30話 元魔王、働かない。
「カタカタ」
「おう、おはようアロマ」
今日も清々しい朝だ。
チュンチュンと小鳥が囀っていてなんとも穏やかな気持ちにさせてくれる。
「カタカタ」
「うむ……」
アロマが最近とるようになった新聞を渡してくれる。
「えっと、おいおい!? 人族の国で勇者が大量に行方不明だってよ!」
「カタカタ」
平和に見えても水面下じゃまだ怖い世の中って事かね?
因みに今日のベヘモットとかいう4コマ漫画を読むのが一番の楽しみになっている。
「どれどれ、あ――」
オチを読もうとした瞬間、新聞はパッと手から消えてしまった。
「ポミアンめ……」
まあ、いいか。
俺はこのまま布団にいるとまた寝てしまいそうなので、仕方なく食堂へ行くことにした。
――――
――
「カタ」
「おう、あんがと」
アロマにいつものミルクティーを淹れて貰い、口にパンを放り込む。
「あむ、ズズゥ……」
ああ、しあわせだぁ
そんな至福の時を過ごしていると、他の皆もぞろぞろと集まって来た。
「本田、おはよう」
「……」
あれ? 聞こえなかったかな?
「カタ?」
「あっ! おはようございますぅ。アロマさん」
「カタカタ」
「おはようございます。アロマさん」
「カタカタ」
「おはようアロマさん」
「カタ」
「……」
あの、俺もいるんですけど?
「アロマさん、ゲルオさん。おはようです!」
「カタ」
「おおう! おはようミズモ!」
よかった、これでミズモにまで無視されてたら部屋に引き籠るとこだった。
「あら? いたの。はやいわねゲルオ?」
おい、朝一番からいたよ!
「まあいい、なんか最近からだの調子がいいからな」
「そう」
「なんだよポミアンその目は」
「はぁああ」
な、なんだよそのため息!?
普通そんなはっきり聞こえないからな?
「……ゲルオ、いい加減働きなさい」
朝食を皆で囲んでワイワイし始めるなか、ポミアンが空気も読まずにブッコんで来た。
「おいおい、そういうのは本田の役目だろ? なあ?」
「ええー、あたしそんな空気読めない事しませんよ?」
「ヒロ、流石にフォローできないわよ?」
「ポミアンさん朝からどうしたんですか?」
「ああっ! あれだろ? 俺やミズモと違って女の子はさ、な?」
色々あるもんな、察してあげないと。
「違う上に失礼極まりないのですけど……っ!」
「ゲルオさん最低な発言ですよ」
「カタカタ!」
うう、女子が結託して俺をいじめるんだが……やめてよ泣いちゃうでしょ?
「でも、ゲルオさんギルドから謹慎処分受けてますよね?」
「そうそう! いやー参っちゃうなぁ。これじゃあ働けないよー」
この前のやらかしで魔王ムライの苦情も合わさりボンと共に二週間の謹慎処分を受けてしまったのだ!
働かない理由が此処にある……グッジョブだムライ!
「そんな嬉しそうに言わないでもらえないかしら? 大体ギルド以外にも働く方法は幾らでもあるでしょうに」
へえ、そんなこと考える奴信じらんねえなぁ
……まあこの前の俺だけど。
「でも、ゲルオさんなんか雇っても良い事ないですよ? サボる事しか考えない人ですからね」
おい、なんかとかいうなよ。
「ええ、それでもこの一週間食って寝るしかしないコイツを見てるとイライラが……」
ええ!? ちゃんと家事手伝いも少しはしてるじゃないかよ?
自分の食器片づけたり、俺専用のドラム缶風呂洗ったり、洗濯も本田が俺の服と混ぜるとかキモイとか言い出すし……あ、泣きそう。
「確かにこの人ホントに動きませんよね。私、昨日なんかご飯の時しか会いませんでしたし」
く、よけいな援護をするんじゃないエルフっ!
というかコイツなんだかんだで此処に住み着いてたんだな……今の今まで気にしてなかったわ。
「だいたいそうは言うがな? ポミアンだって働いてねえじゃん!」
「ああ、確かにポミアンさんっていつも何してるんです?」
「ワ、ワタクシはいいのよ。働かなくてもお金はあるし」
「でもそれってゲルオさんと同じ考え方ですよね?」
「ぐふぅ!?」
本田、相変わらず容赦のない女だな。
「そ、そういう本田はどうなのです?」
「あたしはリリアと一緒にギルドでクエストこなしてますもん」
なに!?
「ねー!」
「え、ええ」
「ど、どういう事だエルフ!」
「どういう事も何も私は『光の栄光亭』に戻る為にも旅費が必要ですし。それをヒロが手伝ってくれてるだけですよ?」
「ほ、本田が遠い存在に……」
「じ、自分だけズルいですわ!」
「ず、ズルいっていわれても……」
「これじゃあワタクシ達だけが働いていないみたいじゃない!」
「そうだそうだ!」
「いやいや、働いてないでしょうがあなた達は」
「ミズモ、俺達はやっぱり元とはいえ魔王って事なのかもな……」
「何言いだしてるんです? この人」
「ふん! 社会になんぞ合わせられんということさ! な? ポミアン、ミズモ!」
「ええ! たまにはいいこと言うじゃないゲルオ!」
「あ、えと」
「ん? どうしたミズモ?」
恥ずかしがらなくてもいいんだぞ?
俺達、同じリストラ魔王なんだから……
「ボク、一応ですけど農場で今は働いて……ます」
「……」 「……」
「……ご、ごめんなさい」
「……いや、いいんだミズモ。それでいいんだ」
「ええ、なにも間違っていないもの」
「カタカタ」
ああ、そうだなアロマ。
「ポミアン……働こう」
「ええ」
「この人達ホントにダメな人ですよね」
「ヒロに言われるぐらいだからね」
――――
――
「では! 先ずはギルド以外でどう働くか何だが?」
俺とポミアンは皆が去った食堂でさっそく働くにはどうするか話し合うことにした。
「ゲルオ、ワタクシは別にギルドで働けますけど?」
ちょ、ちょ、ちょい!!
「そんなこと言うなよ! ポミアン一緒に働こうよ!」
「そんな義理ないですもん」
「それに、本田とエルフについていけるかお前?」
「ううっ!?」
知ってんだぞ? お前が極度の人見知りだってこと。
「自分一人で受付に行けますか?」
「…………む、むり」
うんうん! それでこそポミアン!
拗らせてんなぁ
「てわけでだ! どうやって働き口って探すんだ?」
まさかギルド以外で職業斡旋がない訳ないしな。
「ううん、考えた事なかったからわからないわね」
「そもそも、働くってどうやるの?」
「……集めるのは得意なのだけどね」
「俺も伸び縮みさせんのはできっけど……」
「…………」
「……」
――――
――
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
んん? もうそんな時間か……
「あれ? ゲルオさんとポミアンさん何してるんです?」
「ほ、本田……」
「いや、あれからずっと此処で二人で話し合ってたんだけど……」
「え?」
「ずっとですか?」
「うん」
「いやいや!? おかしいでしょ!!」
「え、エルフ!?」
「きゅ、急に大声出さないでちょうだい」
ちょっとビビっちゃったよ。
「だって、だって色々あるでしょ? バイトするとか、農協ギルドにいくとか?」
「バイトはその……な?」
「面接とかムリ」
「そもそも志望動機とか金の為しかないし」
「そうなるとどうせ落ちるし、ワタクシ人に下げる頭持ってないですし」
「やっぱ俺、謹慎解けるまでゴロゴロしてるわ」
「ワタクシもお金の心配がなくなるまでゲルオに賛成ね」
「フッ、ポミアンならそう言ってくれると思ったぜ!」
「ワタクシもイライラしてごめんなさい。貴方も元とはいえ魔王、仕方のない事でしたのね」
「よし! そうと決まれば時間も時間だし飯にしようぜ!」
「ゲルオ、その前に貴方は風呂掃除しなさい」
「ああ! 任せときな!」
そんじゃ、風呂洗ってきますかね!
「……ヒロ?」
「なに?」
「アレ、何とかなんないの?」
「無理」
「そっか……」




