1話 魔王、無職になる
「では、次の方どうぞ」
ガチャ
「あ、よよ、よろしくねがいまず」
「……はい、お願いします」
「では、腰を掛けて下さい」
「ひゃい」
「ではどうぞ」
「えっと、その……」
「序列と名前をどうぞ」
「はい! えと序列は7、にゃまえは伸縮のゲルオです」
「はい、では序列7の魔王、伸縮のゲルオさんですね。宜しくお願いします」
「は、はい」
「序列7の魔王といえば唯一の初期からいる魔王ですが間違いないですか?」
「はい。おれでなくて、私は発足当時の今は亡き大魔王様に任命されたものです!」
「ええ、有名ですもんね」
「そ、そんなぁ」
「初代勇者が来た際に唯一来なくて生き延びた魔王としてですが」
「……」
「では、今までの勇者撃退数はどれくらいになりますか?」
「あ、えーっとその……何分私の居城は彼らの攻略マップで無視されているみたいでして、最初期に就任したこともあってアイテムや経験値の配分も悪くてその……ないです」
「つまり、この千年間に勇者撃退数はゼロということですか?」
「は、はい。ですがそれは一度も攻略されてないと言う事でして、私自身も勇者には引けを取らないと自負してます!」
「そうですか。では次に貴方の特技『伸縮』について教えて頂いて宜しいですか?」
「え、あの……色んなのを伸ばしたり縮んだりできます」
「ふむ、それだけですか?」
「は、はい」
「仮にも魔王ですよね? もしかして魔力や武術を合わせられるとかですか?」
「いえ、それだけだと思います。多分魔力も武術も並です」
「そうですか。では最後にあなたは何故魔王になったのですか?」
「ええと、なれと言われたのでなりました」
「ああ……貴方の時代は魔族自体が少なかったのでしたっけ?」
「はい、私は魔王軍が発足した時に余った城を任されていただけでして」
「そうですか、わかりました。では後日結果を伝えますのでお疲れ様でした」
「はい、有難うございました。魔王神様」
ガチャ キィイ
バタン!
良かったか? あれで大丈夫だったか?
もう自分の城にどう戻って来たかさえ覚えていないんだが、あれで大丈夫だったか?
「なあ? アロマ、俺は大丈夫だよな? ちゃんと面談できていたよな?」
「カタッカタ」
くそ、骨メイドのアロマに聞いても何言ってるかわからんな……
「だが俺はこう見えても魔王軍発足時からのメンバー!」
新しいトップの魔王神とかいうのが何考えているかわからんが、まさか最古参である俺が候補に挙がっているなんてないよな?
「カタカタ」
「ん? なんだ?」
アロマが手紙を渡してきた。
「えっと、直ぐに魔王神城にきてくださいだって?」
後日っていったのにこんなに早く来るなんて……はっ!
これってきっといい知らせだよな! 直接何か伝えたい事があるって事だよな!
「よし! アロマお前も来い!」
俺はアロマを携えて意気揚々と城へ出向いた――
「――ていうわけで、これから新体制で行きたいんですよ。他の方々には書面で伝えたんですが、こういった事は直接伝えなければ失礼だとも思いまして」
「はぁあ」
「なので、今後は異世界の人とも我々魔族は共存となりまして――」
「はぁあ」
「――つまるところですね、魔王が多すぎるんです。ですので、あなたには今の地位を辞退して頂きます」
「は、はぁあ」
「えっと言ってることわかります?」
「はぁあぁ」
バタン
「カタカタ」
「あ、アロマ」
「カタ?」
「俺……」
「カタカタ?」
「……俺、魔王が多すぎるからってリストラされた……」
――――
――
こうして俺は魔王を首になった。
当初俺はただその地位や称号が無くなるだけだと思っていた。
「ではゲルオさん、城も領地も魔王神軍の物なので撤収させて頂きますね」
「ええっ! う、うそだろ?」
「あと、ゲルオさんの私財ですが――」
「ま、まて! それは流石に俺の物だろう?」
「ええ、ですが貴方千年間も義務を怠っていたみたいですね?」
「ぎ、義務!? そ、そんなのあったのか?」
「魔王は常に配下の者と勇者を招き、力の均衡を保つ義務があったんですよ?」
「そ、そんなの誰にも言われたことなかったぞ!」
「今までは貴方はどんな魔王かも知られず、その為誰も言い出せなかっただけですよ。でも、今回のことで貴方がどういう魔王だったか公になりましたからね」
「ぐぬぬ」
「まさか千年間もなにもせずダラダラ過ごしている者が魔王だったなんて……私財没収で済んだだけでもマシだったと思ってください」
「は、配下の者達はどうなる? 千年間も一緒だったんだぞ!」
「ああ、彼等には再就職先を案内した所、喜んで別の魔王に就きましたよ?」
「な、なんだと……」
「そこにいられても邪魔何で、そろそろどっか行ってもらえますか?」
「は、はい」
こうして俺は地位と称号どころか、城も、配下も、金も、何もかも失ってしまった。
しかもだ、
「おい、あれ元魔王のゲルオじゃねえか?」
「ああ、伸び縮みしか出来ない癖に千年も魔王をしてたらしいぜ?」
「マジかよ? 魔王の暮らしって俺達の税金で賄われてるんだよな?」
「くそっ! そう考えたら腹立ってきやがった!」
「でてけ! この町から出てけ!」
「ちょっ! 待て! やめろ石をぶつけるな! あ、ホント待って! 岩サイズは死んじゃうからホント勘弁して!」
こんな風に、非常に俺への風当たりが悪い。
なんだよっ! 魔王なんだから好き勝手生きていて何が悪いんだよ!
たくっ魔族の風上にもおけん奴らだ。
唯一俺に残った物といえば、
「カタカタ」
「アロマ」
こいつ、骨メイドのアロマぐらいだろう。
「アロマ、俺これからどうしよう……」
「カタカタ」
くそ、こんな骨にメイド服着せた奴だけ残ってどうすればいいんだ!
「このままじゃ、今日は野宿、明日も明後日もずっとずっと野宿だよ」
グゥウウ
「はっ! しかも食べる物もない! ヤバいよアロマ、このままじゃ飢えて死ぬ!」
どうすればいいんだ!
千年間も部屋でぐうたら引き籠っていたから何をすればいいか本気でわからないぞ!
「カタカタカタ」
「ん? なんだこれは?」
アロマに渡されたものは何かのチラシのようだ。
「ふむ、きたれ異世界の勇者達よ! ギルドは貴方たちを待っている! 勿論魔族も募集中!」
それは冒険者ギルドなる職業斡旋所のチラシだった。
はっ! まさか!!
「アロマ、つまりお前……俺の為に働いてくれるのか!!」
くぅう、なんていい配下をもったんだ俺は! 骨とメイド服だけなんて思ってごめんよ。
「……」
「ん? なんだその沈黙は? おい、アロマどこ行く? そっちはギルドじゃないぞ? あれ? アロマ? 無視しないでよ、おい! アロマ! 俺が悪かった! 何が悪いかわからないけど俺が悪かったからおいてかないでくれ! アロマ~!!」
通りがかる人に馬鹿にされながらも、俺は二時間ぐらいアロマのまえで土下座をして許してもらった。
お読みいただきありがとうございます!m(__)m
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