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20話 元魔王、サボる


 自己紹介を無視された俺は、トボトボとアロマと一緒に追いかけていた。


「あのソウタとかいうガキめぇえ、絶対に許さない。絶対にだ!」


 大体、アロマに対しても配慮が見られなかったのも気に食わん!


「しかもアイツあからさまに本田とポミアンを意識してたぞ。あんな美少女侍らしてるくせによ! 節操がねえよ、まったく!」


「カタカタ」


「うんうん、やっぱアロマが一番いい女だよ。それがわからんとはな、クソガキが」


「カッ! カタカタ……」


「何してたんですゲルオさん?」


「何かボソボソ言っていた気がしますわね」


 自己紹介! 頑張って言ってたんだよ!


「くそ、俺の勇気を返してほしい」


「カタカタ」


「何言ってんです? さ、行きましょうゲルオさん」


「お、おう」


 知ってるよ、俺と関係なく世の中が動いてるって事ぐらい。



――――

――


「月の森林」 


 そこは大きな丸い泉があるのが特徴的な、森林型のダンジョンだ。深い森になっている為に日中でも薄暗く、そこにぽっかりと開いた丸い泉部分が月のように見えた事からその名が付けられたという。主なモンスターは「スラゲ」というクラゲに似たスライムで、夜には発光しながらフヨフヨ浮いていて非常に幻想的な光景らしい。


「まあ、そんなところね」


「詳しいなポミアン」


「ダンジョンの形式を蒐集していた時があるだけよ」


「ああっ! 此処からでも青い泉が何となく見えますね!」


 確かに遠くにそれっぽいのがあるが泉にしちゃデカくないか?

 ついでに戦闘音もそっちから聞こえてくるし……


「……そ、そうね」


 ん? けどあれって……


「おい、みんな見てくれ! どうやらこの先で戦闘が起きてるみたいだ!」


 ソウタとかいうガキが声高らかに言うが、


「みりゃわかる。誰に説明してんだアイツ」


「ゲルオさん駄目ですよ。頼んでもないのにリーダーになろうとしてるんですから」


「そ、そうだな」


「ワタクシ、本田の方がヒドイと思うんですけど」


 思うんですでなく実際かなり酷いだろ。


「あ……あはは」


「むぅうう」


 ほら、奴の取り巻きも機嫌悪くなってるじゃねえか。


「そ、それじゃあ、これからは戦闘区域へオレ達も行くって事でいいかな?」


「ええ、早く行かないと終わっちゃうかもしれないしね」


「ただでさえ出遅れてるんだから、とっとと行きましょうソウタ!」


「……うん」


 ふーん、良いんじゃないかな? 君たちはそれで。


「じゃあ、えっとそちらのリーダーは……」


「俺だ」


 こうみえても器の広い男なんでな!


「えっ!?」


 な、何だよ? 俺がリーダーじゃおかしいのか?


「ポミアンさんどうします? あんな勘違いしてますけど」

「器が小皿程度の癖に、良くリーダーなんて言えるわね」


 くそ、聞こえる声でコソコソするんじゃない!

 一番ココロにダメージ負うんだよ!


「ああ、えっと何て名前だっけ?」


「ゲルオだ。あとお前より年上だからな? ちゃんと“さん”つけろよ」


「あ、すまん。てっきり同い年くらいかと……」


「ゲルオはああ見えて千歳は越えてる魔族よ。まあ、中身は……」


 おい、そこでつまるなよ!


「ゲルオさんは千歳児って感じですもんね!」


「せ、せんさいじって……」


「うわ、子供っぽいの? やっぱりソウタ以外の男はダメね」


「……うん?」


 不思議だね。「じ」って単語つけるだけでこんなに引かれるなんて……マジふざけんなよ?


「と、兎に角ゲルオさん! 急いで応援しにいきましょう!」


「ああん?」


「んで、できるなら魔王を討伐しちゃおうぜ!」


「ソウタならいけるわよ!」


「ふん、私達なら問題ないわ」


「……うん」


 何かすげえ盛り上がっているとこ悪いが――


「いや、俺達はここに残るわ」



『ええ!?』

「……?」



 え、何? なんでそんな意外そうな反応なの?


「何言ってるんですか、ゲルオさん!」


「他に戦ってる奴がいるなら無理していかんでもいいだろ」


「で、でも魔王の脅威が迫っているのよ?」


「それはアンタらみたいのが止めればいいんでない? 俺は別にいいわ」


「はあ? 何よその言い方! それでも冒険者にゃの!!」


 おいおい、興奮しすぎだろ。語尾がおかしいぞ?


「ほ、本田さんだって行きますよね!」


「え? 嫌ですけど」


 だよね! お前ならそういうと思ってた!


「ポ、ポミアンさんは元魔王としてやっぱり行きますよね?」


「エルフがワタクシの何を知っているのかしら? 行くわけないでしょ」


「え、えとそこのスケルトンさんは?」


「カタカタ」


「う、わからない」


 あぶねえ、アロマは行ってもいい感じだったな。


「まあ、そういうことだ」


「な、な……っ!」


 おお? 何だその信じられないもの見たような顔は?


「じゃあなんで緊急クエストに参加したんだよ!」


「おいおい、敬語で話せよ」


 俺でなかったら土下座級の失礼だぞ。


「くう、何で、参加、したんですか!」


「そんなの決まってんだろ? それは――」


「それは?」


「――何もしなくても参加報酬が貰えるから」



『…………は?』

「…………ほう」



 え、何この間?


「俺なんか変なこと言ったか本田?」


「いえ、当初の予定通りですよ」


「ポミアンもそうだろ?」


「ワタクシは元々参加する気もなかったですから」


「という訳でだ。お前らで勝手に討伐なり、それで英雄にでもなったりして来い」


 こちとら楽して金が欲しいんだよ。

 お前みたいな楽しい異世界ライフとは違うんだよ!


「ふん! もう行きましょうソウタ、こんな奴らに構ってられないわ」


「そうね、私達だけでも何とかなるわよ」


「……」


「……そ、うだな。行こう! 今までだってこの4人で何だってできたんだしな!」


 おうおう、頑張れ頑張れ。んでサクッと終わらせて俺達を帰らせてくれ。


 まあ、終わらせられればいいがな……


「こんな事にかまけている場合じゃないもんね!」


「ああ! オレ達『蒼の絆』の強さを存分に発揮しようぜ!」


 うう、何か聞いてたら鳥肌立ってきたんだけど。


「じゃあ、ソウタさん達さよならですね」


「いってら」


「……ふん、臆病者め」


「行きましょうソウタ」


「ああ」


 そう言ってソウタとその仲間どもは行ってしまった。



――――

――


「ふ、ふふふ! 臆病者ですってゲルオ」


「はん、臆病者で結構だよ。それにポミアンは気づいてるんだろ?」


「ええ、まあ英雄気取りなガキよりはゲルオの方がマシかしら?」


「え? なんのことです?」


「カタカタ」


「ふう、あのな本田? 森の中にある泉が青く見える事なんてそうそうないんだよ」


「え、でも綺麗な青色してますよ?」


「まあ、青く見える事もないわけではないけど……あれは青すぎるわ」


 そう、いくら何でもあんな綺麗な青色では見えない。

 んでもってそこから聞こえる戦闘音となれば答えは一つ……


「……本田、アレ見えてるの全部モンスターだ」


「ええ!?」


「大方あれが今回の討伐対象である、元『序列21の魔王 分裂のミズモ』って事かしら?」


「で、でもほぼ向こう一面な気が……」


「正直あんなの相手にやってられねえっての」


「カタカタ」


「時間、かかりそうですねぇ」


「仕方ねえだろ? それとも本田もアレに突っ込むか?」


「いやぁ、それはちょっと……」


 まあ、待ってるだけで1500Gなんだ我慢、ガマン


「ヒマですねぇ」


「……ふむ、一応直ぐに帰れて、あいつらも出し抜けてお金も稼げる方法があるけど」


 はあ?! なにその良い事しかない幸せスパイラルは?


「そんな事できるんですか! ポミアンさん!」


 そう本田がいうとポミアンは仰々しく一拍置いて、


「ええ、まあ任せなさい。何て言ってもワタクシは元とはいえ序列9の魔王、玉石混交とも謂われ恐れられた蒐集のポミアンなのですから!」


 そう渾身のドヤ顔で言い放った。


「カタカタ?」



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