恐ろしき姉妹
あらすじ
砂漠が広がる異世界に迷い込んだミドリは、オアシスを自由自在に創りだせる最強の魔法に目覚める。
ミドリは砂漠の中央でオアシスを創る。人々はいつしかそこを人類最後の楽園と呼ぶようになる。
オアシスに魅入られた1人の魔法使いの少女と、その妹がミドリの島にやってきた。
ラクダの集団がオアシスに近づいて来る。ミドリは驚異的な視力の良さで、ラクダの群れと誰が率いてるか判別できた。次第に米粒程度の大きさから、普通の人間にも姿を確認できるまで近づいて来て住人達も気づく。
オアシスの住人はそのあり得ない光景に驚きの声をあげる。
「なんだ?あいつらどこからやってきたんだ……?」
「ここはノダル砂漠の真ん中なのよ。おかしいわ」
「そうだよ。とてもここまで辿りつけるなんて思わない」
「いくらラクダに乗っても辿りつけるはずないわ」
ミドリが前に進みと視線は彼に集まる。やがてざわめきに変わり、静かになる。
「ラクダに乗ってる者に心当たりがある。彼女らはエイモス王国人だ。先頭に走る者は土の魔法使い……。ミリーの妹のレニーだ」
「土の魔法使い様の……!!」
ミドリより数歳年上の女性、グルタが驚く。
当初会った時には痩せ細っていたが、オアシスの新鮮な果実や、野菜や肉を摂取して、現在は見違えるような健康的な体形になっている。これはミドリの島の住民全員に当てはまる。
不可能を可能にする魔法使いの存在。この世界で大変貴重な存在であるため、敬意される。たとえそれが親族といえども同じなのだ。
「なぜこの場所が判明して、砂漠の中央であるミドリの島に来ることができたのかは俺にも分からない。しかし、彼女らは敵ではない。仮に我々に逆らうというのであれば、最強の“水の魔法使い”である俺が相手になろう」
ミドリは自分の魔法の本質にようやく気付いた。それに伴い、砂漠で自身の魔法に勝てる相手はいないと確信した。仲間?に“希少種”である白金のワイバーンもいる。“調教”した数多のワイバーンもいる。ネムスで最強の存在である自由に動かせる、生物兵器を数多く所持するミドリに敵う敵はいないはず。
ミドリの演説を聞いて住民は歓声をあげる。
やがてラクダ11頭と4人がミドリの前に近づく。
先頭にいるのは、長い銀髪がフードから見え、少し不機嫌そうなつり眼の少女がラクダから降りてきた。一度見たら忘れるはずのない美しい容姿。
いつもの民族衣装ではなく、白い服を着ている。炎天下の移動で疲れたのか、額から滝の様な汗が落ちて白服に吸い込まれる。彼女の赤い瞳がミドリを捕らえる。
「見つけましたの」
幼さを含む声は前方にいるレニーではなく、上空から聞こえた。
上空を見上げると、白銀のワイバーンがいた。ワイバーンの上には2人の女がいて、声の主は10歳くらいに見える少女からだ。
彼女らは白銀のワイバーンから降りると、少女はミドリにぐいぐいと近づく。
「ずっーーと、貴方にお会いしたかったのです」
「誰だ?君に心当たりはないな」
少女の容姿を観察するとレニーによく似ている。銀色の髪に薄い赤い瞳。胸だけはぺったんこのようだが。
薄い胸を張るようにしてミドリをじっと見る。
「もしかして君は――」
少女はレニーの姉だった。彼女が幼い外見に見えるのは魔法に目覚めたから。魔法に目覚めると老化しなくなる。
互いに自己紹介をして、なぜここに来たのか説明を聞く。土の魔法使いであるミリーは、オアシスの魅力によせられて、直接ミドリに会うために、ここまで(砂漠の中央)来たらしい。
ミリーもワイバーン種の“希少種”を所持してる。名をビュラエ。普通は一人乗りしかできないのをなんとか2人乗りをこなせるようになったと聞いた。空からオアシスの場所を見つけて、地上にいるラクダに位置を知らせて場所がバレたようだ。
気性が荒い“希少種”にどうやって乗れるようになったと聞くと、彼女が魔法で創ったパンを食べたら“友達”になってくれたらしい。
自分の時と同じだ。ミドリも魔法の果実を食わせたらワイバーンが仲間になった。自己の考えに没頭していると、小さい手がミドリの服を引っ張ていた。
「ねぇ、ねぇ。貴方の事これからミドリって呼んでいいの?」
「それくらいならいいよ」
「ミドリの魔法はすごいね!ネムスでここより快適に過ごせる場所なんて他にはないの。オアシスの外は今も暑いけどここだけは気温が低いの。それに、それに、オアシスで造られた果実はとっても好き。毎日3個は食べたいんだけど、シーアが2つまでしか食べちゃだめって言うの……」
シーアとは白銀のワイバーンにミリーと乗ってきた女性だろう。年齢は20代後半か。じっと佇み、まるで自分の子供を見るような目でミリーを見ている。
「む、む。ミリー姉様。そろそろ私もミドリと話をさせてくれてもいいのではないか?」
「え~だって、わたしの提案でここまできたの」
なぜか姉妹喧嘩を始めだした。
村の住民も最初は興味深々という風で、遠くから眺めていたが、やがていつものように生活を営み始めた。
お調子者のザコ―だけはその場に残っていた。「あの美しい女性はシーアというのか。お近づきになりたい」とブツブツ言っていたのが聞こえた。お前はアズキに一筋ではなかったのか……。
喧嘩が長くなりそうなので、ザコ―に従者の男2名とラクダの世話を任せた。
ミドリは口には出さないが、恐ろしい姉妹が来たものだと心の中で思った。




