新たな住人
「爺さん、痛い。痛いから杖で頭を叩くのは止めてくれ」
「ミドリは何度言えば分かるのか?体で覚えさせるしかない」
「ネフド 先 生!これでいいですか?」
「最近の若者は年長者を敬う気持ちが足りない――」
長杖でミドリの頭をぽかぽかと殴る。
貴族の家庭教師がうまくいかなかった訳が分かった。先生と呼ばないと鉄拳制裁(杖)が飛ぶ。
さっそく初めての教えを受けた。この世界に姓があるのは貴族と魔法使いだけらしい。ミドリは水の魔法使いだけど身分を隠すことにする。
臨機応変に対応するために、ネフドの話を聞いて、姓を名乗るのは止めた。
家庭教師をしていた爺さんの名前はネフド。
今年で51歳になるらしい。予想より若かった。妻とは死別して、息子夫婦と暮らしていたそうだ。
2人目の子供が出来て、ネフドが使っていた部屋を開けるために、ミドリの家庭教師として家を出ることができて良かったらしい。孫に会えなくて寂しくないかと聞いたら、いつでも会えるさと強がっていた。
ネフドはミドリがノダル砂漠に住んでいると聞いても、引かなかった理由が分かった。
家庭教師のネフド先生が仲間になった。
「こちらです」
腕時計を見ると午後2時50分だった。思いの他に時間が過ぎていた。
屋台に着くとライフさんは既に到着していた。
ハンカチで目を拭いていた。泣いているのか?何やらライフさんの様子がおかしい。
「ライフさん遅くなりました。ところで何か問題でもありましたか?」
「いえ、彼女の生い立ちを聞きました。それで、ミドリ様はオリーブちゃんを保護されるおつもりなのでしょう?」
「保護?何のことですか?これはオリーブに買ったサンダルだ。裸足だと痛いだろ?」
ライフさんの質問に返事をして、サンダルと店番をした代価をオリーブに渡す。
「では帰りましょうか」
「そちらの男性を紹介してくれないのか?」
ネフド先生に促されて仕方なく答える。
ネフド先生の身分を明かしたらライフさんは驚いていた。
貴族の家庭教師をしているのは珍しいことらしい。そんなことはどうでもいい。ミドリはさっさと帰りたい。
オリーブを置いていこうとするミドリをクリスは咎める。
「ミドリの鬼畜。外道」
しゃべるなと何度も言ったのに、約束を守らず人前で話すクリス。
クリスとオリーブも普通に会話していた。
その様子を、ネフド先生は興味深そうに眺めている。
「オリーブはどうしたいの?ここでお父さんが来るまで、ずっと待つつもりなの?」
「うん」
「13日も待って来なかったのはなぜかな?きついこと言わせてもらうと捨てられた…」
「違うもん。絶対来るもん」
まずい。大人げない事を言ってしまった。
オリーブの目に涙が浮かび泣きそうになる。
「あーー。ミドリが女の子を泣かせたー」
クリスに続いて、ネフドとライフもミドリに文句を言う。
「そうだね。だけどこれからどうするの?お金がないと食べ物は買えないよね?ということで、俺に雇われないか?」
「……何をすればいいの?」
「簡単な事だ。俺たちが果物や野菜を屋台で売る補佐をしてほしい。俺たちは四六時中ここにいることはできないし、どうしても店番が必要だ。この場所にいればオリーブと父の約束も守れると思う」
「うん…それなら…できるよ」
オリーブが仲間になった。
「ミドリの島に戻らないか?ここは暑くて俺には耐えられない」
一行はモンブランと合流して、ミドリの島に移動した。
「何と!これは!」
ネフドは白金のワイバーンのモンブランを見て驚き、砂漠にあるオアシスの存在に2度驚く。
オリーブはよく分かってなさそうな顔をしていた。ただ、急に移動したことには驚いていた。ワイバーンを近くで初めて見たと後で教えてもらった。
「君たち2人を新たな住人として歓迎しよう。ここはミドリの島。俺の国へようこそ」




