水の魔法使い
島緑はレモンの問に答える。
「俺はエイモス王国の住人ではないので3人目の魔法使いではないです」
島緑が魔法使いだと分かってからレモンは俺に頭を下げる。
そういうのは勘弁してほしい。
「顔をあげてください。魔法使いの立場が分かりました。だけど、俺に頭を下げる必要はありません」
「そうだよ。ミドリに遠慮は必要ありません。ほれ、ほれ、ほれ」
ラクダのクリスは俺の胸に顔を擦り付ける。こいつはいい加減注意した方がいいかもしれない。唾液で服が汚れた。
「いえ…そういう訳にはいきません。エイモス王国の立場が周辺国で高いのは、魔法使いを2人も抱えているからです。火を操る火の魔法使いに、砂からパンを生み出す土の魔法使い。今まで高い攻撃力を誇る火の魔法に、食料を生み出す土の魔法のお陰で20年以上争いはありませんでした。魔法使い様は王国中から尊敬と憧れの目で見られるのが普通なのです」
魔法の属性は3つしかないのか?定番の上位魔法が光闇だったり、雷氷はないのだろうか。
また、俺がこの世界に移動したのは未知の魔法の力ではないだろうか?
「ちょっと待ってくれ。魔法は火・土・水の3つしかないですか?」
「全部で4つあるとレニー様から聞いたことがあります。火・土・水・風です。火と土に風の魔法使いは他の国にもいます。しかし、水の魔法が使える魔法使いはいません。砂漠化している世界を、水が少ない世界を救えるだけの力をミドリは持っているのです」
俺の魔法の属性は水だったのか。まあオアシスで水やら果物が出せるからな。納得いかないのは、砂からパンを生みだす魔法が土魔法に分類されることだ。
レモンに指摘されて改めて俺のオアシスを創る力のすごさが分かった。
俺の魔法はこの世界である意味、一番最強の魔法なのではないかと考えた。
この先、俺を取り合って争う展開はあるのかな?想像しただけで身震いしてきたよ。
レモンには時間をかけて、何とか頭も上げてもらい、普通に接してもらえるようになった。
「水浴びしませんか?とても冷たくて涼しいですよ」
「えっと、男性に肌を見せることはできませんよ」
「足だけ水にはいってみませんか?足が冷えると全身涼しくなりますよ。水を飲んでもいいですし」
「それくらいなら…」
島緑はレモンをオアシスに案内する。
「まず水を飲んでみますか?そのまま飲んでも問題ありません」
「頂きます」
レモンの白くて細い両手でオアシスの水をすくい、小さく形のいい口に入れる。
「冷たっ!」
「は、は、は。僕も最初このオアシスの水を飲んで驚きました。ミドリは水の温度を調節することができるのです」
「すごく冷たくて美味しいお水です。この水は枯れることはないのですか?」
レモンの質問に島緑は答える。
「俺が望む限り無限に沸いてきます」
「この事は信頼できる人にしか言わない方がいいと思います」
「ご忠告ありがとうございます」
「俺は夜まで出かけるので、水浴びをしていてもいいですよ?」
「どこに行くのですか?」
レモンの声が空しく響く。
島緑の姿はオアシスから消えていた。




