17話 元魔王、魔族に時効はないらしい
ゴミ屋敷の大掃除から翌日。
ガッキ以外の昨日のメンツで、ギルドにポミアンを連れ受付嬢のロッテに報告した。
ついでに文句を言ったところ、ロッテは「おかしいなぁ?」といいながら今回のクエストを処理したんだが、どうやらギルドマスター直々に話があるらしく、しばらくカウンターで待っていた。すると――
「お久しぶりでございますゲルオ様。私の事を覚えておいでですかな?」
そう声をかけてきたのは白髪を後ろに縛った、長身で老齢の厳つい男だった。
だが、その目は何処かで見たような気がする……
「ああっと、ちょっとまってあれだよな! えと――」
誰だったかなぁ? ほとんど千年間、城に居たからな。
会っていたとしたらまだ魔王でなかったときか?
「カラ坊っていったらわかるか? ゲル兄」
!?
「ああ! カラッドか! あの鼻たれだったカラ坊か!」
「カタカタ」
「し、知り合いなんですか?」
「まあな、まだ魔王でなかった時だ。大魔王様のとこで使いっパシリにされてたのがコイツだったんだよ」
「覚えておいでのようでなによりです」
うわあ、懐かしいなあ……
「あれ? もしかしてお前が……」
「ええ、申し遅れましたが私は『闇の囁き亭』ギルドマスターのカラッドと申します」
「そうだったのかよ!」
記憶の中には鼻たれで、いつも大魔王様に泣かされていた場面しか出てこないが――
「老けたなぁカラ坊」
「ええ、もうどれほどたったことか……」
しかし、まさかこんな身近にあの頃の知り合いがいたとはな、
「声かけてくれればよかったのに?」
「申し訳ございませんが公私は分けていますので。それに――」
「ん?」
「あの時の初代勇者襲撃、いまだ忘れていないぞゲルにい……っ!!」
「ひぃいっ!」
何? 俺そんな恨まれてたの?
「まあ、貴方のその話は当時を知る者にとっては有名だもの。ワタクシの時代にはよく云い聞かされていたわ」
「な、なんて?」
「7番目は臆病者、物事は最悪6番目で決めなさいって」
「ああ、その慣用句ってゲルオが元だったんだ。僕はてっきりただの例え話だと思っていたよ」
くそっ! 知らないとこでそんな事になってるなんてな、俺の肖像権どうなってんだよ……
「仕方ないだろ! 大体もう千年前の問題だろ? 時効だろうが……」
「正確には920年前ですな。それに魔族に時効はありませんぞ? ええ、貴方が生きている限り恨んでいますとも」
はっ! まさか今回があんなクエストだったのは!?
「カラ坊! お前の仕業でゴミ屋敷のクエストを寄越したんじゃないだろうな!」
「さあ、どうでしたかね? 貴方と違い私は年もだいぶ取ってしまったので」
ぐぬぬ、こいつ千年近く会わないうちに生意気になりやがって……っ!!
「まあ、それはともかくとしまして。此の度はガッキのクエストを受けて頂き誠に有難うございます」
「あ、ああ」
く、いきなり畏まるなよ、大人な対応しなきゃいけないじゃないか。
「本来あの規模のクエストであればランクSSは堅かったと判断しております。ですので、この度はそれに見合った報酬をこちらで用意させて頂きました」
「おお、なんだよカラ坊ツンデレかぁあ?」
なんだかんだいって良くしてくれるなんてな!
「では本田様」
「は、はい!」
「今回受注して頂いた貴方には特別報酬としてこちら、24万Gを上乗せした額を支払わせていただきます」
「2、24万!?」
うおおおおおお! やべえ!
「よかったな本田!」
「ひ、ひええ」
何か余りの大金に腰砕けになってるな。
「では――」
ワクワク!
「――いじょうですな」
「は?」
「カ、カタ!?」
「いかがなされましたかな?」
「いやいやいや! 俺の報酬は! 24万Gは?」
「なにかおかしいですかな? ああ、そういえばゲルオ様にも特別報酬がありましたな」
「それだよそれ!」
「ところで、私には孫と呼べるものが居ましてな。もうそれが可愛くてかわいくて」
「あ、ああそうか、そんな話どうでも良いんだわ」
「名はガッキというのですがね」
「!?」
「孫可愛さについついある飴を渡しているのですが……最近何故か何個か無くなっていましてな」
「そんな話どうでも良いって――」
「一個10万Gするんですよ。その飴」
「え?」
「その名も魔王飴という特別な飴なんですが……ご存知ですよね?」
「ええ!? ワタクシそんな高級なモノをガッキに貰っていただなんて!?」
やめろポミアン! そんなリアクションするんじゃない!
「い、いや。知らないぞ! そんなの知らないっ!」
「嘘つくなよゲルにいっ! ガッキが心配で昨日の夕方こっそりと見ていたんだぞ!」
「は、はあ?!」
「しかも4個貰って全部自分で食べたろ!」
「だったら何が悪いんだよ! ガッキが勝手に渡したんだろ?」
「幼い子供を騙してよくもヌケヌケと……昔っから俺に対してもそうだったよな!」
「忘れたよ、んな事! 早く寄越せよ金!」
「へーん誰が渡すか! お前なんぞに絶対やらん! 報酬は全額もう一方の本田様のみだ!! ギルドマスター命令だ!!」
「てめぇえ! 何が公私を分けるだ! 完全に私怨しかねえだろそれ!」
「カタカタ!」
「うん? 貴方は……」
「カタカタカタッ!!」
「まさか、いや……」
「あ、あの! あたしもいきなりこんな大金渡されても困ります!」
「そういわれましても……」
「ですからゲルオさん、このお金を折半という形でいいですか?」
「うう、まあ貰えるならいいぞ」
「というわけで、これだけいただければ十分なんで……」
「そうですか、ではそうさせて頂きます」
くそ、こんなんじゃ働きたくなくなっちまうぜホント……
「後は、ポミアン様の件ですが……」
「ふん、迷惑をかけていたのは謝るわ。ごめんなさい」
「ほう、まさかあのポミアン様が素直に謝られるとは」
「ガッキの縁者というのなら仕方ないじゃない。ふん!」
「そうですか。ではポミアン様の件ですが、もう問題は解決されておりますので、こちらからどうこう言うつもりは一点しかございません」
「うう、なによ?」
「ゴミ屋敷にはもうしないで頂ければと、それだけでございます」
「まあ、考えておきますわ」
「では後はゲルオ様から飴の代金を請求して終わりとさせて頂きます」
「おい! 借金になっちまうだろ! 理不尽すぎるぞ!!」
あくまでガッキから無償でもらったもんだろうが! どうして其処に代金が発生してんだよ、世間知らずの俺でもおかしいって事はわかるぞ!?
「仕方ないですね。ではこれからはガッキが渡した場合には、後に請求いたしますのでいいですかな?」
「はあ? やだよ、どう考えてもおかしいだろ?」
「その代わり今回は2000G差し上げます」
「いいぜ!」
「カタカタっ!?」
「え!?」
やったぜ! 2000Gだ!
「ではこれにて失礼致します」
「おお、二度と顔見せんなクソじじい!」
「てめえの方が年上だろうがっ! ゲルオのクズ!」
「ちっ! カラ坊の野郎」
まあ、元気そうではあったからいいか。最後に会ったのはあの襲撃後に一回だけだったか、もう昔のこと過ぎてあやふやだが……
「取り敢えず、これで解散かしら?」
「ああ、皆お疲れさん」
「はい、お疲れ様です」
「じゃあ、僕は失礼するね」
「おお、またな!」
「ゲルオさん、お金は……」
「ああ、俺は2000G貰ったからな、お前の火傷綺麗に治さないといけないだろうし、全部終わってからでいいぞ」
「あ、ありがとうございます」
「カタッカタッ!」
「ああ、わかってるよ。ほい、1000G」
「え、いいんですか?」
「ぜんぶ折半だろ? 俺が多くなっちまう」
「へえ、意外と律儀ですのね?」
「こういうトラブルが一番怖いからな」
後だしの方が何だって有利なんだよ。ジャンケン然り、バトルもの然り、推理ものはまあ当たり前だが、それにこれで恩を実質タダで売りつけているようなもんだ。言うだろ? タダより高いもんはないって!
「1000G分きっちり感謝しますね!」
「カタ……」
「あ、ああ」
あれ? タダじゃなかったな? 何処で間違えたんだ?
「じゃあ、帰りますかね! ポミアンの屋敷に!」
「カタカタ」
「ハイ! ついて行きますゲルオさん!!」
用も済んだ俺達は大金をこのまま持っている訳にもいかないので、ひとまずポミアンの屋敷へ帰宅するのだった。
「おい、ワタクシそんな話聞いていないのですけど? ねえ、聞こえてます? ねえ!!」




