20××年6月25日 間引き
水やりだけを毎日行い、3日目。
マンドラゴラの芽が出た。
このまま芽が出なければいよいよ、例のアレを実行しなければならないのかと冷や冷やしていたが、芽が出て良かった。ほっとした。
それからさらに3日経って本葉が2枚生えてきた。
ファンタジー小説の挿絵や映画でよく見る不気味な形など、想像できないくらい生命力みなぎる若葉だった。
水をくれてやれば葉に当たった雫が陽にあたり、きらりと光る。
しかし、いくら生命がみなぎっていても、大きく成長させるためにはこのプランターに並んだマンドラゴラの若芽を、ある程度間引かなければならない。
間隔が均等になるように青々とした葉を抜いた。
抜くときは少し緊張した。
サイトの育て方には、まだ根茎部分は発達していないので何の準備もいらないと書いてあったが、マンドラゴラで有名なのはやはり抜く時の話だ。
抜く時にマンドラゴラの悲鳴を聞いたものは死ぬ。
育て始めておいて何だが、収穫のために死ぬのは嫌だ。
収穫時の対処法も早く見つけなければならないな。
まだ若いマンドラゴラはキャーともギャーとも悲鳴を上げない。
根茎も人間形になっていない。しょぼしょぼとした白い根だった。
量にして一握り、間引く。時間もさほどかからない。
抜いた葉は柔らかかった。
二十日大根とかだとサラダにして食うと美味いらしいが、マンドラゴラはどうなのだろう。
これもネットで調べてみた。
マンドラゴラの場合は媚薬になるらしい。
まじか。
マンドラゴラの別名の一つに「恋なすび」というものがある。
ちなみにマンドラゴラはナス科だった。
マンドラゴラの実の部分が、この「恋なすび」と呼ばれ、媚薬の効果があるのだそうだ。
また、実ほどではないが若芽にも媚薬の効果があるとも書いてあった。
ただし毒性が強いので塩漬けにして毒を抜く必要がある、とか。
塩漬けって、要は漬物にすれば良いということだよな。それなら家でもできそうだ。
媚薬、惚れ薬。
効果のほどは分からないが、ロマンがあっていいじゃないか。
使う宛ては今のところないが、適当な瓶に詰めて塩を振りかけた。
2週間ほど放置すれば惚れ薬が完成だ! ……ってなんか簡単すぎて逆に怪しいけど。
まぁ人型根茎と共にこれも楽しみの一つになりそうだ。
マンドラゴラとは関係がないが最近、雛子が何かと電話をかけてきて煩わしい。
雛子と付き合いだして、もう2年が経つ。
付き合いたては夢中にもなったし、電話も純粋に嬉しかったのにな。
もう、冷めてしまったのだろうか。
雛子に対する気持ちがどういうものなのか、分からなくなっている自分がいる。
愛情、恋慕、同情、執着、情欲、惰性、世間体、プライド……。
どれがいるもので、どれがいらないものなのか。
どれが自分の本当の気持ちでどれが建前の気持ちなのか。
未来を進んでいくために、この詰まった気持ちを間引いていった時、一体最後に何が残るのか?
考えるのが少し怖い。