古代遺跡
本日2回目の更新です。
レオンハルトが決闘をしてから10日ほど経過して授業にも馴れてきた頃に、普段の授業とは違う課外授業が行われた。
普段の授業は冒険者ギルドのシステム、冒険者の役割、魔物の知識、冒険者に必要な道具の説明、魔法道具の使い方、武具の良し悪しや手入れの知識などを座学で習う。
午前中の座学が終わると、試験に使った闘技場で武器や素手の戦闘訓練が始まる。
他にも実習訓練として実際に魔法道具を使ってみたり、テントなどの冒険者に必要な普通の道具を使う。
レオンハルトとフィーリアの2人は、ダレンに習っていたので簡単にこなす。
入学してすぐの決闘から授業での優秀さが際立ち、10日目にして2人は有名になっていた。
加えて、高位の貴族だが気安く接することができ、平民を見下す貴族たちに決闘の話が伝わっていて、貴族に恐れられていたので平民の生徒たちに絶大な人気を誇っていた。
今日も教室に着いた途端、レオンハルトとフィーリアは囲まれてしまった。
「レオンハルト君、今日の課外授業は遺跡に行くらしいよ!」
「楽しみだよね!」
「僕はちょっと恐いな……」
「私、手作りのクッキー持ってきたんだ! 食べてくれる?」
「レオ君はモテるなぁ。リアは心配だよ~」
レオンハルトとフィーリアが同級生たちと話していると、他のクラスメイトも集まる。
レオンハルトは少し寂しそうなフィーリアの手を繋ぎながら、同級生たちに答えていく。
「取りあえず準備して集合場所に向かおう! 古代遺跡なんてワクワクするよ」
レオンハルトが率先して準備を始める。
武器と防具を身に付けて水筒や軍用の携帯食料を背嚢に入れる。
支給される防具を身に付けているが、自前の武具を装備しても構わない。
しかし、レオンハルトは魔剣ストレイヴ以外を忘れてきたのだ。
ピアが用意して部屋に置いていたのだが、寝坊したレオンハルトは慌ててフィーリアと飛び出したのだ。
ピアが部屋の掃除をする頃には、レオンハルトたちは出発しているだろう。
準備を終えて集合場所の正門前広場に向かうと、他のクラスや上の学年の冒険科の生徒たちが居る。
新入生たちだけだと、魔物などの危険があるので上級生が護衛と実戦訓練のために同行するのだ。
その他にも、いろんな科の戦闘教官が15人ほど引率に付く。これほどの集団に襲い掛かる魔物や盗賊はまず居ないだろう。
もっとも、街の周辺は定期的に騎士団が魔物や盗賊を討伐しているので治安は良い。
治安が悪いのは森の奥や騎士団が入りづらい山岳地帯などや、街から距離のある街道だ。
「それでは出発する! 上級生は下級生をしっかり見ていろ! 魔物の警戒も忘れるなよ!」
重武装をした教官の合図に、クラスごとに隊列を組んだ生徒たちが正門を潜って王都を出発した。
エリート揃いの学生なので、山道を3時間ほど歩いても疲れを見せない。
それほど険しくはないとはいえ、普通の子どもたちでは1時間も歩けないだろう。
それから30分は歩いただろうか。一行は少し広くなった中腹で水分補給をしながら休憩を挟む。
昼に近いので携帯食料を食べるが、硬くて味が薄いので新入生たちには不評だ。
何だかんだで生徒たちは一般庶民よりは多少裕福な暮らしをしている者がほとんどだし、仕方のないことかもしれない。
携帯食料に不満がないのは、授業料を払えない特待生枠の子どもたちだ。
授業料は払えなくても、優秀な者は特待生としての試験を受けることができる。
一定以上資産のある家庭の子どもは、特待生試験は受けられないので、貧しい子どもたちの救済を兼ねた国の政策の1つだ。
学生寮もあり、3食たべられるので生活にも困らない。当然、王都に家のない子どもや貧しい子どもが入寮する。
特待生枠は50人あるので、いかにリンフォード王国が人材育成に力を入れているかが分かる。
「リアがおべんとう作ってくれば良かったね?」
「訓練なんだからダメじゃないか? 冒険に出たらいつでも温かいご飯が食べられるわけないし」
フィーリアは毎日のようにピアに料理を教わっているので、携帯食料よりはマトモな物が食べられるだろう。ピアには遠く及ばないが。
レオンハルトは岩の上にハンカチを敷き、フィーリアをそこに座らせてから、自分は地面に座って3人前は食べていた。
お腹が膨れた気がしないので多く食べたが、その分荷物が他の人より増えている。
そのあたりの匙加減も生徒に任されている。重くなれば自分が苦労するだけだ。
「全然足りない……」
「はい! お水だよ? お水でごまかせば大丈夫だよ~」
岩の上にちょこんと腰掛けたフィーリアが、コップに水を注いでレオンハルトに渡した。
疑問顔で受け取るレオンハルトと対照的に、この世に疑問なんかないというようなユルい笑顔だ。
取り敢えず腹がいっぱいになるまで飲んでみたレオンハルトだったが、オシッコが近くなっただけだ。
トイレなどを済ませてから出発する。
魔物も出てこないので新入生たちはピクニック気分だが、上級生たちは緊張した表情で警戒しながら進んでいる。
下級生たちを守らなければならない緊張で疲労が早い。
そんな生徒たちを守らなければならない戦闘教官たちは更に苦労していた。
子どもは自分だけで頑張っている気分になりやすいが、夢を叶えるのに、夢を諦めて働く大人の助力があることを理解した時、初めて大人になるのかもしれない。
夢を見るのは立派だが、社会に貢献している人々のほうが立派である。社会が崩壊すれば夢も何もあったものではない。
大人たちの緊張の時間が過ぎ、ようやく古代遺跡にたどり着いた。
生い茂る木々の先に、奇妙な光沢を放つ石造りの建物が整然と並んで建っていた。
「ここが、古代文明の街だ。調査は一通り済んでいるが解らないことも多い。気付いたことがあれば報告してくれよ」
新入生たちは初めて見る遺跡の偉容に、疲れを忘れてしばし見とれた。