砂漠
自分が置かれている状況が全く理解できない。山中でランニングをしていたら霧に包まれた。霧が晴れたと思ったら島緑は砂漠にいた。
うだるような暑さに加えて、太陽の熱ががんがん体を照らす。とても夢だとは思えない。砂を触ってみても本物の感触がある。
オカルト雑誌で昔読んだ話を思い出した。外国の話だったはずだ。それによれば、車を運転していた男性が何百キロ、何千キロと離れた場所に一瞬にして移動してしまったという事例があったそうだ。当時は信じることは到底できずに、ただ面白いなとしか感じなかった。いざ自分が似たような状態になるとまた違った感情が湧く。
「俺は…鳥取砂丘に移動してしまったのか?」
サハラ砂漠やゴビ砂漠の名前が一瞬脳裏に浮かんだ。世界一広い砂漠であるサハラ砂漠はアフリカ大陸、ゴビ砂漠はユーラシア大陸にある。流石にそこまでは移動できるとは思えなかったし、考えたくなかった。
でも…もし俺が鳥取砂丘にワープしたのなら1日あれば家に帰れると思った。何かの話のネタにはなるかな?
ポケットに入っている小銭入れの中身を確認する。普段はジュースを買う小銭しか入れてないので残り330円しか入っていなかった。
「親に電話するしかないか…」
ひたすら前を歩く。足が砂に囚われて上手く歩けないがそれでも進む。
歩いても歩いても、見渡す限り砂漠。所々に、緑がある。正式名称は分からないが、砂の大地に根を張る植物は偉大だ。
海も森も町も見えず、ヒトなどの生物は発見できない。
なんとなく分かっていた。ここは鳥取砂丘ではなく別のどこかだ。
「喉が渇いた」
ペットボトルの水は砂漠に着いてから少しずつ飲んだ。後、一口の量しかない。
最後の水で俺の生命線。砂漠で水を確保することが容易ではないことは想像できる。
最後の一口の水を飲んでしまった。
改めて自分の持ち物を確認してみる。何か役に立つものがあるかもしれない。
小銭入れとお金が少し。これは今は役にたたないだろう。
ペットボトル…ただし、中身はない。最終手段として自分の尿を入れてみるか…?
最後の持ち物の腕時計で時間を見ると16時49分だった。
「今日は砂漠で寝るしかないのか?」
砂漠は昼が暑くて夜が寒いと聞いたことがある。今の恰好は白Tシャツに下着にランニング用の黒のハーフパンツにランニングシューズ。砂漠に住む人の恰好を思い出してみる。薄着の長袖の恰好だったはずだ。直接日光が直接腕に当たる半袖姿。帽子がない恰好は砂漠で過ごすのに適していない。
ようやく自分が置かれている状況が分かった。
「ここはどこなんだ?誰か助けてくれー」
誰もいない砂漠で叫んだ。