魔法訓練開始
レオンハルトは剣術の稽古をする合間に、文字や計算を家庭教師に習った。
剣術は3歳から始めているだけあり、5歳になる頃には友達とは身体能力が違い、遊びがつまらなくなっていた。
そのせいか6歳になった現在は、フィーリアとばかり遊ぶようになったので、両親は心配していた。
「このままだと友達のできない子どもになるんじゃないか?」
仕事から帰り、息子のことを聞き終えたエルネストは、飲み終えた紅茶を注ぎ直した妻、セレスティーナに困り顔で相談する。
「……そうよね。子どものわりに強くなったもの。さすが私たちの息子よね!」
22歳になってもポニーテールに結い、相変わらず活発な性格で子どもっぽい。
「オイオイ。自慢したいのは分かるが、今は友達と仲良くするのが大事だろう? 天才は腐りやすいし、他人を見下すようになったらどうする?」
大事に育てた息子が変なふうに育っては困ると言いたげな視線でセレスティーナを嗜める。
「リアちゃんが居れば大丈夫な気もするけど…………王都の学校にでも通わせる?」
王都の学校は王候貴族や裕福な家の子どもが通い、優秀な教師も多いので、良いライバルができるかもしれないとの判断だろう。
「せめて8歳からにしないか? 寂しいぞ。と言うか剣は俺が教えたい!」
学校は6歳から8歳までなら入学でき、卒業は12歳から16歳の間だ。
「魔法は私が教えるもん! 6歳から学校に行かせるなんて冗談に決まってるでしょ?」
なら言うなよ。とブツブツ呟いている。子離れのできない夫婦である。
「運動能力の関係ない遊びをさせるか?」
「あの子は身体を動かすほうが好きでしょ。それより王都に屋敷を買って学校に通わせる?」
金持ちは簡単に屋敷を買うとか言うので、息子が普通の子どもと違ってくるのではなかろうか?
「王都で暮らすのも悪くないけど、学校に通わせるのはまだ早い」
結局は遊びの時間を増やしてみる、ということに決まったようだ。
翌日、セレスティーナは約束通りに魔法を教えることにした。世の中、上手くいかないこともあることを知って欲しいという気持ちもあり、最初から厳しく教えるつもりのようだ。上級者向けの魔法書を用意している。
「う~ん? おかあさん、わからないよ」
庭で本を渡されたレオンハルトは、本から顔を上げて母に困った表情で助けを求める。上級者用の魔法書なのだから解らなくて当たり前である。
「そうでしょ? 最初から何でもできる人はいないの。魔法は知識だけじゃできないから、いろいろ学ばないとね。お友だちと遊ぶのだって訓練になるのよ?」
魔法使いは後衛なだけあって、周りの動きを把握していなければ味方を巻き込んでしまう。
集団での遊びは、その感覚を養うのに適していると言える。状況を正しく理解して、適した魔法を使う必要があるのだ。
「遊ぶのはつまらないけど、魔法のれんしゅうになるなら遊ぼうかな」
気が変わった息子に満足したのか、張り切って魔法の訓練を開始した。
「い~い? 魔法はまず魔力を感じることから始めるの。自分なりに集中して、身体の中にある魔力と周囲にある魔力の違いを感じてね」
魔力は属性がある。適性はあるが、自分の中にある魔力は自在に変えることができる。
一方、自然にある魔力は属性が決まっていることが多いので、いちいち自分に取り込んで変換する必要がある。
そのまま使うと、より強力な魔法が使えるが、例えば水のない所には水属性の魔力が少ないので、自然の魔力をそのまま使うと大した魔法は使えない。
「集中するって、剣のれんしゅうみたいにすればいいの?」
見上げて訊く息子が可愛いくて、抱き締めそうになったセレスティーナは、咳払いをして誤魔化そうとしている。
「んんっ。えっとね、剣は外に集中するけど、魔法は中と外の両方に集中しないとダメ。周囲にどんな魔力があるのかを把握して、自分の中に取り込むの。難しいから、しばらくはこの練──」
レオンハルトの周囲の魔力が根こそぎ吸収されるのを感じて絶句する。
「ご近所の皆さん…………うちの子って可愛い上に天才なんですぅぅぅぅぅぅぅ!!」
やっぱり子離れできない母だった。