29話 元魔王、大人ってつらいね
なんだかんだあったものの、俺達は『巨獣の魔窟』から逃げ延びることが出来た。
「はあ、はあ、何とかなりましたね」
「ああ、けど……」
「ん? どうしたボン?」
「クエストは失敗だな。道中の魔獣の素材も基本燃やしてほとんどないし……」
「う、確かにそうですね」
「……」
クエスト失敗、だと……
マジかよ!? 素材も無けりゃ魔王にまで目を付けられて!?
というかそもそも、
「何のためにここに来てたんだ?」
金に目が眩んで理由を全く聞いてなかったな。
「あっ! ゲルオそれは――」
「実はですね。これは自分達を召喚した国からの交換条件みたいなもので――」
あ、しまった。
「ゲルオ、お前は自分で聞かないようにしてたんだろ?」
「ああ、そだったね」
俺のバカ、自らフラグを立ててしまうなんて……
――――
――
「――という訳なんです。まあゲルオさんには関係ない事ですけどね」
くそ! もう関係できちゃってるよ! そんな話聞いた時点で!
「要するにだ。僕達が戦っていたあのロードからでるレア素材を持っていけば、本田さんにかかっている嫌疑をもう一度考えてくれると」
「はい。彼女だけが勇者の称号を持っていなかったせいで、それだけで危険分子として扱うなんて!」
「俺達はなんだかんだ言っても同じクラスメートだからな、やっぱほっとけないぜ!」
「ええ、知らない世界で見知った人をそのままになんてできないです」
へぇ、考えてくれるねぇ
「辞めちまえよそんなこと」
「なっ!? げ、ゲルオさん!」
「どうせロードが現れるのは来月だし、だいたいお前らの事なんて聞いてくれないぞ?」
そもそも召喚なんてしてる時点で疑おうよ。な?
「で、でも確かにお姫様が持って来てくれれば何とかするって!」
「むりむり、世の中一度決定したことなんかそうそう覆らないんだよ。キツイ言い方だが諦めろ」
「そ、そんな……それじゃヒロちゃんが……」
「どんな嫌疑か知らねえけど、おおかた本田の奴が空気読めずになんかブッコんだんだろ?」
「な、なぜそれを!?」
「ああ、確かに彼女ならあり得るね」
「だろ? ボン?」
ポミアンの時も、緊急クエストの時もそうだったしな。
「嫌疑が晴れたって変わんねえよ。すぐに問題おこすぜ?」
「う、でも、ヒロちゃんは自分の、俺の……」
「リョ、リョウタ……」
「……確かにゲルオさんの言う通りかもね」
「マ、マリ!?」
「リョウタも見たでしょ? ゲルオさんのあの判断力や対応力を」
「ああ! おんぶされっぱなしだったけどゲルオ兄貴は流石だったぜ!!」
う、情けないとこ指摘しないでよ!
「本田さんが此処に住んでいる限り、あの国も手はきっとだせないわ」
「そ、そうだね……」
「ていうかさ、お前らも此処に住んじまえよ」
「え、ここに?」
「ああいいかもね! ギルドに登録すれば住民票も貰えるし。その国に義理立てする必要なんかないだろ?」
「で、でも自分たちはまだ学生ですし……」
「おいおい? それは前の世界での話だろ? エンジョイし過ぎるのもアレだがよ」
「は、はい」
「もっと自由に楽しく生きようぜ!」
「い、良いんでしょうか?」
「じゃあ逆に何がダメなんだ?」
「その、自分たちは召喚された身で……自分は皆を……」
「それはダメな理由にならんだろ?」
わからん? 何に遠慮してるんだコイツは?
「けど、自由にっていってもこのまま冒険者なんかで生きていけるんでしょうか?」
ああ、そういや異世界人って何故か冒険者ばっか目指すよな?
「別によ、冒険者になるだけが生き方でもないだろ? お前ら18人もいるならもっと別の事やればいいんじゃないか」
「別の生き方ですか?」
「い、いいのかゲルオ兄貴? 俺達はこんな力持ってるんだぜ?」
「いやいや、せっかく授かった力だからって無理に使う必要はねえだろ?」
というか俺に決定権ないからね?
「でも、召喚されたときに姫様たちは……力は義務だって」
義務? 何それ?
「力を持ってるだけで義務なんかないだろ。使うならまだしもな」
「カタカタカタ」
うむ、アロマも頷いてくれてるしな!
「だいたい、それはお前らのもんなんだから。使うことも使わない事も自由なんだよ」
『っ!?』
「だよな? ボン」
「……ああ、ああっ! その通りだゲルオ!」
たく、なんでこんな良い子ちゃんなのかね?
まだ子供なんだからやりたいようにやってみればいいのにな?
「ともかくだ。今回の報酬はお前ら持ちって話だがよ、その金使って他の事やれば?」
「い、いいんですか?」
「ていうかクエストも失敗だしな」
「ちゃんとサポートも出来なかったからね」
正直、60万Gは欲しい。めっちゃほしい、欲しいけど……
「あ、有難うございます! ゲルオさん!!」
「みんなでかき集めたお金だったもんなぁ」
「ええ、でも力を合わせればきっと……」
そのままリョウタ達は話し合いながらギルドへ帰っていった。
「けどホントにいいのか?」
ボンが近づき聞いてくる。てか、近すぎないか?
「……いいんだよ。ここで金なんか貰ってみろ? 罪悪感で奴らにこれからも協力したくなっちまうだろが」
「ゲ、ゲルオ、君って奴は……」
よその国の問題にこれ以上首を突っ込みたくないんだよ!
あ、でも……
「い、1万G、でなくて千Gでもいいから貰えると、うれしいかなぁ」
「ゲルオ、ホントに君って奴は……」
いいだろ! けっこう俺頑張ったんだから!!
「カタカタ……」
――――
――
――「闇の囁き亭」前
「それでは今回は有難うございました!」
『有難うございました』
「お、おう」
総勢18人の感謝の言葉に正直ビビる。
「ゲルオ兄貴! 俺達しばらくは今泊まってる宿にいることにしたよ」
「ええ、もし良かったら尋ねに来てください」
「あと、何だかんだでスキルレベルは上がったりしたんで。これ当初より少ないんですが……」
そういってリョウタはお金の詰まった袋をくれた。
「お、おお。すまんな」
あれ? なんか結局ちょっと申し訳ないような気分に……
「良かったなゲルオ」
「ああ」
「じゃあ、本田さんのことよろしくお願いします!」
「うん? 明日も尋ねに来るんだろ?」
「いえ、自分達はこれからどうするか決めなきゃいけないんで」
「本田さんのことはゲルオさんに任せれば大丈夫だと分かりましたしね」
「そうか……」
正直、返品できるならしたかったんだけど……
「じゃあな! ゲルオ兄貴!」
「いちおうしばらくは『吹き溜まり』ってホテルに滞在してるんで!」
「へえ、そうか……」
ん? 『吹き溜まり』ってあのホテル『吹き溜まり』か?
「では失礼します。縁があったらまた!」
「あっ! ちょいまてリョウタ!」
「? なんですか?」
「あ、いや」
く、あの時の勇者の団体がお前らだったか聞こうと思ったんだが――
「どうしました?」
く、信頼しきった目で見られると、こんなみみっちい事で文句言えない!
「そのだな……あっ!」
「はい!」
「お前はそんなに頑張んなくてもいいぞ? 自分なんて堅ぐるしく言わなくていいし、俺っていっていいし、本田だってヒロって呼びたいなら呼べばいい」
「あ……」
ふふふ、まあ俺を慕ってくれたからな。
ちょっとは気を楽にさせてやるか。
「お前を評価する奴なんてここにはいないんだから、気なんか使わずに行こうぜ?」
「は、はい……はぃ」
「そんだけ。じゃあ、またな?」
「はい! 自分……おれ、ホントに感謝してますから! また絶対会いましょう!!」
リョウタは何処か吹っ切れたように帰っていった。
ガキはやっぱあれぐらいでいいよな?
「カタカタカタですね」
「ん? だよな、アロマ!」
しかし、残り15人の勇者は最後まで喋らなかったなぁ
因みに……
「では『巨獣の魔窟SSランク:ベヘモットロード討伐』は失敗ということですね。あとお二方には魔王ムライ様から苦情が入っておりまして――」
あのやらかした責任は俺らがとるのかよ……
「ゲルオ聞いてます? 貴方たちは彼らの保護者的な立ち位置でもあったんですから――」
その後ロッテとさらにはカラ坊からの有り難いお言葉を1時間も聞くハメになった。
カラ坊の奴め……嬉しそうな顔しやがって!
はあ、大人ってつらいね。
お読みいただいて有難うございます!m(__)m
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