決着
時間は少し前に遡る。
生徒たちと離れて遺跡の安全を確かめに来た教官たちは、巨大なクレーターに絶句していた。
「なんて魔法だ。山を消し飛ばした上に大地を深く抉り取るなんて」
「見たこともない魔法だったぞ。古代文明の建材を砕くなんて既存の魔法じゃない」
「刻印持ちなのでは?」
「いや、産まれた時に登録されてないから違うだろうな。神を信仰しているという話も聞かん」
刻印持ちは産まれた時から身体の何処かに刻まれている。
その時に届け出をする決まりになっており、将来を約束され、大事にされるので届け出ない理由もあまりない。
神に選ばれたと言われているので、神罰を畏れて無下に扱われたりもしない。
後天的に手に入れる者は、教会に所属してから儀式が必要なので隠せない。
教会に所属している信者が、功績を上げて神に認められる儀式をすると、認められればその場で力を授かる。
こちらも名誉なことなので、隠す意味もない。
「信じられん力だな」
「私の生徒ですから他の科にはあげませんよ」
冒険科の戦闘教官マーティスが引き抜きをされないように釘を刺す。
「分かっています。生徒の目標や夢を叶えるのが我々教師の仕事ですからね」
この中では魔法科の戦闘教官が1番欲しい生徒だろうが、最年長らしく分別がある。
「逆に我々教師が手ほどきをを受けたいくらいだ」
騎士を引退したとはいえ、未だに強さへの渇望はある。
特に彼は人々を守りたい一心で騎士となったのだから。
「っ! 話している場合ではないようですよ!」
魔法科の教官が魔力を感知して、鋭い声で警戒を促す。
「あそこだ!」
マーティスが瓦礫の山の一部を指して剣を抜く。
騎士科の教官たちは腰を落として槍を構え、魔法科教官は付与魔法で援護する。
瓦礫どころか地面が揺れ始め、教官たちの足下の瓦礫が崩れた。
壊れた建物の破片が吹き飛び、中から金髪の女性が飛び出した。
「施設の破壊を確認。任務変更します」
探るような赤い眼を教官たちに向け、女性が口を開く。
「貴方がたから敵意を感じます。安全確保と任務遂行のために攻撃を仕掛けます。宜しいですか?」
ハッとするような美貌だが、首を傾げる姿は少女のようなあどけなさがある。
教官たちも敵から発せられる魔力の強さを感じているが、幼気な少女のような態度に戸惑っている。
「こちらから行きます。あしからず」
態度を決めかねていた教官たちに、女性は飛燕の速度で接近した。
武器を構えていたにも関わらず、全く反応できないうちに拳が突き刺さる。
「ぐはっ、げほっ」
咳き込み、ゆっくりと倒れていく。
さすがに敵の強さを思い知ったので、武器を構えて攻撃を仕掛けた。
「ぐあぁぁ」
「ぎゃあ」
「うっ」
しかし、3人ともあっという間に迎撃されて崩れ落ちる。
他の教官たちも5秒と持たずに倒されてしまった。
「次のターゲットに移行します」
残った者も数秒で負けた。
「敵の沈黙を確認しました。……強力な魔力反応を感知。転移を確認しました。警戒状態に移行」
ここでレオンハルトが転移してきたのだ。
周囲の大地を砕いて、拳の応酬が続く。
「ぐっ」
敵の拳がレオンハルトの頬を捉えて吹き飛ばす。
地面に激突して岩肌を削りつつ、レオンハルトの身体が滑っていく。
ブリッジの要領で両手を突き、そのままバック転をして体勢を整えた。
レオンハルトの目前に敵が迫る。
突き出された拳を躱してボディブローを食らわす。
くの字に身体が曲がり、上空に吹き飛んだが、綺麗な姿勢で着地する。
「ダメージを確認。戦闘続行可能」
ダメージを受けたわりに動きに支障はないらしく、スピードは落ちない。
「こんなにオレの攻撃が効かない奴は初めてだ」
普段から父親という強敵と試合しているので冷静である。
しっかりと敵のスピードを捕捉して、繰り出されたアッパーを紙一重で躱す。
お返しとばかりにアッパーを食らわせるが、横から右足の蹴りが飛んできた。
お互いに吹き飛ぶが、空中で身体を捻って体勢を整え、着地した。
「いい加減、教官たちの怪我が心配だしケリを付けようか?」
「はい。了解しました」
レオンハルトは魔剣を抜き、光る魔方陣を出現させた。
──閃光を纏いて我が敵を切り裂け 汝 神なる刃 魔を滅する正義の剣なり
「ディバインソード!」
実体のない者や魔力すら斬れる魔法剣を使って必殺技を放つ準備をする。
「魔力全開。最低限の魔力を残して全力の一撃で倒します」
女性は全身を光らせて魔力を高め、蓄積していく。
「マナブレイク」
高密度の魔力で作られた光球をレオンハルトに向けて飛ばす。
敵の魔法を切り裂くべく、必殺技の構えを取った。
剣を腰だめに構え、居合いのように振り抜く。
「神魔滅閃光!!」
一瞬、カッと光って魔法が消え去り、目の前の女性を真っ二つにして、彼女の後ろまで凪ぎ払われた。
敵の背後の地面を数十メートル以上も抉り取り、ようやく閃光が治まった。
「やったけど…………魔法といい必殺技といい、想定外の威力で自然を無駄に壊してしまった」
涼しい顔をしていたが、計算ミスだった。