16話 元魔王、アメを貰う
ポミアンの意識が失われたおかげでゴミの蒐集も止まり、俺達は何とかゴミに埋もれずに屋敷を脱出できた。
「おいボン、無理に連れてこなくても良かったんじゃねえか?」
「いや、そうはいっても起きてまた暴走されたら堪んないだろ?」
「そうですね、それにこれで此処にゴミが増える事もなくなると思いますし」
「カタカタ」
「ゲルオ! 大丈夫でしゅよ!」
「ガッキ、いつの間に起きてたんだ」
「さっきでしゅ」
まあ、ガッキはともかくだ。そんなこんなで俺達は埋もれて倒れたポミアンも回収してきたわけよ。
「う、ううん」
「カタカタ!」
「おい! ポミアンの意識が!」
「おっと、じゃあちょっと下すか。いいぞアロマ!」
「カタカタ」
そういってアロマにポミアンを下してもらう。
ああ、流石に俺やボンが背負うって選択肢はなかったからな?
「うう、ワタクシは……」
カチャ
ボンは一応戦闘にいつでも移れるように待機するようだ。
「気づいたかよ、ポミアン」
「貴方は……ああ、そっか」
「カタカタ?」
「いや、何ももうしないわよ。そこの坊やも警戒を解いていいわよ」
「むっ?」
なんかさっきと雰囲気がちがうな……
「ゲルオ、大丈夫だろ」
そうかなあ、此処でまた戦闘とかマジ勘弁だぞ?
「ふふふ、ワタクシともあろう者がとんだ失態を見せてしまったわね」
「はあ、取り敢えず話は聞いてくれるみたいだな」
「ボン、気を付けろよ?」
「ふん、コレ以上醜態を晒すつもりなどないわ。貴方の様な臆病者の魔王と違ってね!」
「な、俺のどこが臆病もんだって! ああん!?」
「ふ、ふたりともおちつくでしゅ! げんこつしましゅよ!」
『ひぃいっ!!』
思わずポミアンとハモッてしまった。さっきのげんこつ見てるとな……
「ま、まあ今は大人しくしといてあげますわ」
「そ、そうだな。だからガッキ、お前も落ち着いてくれ」
「なかなおりしましゅか?」
「うんうん!」 「え、ええしますとも!」
「ならよかったでしゅ!」
――――
――
気が付けばだいぶ陽が沈んできたようだ。
あの後は皆で残ったゴミを焼却し(主にボンが)ポミアンにダンジョン化を解いて貰った後は、アロマを筆頭にして大掃除を敢行した。
「ハードな一日だったぜ」
「カタカタ」
「正直ダンジョン攻略より疲れたよ」
「そ、それはワタクシへの当てつけかしら!?」
当たり前だろうが、
「そもそも何であんな状態になってたんだよ」
「あ、いえ、その……」
ポミアンの奴、モジモジとしてるんだろうが全身を覆う黒い毛のせいで正直キモイ。
「カタカタ?」
「あっ……そうね。ワタクシ地位も配下も失って、拠り所がこの能力だけになってしまっていたのね……」
「やっぱり魔王をリストラされたからですか?」
「ええ、ワタクシにとって魔王という地位はそれだけ大事な物でしたから」
「ポミアン……」
まあ、分からなくもないさ。俺だって失くしてから初めて魔王であった事の恩恵がわかったからな。何といってもダラダラできたってのが一番の理由だが――
「おはなしながくなりそうでしゅか?」
「え!? そうね」
「じゃあガッキはもうかえるじかんなのでしつれいしましゅ!」
ここまで来て聞かないのかよっ!?
「あ、はい」
「じゃあねガッキちゃん」
「気を付けて帰るんだよ?」
「はい! あとゲルオ?」
「うん?」
「きょうもありがとうございました! アロマしゃんもおせわになりました!」
「カタカタっ!」
そういってガッキは俺にいつもの飴を4個手渡した。
「あ、あとポミアンしゃん! ゲンキだしてくだしゃい!」
「あ、ありがとうございます……」
ガッキはポミアンにも飴を渡して帰っていった。
「相変わらず走るの速すぎだろ……」
「あめ……」
「うん? どうしたポミアン?」
「ワタクシ、誰かに何かを貰うなんて初めてで……はじ……めてで……」
そう呟いて、ポミアンはへたり込み俯いてしまう。
「なんでも、ひとりで、あつめてきたのに……突然うしなって……う……うう、ワタクシ……ワタクシが欲しかったのは……」
リストラされ、ずっと感情の行き先を見失っていたのかもな。
「……ほいひいです……あめ……ほいしい……よぉ……」
――――
――
「ボン、ギルドへの報告は明日でもいいよな?」
「ああ、期限付きじゃないんだろ?」
「それよりお風呂入りたいですぅ」
「確かにな、ポミアン! せっかく綺麗にしたんだ、お前んちの風呂使わせてくれ」
「はあ? どうしてワタクシが!?」
「おいおい、ここまで迷惑かけといてそれはないだろ?」
「カタカタ」
「ほら? アロマがもう準備バッチリだってよ」
「何勝手にしてるのよ! もう!」
そういってドタドタと風呂場へ確認しに行ってしまった。
「アロマついて行ってやれ、本田も一緒に行けば?」
「カタカタ」
「はい! あわよくば入ってきます!」
しかし本田があんな天然だったとはな、今回の事でよくわかったよ、ポミアン感謝。
「じゃあ、僕は帰らしてもらうよ」
「ああん? この後一緒に入ってかないのか?」
男同士の友情深めようぜ!
「い、いっしょに!? いや、すまないが服も汚れてしまったのでな。風呂と一緒に洗濯もしたいんだ」
ああ、そういう設定だったなお前。
「そっか、じゃあ今日はホントありがとな。お前がいなかったら多分諦めて帰っていたぜ」
「ああ、まあいいさ。あとゲルオ!」
「ん?」
「今度はお前が手伝ってくれよ? やっぱりその能力を使わない手はないからな!」
「はん! こっちから願ってやるっての!」
そういうとボンは手をシュタっと挙げて帰っていった。
「しかし、これは役得だな」
アロマはともかく、本田けっこう美少女の下ぐらいの可愛さだし、ポミアンも隠れていたが美人な顔立ちだったしな!
「ぐふふふ、こりゃワクワクしてきたぜ!」
こういうご褒美って大事だと思うのよ、俺。
ドタドタドタ!
あら、女の癖にもう上がったのか?
「はあ、ホントに準備が出来てるなんてね」
「おお、ポミアンか。どうしたんだ?」
「着替えを取りに来たのよ」
「ああ、なるほど」
よし、ここで余計な事を言うんじゃないぞ俺。
「ああ、あとワタクシから貴方にプレゼントよ」
「あん?」
「まあ、あのゴミのお返しだと思ってちょうだい」
「へ?」
――――
――
空を見上げれば煌く星々、月明かりだけの風呂は最高に気持ちい。
露天風呂だったか、なんか昔を思い出すぜ……
「カタカタ」
「おう、良い湯加減だぜ!」
アロマがまた絶妙な火加減を調整してくれる。
…………
「……くそ、ちくせう」
ポミアンめ、わざわざ外にドラム缶を用意しやがって……
ちゃぷっ
「はあぁあああ」
まあ、これはこれはで良いけどな。
俺はこうして即席の五右衛門風呂で疲れを癒すのだった。




