安全圏
「俺はもう我慢できねえ!」
5人の内で一番若い無鉄砲な男が、ミドリ様の魔法で出したオアシスの水を飲みだした。
「おい、ザコ―待て!危険かも…しれない…」
それなりにミドリを信用しているが、砂漠に魔法で水源が出現。ライフ村長は現実を中々受け入れられない。
魔法とはこれほどのことができるのか?
ライフは寒村の村の村長なので魔法の情報がない。
これは我々全員が見た幻ではないかと考えた。
「美味い。こんなに美味しくて冷たい水は飲んだことがないや」
サコーは喉が渇いているようで、水を飲み続けるのを一向にやめようとしない。
それを見ていた、親友のダーチも
「俺も飲むぜ」
と宣言してがぶがぶ水を美味そうに飲む。
2人の若い女性陣もつられるように、美しく透けるようなオアシスの水を飲む。ライフ村長も喉が渇いていたので飲んだ。
「美味い、生き返るようだ」
ライフ村長の言葉に4人が頷く。
「ねえ、聞いて頂戴。あたしたち、夢を見てるのかしら?砂漠で本当にオアシスを見つけちゃったね…うう」
グルタの明るいブルーの眼は希望と困惑の色が見える。
わしらが考えることは同じだ。人命より貴重な水を自由に好きなだけ飲めた。これが嬉しくないはずがない。
村に残してきた息子や村人たちに、水を好きなだけ飲ませてあげたいと思った。
「これからの事を相談する前に、水も飲んだことだし腹ごなしもするか」
「賛成!」
グルタとアズキはきゃっきゃっと嬉しそうにリンゴの木まで行く。
男連中はみかんの木に行く。実を一つずつ配る。皮を取り食べる。
黄色の一番食べごろの実。中身の味はみずみずしさと冷たさと甘さを兼ね備えている。
ライフたちは夢中でみかんを食べた。砂漠の横断中の節食により飢えていた。
昨日ミドリ様に与えられた分だけでは到底満足できなかった。
「あぁ!」
ダーチが声をあげる。ダーチの足元には黄色のみかんの皮がたくさん落ちていた。
「どうしたのじゃ?」
ライフ村長がみかんを食べる手を止めて聞く。
「好きなだけリンゴにみかんを食べていたが、このペースで食べつくすと5日以下で無くなる」
「うむ。しかしな、これほど甘い食べ物は今まで食べたことがなくて、手が止まらないわい」
結局、初日ということもあり、5人は腹一杯になるまでリンゴにみかんを食べた。
その日はオアシスの快適な空間で、思い思いに過ごすことにした。
ライフ村長は探検隊の持ち物の点検と、念のために水の補給をした。
ラクダたちは放し飼いにする。水を飲み、草を勝手に食べている。『砂漠の船』と古代から親しまれるラクダたちも、過酷な砂漠の旅に疲れていたようだ。ゆっくり休ませよう。
ダーチは愛用の鍬で地面を掘り作物が育てられるかじっと考えていた。
ザコ―は女性陣に口説こうと頻繁に話しかける。
グルタとアズキは水浴びをしたりして体の汚れ落とす。汗と砂で汚れた衣服を軽く洗って干す。
翌日目を覚ます。オアシスという砂漠の安全圏に自分たちがいることに安堵する。
朝食に冷たく美味しい食べ物を食べてからライフが話す。
「ここは、砂漠の楽園のようじゃ。当初の目的である水源のオアシスを発見した。しかし残念ながら、グロ村からこの第5オアシスに往復することはできないだろう。圧倒的に水が足りない。ここまでたどり着いたのも奇跡のようなものじゃ…」
ライフの話にザコ―が遮る。
「ヤっちまおうぜ。俺たちの数は5人。ダーチのおっさんの鍬を武器に使ってもいい」
「ふざけるな!この鍬は絶対渡さんぞ」
「命の恩人にそのような事をするのは許せないよ」
ダーチとダルタがザコ―の過激な言葉に反論する。
「アズキもあたしの意見に賛成でしょう…………?」
「…………」
アズキは無言で地面を見つめている。
「どうしたの?体調が悪いの?」
ダルタが小柄のアズキを心配する。
「大丈夫だから…平気。心配かけてごめんね」
「そう。何かあったら言ってね」
「えっと、この地面…」
アズキは地面の草地を見る。
「地面がどうかしたの?」
「…おかしいと思わない?ここの地面は、ラクダたちが昨日、餌として食べて無くなったはず」
「そういえば…今朝見たら、リンゴの実も昨日食べた箇所が元通りになっていたの。地面に捨てたみかんの皮も消えていたの。気のせいだと思っていたけどこれは――」
ザコ―の話を忘れてオアシスについて調べることにした。
何日か滞在して結論が出た。オアシスに生えてる草に木は一夜経過すると無くなっても回復する。
その事実に我々は驚愕した。
ミドリ様の魔法のオアシスに滞在する限り、食料におそらくオアシスの水も無くなることはない。
ライフ村長は言う。
「祖父から聞いた伝承の通り緑の神様に違いない。この力があればグロ村…いや、アストラ国を救えるかもしれない」
ザコ―は食べかけのみかんを片手に持ちながら不穏な事を言う。
「だからあのガキを脅してこのオアシスを奪おう」




