ファナーの運用練習
ユーミルのことを教師たちに説明し、王城に連絡が行ったあと、レオンハルトとフィーリアは2人と1体で街の外に居た。
本来なら王からの呼び出しがあるのだが、ユーミルからダレンに説明させて、レオンハルトの代わりに王に説明して貰った。
レオンハルトは子どもなので、面倒や退屈が何よりも嫌いだ。今は装着型魔導戦闘人形を使ってみたくて仕方がないのだ。
「レオ君。3人で大丈夫かなぁ? 迷子になったらどうしよ?」
フィーリアは付き人なしで出歩かないので心配そうだ。外に出る時はいつもレオンハルトの手を握りたがる。
今もレオンハルトの服の袖を握りしめ、馬車が通るために鋪装された道をキョロキョロしながら歩いている。風に揺れるリボンも、心なしか元気なく垂れている。
「道を覚えとけば大丈夫だって。それにユーミルを装着すれば空を飛べるらしいしな」
「…………メンドクサイです、マスター」
ただ歩いているだけなのに、疲れたような顔でぼやくユーミルをジト目で見つつ、
「魔力は回復しただろ? 性能を見ておかないと実戦で役に立たないぞ」
フィーリアの頭を撫でながらユーミルを説得している。
道を外れて黄土色の岩がゴロゴロある広い場所に到着した。
「このへんなら人も居ないし丁度いい広さだ」
「そうだね。ここならレオ君があばれても大丈夫だね!」
「……街でやりましょうよ、マスター。ここまで歩くのは面倒なので」
どこまでもモノグサなユーミルは、息も乱していないのに休憩と言わんばかりに寝転がる。
「私はお昼寝しますので、マスターは修行を頑張ってください」
「寝るな、アホ! お前の性能実験だぞ!」
ユーミルの手を引っ張って起こす。
「はあ~。疲れて死にそうなのにひどいマスターです。人非人です」
ごねるユーミルにフィーリアが魔力をあげて励ますと、やれやれと言いたげな顔でレオンハルトの隣に立つ。
「それでは装着されます。初体験なので気を付けてください」
どうやら起動実験とかしてないらしい。
「なんか不安だけど……リア、離れて結界を張って防御しとけ」
「大丈夫かなぁ、レオ君。危ないことはしたらダメだよ?」
レオンハルトが無茶をしないように釘を刺してから距離を取る。
「よ~し。まずは武器だ! 剣は有るし籠手にしよう。格闘技の練習もしたいし」
「仕方がないマスターですね~。私が居ないとダメだなんて」
「言ってないぞ」
文句を言いながら手を伸ばすレオンハルト。ユーミルの手を掴むとユーミルの身体が光に包まれる。
その光がレオンハルトの腕に集束すると、レオンハルトの腕が金色の手甲を装着していた。
『ではマスター。私を軽く岩に当てて、魔力を込めてください』
数十メートルはある分厚い岩棚に拳を当てて、魔力を軽く込めると、爆発するような衝撃と共に岩棚をぶち抜いて貫通させた。
「……おい。メチャクチャ威力があるぞ? 腕は痛くないのが変なくらい」
シーンと静まりかえる岩石地帯に、レオンハルトの咎めるような声だけが聞こえる。
『言い忘れましたが、魔力を増幅して放つので気を付けて使わないと城くらいなら消し飛びますよ?』
「それは先に言えよ! よく面倒なんて理由で街中で使おうなんて言えたな!?」
『メンドクサイほうがヤバイです』
過去の遺物だからか、本人の性格のせいか常識がない。
「武器は訓練しないと危なくて使えないな。人と戦う時は普通の武器を使うか、魔力を込めずに使おうかな。防具にしてもいいけど」
レオンハルトが手甲を見ながら使い方を考えていると、ユーミルが忠告をした。
『防具も魔力を込めると頑丈になりますが、魔力を放つ攻性防御になるので気を付けてください。攻撃してきた相手が消し飛びますので。人間は身体が弱いですからね』
真っ二つにされても死なないだけあって、言うことが超然としている。
「大抵の生き物は、さっきのアレを食らったら大ダメージだろ」
使いづらいせいで封印されていたと言われても納得だ。
「剣の腕は一流になったんだけど、こいつで戦うと斬ったらダメな物まで斬りそうだ」
使いこなすのに何年掛かるか考えると憂鬱になりそうなレオンハルトだった。