45話 自称魔王とクランメンバー
何事もバランスってのは大事だと思うんだよね。例えばサラダにドレッシングをかけるのは良いけどかけすぎたら野菜の味なんかしないし、カレーとか肉があんまりにもないと悲しくなってくるじゃん? 睡眠時間だって短いのは無理に決まってるが、長すぎても頭が痛くなったりするんだよなぁ。それでも二度寝はするけどさ。
まぁ何が言いたいかって言うとさ、
「パーティーを組む場合の事を考えたいと思うんだ」
「ん? どうしたのゲルオ朝から急に?」
「頭大丈夫です?」
おい、その心配はおかしいだろ?
「いやな、皆でポミアンの屋敷で過ごす様になってさ。そん中で皆が一同に揃うのってこの朝食の時が一番じゃん?」
「ええ、まぁミズモなんかは早朝に仕事に出てしまったけれど」
「はむ、う、ううん。俺らなんかぁいるもんな、あむ!」
「ああ! ゲンタさんソーセージ食べ過ぎですよ!」
「……そうだぞゲン、殴るぞ」
「う、悪かったよ。戻すよ」
「いやいや、食べかけ戻さないで下さいよ!」
「あ、じゃあボクが食べマシよ! いっただきー」
「あの、聞いてます話」
君たちホントに自由だよね。
「カタ」
「あ、ありがとうアロマ」
俺はひとまずアロマからミルクティーを貰って一口飲んだ。
「はぁー落ち着いた」
「で、何が言いたいんだいゲルオ?」
「おお、それぞれの能力を見させてもらってな。そん中で組み合わせの良くないのとかあるなぁって思ってな」
「組み合わせが悪い?」
「ああ、例えば俺とそうだなキララで組んだとするだろ?」
「うち?」
「するとだな、マジで戦力にならなくて悲しいことになる」
「ああ、確かにキララは戦闘はからっきしだかんなぁ」
まぁその分戦わないなら十分かもしれないんだけど、此処では置いといてと。
「あとはそうだな……ボンとソウタ、ブンタが組んじゃうと総合力が高すぎてちょっと無駄が多い気がするし、逆に本田とルリなんかならお互いに補っていい感じだったりな。要はそういうパーティーのバランスなんてのが大事だと思うんだよ」
「へぇゲルオにしては考えてるじゃない」
「ふん、一応リーダーだからな。まぁ俺自身の為でもあるし」
というか、このままなし崩し的にメンツが以前と変わらないってのが勘弁してほしいだけなんだけどね。
「うん、いいんじゃないか」
「だろ? ここでちゃんと考えた方がいいしさ、せっかくクランを作ったんだから色々試す為にも役割やバランスを考えるのが大事だと思うんだよね」
「ブンタ、ちゃんとお肉も食べなきゃダメでしょ?」
「り、リリアさん、豚肉だけはちょっと……」
「だ、か、ら! ソーセージは一人二本までだって言ってるでしょ!」
「ほ、本田っちそんな怒んないでくださいデシ……あ、魔法はやめて」
「数がかぞえられねぇのかよテメェはよ」
「いや、ゲンタ。君がそれを言ってもな」
ああ、ホント話し聞かねえなこいつらは!!
「あ、そうだゲルオさん」
「ん? なんだよ本田」
「そういったバランスも必要ですけど、お互いの相性も考えないといけないと思うんですよぉ」
おお、本田にしては良い意見じゃん。
「確かにな、ヴォルとか誰とも相性よくないだろうし」
「リリアとソウタ君とミィさんとか一緒だとやばいと思うんですよね」
「う、それは……」
「ふん」
「……」
おいやめろよ、飯がマズくなるだろうが。
「じゃあ、どうする?」
「なんで、一番組みたい人のとこに一旦それぞれ集まってみるのどうですか?」
「あ、その、その方法だと……」
誰も来なかったら悲しくない?
「じゃ、さっそくサラッとやってみましょうか!」
「うぃ」
「せやね、パパッとこれなら終わるやろ」
「どうなっても知らないぞ?」
「うーん? どういう事ですか?」
ああ、けど組みたいとこに自分から行くからボッチにはならないのか。
「んじゃ、各自で今一番組みたい奴のとこに行ってみてくれ」
そう言うとみんな立ち上がって移動し始めた。
あ、なんかちょっと緊張するなぁ。
俺はとりあえずアロマで良いので、その場で座っているままにすることにした。
――――
――
結果、ソウタのとこに猫が一緒に居てそこにゲンタとブンタがいる。んで、ガッキとミズモはいない訳でだ。えっとその……
「何であと全員こっちにいるんですかね?」
「カタカタ」
そう、それ以外が何故か皆俺のいる席に集まっていたのだ。
まぁアロマに集まってきただけかもしれないけどさ……
「え、あっいやそのワタクシは別にゲルオという事でなくて……あ、アロマさんがいたからですわ」
そんな言い訳がましく言わんでもいいだろポミアン、泣いちゃうよ?
「私はヒロについてった感じね」
「はーい、あたしがゲルオさんとこに来ました」
ほう、何故?
「うちもゲルオはんと組んでみたいなぁ思ててな」
「……ルリも」
「ま、まあ僕はゲルオの相棒だからな!」
え、ちょっと嬉しいんだけどこれ!
「にっひひ! ボクは当然デシネ!」
え、なにこれ全然うれしくないんだけど……
「く、全然悔しくはないからなゲルオ」
「あ、うん」
ソウタ、別にこれ競ってる訳じゃないからな?
「てかゲンタがソウタの方に行ったのか?」
「ああ、蒼の絆は結構有名だったしな。一度組んでみたいと思ってたんだ。剣の趣味も合うしな!」
「ぼ、僕はゲンタさんについて行った感じですね」
なるほど、てかそこはもうそのままでも良い気がすんな。
「でだ、問題は俺のほうか……」
まあ、さっきも言ったがこっからはバランス考えて振り分けりゃいいのかな?
「じゃあここらでバランスよく振り分けるか」
「あ、でも……」
「ん? どうした本田?」
「せっかくだから女子だけで組んでみるのもいいと思うんですよね」
「お、せやな。女子会も兼ねてええかもな」
「じゃあ、ゲルオさん邪魔ですね」
「おい」
どうしてそうなる?
「てわけで、今日はこれから女子だけで親睦を深めるんで! 男子は出てってください」
「え、あのワタクシは別に……」
「み、ミィもソウタと……」
「はいはい、異論は無しで」
「せやね」
「じゃあボクも参加デシか?」
「いや、変態はちょっと……」
そういってヴォルをこっちに押してきたんだけど、
「返品は?」
「いやいや、それ中身男でしょ? 無理です」
ですよね。でも、俺もいらないんだけどなぁ……
――――
――
という訳で、男のみで行くことになってしまった。
先ずは攻撃の要のソウタ、まぁコイツとは色々あった……いや、そうでもないか。んで、回復も精霊でこなせるゲンタ、魔法も近接もこなせるブンタに、アンデットで防御にも使えるヴォル、まぁコイツは俺が見ないと仕方ないしな。んで、万能タイプのボンとおまけの俺といったとこか。
「うん、けっこういいんじゃないか」
「……むさい」
「おいソウタ。一応ヴォルの体は女だぞ」
「にっひっひ! 紅一点デシネ!」
中身は男だけどな。
「う、ぼ、僕だってその……」
「うん? どしたんボン?」
「あ、いや……何でもないぞ、何でもない」
「そうか」
二回言うって事はホントに何でもないんだろうな。
「で、何を受けるんだ?」
「うーん、ロッテ。何かこの人数でちょうどいいのあるか?」
「そうですね、人数が多いので報酬がそれなりでないと美味しくないですからね。どうせなら一発デカいのなんかどうです?」
「ほう、ランクは?」
「まぁ当然S超えしますね。でも、これならゲルオの借金もいっきに返せるかもよ」
「遠出になりそうか?」
「ええ、一番いいのだとSSランクで序列10の魔王が治めるとこまでの護衛任務ね」
「10の魔王だと!?」
ん、どしたのソウタ?
「あ、いやたしかそこは絶対に近づいちゃいけないといわれてるとこじゃなったか?」
へぇそんな危険地帯なのかな?
「その分報酬は破格よ」
「なに? 詳しく」
「お、おい」
「まぁまぁ、聞くだけだからよ」
「こちらの護衛依頼は元貴族であるオッサ=デルモン様を序列10の魔王の治めるDMZへ連れて行くことになります。お隣の水の都までギルドから転移は出来ますので遠出といっても2、3日程度で済むと思われます」
「へぇ、じゃあ実質は隣の領土へ行くだけって事か?」
「ええ、旅費はギルドで幾分か持ちますし、なんだったら水の都で観光をして来てもいいですね」
「おお……で、水の都って何?」
「ゲルオ、たしか序列6の魔王『三態のギブス』が治める街だな。僕も一度行った事があるが綺麗な街並みに美味しい魚料理、それに水で出来た巨大な城は一度は見たい城百選にも選ばれる必見モノだぞ」
「ほほう、それはそれは」
いいね、行ってみたいね!
「美味しいお魚たべたいデシね!」
「おう、城ってのも見てみてぇな!」
「きょ、巨大な物ってロマンありますよね!」
おお! ゲンタもブンタも結構乗り気だな!
「問題はDMZに足を踏み入れる事だな」
「んっと、DMZってなんだ?」
それって地名なの? やけにかっこよくない?
「ああ、DMZってのは非武装地帯って呼ばれてるとこなんだ。なんかそれを異世界の言葉三文字で表すとDMZっていうらしくて、それでこう呼ばれるようになったんだよ」
「ええ、ボン様のいう通りですね」
「ん? でもなにが危険なんだそれ?」
武装してはいけないなら危険も何もない気がするんだけど?
「ああ、たしかそこの魔王の能力のせいだったかな? 実際は誰も近寄らないから危険だって言われてるだけでよくわからないんだよ」
「えっと、その護衛対象は何しに行くんだ?」
「それは流石にわからないわ。でも、悪い方ではないので依頼を断る訳にもいかなくてね」
ま、そりゃそうか。
「で、肝心の報酬額は?」
「エゴいわよ? DMZのせいで値段が上がりに上がってなんとプラチナ硬貨2枚よ!」
「……え? なんだって?」
「なんで難聴にいきなりなったかわからないけどもう一度言うわ……プラチナ硬貨2枚よ」
プラチナ硬貨ってことは1000万Gで、それが2枚だから……2000万!!
「マジか!!」
「マジよ。しかも今回はあちらさんが前金で1枚は渡すそうよ」
「やります」
「おい、ゲルオ!?」
「いいじゃねえかよ、女子どもは今頃楽しんでるだろうしよ。俺達も親睦を深めるため観光がてらこのクエスト受けてみようぜ!」
なんといってもプラチナだしな、これを逃すわけにもいかんだろ。
メンツだって悪かない。ボンもソウタもSランクだし、ブンタはステータスだけならSSS級だし、それにヴォルはああ見えても元序列3だしな!
あれ? もしかしてこのパーティーって凄くね?
「ふふ、DMZへは一度行ってみたかったしな。流石はゲルオ、僕の相棒だな!」
「城、楽しみだなブンタ」
「は、はいゲンタ、でなくゲンタさん!」
「ゲルオ様とおいしいお魚料理デシか……ニヒヒ」
「……大丈夫なのか? ホントに大丈夫なのか?」
うむうむ、みんなやる気に溢れているな!
「くれぐれも、観光はついでですからね! じゃあ、受理させていただいて宜しいですか」
「おう、頼むわ!」
「ふふふ、コレがうまくいけば冬のボーナスも……」
さってと、一応戻って荷物を縮小させたらここに集合とするか。
「アロマに伝えとかないとなぁ」
俺はそう言いながらも水の都での観光と報酬の使い道について頭をいっぱいにさせるのだった。
「嫌な予感しかしないのは俺だけなのか……ミィ、俺無事戻ってこれるかなぁ」




