38話 元魔王、ヴォルデマールの魔の手
さて、これからヴォルデマールがいる部屋に突入するわけだが。
「いくぞ……」
心なしかアメリアのやる気もなくなっている気がする。
「あ、ちょっと待てアメリア!」
「どうしたゲルオ殿?」
「ノック……しようぜ……」
「……そうだったな」
アメリアは念のためノックを二回コンコンとした。
「そんなことしてももう遅いデシよ! さっさと入ってくださいでし!!」
バンッ!
「此処にいたのだな、ヴォルデマール!」
「お前が変態のヴォルデマールか!」
「序列3の魔王変態のヴォルデマールね!」
「変態、いやヴォルデマール! 覚悟してもらうぞ!」
「ヴォルデマール! じゃなかったです、変態!!」
「変態じゃないでシヨ! 変換のヴォルデマール! あと、最後の人は逆でしからネ?」
うるせえこの変態が!
「あ、けどゲルオ様に変態って言われるのはちょっとイイカも……にひひ」
「ひっ」
「というかゲルオ殿に随分とご執心のようだな?」
「にひひ、当り前でシヨ? ゲルオ様に会った時の事は今でも忘れてないでシヨ!」
ううん? 会った事あるのか?
俺は今一度ヴォルデマールを見てみる。
髪は赤くショートカットっていうのかな? 顔つきは中性的で、少年にも少女ともとれる。目は黒くてまつげが長い……くそ、どっちにしろ美がつく顔立ちだな。変態の癖に……
赤や緑のボロ雑巾みたいなモノを羽織っており、見ただけではやはり男か女かの判断ができない。特徴的なのは腕の長さが片方ずつ違い、継ぎ接ぎのような跡がいたるとこに見て取れることだろうか。なんか下は片方ズボンっぽくて片方スカートみたいな、とにかく不思議なもんを着ていた。あ、あと何故か裸足だ。
結論から言うと、こんな奴視たら忘れたくても忘れられん。
「あっ! そんなジロジロ見て、ぼくが誰かわかちゃいましたか? わかてない? あア、大丈夫ですよ大丈夫です! ぼくは私になてますから無理ないですね。かおも変わてますし。自分に変換を使い過ぎてこんなになってしまったでシヨ? ああ、でもまさかゲルオ様本人にこうして会えるだなんて! うう、今日はもう死んでもいい気分でシヨ!! まぁ死ねないデシけどね」
「……はい、そうですか」
「アい!!」
そうヴォルデマールは満面の笑みで答えるんだけどさ……
正直見ず知らずの危ない奴からの好意とか恐怖以外の何ものでもないからね?
「にひひ! ここでギルドのモノが来たら処分してくれって言われてマシけど、どうしマシかね? ゲルオ様のお仲間を壊すわけにもいけないデシよねぇ」
しかし、事前の情報じゃあもっと頭のねじがぶっ飛んでて会話が成立しないもんだと思ってたけど……
「な、なあアメリア? うまくいけば戦わずに済みそうじゃね?」
「ふむ、確かに当初は問答無用で戦闘になると思っていたが……」
「言われているほど気が狂っているようには見えないですものね。まあ、言葉の端々に若干の狂気は感じられますけど」
「ゲルオ殿、交渉してみて貰っていいか?」
「え、俺がやんの?」
提案しといてなんだけど自信ないなぁ
「まあ、適任でしょうね」
「ダメそうだったらすぐさま奇襲をかける、二段構えだ」
「卑怯……とはいえねぇか。相手はあれでも序列3の魔王だしな」
「頑張ってくださいゲルオさん」
「カタ」
「お、おう」
「ゲルオ様? コソコソ何をしゃべってマシか?」
「あ、いやな? ほら、そのぉ……な?」
「アい! よくわかんないデシけどボクに何か用があるんでしね!」
「おう、そうだ」
「うーん何でしかねぇ? 正直此処にゲルオ様が来ることは予定外なんデシよぉ」
だろうね、俺も予定外だったし!
「まあ、お前が言うように俺はギルドに言われてきたんだがな? よかったらこのまま何もせずに一緒に街に帰ってくれたりしたりしてくれちゃったりとか出来ないかなぁなんて……」
「戦わないでしか?」
「あ、ああ! そう戦わずに!」
「ボクと一緒に街へ?」
「うんうん!」
そう言いながら横を見ると、アメリア達が直ぐにでも動けるよう戦闘態勢に入る。
「うーん…………ゲルオ様」
「何だ」
「えっとでしねぇ、一つだけ条件があるんでシが……」
「な!? 条件だと……」
「ゲルオ殿、あんまりな事なら直ぐに断っていいぞ」
「ええ、ダメでもワタクシ達がいますから」
「アメリア、ポミアン……」
「い、いいでしか?」
「ああ! 言ってみろ!」
まあ、この際よっぽどの事じゃなければ応えてやろうではないか!
元魔王として、それに何でかわからん俺への好意も鑑みてな!
「その……唾液とかくれません?」
「無理」
「ここまでか、御免!!」
待機していたアメリアが瞬時に動きだし剣を抜く!
「ゲルオ様ぁあああ!」
「くそ! 寄るんじゃねぇえっての!
「っ!?」
近づこうとしてきたヴォルデマールを俺は能力を使ってその場に留めさせる。
「はぁああああああ!!」
動けないヴォルデマールをすかさずアメリアが左に切り上げてから返しでもう一度切りつける!
「にひ、ひひひ? こんなのでボクを殺せるとでも?」
「ふん、思ってはないさ」
「アい?」
「欠けた体はモノですわよね?」
「あれれ? ボクの胸から下が無い?」
「直ぐにくっつかれると困るのでな、悪いがそうなる前に回収させてもらった」
見るとポミアンの近くに胸から下のヴォルデマールの体が落ちていた。
「や、焼いちゃいます!」
そしてブンタがあっさりと炭化するほど燃やしてしまった。
「さらについでのプレゼントよ」
ポミアンの合図で俺はヴォルデマールと奥の壁の距離を縮ませ、そこへポミアンが集めた岩を落とす!
てっ! デカすぎないか!?
ズゥウウン!
「あ、ちょっと大きすぎましたわね」
「うう、床や壁がぁ」
だが流石にこれだけやれば奴も……
「やったか!」
「おい! 何言ってんだモヒカン!」
どうして何時もこいつら冒険者はフラグ立てるんだよ!!
「……にひひ、にひひひ! ひどいデシねぇ」
ほら!? ピンピンしてんじゃん!
「容赦ないでシネぇ……いくらボクが死ねないからって、あの部分はお気に入りだったんでシヨ? まだ使えるデシかねぇ」
「く、ゲンタ! まだ弱っているとは言えないか」
「精霊どもがHPはもう4割切ってるってよ!」
「捕え玉の確定範囲です!」
「あ、捕え玉ってHP依存だったのね……」
いい感じってそゆこと。
「ならば好機! くらえ!」
アメリアが捕え玉を投げると、小さくなっていた球は大きな魔法陣を展開してヴォルデマールを包み込んでしまった。
「……捕え玉でしカ、魔王神の奴まだボクを利用したいんでシネ」
「ふん、死ぬことのないお前にはコレが一番だと聞いたのでな」
「……にひ、そうでしねぇ」
そう呟くと、ヴォルデマールは魔法陣の浮かんだ捕え玉の中で大人しくなってしまった。
「ふぅ、しかしもっとギリギリの戦いになると思ったが案外あっさりだったな」
「……ゲルオ、一応この捕え玉ごとヴォルデマールを縮めといてもらえるかしら?」
「うん? そうだな」
俺はヴォルデマールに近づき縮めようと屈んだ。
「さってと、悪いが運びやすいように縮めさせてもらうな」
そういってヴォルデマールと目が合うと、奴はニヤリと口が裂けそうな笑みを浮かべた。
「……玉だから変換マリモ」
「あん?」
「っは! マズい!!」
気づくと目の前にはヴォルデマールが迫って来ていた!
「くそっ! そのまま縮んじまえ!!」
「わ、わわぁ――」
咄嗟のことで縮ませちまったが……
「捕え玉を何か植物の玉みたいのに変換したのか……」
「危なかったわねゲル――」
「ぁあ、てもう! ゲルオ様何遊んでるんでシカ?」
「な、なぁああ!?」
コイツ、何で元に!?
「ボクを縮めても仕方ないデシね! 変換は逆にするのが簡単デしヨ!!」
「縮んだ状態を変換したってのか……」
「そうでしヨ! ニヒヒ! 次はどうしまシカ?」
「おい! どうすんよアメリアさん?」
「く、ゲルオ殿! 取り敢えず一度距離を!」
「あ、ああ!」
ん? けど縮んだのを変換できるって事は……
「おっとっと? もぉう無駄でしヨ?」
「お、おまっ!?」
ひぃい! 近い近いちかい!!
「ゲルオ!」
「もう我慢できないでシヨォお! ゲルお様、いい?」
「いや、だめで――」
「はい、タッチ」
「あ」
「変換」
ヤバい、死ぬのか?
「カタカタ!」
「うわわっ!」
「あ、アロマ……」
「カタ!」
アロマが直ぐに奴を体当たりで吹っ飛ばしてくれたが……
「ぐ!? うぅうう」
胸が!? 胸が張り裂けそうだ……
「だ、大丈夫かゲルオ殿!」
「ぎぎぎ、む、胸がめっちゃイタイぃい……」
「ニヒ! 何かに邪魔されマシけど、うまくいったデスネ!」
「ヴォルデマール……おまえぇえ!!」
「カタ……っ!!」
「ニヒっ!」
ポミアンが吠えてアロマがヴォルデマールへ向かっていったのが見える。
その後、凄まじい戦闘音が聞こえてくるんだが……
「げ、ゲルオはん!? ホンマにヤバいとちゃうかコレ?」
「俺、イマどうなって……」
なんか顔も痛いし、喉もおかしくなってきてる……
くそ、話に聞いた血肉とか……マジで勘弁なんだけど……
あと、キララお前の持ってるその装飾品は何だよ?
さっきから見ないと思ったら……
「だ、大丈夫だゲルオ! ステータス上はHPも減ってねぇから死にはしねぇぞ!」
「そうだぞゲルオ殿! 形は変わっても貴殿は貴殿のままだ!」
モヒカン、アメリア、それって根本的な解決になってねぇだろ……
「ぐぅうう!」
「ど、どないした!?」
「いや、その……だ……なぁ」
女子には言えんが男の大事な部分が痛いとか通り越しそうなぐらいイタイ!!
「うぅううううう」
あ、ホントにもう息ができないぐらいイタイ……っ!!
「…………あれ?」
「うん? どうしたゲルオ殿」
なんか急に痛みが治まった。
うんん? ていうか胸のあたりに違和感がある。
俺は恐る恐る自分の胸を触ってみる。
ムニョンムニィ
「っ!!」
え? なにこの幸せな感触は!?
「ゲルオはん、蹲ったままやけど大丈夫?」
「キララ、あ、いやその……」
え、いやまさかな、まさかそんな事……
「あら? ゲルオはん、なんや顔つきがえらい変わってへんか?」
「それにゲルオ殿、そんなに声が高かったか?」
は、はは……うそだ、ウソだよな? た、確かめねば!
俺は皆に見えない様にズボンの中へ手を伸ばす――
「おい? ゲルオおめぇホントにだいじょ――」
「あアアっ!! なぁいっ!!」
「おわっ!?」
ない! ないない! 俺を俺としていた大事なモンが綺麗になくなってる!!
「ビックリさせんじゃね……えよ……」
「ゲ、ゲルオはん、あんたその体!?」
「は、はは、何か体が女になってんだけど」
声もなんか女みたいになってんし、立ち上がってみると目線の高さまで低い……
「ふむ、ゲルオ殿」
「……んだよ」
「しね」
「なんでっ!?」
「ああ、うちも殺意が確かに湧いてくるわ」
「おい、なんで今の俺にそんな事急に言うの!?」
「……ちっ! 何だその乳袋は、殺されたいのか?」
「え、いやその……てか、俺のせいじゃないだろ!」
それに、胸にこんなもんがぶら下がった代わりに大事なもんが無くなってんだぞ!
「おのれ、おのれぇええ! ヴォルデマール!!」
絶対に許さん!
「にひひ、ゲルオ様も晴れてボクと同じになりましたデシねぇ」
見ればアロマとポミアンの猛攻を腕だけで器用に搔い潜りながら、ヴォルデマールは炭化した半身へとカサカサと近づいていった。
「にひひ、まだ使えそうでシネ」
能力を使ったのか、気づけば元通りの姿に戻っていた。
「あ、ズボンのこと考えてなかったでしねぇ……」
「ブっ!」
「ゲンタさん……」
「す、すまん」
うん、まあ女だったとだけ言っておこうか。
ただ直ぐに近くにあったススを手に取り、炭で出来た様なスカートに変えてしまった。
「変換スカートっと! にひひ? 失礼しましたデシネ」
「ゲルオ? 平気なの……て誰?」
「うう、ポミアン俺だよ。信じられんかもしれんがゲルオだ」
「え? なに、え、えええ!?」
「カタ!」
「あ、アロマぁ」
「……カタ」
「見るなアロマ! 今のきっとメッチャ可愛くて胸も大きくて声も素敵な、そんな元魔王様の俺を見ないでくれ!!」
「……意外と元気そうね貴方」
「カタ、カタ」
そう思わんとやってられん! これで不細工で名前がゲルオとか最悪じゃん!!
「にひ、にひひ! 大丈夫でシよゲルオ様、ちゃーんと可愛いデシから」
「そ、そうか……よかった」
じゃなくて!
「ヴォルデマール! なんでこんな事しやがった!」
「変換の力でわざわざ性別を変えたのか……意味あるのか?」
「ゲルオを慕っていたように見えたのですけどね?」
たしかに、何故に俺を女にしたんだ?
「あれか? 男っぽい女が好きだったとかか? でもコイツ女だったよな?」
「はぁあああ」
ヴォルデマールはわざとらしく大きくため息をする。
「わからないでしかねぇ? 男を女に変えるからいいんデシ! 女っぽい男でもなく! 男っぽい女でもなく! 男だったのに強制的に女に変えるからいいんでシよ!! さらにそれが好きな人だと倍率ドン!!」
くそ、ちょっと共感しちまったのが悔しい!
「ふん! 所詮は変態の狂人か。まあ、被害が軽症だったのは良かったが」
重症だよっ!!
「にひひ、じゃあ第二ラウンドとでもしマシかね?」
「いいぜ! いい加減に俺もうんざりしてきたよヴォルデマール! いや、この変態っ!!」
「にひひ、あざっス!」
もう、ホントにこいつ嫌なんですけど……




