデルモン様」
「やはやは、お気になさらずに。今日はホテルにチェックインするだけですので、はい」
「そうですか。おっと、あなた方には初めましてですな。自分はここのギルドマスターをやっとるアシッドというもんです。以後、お見知りおきを」
「よ、よろしくです。あ、えと、クラン『パッチワーク』のリーダーやってる自称魔王のゲルオだ」
「ゲルオ、なに緊張してんだよ……」
う、自分より偉い人だとどうにもな……
しかし、カラ坊と違ってこうとっつきにくい感じだな。
「ほう、あの蒼の絆のソウタ様もいらっしゃるとはこれは期待できそうですね」
「うん? 俺のこと知ってるのか?」
「ええ、カラッド殿から散々と愚痴を言われましたよ」
「あ、そうか……」
「うぬぬぬぬ……」
「うん? どうしたヴォル、トイレでも我慢してんのか?」
「ち、違うデシよ? うーん、どっかで会ったような……」
「……ではわたしはここらで失礼いたします」
そういうと目の前からスルッと消えてしまった。
「ふふふ、凄いでしょうちのギルドマスター! あんな感じで気がつくと消えちゃうんですよね、気配もいつも感じないしただ者でない感がパナイです!」
「確かにな」
てか、リッテさんボロがではじめてますよ?
やっぱあの妹にしてこの姉だな。
「今回のクエストが終わったらわたしに声をかけて下さいね! そしたら闇の囁き亭に送りますんで!」
「おう、わかったわ。ついでに今ちょっと戻るとかってできる?」
「別料金でならいいですよ!」
「おい」
金とんのかよ……
「あっ! 忘れてました!」
「うん?」
「良かったらこちらにもクランを登録していきませんか? して頂ければ今後は水のせせらぎ亭でのクエスト情報も得られるようになってお得ですよ!」
うーん、でも行動範囲を広げるのもなぁ
ぶっちゃけあっちこっち行きたかないし。
「他にもこちらでゲルオ様のクランに入りたいという方へ紹介なども出来ますので、是非この機会にご一考のほう宜しくお願いします!」
「あ、ああ考えとくよ」
「ええ、是非! マジお得でパナいんで!!」
「……彼女、どんどん地がでてきてるな」
「やっぱあの姉のこたぁあるって事だな」
「そ、そうですね」
「おーいゲルオ! デルモン氏が呼んでるぞ!」
「おう、今行くわ! じゃ、またなリッテ」
「はい!」
「わりいな大将、待たせちまって」
「やはやは、まぁまだのんびりでもいいですよ。はい」
「ゲルオ、デルモン氏が僕らのホテルもとっているそうだ」
「マジか! あ、ありがとうございます! 大将!」
「やはやは! これぐらい何ともないですからな! はい!」
太っ腹すぎて逆に警戒しちゃうね!
「では街の風景でも見ながらホテルへ案内しましょうか、はい」
――――
――
「これが水の都かぁ」
なんていうんだろうな、匂いがやっぱ違うというか湿っぽい感じ?
「おおっ! 何か外国にきたって感じだな!」
ソウタ君は何言ってるんですかね?
「きっれいな街だなぁブンタ」
「す、すごいキラキラしてます!」
「スンスン! いい~匂いがするデシねぇ」
まあ、まさに水の都って感じではあるな。
至る所に川が流れ、まるでその上に作ったようにレンガ造りの家々が立ち並んでいる。川は運河として使っているのだろうか? 小型の船が行きかい人や物が運ばれているのが見える。また、道がなんか灰色をしていてうちのとこと比べてまったいらだ。
「どこもかしこも綺麗に整備されてんだな。道路が灰色なのって何だろな?」
土でもないし、石って感じでもないんだよなぁ?
「変な棒も立ち並んでやがるな? 黒いロープが伸びてるし何の為にあんだありゃ?」
「と、遠くにはおっきな水の塊が見えますよ!」
「美味しいお魚の匂いがいっぱいするデシ!!」
むむむ、魔王神のとこも凄かったがここは此処でなんか別世界に来た気分だな。
「おいおい、あんまりキョロキョロしないでくれよ?」
「う、すまんボン」
「やはやは、それだけ目新しかったのでしょう! 仕方がないものです、はい」
うわぁ、田舎臭さが出ちゃったなぁ
「結構近代的だな。道路はアスファルトだし街灯もある。送電線もあるみたいだしまさか電話やテレビでもあるのか?」
「ソウタ大丈夫か?」
「何がだよ?」
「いや、意味わかんない事しゃべりだしたから頭がおかしくなったのかと……」
「どこもおかしくなってねぇよ! あと、そんな目で見るんじゃない!」
だって急にブツブツと知らない単語をしゃべりだすんだもん。
ちょっと心配しちゃったよ。
「やはやは、着きましたですよ、はい。ここが今日泊まる予定のホテル『掃き溜まり』ですな、はい」
そんなこんなでどうやら目的のホテルに着いたようだ。
「おお……ホテル?」
そこは何て言うか民家を若干改造しただけのような、やけにどっかで見たような感じの……それに名前が『掃き溜まり』って……
「てか、此処ってホテル『吹き溜まり』の系列だろ絶対っ!」
「やはやは、知っていましたか。まぁ外見はともかく安くて質のいいサービスを提供してくれる最優良ホテルですよ、はい」
相変わらずのひどいネーミングセンスだな……
いや、いいんだけどね。ホテル『吹き溜まり』だっていいとこだったから此処だってある意味安心だけどよ。ほら、観光地のホテルっていうから期待してたっていうかさ、うん。ホテル代も出してもらっているから文句はいえないけどさ……
「へぇアットホームな感じでいいんじゃないか? 俺はこういうの好きだな」
「やはやは、ソウタ君はわかってますな! わしもめぐり巡った結果、やはりこういったホテルが落ち着いていいものだと思うんですよ、はい!」
「にっひっひ、牢獄以外ならどこでも良いデシネ」
「く、比べるものが牢獄って……ヴォルさん……」
まあ、ヴォルは百年近く魔王神とこで良いように使われてたらしいからな。ポミアンの屋敷で自分の部屋が貰えて子供みたいにはしゃいでたっけか。
「夕飯はおかみ自慢のサシミという生魚の料理が出ましてな! これがまた絶品なんですわ、はい! 特性の黒いソースがまた合うんですな、やはやは!」
へえ、大魔王様が好んでたやつだな。今の時代にも伝わってたんだな。
確か遠い記憶だが食べた次の日お腹が大変だった記憶があるな。まあ、魔族の体は丈夫だから死にはしなかったけど。以来、生の魚ってちょっと苦手なんだよなぁ……
「おお! それってまさか醤油か!」
「え、ええ。たしかそんな名前でしたな、はい」
「てことは念願の卵かけごはんが……」
「なんかソウタがトリップしちまったな」
「異世界人は米と醤油が好きらしいってぇのは本当だったんだな」
ああ、そういやゲンタも料理できるんだったな。てか、実はうちのクランって男どもの方が料理スキル高いんだよな、女子力が一番高いのがボンだし。
うん? てか女子どもに一人も料理スキル持ちが居なかった気がすんだが……
まさかね?
「はい、わかりました。えっとですな、昼ご飯は用意していないとの事なのでここから自由時間としましょう、はい。夕飯は日が沈んで以降なら食堂で頂けるそうですからそれまでには帰って来ていただければよいですぞ。わしは今日のところは部屋におりますので用があったら声かけて下さい、はい」
「んじゃ、俺は大将とちょっと話しとくかね。お前らは自由にしてていぞ! あ、ヴォルお前は俺のとこに居ろよ」
こいつはトラブルの塊だからな。
「アい! 言われなくても離れないデシ!!」
「……いや、引っ付かなくていいから。な?」
「アい」
くそ、体が女の子なのが色んな意味で悔しい。
「なら僕もゲルオと一緒でいいか?」
「ああ、いいぜ」
「よし! んじゃブンタとソウタは俺に付いてきな!」
「は、はい!」
「はいはい、たく何が悲しくて野郎同士で……」
「おいソウタ! ブツブツ言ってないで行くぞ! 先ずはあのでっかい水の塊んとこだな」
「あ、待ってよゲンタ~」
「んじゃ、後でなゲルオ」
「おう、一応余計なことやらかすなよ?」
「余計な事って?」
「とりあえず女の子に近づかない、困ってる人に手を貸さない、バカにされても反応しない、これだけ守ってりゃ大丈夫だろ」
「かなり最低な奴な気がするけど」
「勘違いすんなよソウタ、お前以外にもヒーローはいるんだ。俺らがいちいち関わってたらキリがない。あくまでもプラチナ、でなくて大将の護衛クエストが優先なんだからな! 身内が一番仕事は二番、他人なんざその次の次の次ぐらいでしてくれよ?」
「はぁ善処しとくよ」
そう言うとソウタは手を軽く上げて小さくなったゲンタを追いかけて行った。
「ったく、わかってんのかなアイツ」
ただでさえ異世界人ってだけで色んなフラグが立ちやすいんだから気を付けてくれないと困るんだがなぁ……
「では、わしの部屋までせっかくなので一緒に行きますかな」
「ああ!」
「……必要最低限の戦力は手元に……流石ですねゲルオ殿……」
「うん? どうした大将?」
「やはやは! なんでもないですぞ、はい!」
ううん? 大抵何でもないは信用できない言葉なんだが……
「ほら、行くぞゲルオ?」
「ああ」
「にっひっひ、話聞いてとっととご飯にしたいデシネ!」
「お前はアンデットだからいらねえだろう……」
まあ、前金を貰うまでは信用しとくか!
「やはやは……」




