文化の違い
ミドリは二人の少女の喧嘩を暖かく見守りながら、自家製ポテチをバクバクと食べる。久しぶりに味わう懐かしい食べ物に手が止まらない。喉が渇けば、こちらも自分で作った『なんちゃってレモネード』を飲む。
「ミドリはさっきから何を食べているの?美味しそうな香りがするの」
姉妹喧嘩を一時中断したのか、二人はミドリの方を向く。
実年齢と違い、幼さい外見のミリーは興味津々といった様子で、ミドリが食べてるポテチから視線が動かない。
「ミリー姉様!」
妹のレニー。ただし、外見はミリーより年上の少女が、姉であるミリーを咎める。
「ミリーさん。食べてみますか?この国にあるか分かりませんが、『ポテトチップス』という名前の食べ物です。味付けは塩だけです。あとは自然本来の味を活かしてます」
「食べるの」
ミリーは即答した。どうやら食べたかったようだ。見た目は子供っぽいが、中身も以外と子供なのかな。俺より一回り年上なのに……
「どうぞ。まだまだ材料はあるので、ある分は全部食べていいですよ」
ミリーは木の皿に山盛りになっているポテチを手に取る。
が、手が止まったままで食べる気配がない。こちらを伺う仕草が小動物のそれを思わせて可愛い。いや、実際にミリーは可愛い子なんだが。
「……これってわたしをミドリの家に招待してくれたという認識でいいの?」
家なのか?ここは俺の魔法で創り出したオアシスだ。今はここに住んでいるから家で間違いないか。
「はい、家になりますね。まだ何もないオアシスだけだけど、何れは立派な誰が見ても羨むほどの家を造りたいです」
「!!」
顔が……耳まで赤く染まるミリー。
「このぽてとちっぷちゅはミドリの手作りなの!?」
今にもミドリとぶつかりそうな間合いに入るミリー。彼女はなぜか興奮気味の様子だった。
俺が手作りしたらおかしいのか?まさか、異世界で料理の腕が認められて……料理無双を……なんてことはないか。ミドリは自分で料理をするより、誰かが作った食事を食べる方が好きだ。
「ポテチは俺が作りました。俺は好きだけど、苦手な方もいるかもしれませんね」
その返事を聞き、なぜか姉のレニーが焦る。
「ミリー姉様!まさか……」
意を決してミリーは赤い目を輝かせ、ポテチを食べる。
「ど、どうですか?お口にあいましたか?」
「美味しい。とても美味しいぃの」
妹であるレニーが青ざめた顔で言う。
「姉様はミドリの“求婚”を受け入れた」
「……は?」
レニーが何を言っているのか分からないので説明を頼んだ。
「男性が女性を家に招待して、手作りの料理を振る舞う。その返事に女性が“美味しい”と答える。それは求婚の返事として、承諾したことになる」
「すいませんが、その話は初めて聞きました。それは貴方方の国の文化?風習なのですか?」
レニーは首を傾げミドリを見る。
「この大陸に住む者なら誰でも知っているはず……それこそ5歳児の子供ですらな」
「あー、なら俺がそのことを知らなくても不思議ではないです」
「「どういうことだ(なの)?」」
レニーとミリーの声が重なる。
姉妹だけあって二人は顔が似てるんだよなー。とその時思った。
銀髪に赤い目。やや褐色の肌……。
「多分というか、ほぼ間違いないと思います。俺は“異世界”の“日本”という国からこの世界に来たんです。文化の違いですかね?はははー」
「「異世界?」」
「はい。聞いたことないですか。そのような異世界から迷い込んだ人間の話など。または……異世界に行き来できる魔法は存在しますか?」
ミドリは自分の力では日本に自力で戻るのが難しいと感じるようになっていた。だから、エイモス王国の重鎮である彼女たちなら、一般人では知らないであろう、何か“異世界”についての情報を知っているかもしれないと思った。
いまいちよくわからない表情だったので、“異世界”について補足で説明した。
妹のレニーが口を開く。
「“異世界”の話は分かった。なるほどな。お前が持っていた硬貨。おかしな質問、全て納得した。こちらに疎いのは遠国の人間だと思っていたが、まさか“異世界人”だったとはな。“異世界”に行ける魔法も、“異世界”についても私は知らない」
「そうですか……」
駄目でもともとだと思って聞いた。しかし、実際に直接否定されると悲しい。落ち込む気持ちを何とか切り替える。
「ミドリは話をそらそうとしてる!」
「え?なんの話ですか?」
黙っていた姉のミリー。
ミドリの服の袖を掴んで上目遣いでこちらを見る。
「“求婚”」
「……」
異世界の話で誤魔化されなかった。ミリーの目は本気だ。
冗談で済まされる話ではない。




