EX3 魔王、クリスマスを知る
こちらは番外編となりますのでご注意を!
それはまだゲルオが魔王だった時のむかぁしの話……
「おーいアロマー?」
おかしいな、いつもならもう朝飯を持って来てくれるはずなんだが……
「くそ、せっかくいい感じに目覚めたってのに!」
朝食持ってきたアロマに起きてることを自慢しようと思ったのにこれだよ……
「アロマー寝ちまうぞー」
…………
「実はドアの前で待機してんだろ? な、そだろ?」
…………
「ふん! 寝ちまうからな!」
ああもう、こんなに寒い中で早起きなんかするんじゃなかったぜ……
――――
――
「寝れん……」
なんかやけに眼が冴えてしまったせいか全く眠れる気がせん。フカフカベットちゃんの中であったまってるのにいっこうに睡魔がこないとは……
「アロマどうしたんだろ?」
今日はやけに遅い、といか遅すぎてもうそろそろ昼近いんじゃないか?
「……ま、やる事なんかないがな! はっはっはっ……はぁ」
虚しいな……とりあえず寝っ転がってよ……
コンコン
うん? アロマか?
「……いいぞ」
ていうかノックなんて今更だろ? メイドなんだから気軽に入れっての。
「カタ」
「カタってお前……」
はあ、遅刻してあわせる顔がないってか?
「カタカタ」
「まあいいか……おはよ」
「カタ」
アロマはぺこりと一礼してこちらに近寄って来るが……
「ん? 何だアロマそれ?」
「カタカタ」
アロマはなんか一枚の広告みたいなのを握りしめていたみたいで、バッと広げて俺に見せてきた。
「んん? なになに……く、くりすます?」
そこには『くりすます』なるイベントの告知とその日は『皆でお祝いをしよう!』みたいなことが書かれてあった。
「なんだこれ? どっから拾ってきやがった?」
「カタカタ? カタカタ、カタッカタ!」
「なるほど……」
全く分からんな。
というか今日は一日その感じで行くのかよ……
「それにしてもまぁ……」
何ともこう背中に虫唾が走るようなイラストだこと。ケーキやチキンを囲んで魔族や人間が仲良く笑いあっていたり、エルフやドワーフなんかがカップルで仲睦まじくしていたりと……なんだこの「僕達、私たちは幸せ全開! 皆ハッピー!」なんてのを押しつけがましくしたようなものは……
「こんなのが今の魔族には根付いてるってのかよ……」
ふん、どいつもこいつも楽しそうだな。
まるで一人では居ちゃいけないみたいなのがなんか腹が立つ。
「カタカタ?」
「い、いや!? こ、こんなものに嫉妬やらなんかは決してしてはいない! ああ、していないとも!」
「カタカタ」
それに興味だって全然ないんだからね!
…………ふーん、今日がクリスマスって日なのか。へぇ……
「……魔族も人も皆で……か」
「カタ」
「……ふん。勝手にやってろっての」
俺は最古の魔王『序列7の魔王』伸縮のゲルオだぞ!
そこらの一般魔族なんかとは違うんだよ!
「カタカタカタ?」
「うん? あ、ああ配下への指示か」
そういやそんなんも一応いたな。うーん……
「今日もとくになーし!」
「カタ」
ま、こんな辺鄙な場所に誰も来やしないだろうしな。
「ああ、まあせっかくだからその『くりすます』とやらをしに帰っていいって伝えといてくれ。そんまま里帰りとかしていいからってのも追加でな」
「カタカタ」
ふむ、まあいて貰ってもこっちの居心地がなんかね……年末ぐらいゆっくりしたいだろうしな。
「カタ!」
ガチャ
うわ、なんかやけにキビキビと去っていたな。
「……ん? なんか落としてったぞ?」
みればさっきまでアロマがいた場所に冊子のようなものが落ちてあった。
「異世界人の『くりすます』とは?」
それは異世界の「クリスマス」というものについて簡単な紹介のされた冊子だった。
「アロマの奴『くりすます』に興味津々なのか?」
もしかしてこれを読んでいて遅れたのかもしれんな。
「……ふむ……へぇ……あ、そうなんだ……」
――――
――
「いいなぁクリスマス」
マジかよ、世の中そんなことになってたのかよ!
クリスマスというのは如何やら随分と楽しいイベントらしい。何でもその日は皆で外で遊んだり、なんか木とかを飾り付けして光らせたり、夜はパーティーをひらいてローストビーフとかいううっすい肉とか、七面鳥とかいう(たぶん顔が七つある鳥)をたべたり、丸太みたいな大きさのケーキを食べたりするらしい!
「そして極めつけは……さんたさん!」
知ってるぜ、聞いたことがある。たしかモンスターの中にはレアアイテムを自分から渡してくれる奴がいるってな! たぶんコイツはその類の奴なんだろう。俗にいうプレゼントモンスターって奴だな。夜に忍び込んでこっそり欲しいアイテムを渡してくれるなんてな……
「へ、粋なことしやがるぜ!」
よし、うちもやろう! 配下だっていっぱいいるし、まだ日も落ちる前だしな! 今からでも間に合うだろうよ!
「ふっふっふっ! そして夜はさんたを捕らえて……ふ、ふっふっふっ」
俺は久しぶりにお気に入りの黒いスーツに着替え、普段使わん玉座のない王の間へ向かう事にした。
――――
――
「カタ?」
「……あれ?」
おっかしいな……掃除してるアロマしかいない……
「アロマ、いつもここら辺にいるえっと、なんかおっさんみたいなのとかは?」
うん、名前どころかちょっと顔すらおぼろげだけどね。
「……カタカタ」
「うん?」
アロマはなんか外に指を向けてカタカタと言い出した。
「えっと……あっ」
外……ああ、そっか。俺が配下に帰っていいって言ったんじゃん!
「くぅう……じゃ、じゃあ今日はもう……」
「カタ?」
俺とアロマだけかよ……
「……アロマ」
「カタ」
「今日の夕飯は?」
「カタカタ」
「え、俺の大好物? マジで?」
「カタカタっ!」
「そっか……」
「カタ?」
「なあアロマ。今日ぐらい一緒に食うか?」
「……カタ……カタカタッ!」
「おし、そんじゃ年明けまでどうせ誰も来ねえし、王の間で飯食おうぜ!」
「カタカタ!」
「よおし! 今日はおかわりもしちゃうぞ!」
「カタ!」
――――
――
「なーんて感じでだ。おれだってクリスマスってのをちゃんと満喫したことがあるんだよ! けっして寂しく一人で過ごしてきたわけじゃないんだぞ!」
「カタカタ!」
『……』
ふっふっふ! たく本田の奴、何が「ゲルオさんってクリスマスって知ってます? 知らないですよね? 知ってても誰かと過ごすとか、あ、ごめんなさい」だよ。
「まあ、さんたのやつは困ったもんだがな! 一度たりともうちに来なかったからなアイツ」
まったく、プレゼントモンスターの風上にも置けん奴だな!
「り、リーダーそれってぜんぜん――」
「ソウタ、言わねえでおこうぜ」
「……く、クリスマスの夜に骨と二人っきりって」
うん? なんだよ野郎ども。その憐れんだような顔は?
「ふ、ふん! まあ、ゲルオのことですからそんな事だろうと思いましたわ!」
「……のわりにはえろう安心した顔しはったなポミアンはん」
「う、うるさいですわ」
「ゲル……」
「ん? なんだよルリ?」
「今日は……たのしも」
「あ、ああ」
え? なんで慰められたの? なんで?
「きょ、きょうはボクがいましから! 最高の夜にしましからね!!」
「あ、うん……」
気合入り過ぎだろヴォル……あと近い。
取り敢えず今日の夜は気を付けておこう。嫌な予感がする……
「といか本田、さっきから何俯いてんだ?」
「う、うう……」
「本田?」
「いや、ほんともう今こらえるのにいっぱいいっぱいなんで、もういいですゲルオさん」
「んん? まあ、そうか?」
「おーい! こっちの準備は出来たぞ!」
「飾り付けもオッケーね! 可愛くできたわ!」
どうやらボンとエルフが呼んでるようだ。
「おりょうりはガッキもおてつだいしましたよ!!」
そういって何故かミズモに乗りながらガッキがやってきた。
「おう、えらいなガッキ!」
「とうぜんです!」
「ガッキちゃん、そろそろ降りてくれないかなぁ」
「はは……」
まあ、考えてみたらあの日以来はアロマと二人っきりでばっかだからな。こんな大勢での『クリスマス』ってのは初めてだ。
「ふん、まあ今日は我がクラン初のクリスマスだからな! たっぷり楽しもうではないか!」
『おおー!!』
「カタカタ」
「ん? ……そうだな」
皆でワイワイと集まってる姿は、あの日みたイラストの様で……
「さ、いくぞアロマ! 今はあの日と違ってお前は食べられねえけどよ……一緒に楽しもうぜ!」
「カタカタッ!」
そして今日こそさんたを捕まえてやるんだからな!!
「……ま、でもいっちゃん最初にやったクリスマスも悪かなかったけどな」
――
――――
「おお、おいしいなアロマ! 二人っきりだがよ……これからは毎年やろうぜ」
「カタカタ!」
しっかしアロマの奴飾り付けとか用意していたとはな、ご飯も二人じゃ食べきれんほど豪勢だし……
実は『くりすます』をする気満々だったんじゃないか?
「ところで何で今日はずっとスケルトンに変身してたんだ?」
「……ないしょです」
ゲルオが羨ましい……




