ワイバーンの群れ
ノダル砂漠の上空を一頭の白金色のワイバーンが優雅に飛行している。その背に1人の男が騎乗している。ただでさえ人に懐きにくいワイバーン種。その中でも特に気性が荒い“希少種”を自在に乗りこなす者が存在している事に、ワイバーンに詳しい者が見たなら、とても信じられない光景だろう。もっとも騎乗している男はその事実には気づいていない。
旋回をして徐々に高度を下げて砂漠のオアシスに着陸する。
「今日も飛行は楽しかった。今度は宙返り飛行でも練習させてみるか?」
一頭の通常より体が大きいワイバーンが男に頭を下げて視線を合わす。
「グルル」
「もう水浴びの時間か?」
「グルル!」
「よし、行こうか?」
ミドリは服を脱ぎ全裸になる。走ってそのまま、オアシスの水に飛び込む。
ワイバーンも水に飛び込む。バシャ、バシャーンと、でかい水しぶきが噴水のように上に上がる。
「冷たくて、気持ちいーー」
「グルルッルーグルアァ」
貸し切り状態のオアシス。このオアシスにはミドリとワイバーンのモンブランしかいない。
モンブラン専用の食料庫と飛行の練習する場所が必要であった。グロ村から1日程の距離の場所に、新しく三日月型のオアシス、『ワイバーンの島』を出した。北側に果樹が実り、南側に岩場がある。
人目がないので裸になって泳いでも問題ない。30分以上モンブランと泳いだりして遊んだ。
「そろそろ出ようか?」
「グルル、グルル」
「何、まだ泳ぎ足りないのか?俺はもう疲れた。じゃあ…今日はブラシしないよ?」
「グルル、グルル」
グルルが2回だから嫌か。ブラシという単語は覚えたみたいだな。
水浴びの後はモンブランの硬い鱗を一枚一枚、丁寧に磨く。モンブランは気持ちよさそうに目を閉じる。磨き終えたらモンブランは寝ていた。これだけ綺麗な白金色の鱗なら高く売れそうだな。脱皮はしないのかな。
朝方一人でミドリの島に戻るとクリスが起きてこちらを見ていた。いつもはまだ寝てるはずなのに変なやつだ。
「朝帰りですか?ミドリはそんなにモンブランがいいのですか?僕という者がいながら…」
「何を言ってるんだ?」
「ミドリを上に乗せるのは僕だけです!」
「あ、ああ。また機会があれば頼むよ。それより飯にしないか?お腹が減ってさ…」
どうやらラクダのクリスはワイバーンのモンブランに対抗意識があるらしい。クリスは砂漠の上では役に立つが、飛行ができないことに落ち込んでいた。先日、岩場の上から「僕は鳥になる」と言いジャンプしたのを目撃した。少しだけ憐れに思い、バナナをあげたら美味しそうに食べていた。
その日は適当にミドリの島で過ごして、午後になったのでワイバーンの島へ向かう。
ラクダの騎乗よりも今は空を飛べるワイバーンの方が乗っていて楽しい。現地について目にした光景に唖然とした。なんと…30頭くらいのワイバーンの群れがいたのだ。
「どうなっているのだ?来る場所を間違えたのか?」
観察してみると通常の黒色だったり白色、または砂色の鱗をもつワイバーンがいる。大きさも成人しているだろうと思われる個体からまだ子供のワイバーンもいた。突然オアシスに現れたミドリに気づいた個体が一声鳴き、仲間を警戒させる。親は子を守るように動く。雄のワイバーンは呻り、ミドリを威嚇するように近づいてくる。
「グルルアアアァァァッ!!」
一際大きい声で鳴く声がして、ワイバーンとミドリの間に一頭の白金のワイバーンが上空から降りてきた。
「モンブラン!」
「グルルァ」
「何でワイバーンの群れがこのオアシスにいるんだ?説明してくれるか…?」
言葉が通じないので何となくしか分からないが、ここにいるワイバーンの群れはモンブランの仲間の群れらしい。以前ボス個体としてこの群れを率いていたモンブランをミドリが勧誘した。そのために群れと別れたらしい。全て今日初めて知った。ワイバーンは基本的に集団で過ごすのか。
それと、この群れも果物が好きだからここで暮らしたいそうだと言われた。適当に翻訳したがおおよそ間違いないだろう。一触即発な雰囲気はなくなった。今では子供のワイバーンがミドリの顔を舐めたり、果物を食べたりして自由に過ごしている。モンブランがボスだということは全ての個体が認識している。そのモンブランとミドリの関係性を見て、ミドリの命令も聞いてくれる。
「ワイバーンの群れか…使えるな」
アルブで果物を売るのは現状手間暇がかかる。ノダル砂漠のすぐ近くにあり、今は廃村したグロ村。グロ村の近くに簡易オアシスを出した。そこに移動してからアルブまでミドリはモンブランで移動する。ライフさんとオリーブはラクダで移動する。問題点は、アルブまで到着するのに時間がかかること。物資の輸送が少なくて一度に大量に売れないことだ。
もしワイバーン30頭全てをを調教できれば、どれだけ大量に果物を売れて、さらに時間を節約できるのだろうか。
今は沢山ご飯を食べて英気を養ってくれ…何れ働いてもらうよ。




