3人目の魔法使い
オアシスを離れて砂の大地をひたすら歩く。島緑とラクダのクリスに乗る少女は沈黙した重い空気を振り切るように前に進む。
「あの、ミドリ様!怒っていますか?私にできる事は何でもします」
「レモンさん、俺に様は入りません。ミドリと呼んで下さい」
「ですが…」
「レモン。ミドリはそんな程度で起こりませんよ。僕が保証します」
「分かりました。命令なら従います。ミドリ」
俺はチラりとレモンを見る。すごい美人だ。緊張するな。
レモンの額から汗が落ちる。やはり現地の人でも暑いんだよな。
俺もオアシスにずっと籠っていたので砂漠の気温は辛い。
「それに、貴方を奴隷の身分から解放します。自由です。どこにでも好きな場所に行っていいです。何ならレニー様の所まで戻りたいならクリスを使ってもいいです」
「ありがとうございます。しかし、レニー様は一度言ったことは簡単に曲げません。戻っても追い返されてしまうと思います」
「そろそろか…」
島緑は最初のオアシス(レニーに占拠された楽園)を見る。ぎりぎり視界に入る距離だ。
「第二の楽園よ、出よ」
「わっ!」
レモンは驚いたようで尻餅をつく。
砂漠に突如現れた楽園。水場にリンゴの木。
何より涼しくなる。
「朝飯もまだだったしご飯にしようか?レモンも食べるよね?」
「あ、あ、あ、あっ、あっああ」
レモンは口をパクパクと金魚が餌を食べるみたいに動かす。
「な、なんですかー!これは、オアシスが突然に砂漠で!」
言葉がおかしくなってますよ。
クリスが説明をする。
「レモン。驚くのは無理もありません。ラクダの僕が話すように、この新しく出来たオアシスはミドリが創りました」
「まさか…レニー様がいるオアシスもミドリが創ったのですか?おかしいと思ってました。ノダル砂漠に水源はないと有名でした。僅かな雨しか降らない地帯。ノダル砂漠にオアシスが出現したのは魔法使い様のお力だったのですね」
ラクダから降りたレモンは目をキラキラさせながら俺に詰め寄る。
「そうだ。俺が魔法でオアシスを出しました。ところで、魔法使いとは何ですか?」
クリスはバナナを食べながら話を聞いている。
俺もウインターからもらった日持ちをするパンにみかんを食べる。
レモンはリンゴを小さい口で齧りながら話す。
会話っていいね。
「魔法使いとはエイモス王国に2人いる偉大な御方です。ある意味王様より権力があります。ミドリが食べているパンはミリー・ホブズ様が魔法でおつくりになりました。ミリー・ホブズ様はレニー様の実の姉です。そのパンは貰って何日経ちましたか?日持ちがすると思いませんか?水が少ない大地で小麦でパンを作ることに疑問が思いませんでしたか?」
あの高飛車な少女は魔法使いの妹だったのか。
ウインターから貰ったパンも2週間以上経過しても味が変わらずおかしいと思ってた。異世界だから不思議な力のせいだと思っていた。
あと…俺の力も魔法で間違いないようだ。
「情報が多すぎます。一つずつ、確認させてください。ミリー・ホブズ様は魔法でパンを無限につくることができるのですか?」
「ミリー様の魔法は砂をパンに変えるお力です。砂漠地帯にいる限り無限に食料を生産できます。ミリー様のパンはエイモス王国だけではなく隣国にも輸出されています。水が少ないので食べ物は大変貴重なのです」
砂をパンに変える魔法か。ということは俺が美味い、美味いと感じながら食べているパンは元は砂だったのか。砂漠の国ならほぼ無限に食料を生産する力はすごいな。王様より権力があると言われるのも分かる気がする。
あれ?俺の魔法も制限があるのか?どこにでもオアシスを作れると思っていたが、まだまだ検証が必要だな。
「もう一人の魔法使いは誰ですか?」
「申し訳ありません。名前までははっきりと分かりません。ただ彼の魔法の力は有名です。火を操る能力です。何もない所から火を出したり、消したりできます」
あれ?…ライターでもマッチでもよくないか。
俺が怪訝な顔をしていたのでレモンが付け加える。
「この国では燃やせる木や草は大変貴重なのです。燃料が無くても火を出せる力。20年前の戦争も彼一人の魔法で隣国を撃退したという逸話があります」
「ふーん。すごい魔法使いなんだね。20年前ということは、その火の魔法使いは何歳なんですか?」
「20代中盤くらいの外見をしています。魔法使いは能力が発現した年齢から歳はとらなくなるのです」
ということは…俺はいつの間にか不老不死の存在になったのか?
優しい音色のような声でレモンは答える。
「外見だけです。寿命が来たら魔法使いといえども死にます」
「そうだよなー。あ、みかんも食べる?美味しいよ」
「頂きます。リンゴにみかん、初めて口にしましたがとても甘くて美味しいです。ここは本当に楽園かもしれませんね…ところで、ミドリは3人目の魔法使い様なのですか?」




