奴隷の美○○
事情をオリーブとクリスに話す。
「何ですって!?信じられない」
オリーブはラクダと売り物を持ち逃げした男の事を一緒に怒ってくれる。
「僕のメイちゃんを無断で連れて行ったの!?メイちゃんの山羊より柔らかい毛並みを触っていいのは僕だけです。絶対に許せません。早く見つけてモンブランの餌にしてやりましょう」
クリスは連れてかれた雌のラクダに好意を寄せていたらしい。“メイ”とはクリスが勝手にラクダに命名した名前。
これから行く所があるとオリーブに伝えて、昼食代を多めに渡す。ライフさんは店の片づけやラクダの世話などやることがまだあるので、ミドリは一人で奴隷市場に足を運ぶ。表通りにある奴隷市場についた。周りを頑丈な木の柵で覆われていて中は盛況のようだ。入り口に屈強そうな大男が二人立っている。
「ここで奴隷が買えるのか?」
「そうだ」
「…」
「今日も暑いな?」
「そうだ」
「…」
まるでRPGゲームのキャラクターと会話しているみたいだ。
大男の脇を通り過ぎようとすると遮られた。
「何か用か?」
「入場料に銀貨2枚が必要だ」
「このような所は初めてで事情がよくわからない。なぜ入場料金が発生するのか教えてくれ」
なるほどね。冷やかしはお断りということか。
入場料を払い奴隷市場に入る。
この世界には奴隷制度がある。税金が払えなくなったり、犯罪を犯して奴隷になる場合がある。奴隷自体の値段も決して安くない。奴隷を買ったなら、最低限の食事など世話をする必要がある。よって購入者は比較的に裕福な者か、何か商売をしている人に限られる。いま奴隷市場にいる者もそれなりに身なりが良さそうな人が多い。中には付き人を何人も従えている人もいる。
奴隷の首には何か複雑な模様が刻まれた“奴隷の首輪”がつけられている。これを奴隷が勝手に外したら死罪になるらしい。
若い女の奴隷がいる所は特に人が多い。子供やおっさん奴隷の所にはあまり人はいない。
興味があるので全部見て回るか。まずは若い女性がいるエリアに行く。10代後半くらいから20代までの女性がいた。一人目を引く女性がいた。ミドリと同じくらいな歳の女。すらっとしたモデルのような体形で、しみひとつない白い肌に金髪。目も他の死んだような奴隷の目と比べると、活力に満ちている。
他に気になったのは…奥に人目を隠すように鉄籠に入れられた生物“砂・ワーム”だ。
ワームには一時苦戦した記憶があるので少し苦手だ。ワームの毒は人を簡単に死に至らせる危険な猛毒だったはず。奴隷市場では人だけではなく、生物も売買しているのか?
まじまじと近くで見たことはなかった。赤茶色のミミズが巨大化したような外見。ただし、口があり歯が見える。この個体は1mくらいある。うねうねと動いて気持ちが悪いな。
近くに男の店員がいたので聞いて見る。
「すみません。これは砂・ワームですよね?猛毒の霧を吐くので危険ではないのですか?これも売り物ですか?」
「えっと、こちらは砂・ワームの亜種で毒はありません。専門家ではないと見分けがつきにくいと思います。体色をご覧ください。砂・ワームの体色は薄い赤茶色です。こちらは少し濃い赤茶色をしています。歯の数もこちらの方が多いです」
亜種か。初めて聞いたな。言われてみれば…体色の色も少し濃い気がする。
「そうなんですか。ワームをペットに飼う人はいるのでしょうか?」
「亜種のワームは土の管理者と呼ばれています。土壌を改善してくれる大変ありがたい貴重な生物なのです。このワームが1匹いれば――」
地球にはいない生物。餌は土があればいい。是非とも欲しい。
一般奴隷十人分の値段を提示された。ワームは大変貴重らしくて滅多に捕まえられないらしい。迷わず即決で購入した。
次は労働力確保の奴隷だな。やはりあの女性の奴隷が気になる。
「おい、ちょっと!そこのあんた。いや、お兄さん」
どうやら奴隷の男がミドリに声を掛けているらしい。
「俺に何か用か?」
奴隷の男は30代後半の年齢。白髪交じりの短髪。身長は175cmくらいで顔がハーフのような顔つきだった。無精髭が似合って、中々渋くて格好いい。
「いい奴隷なら心当たりがある」
「そう。どこにいるの?」
「俺だ」
「おっさん?」
「失礼なやつだな?俺はまだ37歳だ。それにゲンゾウという名前もある」
ゲンゾウ?日本人みたいな名前だし、顔つきも少し日本人に近い。
自分だけが異世界に転移したとは思わない。他にもいた可能性も十分にある。以前転移した子孫かもしれない。少し探ってみるか…。
「俺の故郷は日本という国で…」
顔を観察してもヒゲが邪魔で表情が良く分からない。
「二ホン?知らない国だな」
関係ないのか……。
奴隷になった理由を聞いてみた。ゲンゾウが言うには軍を辞めてブラブラ遊んでいたら貯金が無くなって、腹が減り食い逃げして捕まったそうだ。
「噂に聞いてるぞ。ワイバーンに乗って交易してる商人はお前さんだろ?俺ならワイバーンにすぐ乗りこなしてやる。必ず役にたつ。軍で翼竜部隊の教育にいたからな…なんなら他に乗りたいやつに教えてあげてやってもいい」
ワイバーンに乗れるのか。使えるかもしれないな。でも…。
「俺におっさんの奴隷を買えというのか?」
「まあ、まて。俺は美男子だし、いいじゃないか」
「…は?」
ミドリは口車に上手く乗せられて、異世界でおっさんの奴隷を購入した。




