キャラバン
視点が商人のウインターに変わります。
広大な砂漠に一筋の影がある。ラクダ3頭と3人が、太陽の熱が容赦なく照り付ける砂の大地を歩く。
3人の空気は険悪で一触即発の危機がある。白い服を着た大柄な男、口髭を蓄えて腰には剣がある。隊商の護衛のナッシュという男が、同じように白服を着た商人風の男を怒鳴りつける。
「ウインターさん、あの時、俺が言ったように戻れば他の隊商と合流できたんじゃないのか?これからどうするんだ!水もわずかしかない。節約して飲んでも3日しか持たない。もっとも…俺だけなら10日くらい生き残れるかもなあ!」
腰にある剣を2人に見えるようにして脅す。
「争うのは止めてください。今は協力して生きて生還することを考えるべきです」
まだ声変わりもしてない小柄な少年が、大人たちの争いを止めようと声をあげる。
「マルコの言う通り、我々は協力するべきです。ナッシュさん、ではお聞きします。ピソーク・ワームの群れに襲われた場合の対処法を教えてください」
「あ?そんなの簡単だろ。単体ならあいつらが吐く毒に注意すれば怖くない。群れで襲われたら犠牲になったものを囮にしてでも逃げる…」
「そうです。我々が戻っても縄張り意識が強いピソーク・ワームに襲われるだけです。この時期に群れているピソーク・ワームとノダル砂漠で出会ったは運がなかったとしか言いようがありません。しかし、後ろには戻れませんよ。お腹を空かせたやつらは、我々の移動する振動を感知してどこまでも追って来ます。前に進むしか道はありません」
言いたいことを話したせいか3人とも落ち着く。
下働きの少年のマルコがウインターに話しかける。
「師匠、ノダル砂漠に水源はないのですか?」
「マルコよ、逆に質問するがノダル砂漠は誰のものだ?」
「そんなの子供でも知ってますよ。誰のものでもない空白の地域です」
少年は得意げにウインターを見上げる。
「そうだ。この地は砂に覆われている。水がないから誰も統治することができないのだ。儂の祖父の時代はオアシスという水源が何か所もあって、我々、隊商もオアシスを中継して貿易をしていたものだ。今ではすっかり枯れ果てて水源はない。もしオアシスを発見したら儂たちの領土になるかもな」
「そ、そんなぁー。僕たちはこの砂漠で干からびて死ぬしかないのですか?」
ウインターは悲痛な顔をした少年をじっと見る。ウインター夫妻は子供が神様から授からず、兄の次男であるマルコを養子として引き取った。10歳になるマルコを実の子供の様に接していて将来は跡を継いで欲しいと願っている。ウインターは覚悟を決めた。儂の分の水を2人に与えれば5日は水が持つはずだ。
考えを巡らせながら歩き、砂丘を超えて見た光景に一同は言葉もでない。
彼らは失われた砂漠の楽園、オアシスを発見した。




