39話 元魔王、変換って便利だなぁ
「覚悟しやがれヴォルデマール! 今からお前を、お前を……」
「アい?」
あれ、ちょっと待てよ。縮めても伸ばしても逆の事に変換してくるんだよな? てことは、アイツはこっちが起こしたことに対して反対の事に置き換えちまう能力ってことになる。加えて有効と思われた捕え玉もそれ自体を変換されて意味がなかった……
「どうしたのゲルオ?」
「……アレ倒すの無理じゃね?」
「いまさら!?」
「だって頼みの捕え玉が意味ないと不死のこいつにはどうしようもねぇじゃん!」
「しかしだな、前回は捕え玉によって難なく捕獲できたと資料にあったぞ」
「アメリア、それって何時の話だった?」
「百年前だ」
「そうか……」
ああ、そうか……百年前……
「バカなのお前! そんな前の事を鵜呑みにして来てたんかよ!」
「ば、バカとは失礼な! 前例に従えば事はうまくいくものだろう!」
「くそ、こんな欠点があったのかよコイツは……」
何でも前例通りにすりゃあいいもんじゃないだろが!
「にひひ、仲間割れでシカ?」
「いや、ちょっとした行き違いだ」
まあ、やる気のなかった俺にも問題は……うん、いっぱいあったしな。
どっちにしろこんな体にされた時点でコイツを何とかしなきゃならん。
それに、今回だって捕まえること自体は成功してたんだしな。
考えろぉ考えろ俺!
「とにかく私は攻めるのみだ! 行くぞヴォルデマール!」
なんてしてるうちにアメリアが突っ込んでいき、
「カタカタ!!」
何故かアロマも加勢しに行っていた。
「あ、アロマは大丈夫なのか?」
「ええ、見てみなさい」
「うん?」
アメリアが勢いよく切りつけるのを不自然なくらいヴォルデマールは避けるが、
「カタ!」
「いにゃ! またキミでしか? なんでキミの攻撃はアタるんでしかねぇ」
「……カタ」
アロマの攻撃は逆に当たらないような攻撃まで当たっている。
「さっきワタクシが攻撃した時もアロマさんの攻撃は何発もあたっていたわ」
「ブンタ、俺達もいくぞ」
「は、はい!」
そうして戦闘班が全員でヴォルデマールへ攻め込んで行く。だがどうにもうまく決まらず、アロマの攻撃もきれいに受けられ始めていた。
「ジリ貧だな」
「せやな、ゲルオはんも役に立たないしなぁ」
「おい、お前が言うなよ」
こいつはさっきからマジで何もしてないからな。
「受けるのも飽きてきたデシネ。ゲルオ様とニャンニャンしたいデシから攻撃に移っていいデシか?」
「なっ!? み、みんな! 全力で守ってくれ!」
「カタカタ!!」
「いや、まあ頑張ってはいるんだがな」
「ちっ! んな後方からいってもよぉ……なあ?」
仕方ないじゃん! 直接戦闘なんかできないし!
「にひひ! これでもいかがでシカ?」
そういうとヴォルデマールはブンタへ濃い闇の塊を放った。
「や、闇の上級魔法!? ぶ、ブレイズバレット!!」
すぐさまブンタはなんかカッコいい名前の炎魔法で相殺した。
「にひひ、魔法だけではないでシヨ?」
「くっ! はやい!?」
弾丸のような突撃にアメリアが剣で受けるが、
「にひゃあ!」
「ぐぅう!?」
ドンっ! という音と共にアメリアは吹き飛ばされてしまう。
「だ、大丈夫ですか! アメリアさん!」
「う、うう」
「近接戦闘だって得意何デシねぇ~これガっ! にっひっひ!」
「だったらこれならどうかしら?」
「アい?」
ヴォルデマールの頭上に幾つもの小規模な爆発が発生する。
パンッ! パパンッ!!
「おお! 流石ポミアンだ!」
「まあ、これで終わればいいですけど……」
爆発の煙が晴れると、そこには頭のないヴォルデマールが普通に立っていた。
「グロ! キモ!」
「うう、ワタクシ自分でやっときながら気分が悪くなってきましたわ」
そこからヴォルデマールはブルッと震えるとニョキっと頭が生えてきた。
「んしょ! ちょっとビックリしたでしね。頭が木っ端みじんニナッテ死んだと思ったデシよ」
「そのまま死んでりゃよかったのに」
つくづく不死って反則だな。
「強力な能力に最上位の魔法と武術……こんなのどうすりゃいいんだ……」
「げ、ゲンタさん」
なんかモヒカンが言ってるが、
「なあ、因みに精霊魔法で攻撃って出来ないのか?」
いかにも強力そうなんだけど? そこんとこどうなんだろ。
「出来りゃとっくにやってる」
「にひ、精霊はボクみたいな自然の道理だったケナ? それを無視シタのは苦手なんデシよ」
「どころか、さっきから精霊どもコイツが怖くて泣いててなぁ」
なんじゃそりゃ?
地図は読めんし変態にも手が出せないとか、マジ精霊使えねぇ……
「仕方ねえ、自分の身は自分で守らねばならんか」
「ゲルオ?」
「にひひ! ゲルオ様~どうボクと戦うつもりデシか? 縮めても伸ばしても直ぐに元に変換しちゃいマシよぉおお!」
そう言いながらヴォルデマールは俺に向かってくる。
「はん! 別に無効化してる訳じゃねえだろ?」
「アい?」
俺は奴の履いてるスカートの丈を伸ばしてやる。
「にひゃあ!?」
ズデン!
案の定ヴォルデマールは服に足を引っ掛けて盛大に転んだようだ。
しかし、直ぐにスカートは俺の意志とは関係なく元に戻ってしまった。
「イテテ、いったい何が起きたデシ?」
「カタカタ!」
「く、私としたことが……アロマ殿、加勢する!」
「?? あっ!? ちょ、ちょっと待つデシよぉお!!」
ヴォルデマールが転んでちょいパニックになっている間に、アロマと起き上がったアメリアが隙を逃さず攻撃しに行ってくれたようだ。
しかし、自分でスカートを戻した割になんでパニクって……
「あ、もしかして」
ポッケに常備しているカードを取り出す。
「ゲルオ、こんな時にカードで遊ぶ気? 女の子になってやっぱり気が……」
「ちげえよ!? ちょっと確かめたい事があってな」
俺は手に持ったカードを縮める。すると元には戻らず縮んだままだった。
「なるほどな」
「なんやゲルオはん」
「こいつの変換、どうやら俺の能力自体に対して常時発動している訳じゃないみたいだな。あくまで自分で触れたか、自分に向けられたことに対してっぽい」
まあ、触れられたら発動するって話だからな。
対象が奴でないならそりゃ適応されないか。
「変換にはルールがあるって事?」
「ああ、考えりゃあポミアンやアメリアだってルールがあるしな。奴の狂気や変態に隠れちまってたが、結局は俺と同じ魔王の力だ」
なら、対処や抜け道なんてのがあるってもんだ。
「でも、逆の事に変換するのは触れるのが条件だったとしても、捕え玉やスカートの変換は出鱈目だったわよ?」
「そこなんだよなぁ」
捕え玉を植物にとか、燃えカスからスカートとか滅茶苦茶だしなぁ
「それなんやけど、しりとりちゃうかな?」
「あん?」
いくら何でも色んなルール無視し過ぎてないかソレ?
「あの植物に変えたんはわからんけどスカートは下に落ちとったススをかえとったし、植物のほうもマリモとか呟いてた気がするしな」
「試してみるか」
俺はヴォルデマールと捕え玉の距離を縮めて触れさせる。
「にひゃ!?」
「おお! いいぞゲルオ殿!」
「カタカタ!」
一応だが捕まえられたけど……
「にひひ? 別に捕まってもすぐ出れマシよ? マ、マだからマッチ!」
マッチになった捕え玉はポトッとヴォルデマールの足元に落ちる。
「……しりとりだな」
「みたいね」
ちくせう! ちょっとは隠そうとしてよ!
まあ、滅茶苦茶な変換はしりとりって事か。
しかもさっきの植物にしなかったって事はだ……
「ヴォルデマールのしりとり変換、同じもんに出来ないんじゃないか?」
「しりとりのルールなら同じのはダメやね」
「で、でもまったく前後のつながり無しのしりとりって違うような気もするんですけど?」
ブンタ、賢しい子は嫌いだよ?
そんなこと言いだしたら魔王の能力なんかキリがないからな?
フワッとした理解でいいんだよ。
「てわけでポミアンちょっといいか?」
「ええ」
「そのだな……っていけるか?」
「出来なくはないですけど」
「頼むわ」
「にひひ? コソコソとまだ諦めないでヤル気デシか?」
「いや、お前が俺を今すぐに元に戻してくれりゃあ正直どうでも良いんだがな」
そもそもギルドに義理なんざ全くないしな!
コイツのせいで街が危機に陥ろうと、それを何とかすんのは俺の役目じゃねえし……
いや、まあ知り合いぐらいは何とかするけど。
「それはデキないでシヨ? それに例え倒されてもあの場所に戻るのは無理デシねぇ……」
「なら、こうするしかねぇなぁあ!」
「にひ?」
「ポミアン!」
「蒐集!」
ポミアンが言うや否や、捕え玉が時間差で次々ヴォルデマールに降り注ぐ!
「え!? ええ、えとえと、これはマ、マーマレードで、こっちはマスクで、こ、今度はマフィン! あ、ンだから駄目で……」
ヴォルデマールは捕え玉に捕まる度に変換をしていくが……
「ああ! もう多すぎるデシっ!? なら全部吹き飛ばして!!」
「やろうと思うよな? だから目いっぱいにどれも伸ばしとくぜ!」
「な、何デシ? 重いし、か、硬い??」
そう、ポミアンが呼ぶ捕え玉の重さと強度をな!
「にひゃあ……出れても出れても、また玉が……たまがぁアアァァ」
「……ゲルオ、これって何時まで続ければ?」
「そのうちマで変えれるのが尽きるはずだ。あとアメリア」
「……こんな戦い方が」
「アメリア?」
「ん? なんだ」
「一応切れ目切れ目で奴を攻撃してくれ。自然回復されて捕え玉が効かないと困るしな」
「あ、ああ」
「モヒカンとブンタもアメリアに協力してくれ」
「おう」
「は、はい!」
「あとキララ」
「なんや?」
「ポミアンがぶっ倒れるとマズいからな。念のためギルドに行って転移陣をここに描ける奴を連れてきてくれ」
「了解や!」
「アロマ」
「カタ?」
「疲れた……」
「カタ」
「はあ、後はこいつが俺を元に戻してくれればいいんだけどなぁ」
「に、にひゃあぁああああん! おねがいでしぃいい! もう、もう玉のおかわりヲ止めて下さいデシよぉおおお!!」
捕え玉の無間地獄にとうとうマジ泣きし始めたヴォルデマールだった。
――――
――
「うう、グス……あ、でもゲルオ様に捕まったと思えばご褒美の可能セイも?」
「ねえよ!」




