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最強無敵のユーミルファナー  作者: 王国民
2章 王立養成学校
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入学式

嫌な奴が出ます。気分を害したくないかたは気を付けて下さい。

 1000人は収容できそうな広さの講堂で、怒号のような老人の声が響き渡る。

 魔道具や魔法を使わなくても、講堂の(はし)から端まで聞こえそうな大声だ。


「──で、あるからして!!!! 諸君は国の未来を担うエリートたちなのじゃ!!!!」


 そのままポックリ逝ってしまいそうなくらい興奮している。

 顔は真っ赤になり、熱くなり過ぎて滝のように汗をかいている。


「ワシは!! 諸君を誇りに思う!!」


 感極まって滂沱(ぼうだ)のごとく涙を流し始める。

 将来有望な少年少女たちはドン引きだ。


「これから諸ゲホッゴホッウェッホ」


 ヒートアップした老人はむせて咳き込んだ。

 別の教師が出てきて背中をさする。

 10分ほど式は中断し、落ち着いたのか再び拡声魔法器の前に立った。


「え~、ほいで何じゃったかの? 歳を取ると物忘れが酷くなっていかん!! じゃからといって老人を馬鹿にしちゃいかんぞ!」


 だんだん話が逸れていき、昔語りになった。

 あまりにも退屈なので、レオンハルトは早々に寝てしまった。

 昨夜はフィーリアと夜遅くまで話をしていたので仕方がないのだが、隣でフィーリアがハラハラしている。


「そんでワシは言ってやったんじゃ!! お主の罪はこのワシが背負ってやる! 安心して逝くがよい! とな」


 もはやただの武勇伝(嘘っぽい)だ。


「そして奴とワシの戦いは──」


「学園長。そのあたりで! 新入生たちに何か一言お願いします」


 予定が遅れているらしく、他の教師たちが焦り始めた。

 見かねた教師の1人が止めて、先を促す。


「あ~。ワシは何を言おうとしたんじゃったか。素晴らしい一言を用意したんじゃがの~。……まあよいか。入学おめでとう!」


 最後は淡白だった。

 この学園長で大丈夫だろうか?

 幸い、レオンハルトは寝ていたので、他の新入生たちよりは不安は少ない。


 それからは担当教師の自己紹介を済ませ、つつがなく入学式を終えた。

 学園長の長話のせいで、教師たちの自己紹介は名前と担当科目だけだったが。


「ふあぁぁぁぁ。よく寝たー!」


 講堂から出るなり、大欠伸(おおあくび)をするレオンハルトの袖を、フィーリアがツンツン引っ張る。


「レオ君、先生に叱られちゃうよ?」


「その時は、学園長を叱ってもらえばいいさ」


 フィーリアの手を握ってニカッと笑う。

 周囲の新入生たちは、レオンハルトの冗談に緊張が解けたのか笑顔を見せる。


 これから自分の所属する科に向かい、お互いの自己紹介を済ませてから教科書などが配られる。

 授業の予定表もその時に貰うので、レオンハルトは楽しみにしているのだ。


「何を教えてくれるんだろうな、リア? 早く明日にならないかな~」


「リアはドキドキしてきたよ。ちゃんと授業に付いていけるかなぁ?」


 2人は対照的だが、お互いの足りない部分を補い合えるので、相手のことを大切に想えるのだ。



 冒険科に向かう途中で、甲冑に身を固めた騎士科の生徒たちとすれ違った。

 騎士科の生徒は家を継げない貴族の子弟が多いため、騎士に憧れて入学した平民には厳しい環境だ。


 レオンハルトの周りにいた冒険者志望の平民の新入生たちは、自分の少し小綺麗な服と貴族たちの立派な格好を比べて気圧される。

 そんな平民のおどおどした態度が貴族たちの嗜虐心(しぎゃくしん)を刺激するらしく、貴族たちは自尊心を満たされたような顔で平民を見下すのだ。


 例に漏れず、わざわざ近付いてきた14~5歳の貴族の少年がニヤニヤと嫌な笑顔で呼び止めた。


「そこの平民共! 貴族に挨拶もせずに通り過ぎるとは無礼だぞ!」


 礼儀を知らない奴ほど、自分への礼儀を気にするものである。


「礼儀なら手本を見せろよ。先輩は騎士になりたいんだろ?」


 普段から良い人たちに囲まれているので、レオンハルトはこんな態度に慣れていない。だからか、カチンと来てすぐに言い返してしまう。


「何だと! 無礼者め! 僕を誰だと思ってるんだ! 父上が黙ってないぞ!」


 レオンハルト以上にキレやすい。


「……ん? なかなか良い服を着てるじゃないか。どこの商人の小倅(こせかれ)だ? 成金の商人風情が僕に意見するのか?」


「お前なんか誰だか知るわけないだろ? 有名人でも名乗らなきゃ分かるもんか」


 他人の情報は噂などでしか聞かないので、顔が分かるはずもない。

 テレビや写真の代わりになる映像を記録する魔道具はあるのだが、下らないことを記録するためではないので貴族の馬鹿息子の顔など、他人が知らないのは当然なのだ。


「はっはっはっ。僕に家名を名乗らせて後悔するなよ? 僕の父上はレマゲン子爵だ!」


 得意気に胸を張るが、レオンハルトの父親は辺境伯なのでレオンハルトもフィーリアもキョトンとしている。


「…………なあ、リア。こいつ何言ってんだ?」


「リアに聞かれても分からないよ。貴族ってエライの?」


「えーっと……リアのお父さんも子爵じゃなかったか? でもおじさんは威張ってないしな?」


 2人は父親から何か貴族になったとしか聞いていないので、父親の話はふーんで終わったのだ。


「何をコソコソ話している! (おく)したか!」


 2人の困った表情を、勘違いして増長した。


「先輩。やっぱ知らない物は知らない。何で威張ってるんだ?」


 レオンハルトの指摘に、一瞬何を言われたか判らなかったらしく、貴族の馬鹿息子は数秒遅れて顔を歪めた。


「最早許さないぞ! 刻印持ちの僕に対して何だ、その態度は! 神に選ばれし者の力を見せてやる! 決闘だ、平民!」


 いきなり剣を抜いた貴族の馬鹿息子に、周りに居た子どもたちは悲鳴を上げて離れる。


「リア! 下がっててくれ! 決闘なら受けないとな」


「気を付けてね? レオ君!」


 剣を抜いたレオンハルトに一声掛けて、フィーリアも距離を取った。


「抜いたからには容赦はしない! 覚悟は良いな平民!」


「そっちこそ! 男が闘うって決めたなら死んでも恨むなよ!」


 入学早々に騒ぎを起こしているが、レオンハルトは普段から父親に売られた喧嘩は高く買えと言われている。

 戦いに関しても、命を失う覚悟を持ってしろという教育方針なのだ。

 剣を抜いて対峙する2人の男に、見ている生徒たちのほうが汗を掻いている。


 誰かの喉を鳴らす音に、2人は同時に相手に向かって走り出した。

 数メートルの距離なので一瞬で間合いに入り、剣を打ち合わせた。

 火花が顔に掛かりそうなほどに顔を近付けて睨み合う。


「平民のガキのクセにバカ力め! 神の加護を受けた僕と互角とはな!」


「さっきから神神ってうるさいな! 自分の力を自慢しろよ!」


 鍔迫り合いをしながら言葉をぶつけ合う。

 2人は一歩も退かず、剣を持つ手に力を込めた。

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